表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第二章 王太子という名の危機

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/107

XXXIV 鍵盤楽器《クラヴィコルディオ》

 王太子の関心をフィルからそらさないと。

 タイミングよく、王太子は目の前の別のもののことが気になったようだった。

 その視線の先は、部屋の隅に向けられていて、そして、わたしの身長と同じぐらいの四角形の物が置かれている。


「楽器ですね」


 とわたしがつぶやくと、王太子は「えっ」と不思議そうな顔をした。


 あれ……。


 たしかに変だ。

 王太子の視線の先にある、部屋の隅に置かれたもの。


 それは楽器だ。

 でも……どうしてそれが楽器だとわかったのか、わたしは自分のことなのに不思議だった。

 だって、それは赤い布をかけられていて、中身が見えなくなっている。

 なのに、わたしはどうしてそれが楽器だとわかったんだろう?


 王太子も怪訝そうだったが、やがて納得したようにうなずいた。


「ああ……クレアは布をめくって中を見たんだね」


 そうすれば、たしかにあれが楽器だとわかったのかもしれない。

 でも、部屋に入ってから、隅に置かれた物体には触れていない。


 どうして、わたしはその物体が楽器だとわかったのか。

 ……答えは一つだ。

 きっと前回の人生で見たことがあるから。


 でも……いつ、どこで?

 重要なことな気がするけど、思い出せない……。


 頑張って思い出さないと!

 

 そんなことを考えているうちに、王太子は部屋の隅に行き、楽器にかけられた赤い布をめくった。


 それは木で出来た、茶色の四角い箱のようなものだった。

 四つの脚が取り付けられていて、箱は床から浮いている。蓋みたいなものが上の方にあって、それが開けられている。


 そして、箱の前方には、黒と白の板みたいなものがたくさん並んでいた。

 フィルやシアは、珍しそうに、その楽器を眺めていた。

 たぶん、初めて見るんだと思う。


 でも、わたしは見たことがある。

 たしか……。


「これは鍵盤楽器(クラヴィコルディオ)というものでね。この鍵盤を叩くと……」


 王太子は「鍵盤」と呼んだ黒と白の板に触れる。

 すると、空気が震えるような、不思議な音が鳴った。


 驚くわたしたちを見て、王太子は楽しそうに微笑んだ。


「なかなかすごいだろう?」


 王太子の表情は、柔らかかった。あどけないと感じるぐらいだ。

 考えてみれば、王太子だって、まだ12歳の少年だ。

 

 なのに、今までは大人びて見えていたし、いきなりわたしを監禁したせいで怖くすらあった。

 でも……いまの王太子の表情はとても自然だった。


 ……そうだ。

 こんな王太子を見たことがある。


 前回の人生で、旅行先で、王家の別荘的な地方の宮殿に立ち寄った。

 そのとき、王太子が同じものを見せてくれた。だから、わたしはこの楽器のことを知っているし、布がかけられていても、何だかわかった。


 こんなふうに監禁されたりしなくて、穏やかな時間だったと思う。


 そう。

 前回の人生でも、12歳のころのわたしたちの関係は悪くなかった。


 決定的に関係が悪くなったのは、シアが現れてからだけれど。

 でも、それ以前にも、何か理由があったとしたら……。


 あのとき、王太子は同じように、この楽器を得意げに紹介しようとしていた。

 でも、この鍵盤楽器(クラヴィコルディオ)は壊れてしまっていた。


 王太子はそのことをとても悲しんでいた。今から思えば、不自然なぐらい大げさに。

 わたしはそのとき、なんて言ったっけ?


 そうそう。「アルフォンソ様には、こんな楽器の一つぐらい、壊れても、大丈夫ですよ。だって、アルフォンソ様はいつかは国王になる方なんですから」と慰めたと思う。


 もしかしたら、あの発言は無神経だったのかもしれない。

 王太子は愛おしそうに、鍵盤楽器(クラヴィコルディオ)の木の板を撫でている。理由はわからないけれど、とても……大事なものなんだろう。


 あのときは子どものおもちゃだとしか思わなかったけれど、王太子にとっては別の意味があったのかもしれない。


 いま、この楽器は壊れていない。別の宮殿ではなく、王都の王宮に移されたからかもしれないけど、前回の人生とは違っている。

 

 なにかが引っかかる。何の意味もなく前回の人生と違う状態になるとも思えないし。

 もしかして、ここに破滅を回避するための鍵があるかも……。


 そのとき、わたしはフィルに服の袖を軽く引っ張られた。


「……お姉ちゃん。あの楽器で、音楽を演奏すると、綺麗なのかな」


「さあ。わたしも聞いたことがないから……」


 前回の人生では、壊れていたし、今も王太子が鍵盤を一つ叩いて、音を一つ出しただけだし。

 この楽器にどれだけの価値があるのか、わたしにはわからない。

 シアも気になる、という顔でわたしとフィルにうなずいた。


 ……とりあえず、この楽器が破滅と関係あるかはともかく。

 楽器の演奏を聞いてみたい気もする。


 とすれば、頼む相手は一人だ。

 わたしは微笑みを浮かべた。


「殿下はこの鍵盤楽器(クラヴィコルディオ)というのを演奏できるのですか?」


「ああ。そうだね。なんといっても、私は……」


 そこで、王太子は言いよどんだ。

 なにか言いづらいことでもあるのかな。

 

 わたしは不思議に思いながら、王太子をまっすぐに見つめた。


「この鍵盤楽器(クラヴィコルディオ)の音楽を聞いてみたいんです。あの……殿下に……演奏してみていただいても良いですか?」


 わたしがそう言うと、王太子の青い瞳がぱっと輝き、嬉しそうに顔をほころばせた。


「ああ、もちろん。いいだろう。やってみよう」


 王太子は椅子を持ってきて、鍵盤楽器(クラヴィコルディオ)の前に座った。

 そして、鍵盤へと、子供らしい小さな手を下ろす。


 この些細な好奇心が……わたしと王太子の運命を変えることに、わたしはすぐに気づいた。

 王太子の演奏は……控えめに言っても、素晴らしいものだった。

そろそろ王太子視点です。ちなみに鍵盤楽器クラヴィコルディオというのは、チェンバロ(ピアノのの仲間)のことです。


面白い、続きが気になる! という方は


・評価の「☆☆☆☆☆」ボタン(↓にあります)


・ブックマーク


で応援いただければ嬉しく思います!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 話に少々、かなり無理があっても、力づくで前に出る強引さがあるうちは、まだ悪役で通用するかも。打つべし進むべしこじ開けるべし! [気になる点] クラヴィコードが長方形なのは正しいけれど。音は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ