XIV セレナ
「さあ、早速、セレナさんに会いに行きましょう」
とわたしがレオンに言うと、レオンは目を白黒させた。
「い、今からですか?」
「善は急げ、と言うでしょう?」
わたしがにっこりと微笑むと、レオンはやれやれという顔をした後、図書室の椅子を立った。
付き合ってくれるみたいだ。
今はお昼休みで、まだけっこう時間がある。教室へ行けば、セレナさんに会えるだろう。
フィルと、フィルのクラスメイトのセレナさんを仲良くさせる計画を、わたしはレオンと共同で推進することになった。
うまくいくといいのだけれど。
レオンは、フィルやセレナさんとは隣のクラスだった。
それでもいきなり上級生のわたしだけが行くよりも、同じ学年のレオンが一緒に来てくれた方が、セレナさんも話しやすいはずだ。
廊下を歩きながら、レオンがおそるおそるといった感じで言う。
「あの……クレアお嬢様。会っていきなり、セレナさんに『フィルの友達になって』とか言わないですよね?」
「まさか。そんな下手な手段はとらないから、安心して」
「では、どうするんですか?」
「まずはわたしたちが、セレナさんと仲良くなればいいでしょう? そしたら、自然にフィルとも一緒にお昼を食べに行ったりして、みんなで仲良くなればいいの」
「ああ、なるほど」
レオンはぽんと手を打って、納得してくれたようだった。
わたしはレオンを睨む。
「わたしもそんなに考えなしってわけじゃないの」
「もちろん知っていますよ。ただ、お嬢様は、フィル様のこととなると姉バカになって、とんでもないことをしますから」
レオンは肩をすくめた。
悔しいけど、レオンの言うことは否定できない。
たしかに、わたしはフィルのこととなると、ときどき、冷静さがなくなってしまう。
前回の人生では、そんなことはなかった。自分で言うのも変だけど、わたしはいつでも、卒なく優秀にものごとをこなしてきた。
それは……フィルのような、心を奪われるものが、あるかないかの違いだ。
ああ……でも。
前回の人生でも、シアにアルフォンソ様を奪われそうになったとき、わたしは暴走してしまったんだ。シアを傷つけようとして、逆に自分が破滅した。
わたしは、はっとする。
もしかしたら、今も同じかもしれない。
フィルに心を揺さぶられすぎて、とんでもない失敗をすれば……すぐさま破滅ってこともありえるかも。
実際に、夜の魔女の刻印は、わたしの腕に真っ赤な模様を刻んでいる。
これが浮かんでいるうちは、わたしの破滅はすぐそばにあるということなのだから。
「慎重にいかないと……いけないよね。うん、そうだよね」
「何でひとりごとをつぶやいているんですか?」
レオンが呆れたようにわたしの方を振り向く。
しまった……。口に出ていたみたいだ。
わたしが、「あはは」と笑うと、レオンはため息をついた。
「お嬢様は……変わりましたね」
「そう?」
「はい。フィル様が屋敷にいらしてから、お嬢様は落ち着きがなくて、とんでもないことをしたりして……でも、とても楽しそうになりました」
レオンがそう言って、少し表情を和らげて、わたしを見つめた。
どきっとする。
レオンはけっこう顔立ちが整っている。仕草も上品だし、その青い瞳で見つめられると、少しどぎまぎする。
フィルの可愛さとは方向性が違っていて、レオンの顔には幼いなりに凛々しさがある。
レオンは微笑んだ。
「さあ、急がないと。立ち止まってはダメですよ、お嬢様」
レオンに見つめられて、わたしは思わず足を止めていたみたいだった。
すたすたとレオンは歩き出してしまい、わたしはそれを慌てて追いかけた。
「ま、待ってよ! レオン!」
「俺はお嬢様のペースに合わせるつもりはないんです」
「意地悪ね」
「どうとでも言ってください」
と言って、レオンは振り向いて、にやにやと笑った。
こいつ……!
でも、振り向いた後、レオンはその場で立ち止まり、わたしを待っていてくれた。
レオンってけっこう足が速いんだ。お屋敷にいたころは、背もわたしのほうがレオンより高かった。
けど、一年でレオンに背も抜かされてしまったみたいだった。
「一つ忠告ですが、セレナさんにはあまりグイグイいかないほうがいいかもしれません」
「そうなの?」
「はい。というのも……」
わたしたちはちょうどフィルたちの教室についた。
教室を覗くと、相変わらずフィルが一人で本を読んでいて、ちょっと心配になる。
そして、わたしが探しているもうひとりの子も、教室にいた。
セレナさんも……一人で、窓の外をぼうっと見つめていたのだ。







