第39話 ミッドナイト・クルーザー.Ⅰ
話の内容が思い出せない方へ…
こちらを振り返って見ては…?
*特にこちら。
*ニアの故郷 → 第10、11話
*戦争の概要 → 第38話
ラオンは借りた馬に跨り、地平線に沈みかけている太陽を眺めながら手綱を握り直した。
時刻は17:00くらいだろうか。
アルカトラズと戦ってから1、2時間は経過したように思える。
余分に買っていたエリクサーのおかげで体の傷は癒えてきたものの、凄惨な戦争の跡のせいで心の傷は深いままだった。
この借りた馬は魔法によって元の場所に返されるから、どこまで連れてったって構わないのだが…
なにしろ、瓦礫や障害物が多く走りづらいため、なかなか進む気にもならないのだ。
"ロスドラグーン区域"終盤に差し掛かってきたところで、ラオンは馬のスピードを落とした。
そうして左側を見た後で、ラオンは絶句した。
そこにあるのは『カルミネの丘』と呼ばれる丘。
戦争によって亡くなった死者の墓が大量に乱立している丘だ。
地表に年中咲く灰色の花「ウィザルワー」が、余計に不気味で残酷な雰囲気を醸し出している。
しばらく絶句していたラオンだったが、やがて少しの間馬から降りて、その丘の方向へ合掌した。
[ここであった戦争は絶対に忘れません。
後世に残さなければ。 二度と起こらないように…]
そう心の中で誓い、馬に再度股がって走り去った。
それからしばらく走らせたところで、ラオンは目を細めて遠くを見た。
そうして自分が何処にいるのかを把握した。
[あの遠くに見える特徴的な崖。
あれは戦争の影響で形成された『雷鳴崖』だ。
ってことは、もうサンセットエリアではなく…
やっとオーバーロックに辿り着いた訳か。]
ラオンの思った通り、『雷鳴崖』はオーバーロックとサンセットエリアの国境にある、脆い崖である。
崖というよりかはただの"土壁"に近いのかもしれない。
ちょっとの振動ですぐ崩れ、その時になる音が雷のようなのでそう名付けられたそうだ。
そしてこの崖が遠くに見えるということは、ラオンはオーバーロックの南端、"イーブルへニア平原"に辿り着いたということだ。
[ニアたちは元気だろうか。
早く会いたい… でも、もうオーバーロックまで来たんだ僕は。
すぐに会える。もうひと踏ん張りだ。]
そう考えたラオンは、心に希望の火を灯し馬のスピードを上げた。
次にラオンが目にしたのは『ホーンレスゲート』だった。
これは戦争の影響で大半が崩れ落ち、かつての壮大さを失った巨大な門である。
門の装飾であった二本の角が折れ落ちているため、この名で呼ばれるようになった。
目的地の"ホープフルシティ"に行くにはここのゲートを通る必要がある。
馬の呼吸はだんだん荒くなっている。
そりゃここまでほぼ休み無しで走ってくれているのだから、息づかいも荒くなるだろう。
「ごめんね。もう少しで着くから。
そこまでは君に頑張って走ってもらいたい。
それにしても、昔はどれだけ立派だったんだろうな。
僕は見たことないけど、きっとそれはそれはとても綺麗な門だったんだろう…」
ラオンは振り返りながら、少し切ないようにそう呟いて門をくぐり抜けた。
『ホーンレスゲート』を越えると、"クラッシュフォール大地"にある『泣き市場』という名の小さな集落にたどり着いた。
市場と名はついているが、そこには商人の姿はなく、わずかに残った屋台や崩れたテントだけが並んでいた。
「泣き市場か… なんて名前なんだ。」
名前の由来は、戦争中に多くの人がここで家族を失い、悲しみの声が響いたことから来ているらしい。
ラオンは馬を止め、水筒の水を一口飲んだ。
その時ふと耳を澄ませると、遠くから子どもの笑い声が聞こえたような気がした。
「少しずつ… 少しずつでも…
ここにも人が戻ってきてるのかもしれない。
きっと絶望だけじゃない。
マイナスな面には必ずプラスも存在するんだ。
いつまでも絶望なんかしてられない… か。」
そう思いながら、再び馬を進めた。
こうしていくつもの傷跡を越えて、ラオンはついにホープフルシティにたどり着いた。
夕焼けが街の廃墟を柔らかく染める中で、ラオンは馬を降りた。
「ここまで僕を運んできてくれてありがとう。
またどこかで会えたら、その時はよろしくね。」
そう言って馬の頭を撫でたラオンは、静かにニアとアストロが待つ方へと歩き出した。
馬はすぐに魔法によって転送された。
「おーーーい! 王子様ー!
ニアちゃんが不安そうに待ってたよー」
その声に反応して、ラオンはすぐに顔を上げた。
そこに居たのはアストロとニア。
その瞬間ラオンの胸には、計り知れない安心と希望が渦巻いた。
そうして口を開こうとしたときに、ニアが先に声を発した。
「まったく…
1対2で行動するのは危険でしょ!
現にラオンは敵の攻撃を受けている…
もう1対2で動くことは認めないから!」
「僕はシュネルカイザー家の長男だ。
絶対にこんなとこで死んだりはしないし…
死ねない。そういう王族の教えがあるんだ。
でも、ニアに心配をかけてしまうのなら、もうしない。
女の子を傷つけては行けない。
これも王族の教えとしてあるからね。」
咄嗟に言い訳のようなことを言ったラオンに、ニアはふんという態度をとってから暫くたった後で、再び口を開いた。
「この戦争の跡を見て、なにか思ったことはある?
ラオンのことだから、絶対に何か考えているだろうけれど…
それは私も同じ。私もローゼンサンドラから、このオーバーロックに来てから心が痛んだ。
そしてこの戦争が、ライカルルとスチームチムニーのせいだと気づいてからは尚更。
だからラオン。あんたには感謝してる。
私の出身はスチームチムニーでしょ。敵国よ。
もしかしたら、この戦争の跡地を見たら怒って二度と一緒に旅して貰えないと思った。
ずっと不安だった……」
そうしてそこまで話したニアは、涙をポロポロと流してしまった。
アストロもニアと同行して、その片鱗を感じとっていたから黙って聞いていた。
それまで真剣に聞いていたラオンは、そんなニアの様子を見て、本能的にすぐに立ち上がってハンカチを取り出し、ニアの涙を拭き取りながら話し始めた。
「泣かないでニア。
別に君が悪い訳では無いでしょ…
ライカルルとスチームチムニー間の戦争。
それは絶対にあった事実だけど、
それは僕や君が原因で起こった訳ではない。
なんなら僕は、そのライカルルを治めているシュネルカイザー家の子息だ。
責められるべきは僕の方だよ。
それでも君は、自分のことを責めてる。
ニアはほんとに優しい。
だから僕は味方したいと思ったんだ…
もし君が、スチームチムニーを治めているヴァルカス家だったとしても、絶対に受け入れるよ。
ニアが僕にしてくれたようにね。」
そこまでどっと喋ったラオンは、ニアの頭を優しく撫でた。
ニアの方は、何か言いたげな神妙な顔でラオンの方を見る。
そしてニアが口を開いた時、それまで黙って見ていたアストロが二人に喋りかけた。
「仲直り… って言うのもおかしいけど、
2人がこの戦争の跡地のせいで別れなくて良かったよ。
突然で悪いが、私から1つ提案がある…」
今回のタイトルは
『Steely Dan』の「Midnite Cruiser」
を参考にしています。




