父親と会話をする。
「ああ、そうだ」
俺はバデスと医者が呼んでいた父親に言った。
父親はかぶりを振った。苦渋の表情を浮かべている。今どんな心境なのだろうか。生まれたての赤ちゃんが喋る。それはとても恐ろしい光景かもしれない。想像するに難くない。そんな気がした。だけど、だけど、俺だってこええよ。日本語を喋るからと思って安心していたら、母親は魔法は使うわ、父親はモンスター体型だわ。こっちの方が怖いわ。
「一体お前は何の目的でこの世界にやってきたんだ? 生まれてきたんだぞい?」
「それは俺にも分からない、俺だって今さっき意識が目覚めたばかりなんだよ。そして、日本語を母親が喋るから安心していたら、魔法を使ったりするしよ」
「何だと? お前がいた世界では魔法を使ったりしないのか?」
「ああ、使えないね。って、仮にも自分の生まれてきたばかりの息子に対してお前って言葉遣い酷過ぎないか?」
「ぬ、ぬううっ、すまん」
あ、あやまった。実はこいつ。いや父親、根は優しい奴だったりして。いや、まだ結論づけるのは早すぎる。もしかして急に切れるDV父親かもしれないし、切れたらモンスターに変身する種族かもしれないし、よーく、よーく、この世界のことを、実情を把握してから、結論を出さなければ危ない。いくらこんな理不尽というか、理解できない世界でも、好んで死にたくねえよ。痛いのは嫌だよ。
「では、息子よ。お主は前の世界でどんな人間だったのだ?」
「それが、思い出せないんだよ。はあっ、思い出せたらどんなに楽か。いや、楽かどうかは分からないけどね。この世界に生まれたっていうことは、俺は前の世界で死んだっていうことだからね。楽かどうかは分からない。寿命で死んだのならいいけど、そうでないなら、別に思い出したくないね」
「そうか。では覚えていることは何だ?」
「覚えているのは日本語とちょっとした豆知識ぐらいだな」
「ちょっとした豆知識? それはどんな豆知識だ」
「納豆を皿に入れて、かき混ぜて、取り出して、その納豆が入っていた更にアイスを入れてかき混ぜると、トルコ風の伸びるアイスになる!」
「ほ、ほう」
父親がめっちゃ食いついてきて、顔を透明ガラスに近づけてきた。
「パパ! メッ!」
母親が、父親を赤ん坊を叱るように叱った。
「す、すまん。アイスのことになると、つい夢中になってしまうぞい」
母親と父親は互いの顔を見合わせた後、鏡のように、同じ感じで笑った。
何だかすごい仲が良さそうだな。この夫婦、いや俺の母親と父親、と俺は思った。




