れいじょうの天涯
その場所では、生命の源であるはずの「水」さえも、彼女たちの支配を示すための苛烈な道具へと変質していた。
「お前はもう、外界の汚れた水で喉を潤すことは許されない。私の許しと、私たちの慈悲だけが、お前の命を繋ぐのよ」
エレナ様の宣言通り、僕の前に差し出される器には、透明な清流など一度も満たされることはなかった。そこにあるのは、彼女たちの内側から溢れ出した、熱を帯びた「生体水」だけだ。
時には、噎せ返るようなアンモニアの臭気を放つ黄金の雫。
数日間の渇きに耐えかねた僕の喉を、それは容赦なく焼き、鼻腔を支配し、自分が獣以下の存在であることを一滴ごとに刻み込んでいく。
時には、味もしないほど無機質でありながら、ひどく粘り気が強く、喉にまとわりついて離れない白濁した液体。
飲み下そうとするたびに気管を塞ぎ、窒息しそうな苦しみの中で、僕は彼女たちの粘膜の温度を強制的に共有させられる。
そして、最も過酷なのは、真っ赤な鉄臭さを放つ、苦く重い水だった。
それは彼女たちの生命の欠片であり、それを飲み干すことは、彼女たちの「一部」を自らの肉体に取り込み、内側から完全に汚染されることを意味していた。
「ほら、飲みなさい。お前が生きるためには、これが必要でしょう?」
拒絶すれば死が待っている。しかし、それを受け入れることは、人間としての理性を一欠片ずつ捨て去ることに他ならない。
喉が鳴るたびに、僕は自分の中に彼女たちの排泄物や分泌物が蓄積されていくのを感じ、胃の腑が彼女たちの支配の色に染まっていく絶望に震えた。
水という純粋な概念は死に絶えた。
僕の渇きを癒すのは、彼女たちの体温と、その奥底から滲み出た不浄な熱だけだ。
内側から彼女たちの「水」で満たされることで、僕はついに、自分自身の血液さえも彼女たちの意志で流れているような、恐ろしい錯覚に囚われ始めていた。




