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俺の家に異世界からの勇者様たちがやってきたけど、様子がおかしい話  作者: 高坂あおい


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第2話 別世界からの女の子

 二人で村へと向かう道中、女の子はポツリポツリと話してくれた。


 日本とかいう国出身であることから、気づいた時には森の中にいたこと。右も左も分からないまま、魔物に追いかけられていたこと。


 正直、半分……いや、半分以上は何を言っているのか分からなかった。


 聞いたこともないような単語が飛び出て来ては、それについて教えてもらった。


 全くと言っていいほど、理解はできなかったが。


 ただ、彼女が嘘をついているようには見えなかった。



「名前、まだ聞いてなかったな」



 村の入り口が見えてきたところで、俺はそう言った。



「ひなた。鈴木ひなた」


「鈴木ひなた……か。珍しい名前だな」


「そういえば、君の名前も聞いてない」


「俺の名前はステファン・アルドだ」


「アルドが名字ってこと?」


「なんでそうなるんだ? もしかして、このみが名字なのか?」


「私は鈴木が名字だけど……ううん。やっぱり今のは忘れて」



 変なやつだ。


 日本とかいう国では後ろに来るものが名字になるものかと思えば、そうでもないらしいし。


 にしても……。



「ひなた、か。呼びやすい上に覚えやすくていい名前だ」



 返事はなかった。



――――――――



 家の前に着いた頃には、空はすっかりオレンジ色から紺色へ変わっていた。


 修行やら何やらで分泌していた汗もすっかり乾ききっている。



「ここが俺の家だ。今夜は泊まっていくといい」


「……一人で住んでいるの?」


「ああ、そうだが?」



 ひなたは家をじっと見上げた。


 古い木造の、口が裂けても広いとは言えない一軒家。


 なんの変哲もない普通の家だと思う。



「一人は……寂しくない?」


「とっくに慣れた」


「慣れたって言う人、だいたい寂しいんだよね」



 ひなたは柔らかく「にひひ」と笑った。


 一体、何が面白いのやら。


 が、反論がパッと思い浮かばなかった。



「上がれ。立ち話もなんだろう」



 夕飯は家にあるもので簡単に済ませた。


 ご馳走を出すことができれば良かったのだが、そこまでの余裕は我が家に無い。


 ひなたは出された食事を素直に食べた。


 異国の味や食材に戸惑うかと思ったが、文句の一つを漏らすことなく口に運び、「美味しい」と感想を述べてくれた。


 お世辞には聞こえなかった。


 俺が単純すぎるだけなのか?



 食べながらも、ひなたはキョロキョロと部屋を見回していた。


 棚に立てかけられた剣、壁に貼った魔法陣の図と世界地図、本棚に入り切らず積み上げられた魔導書。


 異国から来たのであれば、多少なりとも興味が湧くのは当然のこと。



「アルドって、強いの?」


「村ではまぁまぁだな。弱くは無いはず」


「さっきのゴブリン、一瞬だったね」


「あれくらいなら誰でも倒せる」


「倒せないよ普通……」



 ひなたは至って真面目な顔でそう言った。


 日本という国にはモンスターという名称はあっても、実際には存在しないらしい。


 不思議な国だ。



「私、全然動けなかった。情けない叫び声をあげて、あとは逃げるだけ……足も震えて……それなのに、アルドは――」



 そこで一度言葉が切られる。



「怖くなかったの?」


「慣れてるからな」


「ほら、また慣れたって言う」



 そしてひなたは、また「にひひ」と軽やかに笑った。


 誰だって最初モンスターと出会った時は、恐怖に支配される。


 それを克服できた者は、18歳の成人後、国営ギルドに所属してモンスターの討伐に励む。


 だから、「慣れた」という言葉は嘘ではない。


 これだけで褒められるのが少しむず痒かっただけだ。



「…………」


「…………」



 しばらくの沈黙が訪れる。


 居心地の悪さが同居したような嫌な沈黙ではない。


 ただ、ひなたの視線がずっとこちらを向いていたのが、ちょっとばかし落ち着かなかった。



「……なんだ」


「別に。ただ見てただけだよ」


「俺を?」


「うん」



 どう返せばいいか悩む。


 素直に「なぜ?」と聞いてみたい気持ちもあるが、小恥ずかしい気持ちもある。


 すると、「助けてもらったから」とひなたは言葉を繋げた。



「恩人の顔をちゃんと覚えておきたくて」


「大げさすぎる。誰だって同じ――」


「大げさじゃないよ」



 ひなたの顔に笑顔は無かった。



「本当に死ぬかと思ったんだもん。『ああ、私は知らない場所で誰にも知られることなく死んでいくんだなぁ』って」


「そうか……」



 それ以上何も言えなかった。


 ひなたも何も言わなかったし、何か言うように要求されることもなかった。


 ただ机を挟んで向かい合い、しばらくそのままでいた。


 ひなたの目線が俺の顔から離れていくのは、当分先のことである。



 翌朝、俺が起きて台所へ向かうと、先客がいた。


 ポニーテールにまとめられた長い髪を揺らし、右往左往している様子。



「何をしているんだ?」


 

 声をかけると、ひなたは驚いたように肩を震わせ、こちらを振り向いた。



「おはよう、アルド」


「ああ。おはよう」


「朝ごはんを作ろうと思ったんだけど……お礼に」


「いい。俺がやるから、椅子に座って大人しくしてろ」


「…………意地っ張り」



 ひなたが頬を膨らませ、不満そうな声を漏らした。


 跳ねた心臓が胸骨を叩く。


 こんなもので心をかき乱されて、どうするんだ俺は。



「意地は張ってない。俺の方が慣れているから早く作れる、ただそれだけだ」


「また慣れてる……言ってることは正しいけど」



 ひなたは苦笑しながら、俺の隣に立った。


 危ないだとか、邪魔だとか、色々な感想が頭の中に浮かんできたが、実際に追い払う気にはなれなかった。



 適当に作って机に並べた朝食を、二人で囲って食べる。


 そんな中、昨夜から気になっていたであろう魔導書をひなたが指さした。



「これ、魔法の本?」


「そうだな」


「魔法って誰でも使えるの?」


「人それぞれの素養に左右はされるが、完成度を無視するなら簡単な魔法は、誰でも使えるようにはなるはずだ」


「へぇ」



 ひなたは顎に手を当てて、一人の世界へと入る。


 日本とかいう知らない国、おそらく異世界の国から来た人間が魔法を使えるのかは分からない。


 それも教えてあげた方が良いのだろうか……。



「教えてもらえる? 私に魔法を」


 

 顔を上げたひなたはそうお願いしてきた。

 

 目は至って真剣だ。



「やはり興味があるか?」


「うん。でも、簡単に日本に帰られるとは思えないし、しばらくここで生きていくなら、ちょっとでも強くなれた方がいいのかな、って」


「一理あるな。来た道が分からなければ、故郷へ帰るのは困難を極める」


「でしょ? それに……」



 ひなたは少しだけ間を置いた。


 言おうか迷っている様子だったが、結局言うことにしたらしい。



「それに、アルドの傍で練習をしたいから」



 俺の傍で……か。


 今現在、信頼できる相手が俺しかいないとなれば、選択肢はそれくらいしかない。



「……明後日、時間を作ろう」


「本当に?」


「嘘をついてどうする。ただし朝は早いが、文句なしか?」


「当たり前っ!」



 ひなたはパッと顔を明るくさせ、それから俺の顔をじっと見てきた。



「ありがとね、アルド」


「礼を言うならまだ早い。始まってもいないんだぞ」


「それでもだよ」



 テーブルの上に置かれていた俺の手に、そっと手が重ねられる。


 その手はとても温かく、全身から心まで満たされる感覚を覚えた。



「……本当に、ありがとう」



 優しい声色で、噛み締めるような言い方。


 人の温かさに触れたのはとても久しぶりな気がする。


 とっくに死んだ母親ぶりだろうか。



「…………」


「…………?」


 

 さて、手を引っこめるタイミングを失ったな……。

読んで頂きありがとうございます!


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