Ⅱ 対策は一つ!
「ええと、クレア様は、フィル様を遠目から一目見るために、この時計塔に登ったんですか?」
「そのとおり」
戸惑ったようなシアの問いに、わたしはうなずいた。
なにか不思議なことがあるだろうか?
「でも、それだったら、普通に出迎えに行けばいいのではないでしょうか?」
「飛空艇から降り立ったら、いろいろ面倒な手続きがあるもの。すぐにはわたしも会えないでしょう?」
王立学園は王都の外れにあり、外部との接触が絶たれている。
これは警備上の都合だ。上は王太子から下は大商人の娘まで、要人の子女が集まるこの学園に、不審者が侵入すれば大変なことになる。
そのため、王立学園の門を初めてくぐるのは、それだけで一仕事だ。検査と手続きとで、二時間は拘束される。
一度入学してしまえば、比較的王都との行き来は自由になるのだけれど、最初はそうもいかない。
そして、わたしが飛空艇の発着陸をする港まで出向いて、フィルが見られる位置まで行くのも難しい。
王都へ行く道と違って、飛空艇の港は、安全上、厳重に警備されていて、用がなければ入れない。
。
ということで時計台に登って、フィルを遠目から見ることにしたのだ。
幸い、単眼鏡の向こうに見えるフィルは、元気そうで、その白い頬を紅潮させていた。
王立学園に入学できて、フィルなりに興奮しているのかもしれない。
フィルはこの学園に一年飛び級で入学して、この春から一年生になる。飛び級の理由は、嬉しいことに、わたしと少しでも早く一緒にいられるようになりたいからだと言ってくれた。
そんなフィルの姿を、わたしも王立学園に到着したらすぐに見たかった。もちろん公爵家に里帰りしたときには会っているんだけど、そう頻繁には戻れない。
最後に会ったのは三ヶ月前だ。
「でも……ここからフィル様を見なくたって……後になったら会えるんじゃ……」
「大事な弟が来たんだから、元気かどうか、一刻も早くみたいでしょ?」
わたしが微笑んで言うと、シアは沈黙し、しばらくしてから「羨ましいなあ」とつぶやいた。
? なにが羨ましいんだろう?
「クレア様がフィル様のことを大事にされているんだなって思いまして。私や王太子殿下には、クレア様はそこまでの情熱を示してくれませんから」
「え、えっと……そんなことは……」
ない、と言おうと思ったけど、その言葉は空に浮いた。王太子もわたしをジト目で見ている。
わたしにとってシアは大事な友人だし、王太子殿下は婚約者だ。
けど……二人には悪いけど……わたしにとっていちばん大事なのは、フィルなんだ。
自分でもどうしてかはわからない。ただ、わたしの願いはフィルの最高の姉になることで、フィルにもそう約束した。
単眼鏡の向こうに見えるフィルは、無事に手続きを終えて、王立学園の門をくぐった。
また、お屋敷のときみたいに、フィルと一緒にいられる!
けど、ここからが問題だ。
わたしは前回の人生で、破滅した。その理由はいろいろある。一つはわたしが「夜の魔女」という特殊な立場にあることだし、あるいは、シアを裏切ってしまったことでもある。
ただ、もう一つ大事なのは、フィルと疎遠になってしまったこと。
あんなに可愛い弟に、わたしは冷たく接していた。それが、わたしがフィルに処刑されるという破滅につながったと思う。
もちろん、今回はわたしはフィルを全力で可愛がる方針だけど、でも、選択肢を間違えれば、わたしの意思とは無関係に、フィルとの関係が破綻してしまうかもしれない。
「第一の山場は、全学舞踏会よね……」
新入生を歓迎し、在校生の親睦を深めるために、四月の学園で行われる大規模な舞踏会。
それが春の全学舞踏会だ。
そして、前回……わたしはフィルに冷たく接し、フィルにひどいことを言ってしまっていた。
周りの生徒たちに、フィルを紹介するように言われ、でも、そのときのわたしはフィルのことを嫌っていた。
だからフィルなんて弟じゃない、と冷たく突き放してしまっていたのだ。そのせいで、フィルとの関係はますます悪くなったし、フィル自身の学園生活を送りづらくなったはずだ。
実のところ……今、わたしの腕には赤い刻印が現れている。夜の魔女に近づいたことを示す幾何学的な禍々しい模様だ。
つまり……破滅を回避する必要がある。
ということで、わたしが取るべき対策は一つ!
「舞踏会で、フィルをわたしの『最高に可愛い弟』として紹介してまわらなきゃ!」
わたしの叫びに、王太子もシアも、あっけにとられていた。
姉バカ姫覚醒……。
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