52:国境造営砦:領主補佐:ダクシャ(その4)
なんということだ。
重量級の<ラークシャサ>を操るダクシャは<関>への突入で出遅れた。客分であるお二方に難敵となる敵大鎧との相対を取られたからには、残る敵の機体、獣機<ハンダル>2機を撃破すべく、より深く敵陣へ飛び込んだ。
視界の片隅には<ペルン>、既に大将機<ラーヴァナ>を含めた3機を撃破し、残身の姿勢で警戒を続けている。ダクシャの目の前で、地面でもがいていた<ラークシャサ>の起動が完全に止まった。
ダクシャは自身の不甲斐なさを噛みしめながら、血の滾りに従って兵舎から向かってくる<ハンダル>に向けて真新しい剣を振りぬいた。剛腕の大鎧は一撃で軽量獣機の槍ごと敵機を切断し跳ね飛ばした。返す刀でもう一体の<ハンダル>の槍先を切り飛ばし、肩からの体当たりで<ハンダル>を転倒させた。
なんということだ。
激しい呼吸を抑えながらダクシャは剣の切っ先を<ハンダル>に向けた。敵の獣士(機士)たちは昏倒したのか動きはない。ダクシャは少しだけ呼吸を戻した。新鮮な空気を求めて肺が激しく稼働する。額から汗が噴き出す。
なんということだ。
どう考えても不可能だった。少なくともダクシャ自身では、親しくも尊敬すべき乳兄弟では、自ら鍛えた配下の兵たちでは、どう足掻いても攻略は不可能であった。出来たとしてもこれだけ堅牢な、天然要害を利用された防御陣地ならば、攻略まで1年を要する期間を必要としていたはずだ。それを彼らは――彼はあっさりと制圧した。
細やかな情報収集。敵戦力の確認。相手の弱点を突き、味方の有利さを最大限に生かす。敵の心理を突き、また敵内部に存在する不安因子を――文書ひとつで――暴発させて、そう、彼は村の長老にしたためさせた文書を水汲み作業の村人に伝えさせることを成功させていた。「必ず助ける、助力を待て、機会を逃すな」簡易な文章で、詳しいことは一切書いていないが、尊厳を奪われて難渋している者たちへ、延命への希望と気力を与えた。現に村人たちは十分な成果を上げている。敵兵士の一角を崩したことで、数少ないナイニタル斥候騎兵隊への助力は十分だ。
あの砂色の男、アルマムベトは、僅か4日でこの要害砦を突き崩した。
言葉にすれば単純で、種を明かせば誰もが「なるほど」と頷くであろう。そして彼は特異な技<人機一体>を使いこなす。このような難事も軽々と克服できるのかもしれない。だがそれでも、実務を――命令を現実に実行させることに苦心する日々を過ごしていたダクシャは、その「単純なこと」がどれほどに為しがたいかを知っていた。
発想は天衣無縫、実行力は天下無双。分かってはいた。あの男が尋常ではない勇士であり、有能な将であることは分かってはいた。だが分かっていなかった。あの男はそのような、それだけの者ではないのだ。そう、あえて言うなら、あの男の姿は誰もが幼少期に憧れる――『英雄』と言うものなのだろう。
ダクシャは、己の力がそこまで及ばない口惜しさと共に、湧き出てくる爽快感、その両方を胸に抱いて激しい呼吸を繰り返した。
なんということだ。
私はあの男に魅かれ始めている。




