50:国境造営砦:ムグール補給部隊、機士:エーカジャ(1)
エーカジャは大鎧<ラークシャサ>の胸部に座って眼下の敵を見つめていた。昨日に会敵したあの機体たちが今日もやってきたのだ。今度こそ奴を倒す、逃がしはしない。そう熱く思った。
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エーカジャは、ムグールに代々続く土豪一家の三男坊であった。家の格式は低くはなく、貴人から大鎧も与えられていたほどの土豪である。だがあくまでも土豪だ。家にあった鎧は1体。そしてその1体は家長である父の、家督を継ぐ長兄のものであった。その他にある武具はと言えば、随分と傷んだ獣機1体と騎馬が10騎程度、そういった土豪の家であった。
エーカジャは美丈夫と言ってよかった。背は高く、骨格に筋肉の着き方も申し分なく、腕も首もがっしりしていた。褐色の肌は日に焼けてますます精悍で、20代半ばのエーカジャを輝かしていた。彼が今の主人『マチャルヤ』殿に出会ったのは今よりもっと若く血気盛んな10代の終わりの頃。鬱屈した気持ちをぶつけるべく、腕試しに出た地方の武芸大会で見いだされた。槍を持った戦士としても、獣機に乗った機士としても、借り受けた大鎧に乗っての試合においても向かうところ敵なしの剛力無双を示した彼は、決して追い越せない、追い越してはならない「長兄」の槍持ちという立場を捨てて、マチャルヤ殿の下で働くようになった。配下の中で一番といって良い腕を持つエーカジャは、すぐに大鎧<ラークシャサ>を拝領し、その腕を発揮することとなった。
マチャルヤ殿はエーカジャとは比べることも出来ないほど高貴な方だ。だがそれでも高貴な方には高貴な方なりの不遇がある。かの方も、エーカジャ同様に生まれの順番で苦しんでおられた。立場は弱い。ゆえにエーカジャの武人としての正式な認可はない。あくまで貴人の私兵のひとり。傍仕えの機体乗りだ。土豪の息子としては微妙な立場になったと言えなくはない。だが、マチャルヤ殿の下にいれば夢が見れた。いつか、大きな働きをして、長兄を、父を見返す――見下すほどの家を興す。そういう夢だ。
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ナイニタルからやってきた、貧相な――不揃いな大鎧4機と僅かな数の騎兵――部隊を目にしてから既に3日が過ぎて今日で4日目だ。
初日、2日目、3日目とナイニタルの砦攻略の大鎧どもは、朝日が十分に昇り、渓谷斜面が十分に見渡せる時刻になってから砦攻めを始めてきた。日に照らされ、斜面の左右に仕掛けられた「岩落とし」の場所が良く見える時刻になるまで待つという、ずいぶんと慎重な攻め方だ。しかし敵側は我らより大鎧の数が劣る。歩兵に至っては比べるまでもない。奴らには1兵の歩兵も随伴していなかった。
その不利さを補うべくか、ゆっくりとした慎重な攻め方だった。怪しいと思える場所には、ナイニタルの大鎧は2機1組となって投石を行ってくる。投げるのはもっぱらヌワコット製の瑠璃蒼と、あまり見ない形の漆黒の2体だ。動きのぎこちない<ラークシャサ>と老朽機の砂色は投げ手2機の足元に岩を運ぶ作業にひたすら従事していた。投げ手を一任することで命中率と投石効率を上げる方策のようだった。
投げに集中した方が手早く正確に投げることが出来る。なかなか当たらない時でも、2度3度と投げることで目指す箇所に岩は飛んだ。罠の「岩を吊るしている」木枠に当たれば、その罠は正式な動作を迎える前に破損し、溜め込んだ岩をがらがらと崩してしまう。投石が届きそうもない高所に設置した罠に対しては、動きの素早い瑠璃蒼と漆黒が危険を承知で罠の下まで歩を進め、岩が落とされると同時にその場を逃れた。機敏で動きの速い2体はそれをこなすだけの技量があった。
堅実で面白みのない攻め方だ。芸もない。ましてやこちらと同型の<ラークシャサ>をまるで作業用のように扱っているのを見たときは鼻白んだ。だがまあ、あのぎこちない動きではやむを得まい、やつらは高貴なる<ラークシャサ>を十分に稼動させることが出来ていないのだ。
地道な歩みで斜面の罠を全て排除・作動させ、ナイニタル側は3日目の夕刻には、最高部の「関」へと到達してきた。
砦や罠の構築に慣れていない我が方が、一方的に攻められるのは致し方がない。
だが、関――木材で構築した柵――まで到達しての機体同士の戦いならば立場は変わる。大型の機体を有するこちらの本領発揮だ。関の手前にも岩落としは設置してある。ここを投石で排除しようとすると、今度は関のこちら側から<ラークシャサ>2機が投石できる距離であった。
岩の投げ合いである。
しかし高所を取っているこちら側の方がはるかに有利。足場もしっかりしている上に岩を事前に用意もしている。何より剛腕<ラークシャサ>の投石である。そのうえ奴らは最後に残った罠をも警戒しなければならない。数回岩を投げただけで、あっさり奴らは逃げ出した。その腰抜けぶりにこちらはあわてて関を開けて追撃も行いはしたが、弱兵ゆえの早い逃げ足で、相手側にはまんまと逃げきられてしまった――が、今日は、今日こそは奴らの首代を上げてやろう。
機体には昨日の稼働による疲労が多少残っているようだ。だが、疲労度合いならあちらの方がはるかに上のはずだ。3日間の稼働をこなした上での4日目ともなれば、稼働率は格段に落ちるのは明白。一方のこちらは昨日の疲労度だけだ。敵の動きにも大体の目算が付いた。今日は、投石はそこそこに一気に奴らの下に駆け込もうと示し合わせてある。接敵さえできれば、剛腕の<ラークシャサ>に敵など無い。
エーカジャは、マチャルヤ殿に拝領した<ラークシャサ>で、拝領した長柄戦斧をいま一度強く握った。隣で随伴する<ラークシャサ>も同じ思いなのか、長柄戦斧を大きく振り回し始めた。意気は軒高である。負ける要素はひとつもない。




