46:国境造営砦:ムグール補給部隊長:マチャルヤ(1)
将軍ドヴィジャの弟マチャルヤは「第一王子の第二妃の弟」となる。兄ドヴィジャとは10歳以上の年齢差がある29歳である。血族内においては弟というよりは家長ドヴィジャの息子のような立場であった。
そのマチャルヤは、兄ドヴィジャがヌワコット侵攻軍の将軍として軍を率いる際、その軍を支える後方補給路を構築するための隊列を任された。作業用に2機の老朽獣機<ハンダル>を運用し、100名弱の歩兵と共に補給物資を運送・警護・保管するというものだ。マチャルヤはそれに加えて自機用の大鎧<ラーヴァナ>を持ち出し、随伴機に4機の<ラークシャサ>を用立てた。
後方補給部隊として2機の獣機<ハンダル>はともかく、大鎧5機を要しているというのはあまりにあまりなほどに大げさな陣立てであった。贅沢がすぎる、というより破格すぎる。だがそれを気にした者はチャルヤが部隊長として着任したのだと知ると「ああ、あの――」とすぐに皆、納得をした。
ドヴィジャの弟マチャルヤといえば、とにかく大げさで派手好みの武張り者、腕は立つが素行不良の乱暴者として有名だった。そしてドヴィジャとは方向性の違う意味での見栄張りで「戦狂い」と評判だったからである。
マチャルヤは幼少の頃より気性が荒かった。何かにつけては腕を振りまわし、駆け回り大声を張り上げる子供であった。長じても風流や典雅より、武張ったことが大好きで、徒党を組んでは狩りをして、荒事を好んだ。
「我は兄とは違う」
というのが口癖だった。
外観は父に良く似ていた、つまり兄にも良く似た美男であった。しかし万事穏やかで優美な兄と違って、その瞳はいつも剣呑に光っていた。口元はいつでも不機嫌だというかのようにへの字口で、常に指先や足先を震わせている。身に纏う空気が違いすぎた。
そんなマチャルヤが唯一ご機嫌になる時間が狩りと機乗である。特に戦闘訓練や模擬戦を好んだ。マチャルヤは頻繁に、武闘大会や腕試しの辻試合を催しては腕の立つ者を求め、自身の隊に私兵として雇用していた。そうして地方豪族の中でも血の気の多い次男坊や三男坊が、マチャルヤの周囲に集まるようになった。流れの傭兵も集まった。そしてマチャルヤは、これはと思う取巻きを連れて連日のようにムグールの領地を駆け回った。関所の兵との揉め事は日常茶飯事で、山賊退治はお手の物、襲われた村々があると知れば、その裏山の洞窟に、廃棄砦に篭っているであろう山賊どもを、山ごと焼き討ちにするようなと荒療治も辞さずに退治する。村の重要な財産である山の恵みを丸ごと灰にすることも気にしない。ありがたさと迷惑さを共に2倍3倍にして周囲に飛び散らかす。豪胆と強引さを混ぜ捏ねて、とにかく精力的に動き回る男だった。
そんな血気盛んな、手綱の外れた暴れ馬のようなマチャルヤが、今回の侵攻軍において「後方補給部隊」を任された。腐りもする。腕に覚えがあり、側近には戦慣れした取り巻きも大勢いる。「我を使え、前線に立たせろ」そんな言葉にしない、できない欲求が、必要以上の兵と機体を揃えて従軍させた。
マチャルヤ行軍中、常に重量級大鎧<ラーヴァナ>に騎乗した。飾りものとして使っていた兄とは違う、使い慣れ、鎧の装甲に厚みを重ねた改修機だ。意気揚々と先頭に立って行軍した。マチャルヤの愛機には大きな刃のついた長柄戦斧を装備している。本体の加重に加え、この重たい武器の一撃を繰り出せば、もはや重量級を超えて超重量級の破壊力を誇る愛機である。
随伴機の<ラークシャサ>も戦場慣れした傍仕えたちで占められている。自身と同様の改修に、やはり同様の長柄戦斧を与え、ラークシャサの豪腕を存分に振るえるように設えさせてある。彼らも中量級でありながら重量級の破壊力を生み出せる。
そんな5機が戦列に加われば、たちどころに弱兵ナイニタルの城壁なぞ粉砕できるものを。そう思いながら従軍し、それでも最後までマチャルヤに声がかかることはなかったのである。兄は言った「その方が出るまでもない、我が手勢で充分である」困った顔で、子供に諭すような顔で、いつもどおりに尊大に。
そんな兄が敗れた。
みっともなくも捕虜になった。兄の機士団は壊滅した。歩兵たちが壊走してきた。
最初は信じられなかった。
次に怒りを感じた。
そしてその次は歓喜だった。
配下の兵に命じさせ、壊走してきた兵たちを再結集させた。投げ捨ててきて無手になったその手には武器を持たせた。持たせる武具が無い奴にはスコップを、シャベルを持たせた、畚を持たせて作業に従事させた。すばらしい! この好機を存分に生かさなければ!
既に本国に増援の連絡は入れた。自身の配下だけでも大鎧をあと5機は呼べる。財を投入するならばあと10機の傭兵を。本家の人員と財をも動員できるなら――ともかく自身が、この我が、兄ドヴィジャが破れなかったナイニタルの城壁を粉砕するのだ。このマチャルヤこそがヴァルナー家の長として相応しい力を、実績を持つことを、王家に見せ付けるのだ!




