自室への招待
部屋に異性を招いたことはなかった。
邸内を走り、自室に戻るとすでにバルコニーにいる男を見つけたので驚きと緊張に心臓が跳ねる。
子猫のリックが懐かしい人に気づいたのか窓をみいみい鳴きながら掻いているのを、しゃがみ込む伯爵は楽しそうに指であやしている。
逃げ出さないよう白い毛並みの子猫を拾い上げてから窓を開けると、中を示した。
「どうぞ。……本当に何もありませんからね。驚かないでください」
「大丈夫だよ、お招きありがとう。お邪魔します」
白銀の髪に青の瞳の伯爵が踏み入れたのは、大して飾り気もない部屋だ。
妹たちのように年頃の少女らしくもないし、机と椅子、本棚、ベッド、生活に必要なものしかない。
必死にリックを撫でながら気を逸らしていると、フリック・レイノールも軽く部屋を見て目を瞬いている。
「本棚の内容がすごいね。毒草に毒キノコ、犯罪の証拠集めの手法に犯罪心理学……随分勉強してる」
「全てお前をいつか罪人として法廷に突き出すためです。出来ないのなら、屠ります」
今部屋に招いてやっているのも、私に恋をさせて命を捧げさせるためだ。
憎い男を追いやって、子猫のリックと一緒に生活するための勉強だから努力している。
「でも料理の本も並んでる。なんだか懐かしいな……フォーリーが一番最初に贈ってくれたのもティルウッドで作った毒まみれのクッキーだったね」
無毒化されてしまったので意味はなかったが、クッキーを食べさせた覚えはちゃんとある。
子猫のリックも以前助けてもらえた伯爵に撫でてもらいたくなったらしく、腕から抜け出てしまった。
足元に擦り寄るのを快く撫でているから、部屋の主人は私のはずなのに、手持ち無沙汰になって参ってしまった。
「……お部屋でデートだと、大人は何をするんですか。正直これ以上することがありませんよね」
カードやボードゲームなどがあれば良いが、毒物が触れても困るため全て妹の部屋にある。
誘ったはずの男も考えている様子で、白毛の子猫が撫でられて気持ちよさそうに頬を擦り寄せるのをあやしている。
「うーん……こうしてちょっと話をしたり、そばにいるだけで十分楽しいよ。
いつもとは違う場所で、一緒に時間を過ごすことこそがデートだと思ってる。リックも懐いてくれて可愛いし、フォーリーが暮らす様子を知られて、俺は嬉しいかな」
なんだそれは。
私にはよく分からない感覚だが、しゃがみながら子猫を撫でる男は言葉通り穏やかに過ごしている。
……せっかくの二度目のデートなのだから、私は一つでも状況を好転させたい。
命まで捧げたいほどの恋に至らせるには、どうすれば良いのだろう。
少なくとも現在、猫と将来の娘に癒される気分の男は、恋どころか家族愛を芽生えさせているはずだ。
先日フリック・レイノールが動揺したのは、別れ際に口づけを迫ったと彼も思ったから。
あの時は、私が背中を支えさえて……。
あ。
気になることを思い出したため、状況が変わらぬうちに急いでベッドに転がった。
「リック。来てください」
「……ん?」
「いいから、早く」
今は月夜で、彼は事件の日同様に伯爵領外に出ている。
性格を変質させるきっかけが、さらに女性に触れることだとしたら、今こそうってつけの条件が揃った。
ベッドを叩いて示すと、瞬きを少々して考えている男が猫に目を合わせて何か話しかけているが、自由気ままな子猫が先にベッドに走って来てくれた。
なるほど、子猫のリックを呼んだと思ったのだろう。声を掛けたはずの男は立ち上がっている。
「フォーリーが眠くなったのなら帰るよ。今日も疲れただろうし」
「違います、今すぐに来てください。早く。……いいですか。ここに来なければ、私の態度が未来永劫悪くなりますよ」
脅しながらベッドのそばを示すと、動揺を見せた男がそれでも近づいてくる。
仰向けに寝転び直すと、室内の灯りを落とせないことは惜しく感じたが、困り顔の男を見上げた。
「さ、このまま背中を抱き起こしてください。あなたを背もたれにしながらになりますが、その格好でしばらくお話ししましょう」
「……ええと、どうして? このままでもお話は出来るよ」
「女性に触れるのに、理由が必要なほどお前は清純なのですか。
私を何人目の妻だと思っているのです、女性を抱き起こした経験くらいあるでしょう。ほら、早く」
なかなかうまくいかないから叱ってしまうと、困り果てた様子でそばにいる男が腰をかがめ、私の背中を抱き起こした。
ベッドと背中の間に腕が入ってくる感触はゾワゾワしたし、今も落ち着かない感じがするが、怖くはない。
変に胸が騒ぐのは、緊張しているからだ。とにかく目的を果たそうと窓の外を示した。
「今日も月が綺麗ですね。……念のためですが、異国では月が綺麗と伝えることが愛情を囁く意味になるらしいです。
でも私に他意はありません。勘違いしないように」
窓の外にある月を見せて、黙ってしまった男と二人で少々眺める。
もう十分かと顔を戻すと、注意深く観察したが……顔が少々赤くなっている以外に、フリック・レイノールに変化はない。
「何か感情の変化はありませんか」
「待って、また君の真意を図りかねてる。
一応尋ねるけど、こうして触れられるのは嫌じゃないの、フォーリー。鳥肌が立ったり、寒くなる姿は見たことがあるんだけど」
「そう、ですね……今日はなんだか変にドキドキしますが、……不思議と嫌ではありません。
あなたの腕に慣れたのかもしれません。それか自室のベッドだからか、続けられても大丈夫そうです」
抱き起こしているのは異性の硬い腕だと分かってはいるけれど、隣で必死に考える男が面白いからか落ち着いている。
手のひらだけの前回より触れる面積も多くなっているが、そのせいで胸が騒ぐのは致し方ない。慣れていないだけだ。
「どうです。私を見て、悪い気持ちになったりはしませんか」
抱き起こす時間も長くなったし、月も見た。
人格を変貌させる契機が揃ったのならそろそろ変化があるかと見つめたが、頬も耳も薄く赤が入った男は目を逸らした。
「ならない。……って言いたいけど……ならないように頑張ってる、って言ったらどうする?」
「おや。なってもいいですよ。是非とも本性を見せてください」
すごい、頑張れば証拠が出てきそうだ。
犯行には動機がある。法廷では『少女の血を吸いたかったからだ』と動機を主張しても受け入れられなかったが、いっそのこと噛み付いてくれれば証明できるし、噛みつかれた証拠も出来る。
襲われたのなら強請ってもいい。六年前に隠蔽された証拠を提出させれば、お父様が『信頼して娘を救いに向かわせた』と言っていたこの男こそが犯人だという訴えが確実に前進する。
期待しながらも様子を観察していると……もう片手が伸びて、おでこを指で弾かれた。
「いたっ」
「悪い子だね、フォーリー。大人を嵌めようなんて。……本当に襲われたら泣いちゃうんだから、そぶりすら出来ないよ」
「何をごちゃごちゃ言っているんですか。ひどい、暴行の現行犯ですね。お父様に言いつけます」
「いいよ。君がボートの上で俺の頭を踏んで湖に沈めてたってことはちょっと噂になったし、短い金髪に赤い瞳の女の子ってことがハルカンサス侯爵の耳にも届いたらしくてまさかと尋ねられた。
誤魔化してきたけど、俺の後頭部を踏んづけて湖で溺死させようとしたことと、俺から婚約者への愛あるデコピン、どっちが罪が重いと思う?」
お父様に、踏んだことの方を怒られそうな気がする。
黙ってそっぽを向くと、面白そうに笑った男がベッドに私を横たえた。
「さ、そろそろお休みの時間にしようか。君と楽しい時間も過ごせたし、十分にデートした気分だからね。
お休み、フォーリー。またね」
満足そうに立ち上がり、吸血伯爵は去ろうとする。
まだ帰したくなくて男の背広を掴むと、下に思いっきり引っぱった。
床に腰を下ろすよう背中を握りしめ、捻り込みながら掴んでいると、驚いた青の瞳が瞬いている。
「まだ話は終わっていません。……今度こそ街を一緒に歩きたいんです。
もう一度誘いますから、行きたいお店のすり合わせをしましょう。眠くなるまで。普段だってまだ私は起きていますよ」
「ええと……誰かに見つかったらふしだらって言われるんじゃないの?
あまり遅いと、俺が抜け出したのも見つかりやすくなるから早いほうが良いと思うけど」
「いいんです。あなたは私の、次の父親がわりなのでしょう?
お父様だって分かっています。賢明な伯爵様は娘と二人きりになっても何もしやしないって。だから見つかったって、婚儀について話していたということでいいです」
デートはするけれど、まだ恋は芽生えない。吸血鬼のくせに噛みつかれもしなかった。
いつまでも子供扱いしてくる男に、今日だけで恋をさせる手練手管もない。……悔しいけれど、手段だって思いつかない。
でも……私の前には今日一日、会いたかった人がいるのは確かだ。
レイノール伯爵として一番近くにいたはずなのに、一番遠い気がしていた人が目の前にいて……やっぱり話すのが楽しかったのだから、今は私だってデートを楽しみたい気分で背広を引いた。
「いつもだったら、もっと一緒に時間を過ごすじゃないですか。もう少しだけでいいですから、一緒にいてください」
振り返った青の瞳が、必死に見つめ合うと丸くなって……困惑に泳いでいく。
耳が赤いのを見ながら改めて襟を掴みなおし、握力で捻りこんで外せなくすると、ベッドに大人しく彼の背中がついた。
「分かった、そばにいるよ。だからそんなに掴まなくても大丈夫」
「ダメです。お前はすぐに嘘をつきます。……むしろこのまま締めてやりましょうか。窒息したりしませんか」
「水に沈んでも大丈夫なように、実は窒息もしないんだよね。鼻も折れないし、首も折れない」
早く銀の剣が望まれる。
しかし絨毯の上なんて場所に腰を落ち着けさせられた伯爵は逃げる様子もなく、面白そうに笑った。
「それで、デートしたかったフォーリーおすすめの場所はどこ? 俺もあまり他の領地には興味がなくて、詳しい情報までは持っていないんだ」
「ええと……人形劇をしていた恋人がいたということは、劇はお好きかと思いまして。
一緒に劇場に行きませんか。大衆演劇もありますし、古典芸術もあります。何が見たいですか」
「うーん、今は大衆演劇かな。特に喜劇が好きだよ。たまに招くんだけど『ミストル座』とか気に入ってる」
「ミストル座、私も知っています。妹も観劇に行ったんですけど、お腹を抱えて笑ったって……」
大人のデートはよくわからないが、二人で揃って、時間も忘れて話すのは楽しかった。
まだ一度も行っていない場所ばかりだから話題も尽きなくて……そのくせ次第に夜も更ければ、眠くなってきてしまう。
「それで……マナが言うんです。チョコレートの中でも、流派が色々あって……しのぎを削ってるって……」
「ふふ、面白い妹さんだね」
憎い男も気づいているはずなのに、意識が朦朧としながらでも話す私から逃げ出しはしない。
何度も同じことを聞いたり、集中出来ていなくたって怒りもしない。
掴み直した襟に変な跡がついてしまうくらい離さなかったのに、運動したことも、貴族相手で精神的に疲れたこともあって、眠気には勝てなくて……勝手に目が閉じてしまう。
「……フォーリー、そろそろ帰るね。おやすみ」
「だめ、です……まだ……まだ一緒に、いる…………」
掴んだ襟を腕に巻き直して、安心して意識が遠のく。
白猫のリックが先に眠りながら背中にくっついている暖かさもあって、私の意識はすっかりベッドに吸い込まれてしまった。
そんな、翌朝。
悲鳴で思わず飛び起きたが、声が聞こえた方に目をやると、手に衣装を抱えた妹がワナワナと震えていた。
「フォーリー姉様が婚約者連れ込んでる! お父様、起きて、お父様ーっ!!」
ん?
そういえば手が痺れる上に痛いことに気づいて見やると、襟を締め込まれているフリック・レイノールがベッドを背に薄く目を開けていた。
「……お前、なぜまだここにいるのですか」
「いや、背広もシャツも全部握って締め込まれてるから、脱がなきゃ帰れないんだけど……上半身裸の男が君の部屋から出てくる方が不味くないかな……」
まさか。
私が寝てからも、ずっとここにいたというのか。
気恥ずかしそうな伯爵が絨毯に相変わらず直に座らされているのを慌てて離したが、背広にもシャツにも酷い痕がついていた。私の痺れる手指が握りしめていたのに相違ない。
でも、だからって、婚前に同室で一夜を明かすとは思っていなかった。
「お前はなんて愚かなのですか。脱いで、手からとって、また着て出れば良いでしょう?
私の指くらい、お前なら簡単に外せたはずです」
「それも考えたよ。だけど俺が脱いで腕から外そうとした時に、万が一君が起きたらどうなるかなって……悲鳴が上がるだろうし、指に触るだけでも嫌がるはずだって考えたら動けなかった」
「触らないでください。屠って土に返しますよ」
「つまり、大人しくこのままでいることが最善手だったんだよ……君が少しでも手を緩めてくれたら帰ろうと思ってたけど、ずっと掴まれてて、ほとんど寝てない……ふああ。
……だからフォーリー。ハルカンサス侯爵には一緒に説明してね。証拠は伸び切った襟ももちろんあるけど、慌ててやってこられるだろうから」
帰したくないと願って掴み続けたのは私だけれど。
本当に言われた通りいただなんて知らなくて、寝起きらしい男に「改めて、おはよう」なんてベッドのそばで言われるのも恥ずかしくて、とりあえず手にした枕で顔を殴るだけはした。
お父様はもちろん飛んでやってきた。
どう見てもフリック・レイノールの背広はヨレヨレで掴まれていたことは明らかだし、私も部屋に招き入れておしゃべりをしていたことや、そのまま寝てしまったことは自白した。
お出かけの衣装を考えついて持ってきた妹のマナが見た光景も、伯爵が絨毯に座らされ、寝ている私に背中を向けながら首元を掴まれている姿だったから信じてもらえた。
「疲れたので今日はお開きにと自ら申し出られた後、姿を消されたので……よもやレイノール伯爵を怒らせたのではと案じておりましたが、杞憂でしたか」
伯爵の姿がどこにもないことから、昨日は気分を害して帰ったのではないかとお父様も青ざめたらしい。
でも正解は、娘が掴んで部屋に引き摺り込んだから姿を消しただけだ。
事実をどう処理すれば良いのか、お父様も複雑そうに考えている。
「ハルカンサス侯爵に気を使わせてしまってすみません。俺もフォーリーと話すのが楽しくて、一泊甘えてしまいました」
「娘が離さずにいたことを私からもお詫びしましょう。絨毯に座らせ続けるなど、無作法極まりないことを致しました。
……とにかく、フォーリー。お前が伯爵様を部屋に招けるようになったことは喜ばし……喜ばしい……? ことだが、あまり羽目を外さぬようにな」
恥ずかしさのあまり言葉も出ない。
旅装姿のままだったから、身支度を整えた頃には朝食にもお誘いされた男と共に食事をすることになった。
私もドレスだし、伯爵はお兄様の背広が似たようなサイズだったから、選んだものを一式渡されて身綺麗にしている。
家族の中には早朝の悲鳴の真相が瞬く間に広がり、食事よりも恋の話の方に敏感な妹が興味津々で顔を覗き込んでくるから参ってしまった。
「フォーリー姉様、男の人大丈夫になったの?」
「考えただけで気味の悪い話。ほら、鳥肌が立ってる。男の人なんて大嫌いに決まってるでしょう?」
「じゃあ伯爵様だけそばにいてもいいの!? すごーい!」
「そういうわけじゃないのよ。吸血鬼だから、そう、吸血鬼だからまだ許せるだけ。子猫のリックと一緒よ、あの子も雄猫でしょう?」
「複雑な関係ね。でも婚約者と何の話をしていたの? 帰らせないように襟首を握っていたなんて、やっぱり恋について甘く語り合ったりしたんじゃないの?」
「婚約しているのだから、婚儀の話に決まっているでしょう。伯爵様にとっても、私にとっても、お仕事の話を進めていただけ。
ねえ、伯爵様。婚儀の話に夢中になってしまって、おそばにいらしただけでしょう?」
「そうだね。侍女を連れていつ来るかなど、質問に答えていただけだよ。
小難しい話ばかりだったから、すぐに寝てしまったフォーリーには曖昧かもしれないけれどね」
薄情にしてくれればもっと嫌いになれるのに、嘘だと分かりながらも話を合わせてくれた大人の男が憎くなる。
私が一切話の内容を答えられなくても良いようにまでするなんて、やはりフリック・レイノールは口八丁で騙す才能を持っているのかもしれない。法廷も騙されるわけだ。
悔しくなっていると、娘の眉間に皺が寄っているのを見たお父様が、大きな溜め息を吐いた。
「どうせ侍従や警備に男はいるのかと伯爵様にもしつこく聞いたのだろう。
お前が婚姻で向かう際の護衛は私が選んだ者を入れるが、全員女性にするつもりだから安心しなさい。侍女だけしかそばには来ないよう、レイノール伯爵にもご配慮いただくつもりだ」
……ん?
聞き捨てならないことを言われた気がしたが、お父様は伯爵と平然と話を進めている。
「ハルカンサス侯爵。女性のみで選び抜くのも難しいと伺いましたが、目処はつきそうですか」
「知り合いの家にも声をかけてもらっておりましてな、フォーリーの境遇に理解を示してくれる者のみを選抜しております。
色良い返事もありますから、間に合うでしょう」
つまり。
……このままではロットたちと計画していた、護衛に反対派閥の息のかかった者を入れる案が難しくなってくる。
お父様が厳密に選んだ相手だ。伯爵の息の根を止めるための作戦に加担などしてくれるわけがない。
「待ってくださいお父様。私の護衛は私が決めます。婚姻に出る娘のことまでお父様が選ばなくても」
「何を言っておる。お前の知り合いなど狭い範囲でしかおらんだろう。
嫁ぐとはいえハルカンサス侯爵家の娘として、お前の護衛は私が選ぶ。娘にしてやれる最後の贈り物だから、私も十分にしてやりたいんだ」
青ざめる私を、白銀の髪に青の瞳の男も見つめている。
このまま結婚すれば、より警備が厳重になるだけだ。
あの男を邸内で丸腰にした上で急襲する作戦は、護衛が多すぎて叶わない。邸内に反対派閥を潜り込ませようものなら、父親との再会を夢見るリルなど、民間人にこそ多くの被害を出す最悪の結果に終わるだろう。
「……そんな……」
「昔は色恋していた相手を護衛に入れて、不倫するなどという手法も取られておったからな。何も無きように努めるのも、家を出す者の責務だ。
……ところでフォーリー、何をそんなに落胆することがある。女性ばかりだと言えば喜ぶかと思っていたのに、違うのか」
お父様に分かるはずもなく、首を横に振って言葉を慎んだ。
「嘘でしょう姉様、不倫相手までいたの!? 男性嫌いはカモフラージュ!?」
「いるわけないでしょう。寒くなることを言わないで」
こっそり妹たちを叱ったが。
不倫相手どころか暗殺の仲間を引き入れるつもりだったなんて、色めく彼女たちは知らない。




