XV 意外な言葉
わたしは意外な気がした。
セレナさんも……もしかして一人ぼっち?
わたしがレオンを振り返ると、レオンは肩をすくめてうなずく。
「みんながみんな、要領が良いわけじゃないんですよ」
それは……そうかもしれない。
一人でいる生徒なんて、そう珍しい存在でもない。
わたしだって……前回の人生では、破滅する直前には孤立しかけていたわけだし。
とはいえ……これはセレナさんには悪いけれど、かえって好都合かもしれない。
ほかに仲の良い人がいないなら、なおさらフィルの友人になってくれる可能性が高いんじゃないだろうか。
「それで、セレナさんと仲良くなるとしても、具体的にはどうするんです? いきなり話しかけて、『仲良くなりましょう』なんて言ったら不審者ですよ」
「そこは考えているの。これでも秀才の公爵令嬢だから、わたしの話術をもってすれば楽勝よ」
わたしが胸を張ると、レオンは「へー」と冷たい目で見た。
こいつ……わたしのことを全然信用していない!
「み、見てなさい。すぐにでも仲良くなってみせるんだから!」
「不安だなあ」
とレオンはつぶやき、ふたたびセレナさんのいた席へと目を向けた。
わたしもそれにつられて、セレナさんがいるはずの場所へと視線を移すが……。
「あれ?」
そこにセレナさんはいなかった。
はて? どこへ行ったのでしょう?
そして、わたしは目の前に小さな女の子が立っていることに気づいた。
ブロンドヘアに、褐色の目。とっても小柄な少女だ。
セレナ・マロート伯爵令嬢は、いつのまにか、わたしたちの目の前に立っていた。
「あの……フィル様のお姉様ですよね?」
セレナさんは、鳥のさえずるような小さな声でわたしに尋ねる。
思わず、わたしはこくこくとうなずいた。
急すぎて、こ、言葉が出てこない! レオンが「自慢の話術はどうしたんですか?」とわたしを小突く。
う、うるさい!
セレナさんは、そんなわたしたちの様子を見て、くすっと笑った。
お、笑ってくれた。
セレナさんは笑うととっても可愛かった。人形みたいな整った顔に、ほんのりと赤みが差す。
「お話があるんです」
「ええと……」
それは願ったり叶ったり。
むしろこちらから話に行こうと思っていたのだから。
「屋上へ……行きませんか?」
と言われ、わたしはレオンと顔を見合わせる。
断る理由はない。
わたしたちはその場を離れ、校舎の屋上へと向かうことにする。
そのとき、教室のなかのフィルと、一瞬、目が合う。ぱっとフィルの顔が輝き、でも、わたしたちが去っていくことがわかると、とても寂しそうな顔をした。
……ごめんね。本当だったら、フィルと一緒にいたいところなんだけど……そういうわけにもいかない。
わたし、セレナさん、レオンの三人は廊下をてくてくと歩き、階段を登り、そして、それほど時間もかからずに、目的の屋上にたどり着いた。
こないだ、フィルと一緒にお昼ごはんを食べた場所だ。
風で、セレナさんのブロンドの髪がたなびく。
「えっと、その……改めてご挨拶申し上げます。私はセレナ・マロート。マロート伯爵家の娘です」
「ええ、知っているわ」
マロート伯爵家は、古い家系の名門貴族だし、わたしの父とも付き合いがあったはずだ。
セレナさんは、ぼそぼそと型どおりの挨拶をこなすと、わたしをじっと見つめた。
話す前は勝ち気そうに見えた瞳だけど……喋り方は弱々しくて、気弱な印象がある。
「ご用件は?」
とわたしが尋ねると、セレナさんはおずおずとわたしに言う。。
「その……ですね。クレア様たちはフィル様にご友人を作ろうとされているんですよね?」
「な、なんで知ってるの?」
「だって……聞いていましたから」
ああ、そうだ。
たしかにいくらでも知られる機会はあった。
うかつだった。
ただ、それほど大した失敗じゃないし、セレナさんにわたしたちの目的が伝わっているのは好都合かもしれない。
でも、それは勘違いだった。
「あの……クレア様。お願いがあるんです」
「わたしにできることなら、なんでも言って?」
とりあえず、わたしはできるかぎり優しげな微笑を作ってみた。
セレナさんはようやく決心したように、深呼吸する。
そして、言う。
「フィル様に友達を作ろうなんてしないでください」
「え?」
わたしは一瞬、セレナさんの言うことが理解できず、まじまじとセレナさんを見つめた。







