Ⅱ あざといシア
弟妹対決なんて、と呆れる反面、わたしはちょっぴり、期待していた。
だって、フィルとシアが、わたしを全力で甘やかしてくれるというのだから。
けれど……。
ソファーに腰掛けたわたしに、まずはシアがハーブティーを用意してくれた。フィルが何か言う前に速攻で提案したのだ。
わたしはこくこくとうなずいて、お茶をいただくことにした。シアが用意してくれたのは、ラベンダーの香り高いハーブティーで、それはとても美味しかったのだけれど。
じーっと、目の前の、フィルとシアがわたしを見つめている。
わたしは落ち着かないなあ、と感じながら、ティーカップのお茶を飲み干す。
ことん、とわたしがカップを皿に置くと、とたんにフィルとシアが身を乗り出す。
「お姉ちゃん、おかわり、いる? 今度はぼくが紅茶を……」
「いえ、おかわりでしたらわたしがご用意します! ハーブティーだけじゃなくて美味しい紅茶も……ありますから!」
えーと、とわたしは困ってしまう。
今日一日、二人は理想の弟妹になるという。そうして審査員(?)のみんなから評価されようと必死だ。
けど、わたしは一人しかいないので、自然とわたしの取り合いみたいになってしまう。
これでは甘やかしてもらっているというより、いつも狙われているみたいで……緊張する。
しかも、今みたいに、わたしがどちらかの申し出を選ばないといけないときも多いわけで……。
片方がやってくれる、という提案を断るのは、とても心苦しい。しかも、レオン、アルフォンソ様、セレナさんの三人まで、審査員としてわたしたちを凝視しているので、なおさら息苦しかった。
それもこれもアリスのせいだ……。アリスを見ると、とっても楽しそうにしている。まあ、アリスが楽しそうなら、いいか。
ともかくわたしはその場から逃げようとした。
「あ、あのね、今度はわたしが二人にお茶を淹れてあげる!」
そういって、わたしは慌てて立ち上がろうとした。
そのとき、わたしは部屋の絨毯に足をとられる。
……このままじゃ、転んじゃう!
床に激突せずに済んだのは、シアのおかげだった。
シアがわたしを抱きとめてくれたのだ。
「大丈夫ですか、クレア様?」
心配そうにシアがわたしを覗き込んでいる。
その美しい真紅の瞳は、まっすぐにわたしを見つめていた。シアのきめ細かい白い肌も、すぐ近くにある。
改めて見ると、シアは恐ろしいほどの美少女だ。銀色の髪も、人によっては不気味だと感じるらしいのだけれど、わたしは神秘的な美しさがあると思う。
少しうらやましいし、憧れてしまうほどだ。
そんなシアが、わたしを姉と慕ってくれるなんて嬉しい。……弟妹対決なんてしなくても、シアはとても良い子だし、一緒にお出かけだってむしろわたしからお願いしたいぐらいだ。
「ありがとう、シア」
「いえ……」
シアは、優しくわたしが元通りの体勢に戻れるように手助けしてくれた。
そして、シアは嬉しそうに微笑んだ。
「今のは……クレア様的には、いかがでした? 妹感出てました?」
「それは審査員の人たちに聞いたほうが良いんじゃない?」
「でも、わたしはクレア様に喜んでいただきたいですから」
とシアは頬を赤くして、わたしを上目遣いに見た。
こ、これは……あざとい!
いや、シアは本心から言ってくれると思うけど、審査員の評価は高いかもしれない。
さらにシアは畳み掛ける。
「その……クレア様。やっぱり、私がお茶を淹れますね。クレア様がやけどをされたりしたらと思うと、私、心配で……」
「わたしはそんなにそそっかしくない……はず」
目の前で転びかけたから、まったく説得力がないことに気づく。
シアはにっこりと微笑んで、わたしにささやく。
「今日は、クレア様にわたしとフィル様が奉仕する日なんですから、素直に私のお茶を飲んでください」
「う、うん……」
わたしはこくこくとうなずいた。流れ的に、シアにお茶を入れてもらうという提案に乗ってしまった。、
フィルはむうっと頬を膨らませている。
しばらくして、シアが新たに淹れてくれた紅茶をティーカップに注ぐ。フィルやアリス、審査員のみんなの分の用意も忘れていない。
明るい水色のそれは、蘭のような華やかな香りだった。一口飲むと、かすかにスモーキーな感じがあって、それが味に複雑さを増していて、それでいて心地よい飲み心地を損なっていない。
アルフォンソ様がうなり、「これはすごい……」とつぶやいている。王宮で高品質の茶をたくさん飲んでいるはずのアルフォンソ様をもうならすのだから、シアの紅茶を淹れる腕の高さがわかる。
シアはさらに、お茶菓子まで用意していた。
白い皿の上に、乗っているのは……白い粉砂糖がまぶされたケーキだった。
ただ、特徴的なのは、そのケーキの表面に粉砂糖がかかっていない箇所があって、それが十字架の形を描いていることだった。
「タルタ・デ・サンティアゴという名前のアーモンドのケーキです。ほとんど小麦を使っていなくて、アーモンドの粉で焼きあげているんですけど、不思議な美味しさがあるんです」
シアはそう説明してくれた。
そして、シアはみんなのために切り分けた後、そのうちのひとかけらをフォークに刺し、わたしの口もとに運んだ。
「……なにしてるの、シア?」
「その……あーんして差し上げようと思いまして」
「えっ」
わたしはびっくりして固まった。シアは恥ずかしそうにわたしを真紅の瞳で見つめる。
「ダメ……ですか?」
「ダメってわけはないけど……」
「なら……いいですよね?」
わたしは雰囲気に流されて、ぱくっとシアの差し出したケーキを食べた。おおっ、と声を上げたのは、たぶんアリスだと思う。
……素朴で優しい味だ。でも……すごく……美味しい。
シアは、わたしが美味しいと思っていることに気づいたみたいで、微笑んでくれた
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