俺、案の定勇者だった。
「お母さん、魔王って一体どういうことだ?」
俺が聞くと、母親は肩を小刻みに震わせた。
「ま、魔王がまさか、いやついに復活する、いやしたなんて……」
「お母さん、いや、ママ、いまマミー、いやマダム、否ビューティフィルマダム、俺に教えてくれ!」
「うん。魔王、それは古い言い伝えにあるのよ。魔王は3つ目の目玉をもっている。真ん中にぱっくり開く、目玉を持っている。大人になったらやーばいよ。この世界が滅ぼされるよ。そんな時は、探せ、勇者を探せ、勇者がいれば魔王も怖くない。勇者は魔王と同じ部屋で生まれる。勇者の特徴は日本語を喋れるよー、勇者が逃げたら世界は滅びるよー」
「これが古い言い伝えなの?」
「そうよ。太古より伝わる、歌なのよ」
「本当? ずいぶん適当な歌な感じがするけれど、というかこれお母さん、疑うわけじゃないけど、今、歌作らなかった?」
「そんなわけないわ」
「でも、この歌が本当なら、勇者は俺っていうことになる」
「私もそう思うわ。あなたはたぶん勇者よ。そして魔王を倒すべくこの世に生を受けたのよ」
「そうか。たぶんそうなのだろう。でも一体何で俺が……でも、俺の前世が何者かは分からないけれど、選ばれた以上は責務を果たす義務があるよ。だって俺が逃げたらこの世界は滅びてしまうんだろう?」
「言い伝えによればね。でも、あなたは大事な息子よ。いいのよ無理しないで、世界を救う前にあなたは私の息子なのよ」
すると、ドアがバタンと乱暴に開かれた。
「はっ!?」
母親がびっくりして、ドアの方を振り返った。
「セレナ、そんなことを言うな、この子はお前の息子であると同時に、我が息子でもあるのだ。わしには戦士の血が流れている。だから息子よ、怯えるでない。お前はまだ赤子だが、強い戦士なのだ」
父親の言葉は、さもすれば、ある種の俺に対しての責任の押し付けに聞こえるかもしれない。俺に魔王を倒すという責任を、だが、それは違うというのは、父親の目を見れば分かる。そして感じることが出来た。ここでも、俺は父親の気持ちを感じることが出来た。やはり、この感情のテレパシーは俺の能力の一つなのだろう。
父親は、俺を鼓舞するかのように、ラグビーの試合前に行うハカという威嚇に近い踊りを俺に示した。
「お父さん……ありがとう」
「いいや、いいんだ」
すると、医者がいつの間にかやってきていて、こう言った。
「やはり、この子は特別な子でしたか」
「先生、どういうことですか?」
「いえ、生まれた時、この子をいや、この子だけでなく、皆ですが健康状態を調べるのですが、その時、この子はずいぶんと高い知的水準を示したのです。だけど、今までこんなことはなかった。だから、私ももしかしたらと思っていたのです。まさかあなたが勇者だったのですね。それならば納得です」
「でも、俺の隣にいた奴はどうだったんだ? あいつが魔王なんだろう? あいつも俺と同じで言葉を喋れたし、魔法だって使うことが出来た」
「いえ、残念ながら、隣の赤ん坊は数値的に何も以上を示さなかった。たぶん、生まれてすぐじゃなく、しばらくして、魔王としての能力が開花するようになっていたのでしょう。不思議がられないように」
「なんてことだ」
「私は、あの赤ん坊の母親に伝えねばなりません。あなたの子供が魔王だったと、いえ魔王に寄生されたと、つらい役割です。出来ることなら、伝えたくない。母親を悲しませたくない」
「分かるわ。その気持ち」
俺のお母さんの、セレナが言った。
そう言えば、俺の名前はなんていうんだろう。
すごい、気になった。
「ねえ、お母さん。俺の名前は何て言うの?」
「あなたの名前? それはまだ決めていないわ。あなたの顔を見て、二人で決めようって決めていたの。ねえ、あなた」
「ああ、そうだ。息子よ。だが、お前が勇者ということが分かったことで、名前の方向性が決まりそうだぞい。なあ、母さん」
「ええ、そうね。勇者らしい名前がいいわね」
「えっ、俺の名前まだ決まっていなかったんだ。じゃあ、今までどうやって管理していたの? 俺のこと」
「今までは、君はこの病院で生まれた順番の番号で管理されていたんだよ」
「うわぁ、何だか嫌だなあ」
「そんなことはないさ、この世界では一般的なことだ」
「ふーん。じゃあ、父さん、母さん、俺の名前早く決めてね」
「ああ、分かった。早く決めるとするぞい。所で先生、この子を早く家に連れて行きたいのだが」
「うん。それもそうですね。ここにいては危ない、しかし、王国の騎士団団長であるあなたが住んでいる、城であるならば、大丈夫でしょう」
「えっ!」
俺は思わず、動揺の声を上げた。
「どうしたんだ? 我が子よ」
「お父さん、王国の騎士団団長なの?」
「そうだが、それが何か問題なのか?」
来たーーーー! 最強遺伝子来たー!! ということは俺のお母さんは絶対、王国の精鋭魔法使いの一人だよね。
「お母さん、この王国の随一の魔法使いであるお母さん、俺に魔法を教えて下さい」
俺が言うと、俺以外の三人が、目を仰天させて、大きく見開いた。
「な、なぜそれを……」
「なんで、そのことを」
「どこで、情報が漏れたのだ。馬鹿な、私の病院の個人情報保護は完璧なはずだ。情報漏えいなどあり得ない!」
「いや、ただの予想だよ。でも、お父さんの情報は漏れていいんだ」
「まあ、わしの場合はこの病院に入院しているわけじゃないからな。だが、よく分かったな。わしの婚約者の相手は上の一部以外は誰も知らない情報だったのだが。それにうちのかみさんは魔王部隊で常に顔と体を隠しているからな」
「うん。だからただの予想だよ。何となくそんな気がしたんだよね。お父さんが騎士団団長でしょ、そして俺が勇者でしょ。ってことは母親も、何かしらの凄い力がありそうだなって。そして思い出したんだ。俺のお母さんはオムツの汚物を分解する魔法を使うことが出来たって。だからお母さんは優秀な魔法使いなんじゃないか、って」
「なるほどな。流石だな。わが息子よ。生まれて二日にしてこの知性よ。お前こそ勇者にふさわしい。このわしがビシビシ、バシバシと鍛え特訓してやるからな」
「ありがとうお父さん」
俺は自分の体に流れる二人熱き血潮を思い浮かべ、心を燃えたぎらせるのであった。




