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俺の家に異世界からの勇者様たちがやってきたけど、様子がおかしい話  作者: 高坂あおい


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第3話 魔法と、近すぎる距離と、知らない笑顔

 約束していた時間より三十分も早くから、ひなたは家の前に立っていた。


 ひなたは「アルドの家でも全然いいし、私一緒に住むよ!」となぜか必死に主張していたが、俺的にはそういうわけにもいかない。


 年頃の男女が一つ屋根の下で長く過ごすというのは……なんというか、こう……不健全だ。


 ちなみに、これは余談になるけれども、ひなたに



「逆に俺と二人で生活をすることに抵抗感は無いのか?」



 と尋ねたところ、スンと真顔になって



「なんで命の恩人と生活をすることに抵抗しなきゃいけないの? むしろ一緒に住ませてよ」



 と言い放ってきた。


 あの時の圧をゴブリン相手に出せたら、戦うことなく勝てる気がする。


 それくらいに怖かった。


 まぁ大人しく公営宿に移ってもらったが……。



 それはそうと――――。



「おはよう!」



 扉を開けた瞬間に、元気な声が俺の耳を襲ってきた。



「早すぎる」


「眠れなかったんだよねー」



 明らかな棒読みではあったが、どこか嬉しそうな顔を見たら、文句を言う気も完全に失せてしまった。



 村はずれの草地は、朝のうちはまだ空気がひんやりと冷たい。


 草の先に残った夜露が、歩くたびに靴を濡らした。



「寒くないか?」


「全然だよ」



 ひなたは両腕を広げて、朝の空気をめいいっぱいに吸い込んだ。


 袖口の裾が上がっていき、健康的で美しい腕が視界の端に映る。


 それだけのことなのに、妙な背徳感を感じて目を少しだけ逸らした。


 

「気持ちいいね、朝って」


「修行を始めたらそんなこと言ってられなくなるぞ」


「どんとこいだよ!」



 根拠のない自信だろうが、勢いの良さは嫌いじゃない。



――――――――



 まずは、魔力の感じ方と基本的な顕現方法から教えた。


 これまで魔力に触れず生きてきた相手には、これくらいから始めてあげるべきだろう。


 目をゆっくり閉じて、精神を安定させたら、自分の内側に意識を向ける。


 その後は、身体の中心から、少しずつ熱が広がっていくような感覚を探す。



「分かるか?」


「うーん……んー?」



 ひなたは眉間にシワを寄せて、それはもう真剣な顔で苦闘していた。


 それから一分ほど唸り声を上げたり、黙り込んだりと試行錯誤していたが、唐突に「何かある気がする」と言った。



「胸のあたりがポカポカする感じ」


「そう、それだ。次はその熱を胸から手のひらに向かって流し込んでいくイメージだ」


「流す……」



 ひなたは手のひらを身体の前へと突き出して、瞬間的に息を止める。


 静けさだけが残った。


 ひなたが無言で俺の方を見てきたが、首を横に振ることで失敗を伝える。


 彼女は悔しそうに手を下ろすと「もう一回やってもいい?」とだけ俺に聞いて、再度手を構えた。


 答えを待たないんだったら、わざわざ言う必要なかっただろ……。


 けれども、特に変わりはなかった。


 その後も体勢や精神のリセットを繰り返してチャレンジしたが、何かが起きることは一度もなかった。



「…………出ない」


「一回目から出ることなんてない。まだ一日目だし、最初からできる方がおかしい」


「アルドはどうだったの?」


「そりゃ最初は苦戦したぞ」


「じゃなくて、何日目くらいでコツを掴めたの?」


「…………三日目くらいだったか」


「意外と早い!?」


「コツを掴むには、コツコツやるのが大切なんだ」


「ダジャレも妙に面白くないし!」


「おぉ」



 全力でツッコミを入れる元気がここまであることに対して、素直に感心してしまった。


 慣れないことを必死にやっているから、ひなたの体力はすぐに尽きてしまう予想ではあったが……。



「ふんすっ」



 むくれた表情で荒く鼻息を吐くと、伸ばした手のひらにまた意識を集め始めた。


 初日ということも考え、「今日はここまで」と言いたかったが、本人のやる気があるなら、ひとまずは見守ってやろう。



――――――――



「できた! できたよアルド!」


「あ、あぁ……すごい、な」



 まるで春の太陽に照らされた日向を想起させるような笑顔で、ひなたは俺に手のひらを見せつけてくる。


 彼女の手のひら上では、細かくも輝かしい光の粒子が活き活きと舞っていた。


 実に数十回目の試みにして、魔力の顕現に成功したというわけである。


 これを一言で言い表すならば、「ありえない」。


 村の人たちから「天才」だと持てはやされていた俺でさえ、同じことを成功させるのに三日も掛かった。


 それを異国から来た人間がたった一日のうちでやり遂げたのだ。



「私も魔法が使えるんだ……」


「そうだな。練習を繰り返していけば、近いうちに簡単な魔法くらいは使えるようになるはずだ」


「え、ホントに? めっちゃ使えるようになりたいんだけど!」


「焦るな。まずは魔力の流れを安定させなければ――」


「えいっ」



 ひなたは話を遮って、俺の身体の正面に入り、粒子の出ていない左手で俺の左手を取った。


 手のひらと手のひらを重ね、指を絡めるように握った。


 まるで恋人同士がするかのように。


 距離が……距離が近い。


 目線を少し下に下げれば、ひなたの整った顔立ちがすぐそこにあるし、何やらいい匂いも鼻腔をくすぐってくる。



「……こういうのは普通、断りを入れてからやるものじゃないのか?」


「そうなのかな? でも、私たちの関係だし、細かいことはよくない?」



 まず「私たちの関係だし」の意味が分からないし、細かいことでもない。


 だが、ひなたに反省の色は全くもって見られない。


 絡めた指を離すつもりもないようだ。


 現在進行形で俺の心臓にダメージが入っているから勘弁してほしい。


 思春期の男子にはいささか刺激が強すぎる。


 一方のひなたは、本当に気にしていないようだった。



「アルドが魔法を使う時ってどこを意識してる?」


「指先だ。手のひらまで運んだ魔力を指先に押し出す」


「押し……出す……ね」



 気づけばほとんど抱き着かれそうな距離になっていた。


 ひなたは右手を横に伸ばした状態で目を閉じた。


 繋いだ左手からじんわりとした熱が伝わってくる。


 魔力だ。ひなたの身体中を強い魔力が巡っている。



「んっ」


 

 ひなたの口から細く色っぽい声が漏れた。


 魔力を放出させようと躍起になって、身体を力ませているように見える。


 いきなり魔力放出による簡易魔法を習得するのは、さすがのひなたでも無理だろう。


 そもそも論として、初日に魔力の顕現をできたことだけでも異常だ。


 

「ん〜っ!」


「おい、ひなた。今日はこれで終わりにしよう。出ないものは出ない。ゆっくりやっていけばいいじゃないか」



 優しく諭すように言っても、ひなたは苦しそうに首を横に振るだけ。


 一体、何が彼女をここまで突き動かしているのか。


 俺には全くわからなかった。



「何かが――」



 ひなたが途切れ途切れの言葉を発する。


 

「出そう……だから…………」


「はぁ?」



 この期に及んで、まだ魔法を出そうとしていたのか、こいつは……!?


 それも当然驚きではあったが、これが親に「もうやめときなさい」と言われた時の子供の強がりとは違うように感じたのも驚きだった。


 ひなたは本気で「何か、が出る」と思って言っている。


 左手に込められる力が強くなり、手汗で滑りそうになるのを必死に繋ぎ止める。


 この手汗がどちらのものなのかさえ、分からなくなっていた。



「く、来るっ!」


「何が……っておわっ!?」



 ひなたの右手が白く爆ぜた。


 見続けるのも辛いくらいの光に満ちている。


 各指の隙間から、手首から、手のひら全体から――内側に押し込めきれなくなったみたいに、白い輝きが溢れ出していた。

 

 目の奥が痛くなって、瞼を少しだけ下ろしたが、それでも見ていたかった。


 そのうち光は収束した。


 

「こ、これは……」



 ひなたの手の中には精巧な彫刻がなされた柄が握られていて、そこからいかにも鋭そうな刃が生えていた。


 だが、その剣の刃も柄も金属という質量的な物質ではなく――――。



「――――光の……剣?」



 自分の視界にあるものが実際に存在するのかどうか確かめるような声色。


 俺も同じ気持ちだ。


 光の剣――魔力を物質として固定してから形を与え、維持させるとても高度な魔法。


 誰でもできるわけではないし、俺だってできない。


 それをこの無邪気な女の子が、わずか半日、しかもほぼ自力で完成させたというのか?



「……アルド?」


「ひなた」


「なっ、なにかな!?」


「剣の、その剣の感触はどんな感じだ?」


「えーっとぉ……」



 繋いでいた左手を離し、俺と距離を取ったひなたは、恐る恐る剣を顔の前まで持ち上げた。


 朝の光を透かした刃がキラリと白銀色に輝く。



「あったかいし、重さはあるけど、重すぎない感じ。でも――」



 ひなたはそこで言葉を区切り、軽やかに「にひひっ」と笑った。


 

「なんかね、ちゃんと私のモノって感じがするよ」



 この時から俺はもう気づいていた。


 ひなたという名の少女が、俺たち一般人とは一線を画した存在であるということに。

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