令嬢の天涯
食事による甘美な陶酔が冷めやらぬうちに、エレナは冷ややかな笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
「……おいで。私の『僕』さん。一番大切な、最後のお仕事が残っているわ」
彼女が向かったのは、部屋の隅にある、精緻な彫刻が施された陶器の椅子。それは公爵令嬢としての矜持を保つための調度品でありながら、この檻の中では「僕」を絶対的な従属へと叩き落とす断頭台でもあった。
視界を覆っていた布が外される。光に慣れぬ瞳が見たのは、ドレスを惜しげもなく持ち上げ、白い太腿を露わにして座る彼女の姿だった。
「お前は、私の内側から出たものさえも、その身で受け止め、清める義務があるのよ。……汚らわしいと思う? それとも、光栄かしら?」
屈辱が全身を焼き尽くす。かつて一人の人間として生きていた記憶が、この光景を「絶対的な禁忌」だと叫んでいる。しかし、二十四時間彼女の愛撫と毒に曝され続けた身体は、その恥辱にさえも恐ろしいほどの熱を帯びて反応してしまう。
彼女は命じる。椅子の一部として、彼女の足元に額を擦り付け、その排泄という最も私的な瞬間を、一滴の逃しも許さず管理することを。
「さあ、見なさい。これが私の一部……お前が愛してやまない、私の真実よ」
静寂の中に響く、生々しい音。
それは彼女が高貴な令嬢であるという仮面を剥ぎ取り、同時に「僕」が彼女の排泄物さえも尊ぶ「物」へと成り下がったことを告げる鐘の音だった。
鼻腔を突くのは、先ほどまで口にしていた甘美な果実や花の蜜の香りが、彼女の体温で変質した、重く、噎せ返るような生体臭。
「……っ、……ぁ……」
声にならない嗚咽が漏れる。しかし、エレナはその震える顎を容赦なくつま先で蹴り上げた。
「顔を背けることは許さない。私のすべてを愛すると誓ったでしょう? 飲み込んだ蜜が形を変えて戻ってきただけよ。……さあ、片付けなさい。お前の指で、お前の舌で。私の肌に、一欠片の不浄も残してはならないわ」
それは、精神の完全な死を意味していた。
指先を動かし、彼女の命じるままにその処理を行う。かつて持っていた倫理も、羞恥も、自己という概念も、彼女から放たれる熱と臭いの中に溶けていく。
屈辱の極致にあるはずなのに、彼女の肌に触れ、その最も隠微な部分を「清める」という行為に、狂気じみた聖性すら感じ始めている自分に気づく。
エレナは、絶望に濡れた瞳で自分を見上げる「僕」の頭を、慈しむように踏みつけた。
「いい顔……。これでようやく、お前は中も外も、私の排泄物と同じくらい、甘く、私だけのものになったわね」
地獄のような屈辱の果てに待っていたのは、すべてを失った者だけが享受できる、空っぽな解放感。
「僕」はもう、彼女なしでは呼吸の仕方も思い出せない、ただの肉の塊へと作り替えられてしまった。




