53:国境造営砦:機士:スヴェントヴィト(3)
いつもこうだ。アイツは――あのひとはいつもこうだ。
スヴェントヴィトは、相対した敵機<ラークシャサ>の両腕を切り飛ばしながらそう思った。振り下ろされた長柄戦斧が両腕を付けたまま背後へと抜けていき、飛び散る人工血液の隙間から低姿勢で警戒を続けている「ように見える」加熱しきった<ペルン>を視界にとらえてそう思った。
アルマムベトは超人だ。機体に乗れば敵はなく、指揮を取らせれば人を奮い立たせ、作戦を立案すればその的確な微を穿った策を真似れる者など誰もいない。周囲を観察し、情報を集め、深く考察し、人を巻き込み動かすことに長け、敵を粉砕する実力を持ち、しかも従った者を虜にする。まさしく超人。人は彼に『英雄』の姿を見るだろう。
かつてはスヴェントヴィトもそうであった。あのひとの姿に後光すら見ていた。力強さ、比類なさ、神話から飛び出てきたような無敵の――それは幼少期の子供が見る「父親像」のようなもの――無条件の安心を与えるてくれる、太くたくましい大きな腕を求めるようにあのひとを慕った。
だが、今のスヴェントヴィトは知っている。あのひとは無敵ではない。あのひとは確かに強いが『神話の英雄』や『神』ではないのだ。あのひとにも欠点がある。いつだって自らの危険には無頓着で、その刹那、その日その瞬間の戦果しか見ていないかのような判断と行動をする。アルマムベトが愛機<ペルン>と行える<人機一体>の持続時間は状況次第だが僅か3分ほど。もしかしたら、いまはまた少し短くなっているのではないかとも感じられた。そんな危うげなものに頼り、薄氷を踏むような作戦をあのひとは立て、実行した。あいも変わらず!
確かに<罠>をすべて抜けた、<関>も抜けた。敵機も敵大将機も一瞬で切り倒した。遅れて柵に飛び込んだために、どう動いてそれを成したか見ることは叶わなかったが、あのひとは今回もソレをやった。比類なき働きをした。だが、もし、機体過熱がもう少し早かったら?
上手くすれば敵機の全てを制圧できる。<ペルン>1機で戦は終わる。全てをあのひとに丸投げしても全ては片付く。だがもし上手くいかなかったら――その先はない。どう考えてもない。時間が切れれば、つまり<ペルン>が過熱し、アルマムベトの体力が尽きれば、敵機を前に各座するしかない。そのような危険性は常にあるのだ。あったのだ。あの豪腕、超重量級<ラーヴァナ>の手前で緊急停止する可能性だってあったのだ!
スヴェントヴィトはその事実に思い至った時、血の気が引いた。
いまこの場に、兄弟姉妹はいない、誰もいない。いるのは自分だけだ。自分と<ストリボグ>1機だけだ。自分だけがその危険に気が付いているのだ。スヴェントヴィトは息を呑むと<ストリボグ>を駆けさせた。はやくはやく――はやくあのひとの傍らに立たなければ、立たなければならない。兄弟たちとの誓いを果たすために。我が団、ストリボク黒鉄鎖を守るために。あのひと――我らの父――団長を守るために。
スヴェントヴィトは雄叫びを上げて目前の<ラークシャサ>を蹴倒した。




