ルーナって誰?(3)
四人が息をのんで見守る中、本を固く閉ざしていた重厚な金物がカチャリと音を立てて外れ、あんなに頑丈だった表紙が、まるで手招きするようにすーっと自ら開いたのだった。
「ひ、開いた……!?」
「ユイ……今、一体何をしたんだ……?」
「え!? 私はただ、うっかり火を落としそうになって慌てて魔法を消しただけで……!」
信じられない思いで、ユイはそっと開いた一ページ目を覗き込んだ。
そこに美しい羊皮紙の上にびっしりと書かれていたのは、古代語による記述と、見慣れたベルナー家に伝わる特有の魔力紋様だった。
『——我が名はルーナ。ベルナーの血を引き、炎の理を継ぐ者にこの書を託す』
『ルーナとは、炎属性継承者に受け継がれし隠し名である』
「ルーナって……ベルナー家の炎属性継承者の隠し名……!?」
ユイは驚きのあまり声を失った。
ページを覗き込んだルーカスが、素早くその構造の解説を付け加える。
「なるほど……! レヴィンという少年は『魔法を近づければ開く』と誤認していたようですが、正しくは『ベルナー家の者が、特定の属性(炎)の魔力を直接本へ流し込むこと』が開錠のトリガーだったのですね!」
「つまり……ユイの『灯火』の魔力が直接本に触れたからこそ、数百年の時を経て封印が解けたということですわね!」
クララが感心したように手をポンと叩いた。
一方その頃。第一魔導主義派の本部、ハルトヴィックの静まり返った執務室では、レヴィンが厳しく問い詰められていた。
「レヴィン、事の次第を自分の口で話しなさい」
ハルトヴィックの低く静かな一言で、部屋の中に重苦しい緊張感が広がる。
「はい……一ヶ月ほど前、研究所にてシュヴァルツ様が『ルーナの書があれば』とおっしゃっていたのを聞きました。僕が独自に調べたところ、『ルーナの書には封が施してあるが、魔法を近づけると簡単に開く』という文献を見つけ、さらにその書が王立魔道学園の旧館にあるということまで突き止めたのです。僕がこの手でその書を手に入れてシュヴァルツ様に届けようと……そう思ったのです。ですが、結果として学園で騒動を起こしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
レヴィンは震える手をぎゅっと握り込み、床に届くほど深く頭を下げた。
ハルトヴィックはしばらくの沈黙ののち、小さく息を吐き出した。
「はぁ……そうか。理由はよく分かった。いいかい、レヴィン。ルーナの魔法書はある血統の、特定の魔法属性を持つ者にしか開くことができない絶対封印だ。『魔法を近づければ開く』というのは粗悪な伝聞に過ぎん。そのため、長く開かれておらず、内容も君が期待するようなものではない可能性が高い。調べが甘かったな」
「僕の愚かな不手際により、シュヴァルツ様に余計な手間をとらせてしまい……本当に申し訳ありません」
レヴィンは、自身の手柄と目論んでいた行動が、尊敬する師匠への迷惑にしかなっていなかったという事実に打ちひしがれ、下げた頭を上げることができなかった。
「もういい、レヴィン。頭を上げなさい。今回の件は、私の一言が引き金だったようだ。咎めはしない、水に流そう」
「……! ありがとうございます……!」
「ただし——ユイ・ベルナーだ。彼女ならば、あの書を開ける可能性がある。彼女の動向を調査し、私に報告しなさい」
「了解いたしました」
部屋の隅でゆらめくロウソクの灯りに照らされ、ハルトヴィックの鋭い眼光が静かに光っていた。




