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やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@年下お姫様に甘えられる大正ロマン結婚生活1巻が予約受付中
第二章 王太子という名の危機

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XXXV 王太子の夢

 王太子の指先が鍵盤に触れられるたびに、綺麗な音色を奏でた。

 心躍るような、素敵な、そして美しい音楽だ。


 自慢じゃないけれど、わたしも公爵令嬢として、多少は音楽の嗜みがある。家庭教師に習っていたから。

 けど、それは伝統的な弦楽器(ヴィオリーン)でのことだし、こんな鍵盤楽器を使ったことはなかった。


 それに、わたしの腕は素人としては上出来という程度だけど、王太子は違う。

 わたしの目から見ても、王太子の演奏の腕は圧倒的に優れたものだと思う。


 フィルもシアも、王太子に対する警戒心を捨てたように、その演奏に聞き入っている。


 王太子はぐっと前のめりになり、演奏に熱中していた。


 高く跳ねるような音が響き、そして、徐々にテンポを早くしていく。

 まるで、わたしたちを歓迎するかのような、心地よい旋律だ。


 そして、曲は盛り上がりを見せた後、徐々に静かになっていき、消え入るように、けれど温かく終わった。


 王太子はしばらくじっとしていたが、やがて、ゆっくりと、わたしたちの方を向いた。

 わたしも、フィルも、シアも、自然と、心のこもった拍手をする。


「ど、どうだったかな?」


 王太子がおずおずと切り出す。

 わたしを監禁したときの自信に満ちた表情とはぜんぜん違う。


 わたしは、自然と柔らかい笑みが浮かぶのを感じた。


「……素晴らしかったですよ!」


「本当に?」


「はい」


 わたしはしっかりとうなずいた。フィルとシアも同じ感想だったみたいで、こくこくとうなずいている。

 素晴らしいとしか言えない、自分の語彙力のなさが悔しい。けれど、王太子の演奏が素人離れしていて、そして、わたしの心をとらえたのは、本当のことだ。


「すごかったです。宮廷楽団の、本物の音楽家みたいでした!」


 わたしの言葉に、王太子は照れたように、金色の美しい髪をかき上げた。


「クレアにそう言ってもらえて嬉しいよ。……この楽器をくれて、使い方を教えてくれたのは、宮廷楽長でね。私は彼を尊敬していて、彼みたいになりたいと思っていた」


「なれると思いますよ。わたしは素人ですけど、でも、あんなすごい演奏ができるんですから」


 王太子は苦笑して首を横に振った。


「私は本職の音楽家になるわけじゃないし、音楽に使える時間は限られている。そんな私が、宮廷楽団の団員みたいになれるわけがない」


「でも……王太子殿下のおっしゃり方だと、本当は本物の音楽家になりたい、というふうに聞こえます」


 わたしの指摘に、王太子ははっとした顔をした。


「そう。たしかに私ももっと幼い頃は、音楽家になりたいと思っていた。だが、私は王族で……」


 王太子の瞳が揺れている。

 わたしは意外だった。


 王太子に音楽家になりたいという夢があったなんて、前回の人生ではぜんぜん知らなかった。

 そんな王太子に、前回のわたしは、「国王になるんだから音楽なんていらない」「楽器が壊れたぐらい大したことじゃない」と言ったのだから、無神経だったかもしれない。


 でも、今回のわたしは、王太子の内心を知ることができた。

 前回の人生で、王太子は、王太子らしくなるべく、すごく努力してきた人で、何でもできる完璧超人だった。

 でも……それ以外の面もあったんだ。


「なればいいじゃないですか」


「え?」


「音楽家になってもいいんじゃないですか。王太子をやめて。殿下がそう望めば……それは叶うと思います」


 わたしの言葉に、王太子は虚をつかれたように、目を見開いていた。

 王太子が王太子でなくなって、音楽家になるということだって、出来なくはないと思う。


 後継者以外にも王族はたくさんいる。そういった人たちは、聖職者となるか、軍人となるか、または芸術家となるのが普通だった。


 最終的に決めるのは、王太子だけれど。


 でも、王太子は……王太子という立場から自由になりたがっているのかもしれない。


 王太子はしばらく黙っていて、そして、笑い出した。


「それは、無理だよ」


「どうしてですか?」


「私は……王太子であることが存在価値のすべてである人間だ。私は皆のために王太子で居続けなければならない。そのために、君が必要だ」


「そんなことありません。殿下は何でもできますし、それにあんなに素晴らしい演奏ができるんですから、王太子でないとしても……」


「私たちは自由になんてなれないよ、クレア」


 王太子は静かにそう言うと、わたしの手を握った。王太子の手はとてもひんやりとしていた。

 そして、彼はにっこりと笑う。 

 その瞳には、楽器を手にしていたときの輝くような光はすでになかった。何の感情も読み取れない。


「私の弟のサグレスが、次の国王になったら、この国はおしまいだ。私も、私の重臣たちも、そして、我が母たる王妃も、そのような事態は防がなければならない。その鍵となるのが君だ」


「わたし?」


「そのとおり」


「もっと詳しく教えてくれませんか? わたしにも力になれることがあれば……」


 と殊勝な態度を見せてみる。

 わたしが一番知りたいのは、王太子がわたしを監禁した理由だ。その理由を知れば、脱出方法もわかってくると思う。


 王位継承問題が関係することが今わかって、あと、わたしの身になにか危険が迫っていることも聞いた。

 でも、それ以上の情報がないから、なんとしても聞き出したい。


 けれど、わたしがどれだけ尋ねても、王太子は頑なに首を横に振った。


「今、言えることはそれだけだ。だが、すぐにすべてがわかるはずだ」


 王太子はわたしに別れを告げて、部屋から出ていってしまった。

 

 残されたわたしたちは顔を見合わせた。

 フィルとシアがなにか言いたそうにしていた。


「……あのね、お姉ちゃん。気になることがあって」


「なに?」


 なにかフィルが重要なことに気づいたのかも。

 でも、全然違った。


「王太子殿下と手、つないでたよね?」


「? え、ええ……そうだけど?」


 じーっとフィルが、黒い瞳でわたしを見つめる。

 そして、その小さな白い手で、わたしの手を握った。温かくて、柔らかくて、とても気持ちいい手だ。

 わたしは首を傾げた。


「どうしたの?」


「……ぼくもお姉ちゃんと手をつなぎたいなと思って」


「え?」


「王太子殿下だけずるいから……ぼくのお姉ちゃんなのに、勝手に手を握ったから……」


 そういえば、わたしは全然気にしていなかったけど、王太子と手をつないだことって、前回の人生でもあまりなかったと思う。


 前回の、王太子のことを好きだったわたしなら。

 喜んでいたかもしれないけど。


 でも、今はフィルの手のほうが、ずっと心地よく感じる。


「ありがと。フィル」


 わたしは空いている手で、フィルの頭を軽く撫でると、フィルは嬉しそうに微笑んだ。


 シアは「いいなあ、クレア様と手をつなげて……」と小さくつぶやき、それから、ハッとした顔をした。


「と、ともかく、クレア様は王太子殿下のものなんかじゃありません。早くここから出ましょう」


「シアもありがとう。わたしのことを助けようとしてくれて」


「当然です。だって、私は……」


 とシアはなにかつぶやきかけた。

 どうしたんだろう?


 まあ、ともかく、シアの言うとおりだ。

 早く監禁状態からは抜け出してしまおう! 


 フィルと、シアと、アリスと、そして、わたし自身のために。

次回、王太子視点……のはずです!


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[良い点] シアも手を繋いじゃえばいいのに!友達っていうよりもファンみたいな立ち位置になっているな。 自分が自由になれないからお前も道連れって、ほんと気持ち悪いなこの王子。王子自身も王太子でいること…
[気になる点] 監禁(?)されてるわりには皆仲良く和気あいあい しかも全員監禁部屋に出入り自由とか謎
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