強化魔法
あの日以降、ユイはクララ、フェリクス、ルーカスを誘い、放課後に「魔法の勉強会」と称して図書室の文献を漁り、いろいろな魔法を試すようになった。
「クララ先輩! 早く早く!」
「ユイ、廊下を走ってはいけませんよ」
「これは早歩きですよ!」
「ふふ、旋風で飛びますか?」
「あはは! 先輩それは流石に先生に怒られちゃう」
ユイとクララが談笑しながら図書室に入ると、ルーカスとフェリクスの二人はすでに集まっていた。
「あ、ユイ、先輩。待っていましたよ」
「ルーカス! フェリクス! お待たせー! 今日は何にする?」
「昨日と同じく水魔法で、今日は強化についてやろう」
「いいね! 水属性の強化は光属性だったよね?」
「そうです。では僕は水魔法と光魔法の資料を探してきますね」
「じゃあ僕は関連しそうな古代魔法の文献でも探してくるよ」
「古代魔法!?」
ユイはキラキラと目を輝かせながらフェリクスに迫る。
「いい案ですね。古代魔法は基盤こそ古いため不安定と言われますが、理論は基礎中の基礎。良い学びになると思いますわ」
「わ〜!! 楽しみ! 私も探しに行く!」
「ふふ、では私は基礎魔法学の資料を探しておきます」
ユイとフェリクスは図書室の奥に並ぶ古代魔法書の一角で、水魔法に関する文献を探していた。
「ねぇねぇフェリクス、これだけやけに古い書に見えるんだけど」
ユイが手に取った本は、上質な布のカバーが施された分厚い冊子だったが、布がところどころ破れ、著しい劣化を感じさせた。
「ん?……これは封がしてあるし、禁書のように見えるが……ここにあっても良いものなのか?」
「うーん、わからない」
司書さんに聞きに行こうかと相談していると——
——ダダダッ! ドンッ!
「うわぁ!?」
ユイは何者かに強くぶつかられ、ドサッと尻餅をついた。
「ユイ、大丈夫か!?」
「うん、ありがとう……でもびっくりした」
フェリクスが手を貸してユイを起こし、走り去る黒い影を鋭い視線で睨みつける。
「失礼なやつだ。人にぶつかっておいて謝りもしないとは」
「うん——あ!! さっきの書がない!」
「なんだって? じゃあ、あの者……さっきの書を目当てに君へぶつかってきたのか?」
「声をかけてくれたら、別に渡したのにね……」
ユイは困惑したように首を傾げた。
「まあ、僕らは古代魔法の初級の書を探していたからな。恐らくさっきの書は上級者向けだろう。気になるが……今は自分たちの課題に集中しよう」
「そうだね!……あ! 『水魔法と光魔法の相乗効果について』これおもしろそう!」
「良さそうだな。それを持っていこう」
文献を探し終えた四人は、演習場へと移動していた。
「とりあえずやってみよう!」
「では、私が流水を」
「僕が燐光を」
「いきますよ——流水」
「はい。僕も発動します——燐光」
燐光が加わることにより、流水の水球がキラキラと光り、流れる勢いが増していく。
「わぁ! 流水がキラキラし始めた!」
「綺麗ですね」
ルーカスがノートに記録を取る横で、ユイは目を輝かせて魔法をじっと見つめていた。
すると、次の瞬間——
——パシャッ!
流水が弾けて消え、その場には燐光の光だけが空中に残された。
「あら、消えてしまいましたわ」
「どうしてだろう?」
ユイは首を傾げるが、フェリクスが落ち着いた声で分析する。
「僕が魔力を流しすぎた。どうやら異属性による強化は、魔力の量や魔法自体の規模も合わせる必要があるみたいだ」
「なるほど。では魔力の流量を最小にして、もう一度試してもらえますか?」
ルーカスがノートから顔を上げて提案した。
「やってみますわ……流水」
ゆっくりとした水の流れを作る小さな水球。クララの繊細な魔力コントロールによって、安定した流れを保っている。
「僕もやってみよう……燐光」
キラキラと光り出す小さな水球。緩やかな流れを保ち、見事に安定した。
「やった! 成功じゃない!?」
「安定したな」
「ふふ、上手くいきましたわ。……では、演習の締めとして、この合成魔法の『打ち消し』を試してみましょうか」
「いいね! 私、やってみるよ!」
ユイはフーッと深く息を吐き、集中する。
「命令——打ち消し!」
命令型魔法を発動した瞬間——フッと光が消え、流水による水球だけが残った。
「うーん、やっぱり二つの魔法を同時に打ち消すのは難しいね」
「そうですね。理論上は同時に二つの打ち消しを発動すれば解決しそうですが……」
「それだと術者への負荷が大きくなってしまいますね」
クララもうーんと悩む様子を見せた。フェリクスもしばらく黙って考え込んでいたが、ハッと顔を上げる。
「今の魔法は、流水に対して僕が燐光を発動しただろう? それに対してユイが打ち消しをかけ、消えたのは僕の燐光だけだった。……つまり、流水が全体の『基盤』として機能しているんじゃないか? 打ち消し魔法を光魔法ではなく、基盤である水魔法を狙って発動したら、両方まとめて消せるんじゃないだろうか」
「確かに、一理ありますね!」
「やってみる価値は大いにありそうですわ」
「よし! 実践あるのみ!」
「いきますよ——流水」
「燐光」
「ここに私が打ち消しをかける!——命令、打ち消し!」
その瞬間、パッと流水が消えた瞬間、それを包んでいた光も支えを失ったように揺らぎ、キラキラと舞い落ちるように霧散した。
「……成功!?」
「成功した!」
「見事成功いたしましたね」
ユイ、フェリクス、クララが歓喜の声を上げる中、ルーカスは目を輝かせながらノートに記録をつけていた。




