5話 英雄誕生
主人公視点ではありません
王宮で獣王暗殺未遂事件起こる、
この知らせは獣王都を震撼させた、そしてその事件を防ぎ、
暗殺者を生かして捕らえたグリーゼの名前は一気に知れ渡った、
王の危機を救った英雄、救国の勇者とまで持ち上げる声が巷をにぎわし、
獣王都から外れたところにある難民キャンプに市民が押しかけた、
もちろん英雄が見たいという野次馬たちである。
アウラートゥスの里の者たちは驚きながらも彼を讃え尊崇の念を強くした。
彼がテレーゼの婚約者で時期里長なのだから当然なのだが。
もっとも、当の本人は身から出た錆とはいえ、ため息をつく日々であったのだが。
実は彼はあれから王宮より出ていないのであった、
と言うより王を救った英雄をこのまま帰すわけにも行かないと言うのが理由であったのだが、
実情はすこし違っているのだろうと本人は思っている。
「どうせ、俺がグリーゼでないことはもろバレだろうからな。」
きっとその処遇でもめているのだろうと辺りをつけてテレーゼ相手にお茶をすする正人であった。
その頃、王宮のある一室でまさにその話し合いが行われていた。
「なるほど、あの者は人族だというのか。」
「はい、死んだグリーゼの姿を借りているのだとか。」
「しかし、ただの変化の魔法とは違いますぞ、
魔眼の技を持つものに観させましたが、
あれは間違いなくグリーゼそのものだというのです。」
「死体を操作してるのでは?」
「死体はテレーゼが他の村人と一緒に焼いたそうです。」
「グリーゼの遺髪より、グリーゼの姿を読み取り自身に写しとったとか。」
「そのような魔法聞いたことがない。」
と、喧々諤々だったのだ。
そこに獣王が口を開く、
「そのような詮索は後にせよ、今問題なのはその者がわが国の英雄となってくれるかだ。」
その言葉に里長はおずおずと口を開く、
「確かにお言葉ではございますが、あの者はルアン王国へ帰りたがっております。
あちらに待っているものが居るとか。」
「ふむ、それは女性か?」
「恐らくは。」
「では、こちらもその手で行くとするか。」
にやりと笑う獣王の顔は獲物を見つけて舌なめずりする獅子のそれであった。
その二日後、正人ことグリーゼは謁見の間に呼ばれた、
部屋に入るとこの間のように大勢の人が並んでいる。
この場で何が行われるのか、正人は緊張していた。
「楽にせよ、グリーゼよ。」
王が声をかける、正人はあまり悪いことにはなるまいと考えることにした。
「このたび余を暗殺者より守り反乱の芽を摘むことが出来たのもひとえに
グリーゼお前のおかげである、余はそなたに褒美を遣わそうと思ってな。」
そういうと、傍の文官が、なにやら持ってくる、
王はそれを受け取ると、グリーゼを招き服につけてやる。
「これは獣神勲章といい特別な働きをしたものにだけ与えられる名誉じゃ。」
「ありがたくいただきます。」
「うむ、それだけではないぞ、そなたには男爵の爵位を授ける。」
「・・・・・」
「さらにじゃ、我が娘ミリヤムの婿にすることとする。」
「・・・・・」
居並ぶ群臣たちの喝采とどよめきの中で完全に硬直する、正人であった。
その日レーヴェ獣王国連合に一人の英雄が誕生した。
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「あーーー詰んだ!」
部屋でソファに突っ伏す正人、完全に自業自得である。
傍に居るテレーゼは複雑な心境だった、
目の前に居る男は幼馴染で自分を愛していた男なのだ。
たとえ中身が違っていてもだ、
それにテレーゼは付き合いこそ長くはないが中身の正人のことを
素敵な人だと思っている、強くてやさしく、
自分が落ち込んでいる時慰めてくれたりした、
あのバスでのことを思うたびに気持ちが揺れるのである。
ルアン王国には彼の帰還を待っている女たちがいるのも知っている、
正人が向こうに帰りたがってることも。
それを獣王の一言で王女の婿にされてしまう。
それがたまらないのだ。
父である里長も複雑な心境だった、傷心のテレーゼを癒せるのは
あの男しかいないとさえ思っていた、
確かに中身は違えど、彼がグリーゼである限りはその婚約者はテレーゼなのだから。
彼はテレーゼを呼び出して、なにやらアドバイスをするのであった。
その夜、正人は気配を感じて飛び起きた、部屋に何者かが入り込んだのだ、
観ると、そこにはナイトガウンを羽織ったテレーゼの姿があった。
(不味いな・・・)正人は内心で舌打ちをした。
緊張を強いられた獣王国内の旅までは良かったが、
王都について王宮暮らしではそれもなくなり、
一人で寝ることに耐えられなくなりつつあるのであった、
増して、獣人であるこのグリーゼはその力が強く押さえが利かなくなりつつあったのだ。
このままで行けば欲求不満で暴発しそうなところにテレーゼが来ては、
取り返しのつかないことになってしまうからだ。
「どうしたんだ?」
仕方ないので勤めてぶっきらぼうに声をかける。
それにテレーゼは無言で近づきベッドに腰を掛ける。
そして、正人の顔を見つめながらこう言った。
「私を抱いてください。」
「本気か?」
「もちろん、貴方の外見でなく、中身の貴方だからこそそう言えるんです。」
そう言ってテレーゼは羽織っていたガウンを脱いだ、
肉つきの良い肢体が露になる。
彼女の金髪が窓から入る光で浮かび上がる。
グリーゼ(正人)は彼女をじっと見つめる、
彼女も正人を見つめる。
「判った、後悔はなしだぞ。」
「後悔なんて、何もしない事に後悔するでしょう、私は。」
長い夜は始まったばかりである。
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