XXXVI 一緒にお昼寝!
翌日も、わたしとフィルは同じ部屋で過ごしていた。
王太子の命令で閉じ込められているから、外には出られないし。
何もすることがないから、退屈だ。
鉄格子のはめられた窓からは、穏やかな日の光が差し込んでいる。
もう昼ごはんを食べ終わって、二時過ぎだった。
この部屋には、そこそこの数の本が置かれている。小難しい本に偏っているけど。
フィルはそういう本を気に入って、飽きずに読んでいた。
何もしないよりはマシ、ということで、わたしも歴史の年表を開いて覚えていたけれど、とても眠くなってくる。
うつらうつら、としているうちに、いつのまにかフィルが目の前に来ていた。
小柄なフィルがわたしの目を覗き込む。
宝石みたいな目に見つめられて、わたしもフィルを見つめ返す。
フィルは首をかしげた。
「……お姉ちゃん……眠いの?」
「ええ……」
とても、とても眠い。
このままお昼寝してしまいたいような……。
……そっか。
べつにお昼寝したって、悪いことはない。
わたしは眠い目をこすり、そして、近くにあるわたしのベッドを手のひらでぽんぽんと叩く。
「フィル……一緒にお昼寝をする? 」
フィルはわたしの言葉にきょとんとして、急に顔を赤くした。
ふるふるとフィルは首を横にふる。
「お姉ちゃん……それは……」
「嫌?」
「い、嫌じゃないけど、恥ずかしいし、それに……」
「でも、お屋敷で一度、一緒にお昼寝したでしょう?」
「そうだけど……」
フィルは上目遣いにわたしを見た。
「……お姉ちゃんは、ぼくが隣で寝ていても、何も思わない?」
「嬉しいな、とは思うけど」
わたしはそう言って、微笑んだ。
フィルは照れたような表情を浮かべた。
どうしてフィルが、遠慮しているのか、わからない。お屋敷でお昼寝、と言ったときは、あっさりとうなずいたのに、今回はどうしたんだろう?
でも、フィルが嫌というなら、やめておこうかな。
と思ったら、フィルは首を縦に振った。
「お姉ちゃんが……そうしたいなら、いいよ」
「いいの?」
「うん。ぼくも……お姉ちゃんのそばにいたいし」
そういって、フィルは天使みたいな綺麗な笑みを浮かべた。
わたしは嬉しくなって、フィルを抱きしめようかと思ったけど、思いとどまった。
そんなことしたら、フィルが恥ずかしがって、お昼寝はしない、と考えを変えちゃうかもしれないし。
わたしとフィルはならんでベッドの上に寝た。
天蓋付きのベッドは豪華で、しかもかなりの広さがある。さすが王宮。
わたしとフィルはそれぞれ横向きに寝ていて、互いを見つめ合う格好になっている。
そっと、わたしはフィルに手を伸ばし、フィルのつややかな髪を撫でた。
フィルはくすぐったそうに身をよじる。
わたしはひとしきり、フィルの髪を撫でると、フィルは顔を赤くしていた。
そして、フィルは小声でつぶやいた。
「王太子殿下は……ひどいよね」
「え?」
「クレアお姉ちゃんの気持ちも考えないで、こんなところに閉じ込めて、お姉ちゃんを困らせて……ぼくならこんなことしないのに」
わたしはくすっと笑った。
「ありがとう。フィルがわたしの婚約者だったら、良かったのにね」
わたしは冗談のつもりで言ったのだけど、フィルは真顔でうなずいた。
「うん、ぼくもそう思う」
その表情はあまりにも真剣で、瞳はまっすぐにわたしを見つめていて、わたしは一瞬、動揺した。
まあ、たしかにフィルが婚約者なら、こんな問題は起こらなかったわけで。そのとおりなんだけど、婚約者ということは、将来は結婚するということだ。
フィルはまだ10歳の子どもだし、そのあたりのことがあんまり理解せずに喋っているのかなあ、と思う。
わたしはフィルの頬に触れてみた。その頬はとても温かくて、柔らかかった。
「フィルは婚約者じゃないけど、わたしの弟で、それにわたしのことを必要としてくれているから。それで十分嬉しいの」
わたしの答えに、フィルは「うん」と小さくうなずいた。
フィルはわたしのことを必要としてくれている。
なら、王太子は?
わたしのことを必要としているのかもしれない。でも、それはフィルがわたしのことを必要とするのとは、理由が違う。多分……もっと政治的な理由だ。
それを突き止める必要がある。
そんなことを一瞬考えて、でも、目の前のフィルがくしゃみをしたので、すぐにフィルに意識が戻る。
わたしは起き上がって、フィルに毛布をかけた。
そして、自分もその毛布の中に入る。
「お、お姉ちゃん……?」
「一緒の毛布にくるまると、一緒にお昼寝している感じがしていいかなっと思って」
わたしがいたずらっぽく微笑んでみせると、フィルは「お、お姉ちゃんがそれでいいなら」と言って、受け入れてくれた。
わたしはふたたびフィルの髪を撫でていく。
ああ……フィルが可愛いなあ。
そんなことを考えているうちに、急速にわたしは眠くなってきて、そして意識が途切れた。
部屋の来客にも気づかずに、わたしは眠りへ落ちた。
……すみません。予告に反して、仕掛けの都合上、王太子視点は次回にしました。次回こそ……!
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