41:城塞都市ナイニタル 広場 機体整備職人見習い:カルマ(8)
城壁の外周から歓声が上がった。その声は徐々に広がりを見せ、すぐに大歓声となった。カルマの周囲を埋め尽くした。すぐ隣にいた石弓を手にした熟練兵が、武器を落とし膝を付き、青空に顔を向け、両腕を上げて大歓声を上げていた。その隣の槍を手にした新兵は、槍を杖にした状態で呆然と立っていた。歓喜と達成感と安堵が周囲を埋め尽くしていた。そしてその誰もが涙を流していた。
勝利したのだ。
5倍を超える敵を相手に勝ち取った、起死回生の勝利。透き通った青空の下、歓声に打たれながら、カルマはその身を震わせた。歓喜と達成感と安堵と――、大きな悔しさを胸にカルマも声を上げた。全身を震わした。
☆☆☆☆☆
昨夜から徹夜で準備した作戦は大成功だった。
「水中からの側面攻撃」と「敵戦列を崩した後、騎兵による敵指揮系統への急襲」この2つが今作戦の肝であった。そのための準備にヌワコット援軍部隊の全てが汗みどろになって動き回った。のみならず、ナイニタル守備兵たちの協力と協調も欠かせなかった。
機体整備職人あがりの一兵卒として同行したカルマも、不眠不休でそれら軍務に従事した。過酷な環境へ万全を期して大鎧を送り出すためには、各所の確認整備は欠かせない。作戦補助のための部材作り、材料集めに指示や確認、食糧や仮眠用の毛布の配布。やるべきことは雑多な物を含めると数えきれない。本当に立ったまま意識を失うところまでカルマは動き回り働いた。間違いなく今回の勝利に貢献していた。
だが、それでも今回の勝利の立役者はアルマムベトであり、大鎧の機士たちであり、騎兵たちであった。カルマはほとんど何もしていない。アルマムベトの大鎧<ペルン>はマロース親方の整備のおかげで万事が快調であったし、機士チェルノボグの<セマルグル>は新品ゆえに調整以外にするべきことが無かった。謎めいた機士スヴェントヴィトの大鎧にいたっては整備を任されることも無かった。人工培養筋肉に発生する行軍疲労を短期回復をさせるため、新鮮な水と薬草類を揃えてほしいとの要望に添っただけで、あとは張り詰めた刃のような雰囲気の黒ずくめの機乗者自身が対処していた。されてしまった。カルマは伝道菅を繋いだだけだ。湯と焼いた石の懐炉を渡しただけだった。
大勝利。
カルマの胸は痛みでいっぱいだった。嬉しい、嬉しくないはずがない。敵を撃退し、自身と故郷を守ることができた。大事な人を守ることが出来た。そう、ナイニタルが落ちなければヌワコットの安全が脅かされることはない。彼女の笑顔も守れた。自身はそのために来た。だから喜んでいい――。
だからこそ哀しかった。自身の無力さが、自身の至らなさが、強く強くカルマを責めた。大歓声に身を打たれながら、その歓声を胸を張って受けることのできない自身を嘆いた。頬を流れる涙は、安堵とともに悔しさだった。自身は敵と対峙していない。敵の刃に身を晒したわけではない。倒した訳ではない。ただ自分は同行しただけの端役に過ぎない。その事実が少年を苛んだ。
カルマは大きく叫び、そして泣いた。




