令嬢の天蓋・堕
その部屋の時計は、随分前に止まっていた。
窓は厚いベルベットで塞がれ、光の代わりに澱んだ熱気と、噎せ返るような生体臭が充満している。
僕の喉は、常に奇妙な味で満たされていた。
この檻で、無機質な「水」が与えられることは二度とない。喉の渇きを訴えれば、エレナ様か、あるいは彼女の侍女たちが、嘲笑とともに自らの肢体を差し出す。
黄金の光を放つ重厚な臭気の滴、粘膜から滲み出す白濁した無味の粘液、そして、月に一度、鉄臭く苦い赤黒い奔流。
「飲みなさい。お前の血肉は、すべて私たちが分け与えたもので作られるのよ」
拒絶すれば死ぬ。だが飲み干せば、自分という存在が内側から彼女たちの排泄物によって塗り替えられ、人間としての輪郭が溶けていく。嚥下するたびに、僕は自分自身が「彼女たちの排泄物の貯蔵庫」へと成り下がっていくのを感じていた。
だが、真の儀式は「後始末」にある。
令嬢、あるいは十人の侍女。彼女たちが排泄を終えるたび、僕は跪き、その場所へと這い寄る。
トイレットペーパーという概念はこの部屋には存在しない。あるのは僕の「舌」だけだ。
たとえそれがどのような形状であっても、僕は一滴、一欠片の不浄も残さぬよう、その部位を執拗に清めなければならない。彼女たちの肌に、本来の白さが戻るまで。
味覚はとうに死に絶えた。ただ、彼女たちの体温と、その不浄を清め終えた瞬間に与えられる「よくできました」という冷ややかな一撫でだけが、僕を突き動かす唯一の報酬となっていた。
夜になれば、更なる地獄が待っている。
エレナ様の夜伽の相手。それは愛撫などではなく、所有権の再確認という名の蹂躙だ。
そして時折、エレナ様は慈悲深い主人の顔をして、控える侍女たちにこう告げる。
「……今夜は、この子を貴女たちに貸してあげるわ。好きに使いなさい」
その瞬間、侍女たちは飢えた獣へと豹変する。
普段、淑女として振る舞い、性欲を押し殺している彼女たちの爆発は、暴力的なまでの質量を持って僕に襲い掛かった。
一人が終わる前に、次の者が僕を貪る。体温、吐息、そして誰のものかも分からぬ大量の分泌物。
身体が悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになると、冷徹な魔力が僕の脊髄を叩き起こす。
魔法によって無理やり覚醒させられた身体は、限界を超えてもなお、彼女たちの欲望を受け止めるための「肉の道具」として機能し続ける。
全身が彼女たちの体液でぬめり、呼吸をするたびにその生臭い液体が肺にまで入り込みそうになる。文字通り、僕は彼女たちの欲望の泥濘に溺れ、窒息しかけていた。
夜明け。エレナ様が戻り、体液まみれで床に転がる僕を、優雅につま先で転がす。
「あら……。汚されすぎて、もう自分の匂いも分からなくなっちゃったわね」
その言葉は、何よりの福音だった。
十人の獣に蹂躙され、内側も外側も不浄で満たされた今、僕を「人間」として扱ってくれる者などこの世に一人もいない。
僕は、彼女のドレスの裾を、汚れきった手で掴んだ。
もう、この甘美な地獄が、僕にとっての唯一の安息の地。
彼女の吐息を吸い、彼女の排泄物で命を繋ぎ、彼女の獣たちに食い荒らされる。
その「完全な所有」の果てに、僕は空っぽの笑顔で、彼女を見上げた。
「……エレナ様。……もっと……もっと汚してください」
主人は満足げににやりと笑い、僕の首輪を誰よりも強く引き寄せた。




