Ⅳ 再会
わたしは王立学園の講堂に立っていた。
……そう。
ここは、わたしが殺された場所。17歳の、やり直す前のわたしが、フィルに処刑された場所だ。
でも、今のわたしは13歳。一学年下の生徒たちの入学式の前日だ。春の、穏やかな夕方だった。
講堂は全校生徒が入れるぐらいの広さで、豪華なシャンデリアが天井に輝いている。
赤い絨毯が敷き詰められた豪華な空間だ。
卒業式などの儀式にも使われるけど、椅子を取り払えば、パーティ会場にもなるし、ダンスホールにもなる。
この因縁の場所の隅に、わたしはシアとアリスと一緒にいる。
わたしはぐっと拳を握った。
「さあ、頑張らなきゃ……!」
これから全学舞踏会が始まる。
今度は死なないために。……そして、フィルの最高の姉になるために!
「クレアお嬢様……気合、入ってますね」
アリスが目を丸くして言う。
わたしは微笑んだ。
「だって、久々にフィルと再会できるんだもの」
それにダンスは、わたしの得意分野だ。
いちおう前回の人生では、わりと完璧な公爵令嬢だったのだ。王太子の婚約者としてみっちり訓練を積んでいる。
フィルをわたしの弟としてみんなに紹介して回り、そして、フィルと素晴らしいダンスを披露して、注目を集める。
前回の人生みたいに……フィルを冷たく突き放したりなんて、絶対にしない。
フィルの学園への入学を完璧に演出してあげよう。
そうすれば、きっとフィルは前回よりも快適に学園生活を送ることができる。ついでに、わたしはフィルのお姉ちゃんとしてのポジションを盤石にできるだろう。
会心の計画に、ふっふっふっ、と思わず笑みがこぼれてくる。
アリスとシアは顔を見合わせて、「いいなあ、フィル様……」と小さくつぶやいている。シアはいつもの純白の可愛らしい服を着ている。
けど、アリスはメイド服じゃなくて、淡い桃色のドレスを着て着飾っている。舞踏会だし、アリスは貴族令嬢だ。
ここではメイドであるだけでなく、学園の生徒でもある。襟とスカート部分は淡い青色で、お洒落なデザインだ。
メイド服を着ているときと印象は違うけど、なかなか似合っている。
そういえば、学園に入学してから、この二人が一緒にいることも多くなった。
お屋敷では、わたしの妹となっているシアと、メイドのアリスでは立場がかなり違う。ただ、学園に入学すれば、どちらも同じ生徒なわけで。
わたしにとって年上のアリスが姉代わりなのと同様、アリスとシアが並ぶと、姉妹みたいに見えた。
それにしても、ずいぶん仲良しになったなあ、と思う。
わたしがそう言うと、アリスはにっこりと笑った。
「それはそうですよ。シア様もあたしも、『クレア様大好き仲間』ですから」
「へ?」
わたしが間抜けな声を上げると、シアが慌てた様子で頬を赤くして、「あ、アリスさん……」と小声でアリスの制服の裾を引っ張る。
アリスはどこまで本気かわからないような雰囲気で、ころころと笑う。
「アリス……あまりからかわないでよね」
「あら、あたしはいつでも大真面目ですよ」
上機嫌なアリスに、わたしはむうっと頬を膨らませる。でも、たぶん、わたしの頬は少し赤くなっている。
フィルだけじゃなくて、今のわたしには、アリスやシアがいてくれる。そのことが心強かった。
わたしたち在校生は、男女に分かれて、講堂の右側の端で待機している。アルフォンソ様もどこかにいるはずだけど、男子なのでわたしとは別々の場所にいる。
まあ、アルフォンソ様はわたしの婚約者なので、後で必ず会うことになるとは思うけれど。
でも、まずは……フィルが大事だ。
やがて、講堂の反対側の扉が開き、窓から差し込む夕日を背に、新入生たちがどやどやと入ってくる。
みんな緊張して、初々しい面持ちだった。
「あたしたちも一年前はああいうふうだったと思うと、感慨深いですねえ」
とアリスが言う。
まあ、わたしは前回の人生とあわせて二度目だったので、去年も大した感動はなかったのは内緒だ。
ただ、前回の人生では、アリスは学園に入学できなかったから、そのアリスがわたしの横にいるという嬉しさはあったけれど。
そう。
前回と今回は同じところもあるけれど、違うところもある。
前回よりも、もっと良い学園生活を、わたしは送りたい。そして、前回とは違って……フィルと仲良しで学園生活を送るんだ!
やがて新入生の一団のなかに、ひときわ背が低くて、ちっちゃくて、でも可愛らしい少年がいるのを見つけた。
半ズボンを履いて、恥ずかしそうにあたりをきょろきょろと見回している。
そして、その子は、わたしと目が合うと、黒い瞳を輝かせ、白い頬を紅潮させた。
「クレア……お姉ちゃん!」
フィルがとてとてとやってきて、そして、わたしをきらきらとした目で見上げた。
「か、可愛い……」
思わず、お屋敷で最初に会った日のことを思い出してしまった。
あのときのフィルは、おどおどとした様子で、それはそれで可愛かったけど、でも、いまみたいな明るい表情の方がもっと素敵だ。
思わず、わたしはフィルを抱きしめかけ……フィルにひょいと身をかわされた。
「……お姉ちゃん……人前で抱きついたりするのは、恥ずかしいからダメだよ?」
「人前じゃなければいいの!?」
わたしが身を乗り出して言うと、フィルは目を白黒とさせた。
「ひ、人前じゃなくても……ダメだから!」
「……残念」
落ち込むわたしに、フィルが慌てる。
「でも……お姉ちゃんに会うことができて、嬉しいのはぼくも同じだよ」
「ホントに?」
「うん。だって、ぼくはそのために学園に飛び級で入学したんだもの」
天使かと思うような、純粋な宝石みたいな目で、フィルはわたしを見つめた。
【あとがき】
書籍化&コミカライズします! 詳細は下記の活動報告にて。4万字弱加筆しているので、WEB版をお読みの方も楽しめると思います。
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