27:ムグール帝国と城塞都市ナイニタル
ムグール帝国は、大陸南部に位置するムガリ半島において9割を占める国土を持つ大国である。ムガリ半島は大きな逆三角形をしており、その東西に合わせて3つの大河を持つゆえに、大河河口域では大湿地帯が形成されている。一方、半島中央部および北部においては急峻な山々に囲まれた渓谷と高地乾燥地帯を含む。広い故に多種多様な地形と気候を有する複雑な大半島である。
ムグール帝国の歴史は約4~300年ほど前まで遡る。小国小封土に立ったある男を始祖王とし、その後、周辺各所の豪族や王たちを併呑しながら国土を広げ成長してきた。ムグールの王は強力な武力と権力を背景に、停滞こそあれ成長を止めることなく版図を広げてきた。ただここ100年あまりにおいては、広がり過ぎた版図故か、歴史的に多くなりすぎた王の血族故か、国内において騒乱反乱もたびたび起こっている。それは山賊や野党や国民などの騒乱より、併呑してきた豪族や元王からの反乱より、新たにその土地に着任した王の親族たちが豪族たちと共闘して行われた造反という形式が多く大きい。
現在のムグール帝国は、齢60近い王と、20歳近く年の離れた王弟と、王の息子である皇太子とが、それぞれの親族や豪族を影響下に従えながら、土地や兵を「6:2:2」で分割統治しているような状況となっている。ムグール帝国の王は、王の在位前から封土を持ち、その背後に擁立者や協力者たちが王の権力を補完して統治する統治制度が出来ている。擁立者は大帝が母系の外戚となる。故に同じ腹から生まれた王子同士は、とても仲が良くなるかとても仲が悪くなるかのどちらかであり、違う母から生まれた王子同士の方が安定した関係を築けるという例も多くある。
現王と王弟は異母ゆえに、それぞれ別となる母系親族が中心となりその直轄領を統治している。そこに土着の豪族たちが従っている。王太子も同様に母系の勢力が中心となり統治を助けている。それぞれが半独立国めいたものでありながら、帝国の血脈を共にする共調国家としてムグールという器に収まっているのだ。そして土着勢力たちは己が立身出世を夢見て己が大将を盛り立てている。
一説において、ムグール帝国版図内にある大鎧機体数は400、獣機数は600あまりとも言われている。もちろんそれら全てが国王直轄軍ではない。王権の下、間接的支配者となる地方豪族や王の親族たちが所有するものがそれらのうち半数ほどを占めるからだ。
しかし、王家直轄として約200機という大鎧を保持する国は、他国でそう多くは聞かれない。
そのムグールは、帝国内北方国境を急峻な山岳地帯と隣接しており、山岳地帯を封土とし、交易ルートを保持する「ヌワコット都市国家同盟」と長きにわたり領土と利権の小競り合いを繰り広げてきた。その小競り合いの歴史は古く、それは実質ムグール建国当初である4~300年前からであり、ヌワコット都市連合成立と同時期でもある。その歴史ある小競り合いは、時に数年から数十年という休戦期間を挟みながら常に続けられてきた。ムグールが版図を広げる意図がある限りそれは止まらない。
ムグール帝国とヌワコット都市連合、それらの国土の広さや人口などを正確に比べることは、この時代において不可能に近い。しかしムグールは間違いなく当時において最大規模を誇る巨大国家であり、この国に匹敵するのは大陸西方部まで目を向けねばならないのである。
一方、ヌアコットはあくまで一都市一国という都市国家であり、それら価値観を共有する共同体にすぎない。ヌアコットは都市国家連合の主としての地位を持つだけにすぎない。それは数百年という歴史背景により確立している。険しく急峻な山々は、個々の都市の防衛強度を高め独立心を保つと同時に、同一国家として物事を共有することへの妨げにもなっているのだ。
しかし同時に、急峻な山々に住む「山の民」であり「同一の神々を奉じる」という意味では、南部のムグールとは相容れない風土を持っていた。共有基礎は山岳信仰を基盤とする宗教であり女王の能力――つまりは大鎧を生み出し、都市と領土と交易路を守護する力である。
そしてそれはムグールにとっても同じ。ムグールにはムグールで奉じる神々がおり、生活様式があり、文化と風習と習俗があった。そして何よりムグール王家にも、大鎧を生み出す力があった。
大国ムグール、強大で猛き国。
それに抗じる山岳都市国家群ヌアコット。そのヌアコット直接保有する大鎧の数は、同盟都市や国外へ向けた公称においてはおおよそ100機。獣機もほぼ同数である100機というものである。だが内実は、老朽化した機体から同盟都市への貸与や譲渡が少しづつ進んでおり、直轄軍として即時対応できるものはその半数というところだ。そしてつい先日も2機の大鎧が、修復に多大な資材と労力を要する損傷を受けている。
つまりヌアコットは、大鎧の機数において4倍~8倍、獣機の機数において6~12倍、人口においては――30倍以上となる国と国境を接しているのである。
ヌワコット都市同盟に属する<城塞都市ナイニタル>は、そのヌアコット交易ルート南端に位置し、湖を要する交易都市であり、ムグール帝国との国境に最も近き都市であった。




