Ⅴ とっていっちゃダメなんだからね?
わたしのために、フィルは学園に飛び級で入学するのだと言ってくれた。
昔もそうだったけど、入学した今も、そう言ってくれるのがわたしにはとても嬉しい。
「ありがとう、フィル」
そう言って、わたしがフィルの黒い艷やかな髪をくしゃくしゃっと撫でると、フィルは恥ずかしそうに微笑んだ。
そんなわたしたちを、アリスは楽しげに、シアはなぜかジト目で見ていた。
いつのまにか、アリスやシア以外の、同級生の女子たちが集まってくる。
「なになに、この子? ……すごい可愛いじゃん!」
と言ったのは、クラスメイトのカリナだった。オレンジがかった茶髪を短く切りそろえていて、さばさばしたタイプの子だ。
シンプルなドレスを着ていて、わりと庶民的に見える。フランクな口のきき方も、気取った感じを与えない。
ところが、そんな印象に反して、侯爵令嬢なので結構身分は高い。王太子の婚約者のわたしにも物怖じしない良い友人……と思っていたのは前回の人生の途中まで。
理由はわからないけど、彼女はわたしが孤立したときも、断罪されたときも助けてくれなかった。内心ではわたしのことを嫌っていたのかも知れない。
だから、わたしはちょっとカリナのことを警戒しているけれど、でも、いまのところ、彼女を避ける理由もない。
わたしはそつなく微笑んだ。
「ええ。可愛いでしょう? この子、わたしの弟なの」
「へえええ!」
と大げさにカリナはリアクションをとる。わざとらしい態度と言えば態度だけど、でも、フィルのことを可愛いと思っているのは本当のようだった。
カリナ以外も、わらわらと他の女子生徒も寄ってきて、フィルを可愛い、可愛いと言いはじめる。
中には髪を撫でたり、頬を触ったりしている子もいて、フィルの顔を赤くさせていた。
……みんな一応貴族の子女よね? そんな態度で淑女として、はしたないと言われないんだろうか。
いや、フィルに抱きつこうとしているわたしが言えたことじゃないけど……。
ともかく、このまま放っておいては、困ったことになる。
この学園には可愛い子はたくさんいる。……フィルが誰かのことを好きになってしまわないとも限らない。
いや、もちろん……わたしは破滅を回避するために、フィルが誰かのことを好きになったりしたら、邪魔はしないつもりだけど。
でも、だからといって、積極的にそういう事態を作ろうとは思わない。聖女シアだっているんだし、順当にいけば、フィルはシアのことを好きになるはずだし。
わたしの同学年の子たちは、年下の可愛い男子であるフィルに近づこうとする子もいるかもしれない。
でも、そうは問屋が卸さない。
だって……フィルの姉はわたし(とシア)だけで十分なんだから!
フィルは大勢の女の子に囲まれ、わちゃわちゃされ、目を白黒させている。
わたしはぽんぽんと手を叩いた。
「こらこら、フィルを困らせないであげてよ。それにフィルはわたしの弟なんだから、とっていっちゃダメなんだからね?」
「はーい」
とカリナがおどけて離れ、他の子もそれにならった。
そして、わたしはフィルの手を握った。
フィルはびっくりした様子で、わたしを見上げた。
わたしは回りの子を見回す。
「改めて、この子がわたしの弟のフィル。すっごく可愛くて、頭も良くて優しい、わたしの最高の弟なの」
そして、フィルもわたしのことを最高の姉だと言ってくれる。
今は、まだ。
これからも、ずっとそうかはわからないけれど。
それは、きっとわたしのこれからの行動にかかっている。
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