170.
170.
こんな夜が続けばなぁと思ったけれど、以前はそれが当たり前だった。
失ってわかる大事なものの価値の一つなのか?
そう思いながらもこの店の静かな空気、誰も声を出さない(カルロは寝ている)し、遠くで片付けは続いてるのかもしれないけどここには音が届かない。
そんな中の店のウッドベースの音、アマレットの氷の音が心地いい。この際カルロのイビキなんかは聞かなかったことにする。
マスターは相変わらず黙々とグラスを磨いている。
静かだった。朝日が出てきたのが店に差し込む光の具合でわかった。
そんな時に、慌てたようにマルコ商会の職員がSanctuary Silentに駆け込んできた。
「マルコ商会長!……大変です!朝から巡礼者が商会に押し寄せ。「レモ様を出せ!」と商会の入り口扉が押し破られそうです」
丈夫でよかった。……じゃなくて。はぁ?俺に平和な朝ってやってこないのか?
レオナやカルロの方を見ると『知らない、関係ない』というような顔をしている。覚えてろよ~‼
「すぐに行こう!」
俺はすぐに現場の方へと行った。悪化していた……。
気まぐれでマルコ商会に顔を出したレモが巡礼者につかまっている。
「マルコさぁぁぁぁぁん!助けてぇぇぇぇぇぇ~!」
と言われても……。巡礼者が多過ぎてレモの方まで行けない。
「レモ様に触れることができると加護が授かるらしい」
何の加護だよ?
『そうなの?わ~い!』
妖精さん達、どこから湧いてきたの?
はたから見るとレモが宙に浮いているように見えるよう。
「なんて神々しい‼……流石レモ様」
「高いとこヤダよぉ!マルコさぁぁぁぁん!早く助けてぇぇぇぇぇぇぇ~!」
『レモ、高いところ嫌なんだって』
『レモが嫌な事はしない!』
ふぅ、レモも解放されるか?解放されるとレモは一目散に俺のところに来た。直感でこのままではマズい。巡礼者&妖精さん達が俺のところにまで来る。
「レモ、カルロ商会に非難だ。急ぐぞ!」
妖精さん達には「カルロが今日もプリン作ってるかもなぁ~」と唆した。昨日の今日でプリン作ってるわけないけど。
『カルロ~!』
『プリン~!』
と妖精さん達をカルロ商会の方へと向かわせることにも成功。
俺はレモを抱えて、カルロ商会までダッシュ。体育会系じゃないのに……。
カルロ商会の入り口は施錠されていた。
ルチアーナさんがいた。
レモをかかえる俺を見て、いろいろと察したようだ。
「カルロなら、まだ来てないのよ~。赤ちゃんだから、まだ寝てるのかしら?」
困ったように言うけど、明らかに演技。
妖精さん達は『プリン~!』と言いながら、カルロの自宅まで行った。
一応俺達もついて行った。
妖精さんが窓や戸の隙間からどんどん入っていった。
『赤ちゃん、起きる時間~!』
『プリン~!』
カルロは布団にもぐったようだが、関係なし。
『赤ちゃんプリン作って~!』
「俺は眠いんだよ!」
『カルロ、大声!』
『眠いの赤ちゃーん!』
「もうやだ」
『カルロ、目から鼻水出してる~!』
『やっぱり赤ちゃん~!』
171.
「俺……今日、ここに来なければよかったと思います」
「安心しろ。俺もだ」
「自分は無関係ってフリしたツケが回ってきたんじゃないの?」
それならレオナはどうなんだろうと思うが、無事なんだろうな。
「うわぁぁぁん!俺は商会に行くよ~‼」
「目から鼻水出してる人は出禁にしようかしら?」
「俺……商会長なんだけど……グズッ」
「関係ないわよ、商会のメンツがねぇ。全く、この街の男は手間がかかる」
「「返す言葉もございません……」」
商会に行くと何故かセレン大使がいた。その横ではレオナが帳簿をつけている。
「何でここに?!」
「いやぁ、静かな場所を探してたら、ここに辿り着きましてねぇ」
外は地獄絵図だけど?
「大使ぃぃぃぃ!助けてぇぇぇ!妖精さん達がぁぁぁ‼」
セレン大使は一瞬目を細めた。
「……カルロ殿。そんなに赤ちゃん扱いされるのが嫌なのですか?」
「嫌に決まってるだろぉぉぉぉぉぉ‼」
「しかし……あなたがここに向かってくる姿はどう見ても赤ちゃんにしか……」
「言うなぁぁぁぁぁ‼」
レモは小声で俺に言う。
「でもカルロさんは……赤ちゃんだよね……?」
俺は今日だけで何回胃が痛くなったんだろう?今も痛い。
「マルコ殿。あなたも赤ちゃん扱いされる前に休んだほうがいいのでは?」
「俺まで赤ちゃん扱いするなぁぁぁぁぁぁ!」
『マルコ、大声!』
『赤ちゃ~ん!』
「違うから。思わず出ちゃった大声だから」
『思わず、赤ちゃん?』
「ちょっと違う。そもそも赤ちゃんじゃないよ?レオナだって叫ぶことあるんだから」
『それならわかった』
『マルコは赤ちゃんじゃない』
よし、俺は赤ちゃんじゃない認定だ。
「そろそろカイが出勤するんじゃないかな?」
『なんか恥ずかしいよぉ』
「一緒に行ってあげるからっていうか、午前中は街中の赤ちゃん巡りツアーの時間じゃないのか?」
『あ。行かなきゃ』
『そうだね、また来るって言っちゃった』
『行かなきゃ』
俺達はホッと一息。あとは巡礼者をどうするかだけど……。
ルチア―ナさんが巡礼者に言い放つ。
「そこの本に書かれてる事もできない人は会っても加護とかないわよ?」
「しかし、この本に書かれていることと言えば悟りの境地……」
「そう思うならば、悟るといいわよ。会っても意味ないわよ?」
そう言うと、巡礼者たちは解散した。
すごいな。ルチア―ナマジック☆って感じだ。
それじゃあ、奇跡的に静かだしレモも落ち着いて仕事ができるんじゃないか?
「なんか落ち着く~」
「それじゃあ、仕事ね‼」
「カイも!」
口に出して『仕事』と言ったが、妖精さん達は不在なので、赤ちゃん認定されることはない。
172.
カイが工具を研ぎ直ししているので、レモはちょっと暇だった(話し相手もいないし)。
ならば!とこの間の二つの商会を騒がせてしまった騒動の反省会を一人ですることにした。
「えっとぉ、俺の本を宗教本と勘違いしてるT国の宝石加工職人の人達が、俺のことをなんだか崇めちゃったのが問題で。お気軽にマルコ商会に帰ったら騒ぎになってたんだよなぁ。あんなことになるとは思わなかった。触ったら加護があるとか、俺は毎日のように自分に触りまくってるけど、加護?ないよ~。ヤダなぁ。もう。あの本は普通にただの宝石加工の入門書なんだけどなぁ。あと、妖精さん達も集まっちゃって大変だったなぁ。俺なんか担がれちゃって、高いところ怖かった~。妖精さん達が下ろしてくれて万々歳だよ~」
「レモ兄ちゃん、大変だったんだねぇ」
「二コラ君?いつからそこに~?」
「うーんと、加護がどうとかあたりからかなぁ?」
「うわぁ、恥ずかしい‼」
『なになに?レモ恥ずかしいの?』
『レモ、かわいい~』
「レモ兄ちゃん、反省会してるんだって!」
『『『『『『『『へぇ~!』』』』』』』
『レモが反省するところ?』
『え~?あるの~?』
『レモ、泣くの?』
「泣かない!俺は泣かないよ~!」
『レモの悪いところ探す~~‼』
「それは探さなくていいよ~~~~‼‼‼」
気づけば俺のまわりにたくさんの妖精さんがいた。
「レモ兄ちゃんの悪いところ……えーっと……」
「二コラ君も探さなくれていいから~‼」
『レモ、かわいいところならいっぱいあるのに~~‼‼』
『悪いところ……ないよ?』
『でも反省会~‼』
「何でぇぇぇ⁉」
『レモは今日泣きそうだった~』
『高いところ嫌い~』
『かわいい~』
「それは反省じゃなくて、感想だよね⁉」
セレン大使が作業場にやって来た。妖精さん達もなんだか落ち着く。
「……これはまた、いつもながら賑やかですな」
「た、大使。これは……俺の反省会で……」
「レモ殿の本日の働きはまことに見事で。巡礼者にも妖精にも、これほど慕われるのは稀でございます」
「えっ……?えっ……?俺……怒られてるの?……褒められてるの?」
笑顔のセレン大使は言う。
「褒めておりますとも。ただ……“慕われ過ぎる”のもまた困りものでございますな」
「それって……どういう……?」
「レモ兄ちゃんがまた混乱してるよ!」
『レモ、かわいい~~~‼‼‼‼』
『混乱レモ』
『赤ちゃんじゃないけど赤ちゃんみたい~~!』
「違うよぉ~、俺は赤ちゃんじゃないよ~!」
「……平和ですねぇ」
173.
俺は今、妖精さん達によって噴水に晒された工具の手入れに勤しんでいる。
誰が何と言おうとも、俺は工具を手入れしている時が一番落ち着く。手入れすればするだけ応えてくれるようにキレが良くなる。俺はそれがなんとも嬉しい。
噴水に晒されてしまって工具……。
不甲斐なくも俺が守り切れなかったからだ。妖精さん達が『キラキラ~』と持っていってしまった。
腕によりをかけて磨き上げよう!
幸いにも(?)妖精さん達はレモについている。
レモは妖精さんに好かれているのだから、そのまま放っておこう。助けを求められていない事だし。
ああ、精神が統一されていくようだ……。
このリズミカルな音がいい‼
『カイ、キラキラ作っているの?』
俺はその声で覚醒した。またやられる!
防衛本能というんだろうか?俺は工具たちを抱きしめた(結構危ない)。
タイミングよく天の助け。セレン大使がやって来た。おかげで妖精さん達が暴走をすることもない。
俺は抱きしめていた工具たちをじっと見つめ、これを機に大使に俺の研ぎ加減はどんなものなのかを判断していただこうかと思った。
「セレン大使、あの、是非、俺の工具の研ぎ具合を見てもらえませんか?」
「いいでしょう」
俺の周りにはこんなことをお願いできる方がいないので非常に助かった。
「ほう、良い研ぎ具合ですね。まさに西の果てにある島国のカタナのよう。刃先の斜め具合もいいですなぁ。両面が揃っている角度といい。素晴らしい。貴殿は加工職人でありながらも、刃物研ぎ職人としても一流。素晴らしい!」
『カイが照れてる~』
『耳までまっか~!』
『カイ、かわいい~!』
「こらこら、大人を揶揄うものではありませんよ。カイ殿は立派な大人です」
『『『『『わかった~!』』』』』
俺は大人認定された。
「カイの工具ってスゴイの~?」
「ええ、すごいですよ?軽く考えてるとレモ殿の指が切れちゃうかもしれないですな~」
「それは、いい切れ味で。怖いよ、カイ~」
「柄を持てよ……」
「カイ殿の工具は、カイ殿の静けさがよく表れていますな」
「え~?カイは静かに俺の指切るの~?」
「切らないから」
そこに寝起きで足取りフラフラのカルロが作業場に現れた。
『カルロ、変~!』
『寝てない赤ちゃん~~!』
「赤ちゃんじゃないぃぃぃぃ」
カイは慌てて工具を持ち上げた。
「カルロさん、ちょっと待って。これ、研ぎたてだから危ないよ!」
「カルロ殿…寝不足のままに刃物の側に立つのは、まことに愚の骨頂にございます。カイ殿もそんなに慌てて持ち上げるとカイ殿が怪我をなさるやもしれませんぞ?」
「それは困った」
「怪我は痛いよね~」
『レモもカイも痛いの?』
「怪我してないから痛くないよ~」
174.
「カイ殿はあの工具から宝石を作り出すんですよ?邪魔をしてはいけません」
『カイはキラキラでキラキラ作るの?』
『カイ、キラキラ職人なの?』
そう言う妖精さん達がキラキラしている。
「そうですよ。それで、どうすれば宝石が一番輝くことができるのかを指示するのがレモ殿ですよ?お二人を邪魔してはいけませんよ?わかりましたか?」
『『『『『『『はーい!』』』』』』
「それじゃあ、お二人を邪魔しないように我々はこの作業場から退散しましょうか」
セレン大使が妖精さん達を連れて作業場を出て行った。
『セレン~、あのね、ここにはプリンの赤ちゃんの宝石が展示されてるんだよ!』
「ほう、それは素晴らしい‼ どこにあるのですか?」
『この商会の展示コーナーだよ!』
『行こ~』
妖精さん達による“セレン大使をキラキラご案内ツアー”がスタートした。
『ここが展示コーナー。僕たちが集めたキラキラを街の子供達が棚に並べてくれたの!』
「興味深いですね。このプリンの赤ちゃんの宝石の近くでは妖精さん達の姿かたちがはっきりと見えますよ」
『ちょっと恥ずかしい!』
「レモ殿の魔力と妖精さんとプリンかな?」
『セレン、スゴイね~!そんな感じでできたキラキラ~!』
その頃の作業場では思うように作業が進んでいた。
「この宝石はどうするのがいいと思う?」
「うーん、この濁りを活かしてさぁ。いい感じに出来たらいい感じ?」
「わかった。まぁ、やってみるさ」
研ぎたてホヤホヤの工具で宝石を切り出す。
やっぱ、切り出した感触がイイ!
「こっちの宝石は?」
「この辺りの濁りを何とかして活かしてよ~。そしたらいい感じになるよ、きっと」
「了解」
あぁ、毎日がこんな感じだといいんだが。それはワーカホリックというものか?
そこに現れるは二コラ。
「あれ?今日は妖精さん達いないの?」
「セレン大使が連れ出してる」
「セレン大使じゃなぁ、納得~」
「今日はどんな宝石作ったの?」
「これとね~、これと、このあたりかなぁ?」
「へー、今は?」
「この青い石に挑戦してるトコだよ~」
「海みたいだね~。サンゴみたいな濁りないの~?」
「‘サンゴ’って何?」
「図鑑で見たんだけど、なんかキレイだったよ~」
「うーん、俺も図鑑見て勉強した方がいいかなぁ~?」
レモさんはその方がいいと思う。あ、俺もか。
「図鑑に森の生き物とか砂漠の生き物とか植物とか載ってるからさぁ。あ、星空とかもいいかも」
『あ、キラキラでキラキラができてる~!』
『カイもレモも天才!』
褒められた。
『わーい!キラキラがいっぱいだ~!』
「ダメだよ。これは商品だから展示コーナーに持ってたらダメ!ルチアーナさんが怒るよ?」
『ルチア―ナが怒ったら怖い……』
「母さん、妖精さんに怖がられてるんだぁ」
『二コラ、よく無事だね~』
「母さんだからかなぁ?」
175.
俺達はいろんな図鑑を求めて、街の図書館へと行った。
「うわぁ、本がいっぱいだぁ。学校の図書室より広ーい!」
「この図書室は街一番の蔵書数を誇っております」
司書さんが説明してくれた。神経質そうな女性……。正直、俺はこういう女性は苦手だ。
「えーと、俺達は自然の風景写真を見たくて来たんだけど、どこにあるのかな~?」
レモさんが果敢にも説明を求めた。
「それでしたら、このフロアの奥の方にあります。棚に風景写真集というように書いてありますので、どうぞご自由に」
「親切にありがとうございました」
二コラがぺこりと頭を下げると司書さんは少し微笑んだように見えた。……気のせいか?
とにかく俺達は目的の風景写真集を探しに行った。
「コレコレ!ほら、こういうのだよ。サンゴ。色々種類あるんだねぇ」
「でも神秘的で俺は好きだなぁ~」
「おい、こっちは砂漠の様子。オアシスかぁ。うん、使えそうだな。色を変えることは出来ないけど」
「こっちの星空の写真もキレイだねぇ。星自体が濁りの点だと思えば宝石も見方が変わるよ~。そういう風に作らなきゃだけどね~」
「虫は……。やめておこうよ。蝶でも嫌だなぁ、ぼく」
「動物限定か?」
「ううん植物でもいいんだよ。ほら、お花もキレイだし。砂漠にサボテンって生えてるの?よく生きてるねぇ」
「花かぁ。それ自体を宝石のモチーフにしちゃえば赤い宝石でもなんてことないな。今までは炎しか浮かばなくて苦労したけど」
『わーい!キラキラの勉強会してるの?混ぜて~!』
『サンゴ?初めて見た。面白いねぇ!』
『砂漠で私達は生きていけないよぉ!』
『僕らも虫きらーい!花はものによりけりかなぁ?』
その時、遠くの方から咳払いが聞こえた。
「ん゛っん゛ん」
即座に「ヤバっ」と俺は思ったが妖精さん達はヒートアップ。
『三人でキラキラ作るの?』
『楽しみだねぇ~』
「そうだよ。そのために勉強してるの!」
二コラは素直でいいと思うけど、この場合はちょっと……。
「……図書館ではお静かに!」
あの司書さんの声が響いた。明らかに俺達に向かって言ったものだろう。
「申し訳ありません」
「ゴメンなさい~」
「ごめんなさい!」
なぜ?二コラが言った時だけ表情が柔らかに……。
妖精さん達もしゅーんと光が弱くなった。凹んだんだ……。
とりあえず図書館から出てトボトボと歩いてたけど、よく考えれば図書館の本って借りることが可能!(返さなきゃいけないけど)
「今更だけど。本……借りればよくね?」
「え?借りれるの~?」
「学校の図書室の本も借りれるもんね!」
そういうわけで俺達は図書館に戻り、さっきまで見ていた風景写真集をお借りすることにした。
「汚さないでくださいね」
と言われた。普通なら言われないけど、信用ないなぁ。プリン食べながら見そうだけど(汚す恐れアリ)。
176.
作業場で図鑑を見ながらアレコレ論争をしているとセレン大使がやって来た。
「おや、今日は皆さんで勉強会ですか?“無知の知”もいいですが、“知らない事が罪”だったりもしますからねぇ」
『罪って何?』
『悪いことしたら罪だろ?』
『セレンは難しい』
「もし、妖精さん達にスゴク嫌な事をする人がいるとするでしょう?」
妖精さん達は一様に頷く。
「でも、その人が『自分は知らなかった』って言ったらどうします?」
『ヤダ―』
『僕も嫌だ』
「そういう事です。もし、知っていたらその人はそんな愚かな事はしなかったんですよ?でも知らなかったばかりにそんなことするんです。ね?そういうことですよ?」
『なんとなく分かった~』
『賢くなった気がする~』
「それはよかったです」
「あのね、サンゴって何?ってレモ兄ちゃんが言ったのが始まりでそれからみんなで図書館に行ったの」
「へぇ、これがサンゴですか。色々な形のものがあるのですね」
「それでね!こっちが砂漠!黄色い宝石の時にモチーフによくするの!」
「この砂そのものが濁りのような……」
「濁りと言えば、この星空!すごいでしょ?」
「見事ですねぇ。これが宝石で表現できたらとロマンが広がりますな」
「虫をモチーフにするのはやめようって。そんな宝石持ちたくないし」
「……ですな」
「それでね!いつも赤い宝石の時にモチーフどうするか困ってたんだけど、花はどうだろう?って花の図鑑も借りたの!」
「ほう。花は赤以外にも色がありますから他の宝石の時にも役に立つことでしょう?……しかし、これらの図鑑は図書館からお借りしたものですよね?それですと必ず返却期限が……。どうにかこの作業場に図鑑を導入していただけないものでしょうか?」
「やって来たな。この俺の出番!」
『あー!目から鼻水出すカルロ~!』
「今は出さん!」
『大声~!赤ちゃ~ん!』
「赤ちゃんじゃねーよ!」
咳払いをした。
「このカルロ商会長の商会長であるこの俺が一言いえばこの作業場にも図鑑が導入されるはずだ!」
「カルロ兄ちゃんよりも母さんの方が確実だと思うー」
二コラは正しいと思う。
「二コラ、悪いが母さんに一言言ってもらえるか?」
「任せてよ!」
「母さーん!」
「二コラ。商会内では一応副商会長って呼んでね。あ、それで用件は何?」
「うんとね?作業場に図鑑を導入してほしいんだ。今日、図書館で何冊か借りてきて、インスピレーションが刺激されたけど、図書館の本は返却しなきゃなんないでしょ?だから、返却しなくてもいい図鑑が作業場にあったらいいな。って思ったの」
「確かにね。うーん。それで成果が上がるならね。今回借りてきた図鑑で成果が出たなら作業場にも図鑑を導入するわよ?それでいいかしら?」
「母さん……じゃなかったえーと、副商会長ありがとうございます!」
177.
この三人は何かがかかると物凄い勢いで仕事をする。
今回は作業場に図鑑を導入してほしいという純粋な一心で。
「やっぱ青の宝石のモチーフは海か?」
「水色なら青空かな~」
「大使が言ってた砂漠の砂が濁りになりそうな黄色い宝石あったよ!」
「赤……バラ。花だったら花言葉とかも知らないとマズいか?」
「特になんとも思ってない相手に会いを囁く羽目になったら困るよね~」
などという会話でも既に少なくとも4つは加工ができる。
「俺だけで花言葉が書いてある本を借りてくるよ」
またあの司書さんと会話をすることになるのかと思うと、気が重い。しかしやむを得ない!
「スイマセン。花言葉が書いてある本を探しているのですが、どこにありますか?」
成人男性が花言葉を探すのはおかしな行動だろうと思う。
仕事で使うんです。
「2階になります。ご案内します」
司書さんに連れられて2階へとやって来た。
「この辺が花言葉が書いてある本になります」
「司書さんのオススメとかってありますか?」
「本は好みなので何とも言えませんね」
クールな返答。自分で探すのが面倒なくらいあったんだけど……。
「わりとメジャーな花を扱っているものなんかがいいですね。(とりあえず)」
「でしたら、これでしょうか?」
俺は差し出してくれた本を借りることにした。というか借りた。
はぁ、花言葉……恐ろしい。
「動物はないもんねそういうの~」
「そのぶん花は面倒かも。花言葉は誰にでも受け渡しが可能なやつを見繕って花を選別しなきゃなぁ」
「カイ兄ちゃん、頑張ってね!」
二人とも俺に丸投げ?
俺は猛烈な勢いで花言葉が無難な花をピックアップしてメモした。そのメモを元に花についてはモチーフにしていく。
花の色、赤とかピンクだけじゃなくて、黄色とかサイアク青とか紫もある。当然のように白もあって俺はパニック。
仕事は待ってくれない。
「この宝石の色だと青空?」
「雲の間から光が差し込むってのは?」
「イイ感じ~」
「じゃ、そういう感じで」
そういう感じで俺達は猛烈な速さで仕事をした。アレクやリアムの経理課(経理部?)もビックリだ。
ただ、風景写真集だけじゃなくて、花言葉の本も欲しいというのが俺の切なる想い。
「うん、あんたたちはどうしてこう何かがかかってるとヤル気で物凄い速さで仕事するのよー‼」
不満でしょうか?
「風景写真集の成果としては十分よ」
「……あの。花言葉の本も同時に作業場に導入していただきたいです」
「カイ兄ちゃん、どうでもいい人に熱烈な愛を囁く間違った人が出てしまう事を危惧してるんだよ、副商会長!」
「そうよね、確かに赤い宝石だからって安易にバラをモチーフにしてなんとも思ってない異性にプレゼントして、誤解されちゃったら目も当られないわね」
わかっていただけた?
「作業場に風景写真集と花言葉の本を導入するわ。アンタたちは図書館に本を返却しなさい!」
「図書館で借りた本は返却期日を必ず守ってください」
「申し訳ありません!」
「ゴメンなさい~」
「ゴメンなさい!」
やっぱり、二コラが謝った時だけ表情が柔らかい?
178.
作業場に風景写真集と花言葉の本が導入された。
「これで、安心してお花もモチーフにできるね!」
「そうだな。なんとも思ってない相手に求愛を意味する花をモチーフにした宝石なんか渡してたら、大変だ!」
『きゅうあいって何?』
「プロポーズだ」
『なんとも思ってないのにプロポーズとか思われたら大変!』
『大変‼』
『花言葉、重要!』
「なんだよなぁ」
「動物はないからいいよ~」
「景色もないよ?多分だけど」
それは突然やってきた。
「母さーん‼大変なんだよ!どうしよう?ルーチェが見えないよ。光だけ。普段なら形も見えるのに~‼」
「あらっ、あなたも成長したってことかなぁ?」
「成長は毎日してるよ!」
二コラはパニクり、ルーチェは点滅して居場所を教えている。
「ほら、作業場に行きなさいよ。あそこなら、声が聞こえるでしょ?あ、放課後よ?ちゃんと学校に行くのよ?作業場に見回りに行くんだから!」
「は~い、ルーチェもあとで作業場に来てね‼」
ルーチェは全力で頷いていたけれど、見えていなかった……。
「ついに、二コラも妖精さん達が見えなくなったかぁ。成長と言えば成長だけど、本人すごく凹んでるだろう?妖精さん達は大事なお友達だからなぁ」
「あら、カルロも思う?でもあの子、妖精さんにベッタリなところあるからいい機会かな?とも思うわけよ。全く複雑な親心よ」
なんて思っていたら、まだ学校の時間だというのに二コラは作業場に現れた。
「コラ!ちゃんと学校に行きなさい!妖精さん達は今の時間は街中の赤ちゃん巡りツアーの時間よ。あんたもちゃんと学校に行きなさい!」
「はーい」
二コラは見るからに凹んでいた。
こんな時はパン屋さんのコペルのところへ。
「ぼく、妖精さん達の声も聞こえなくなっちゃったし、見えなくなっちゃたよ……」
コペルは淡く光って、二コラに寄り添う。
「こんなぼくでも一緒にいてくれるの?コペルは優しいな。……グズッ」
「あらあら、二コラ君。学校に行かないでどうしちゃったの?」
「うわぁぁぁん!おばさぁぁぁん‼あのね、今朝になったらいきなり妖精さんの声が聞こえなくなって、姿も見えなくなったの。光ってるのはわかるけど、それだけなの」
「それだけでも出来て良かったね。オバサンはね、ずーっと声を聞いた事もないし、姿を見たこともないよ?」
「寂しくない?」
「コペルは光っていつも寄り添っていてくれるからね。オバサンだってがんばって毎日宝石磨いてるよ」
「そっか、寄り添っていてくれてるのわかるとなんか嬉しい」
「でしょ?見えなくても、声が聞こえなくてもそんな絆が大事なんだと思うよ?」
「そうだね。わかった!学校に行ってくる!」
「ルチアーナさんの言いつけは守らないとダメだよ?」
「それはわかってるよ~」
それから二コラは学校へと向かった。
179.
当たり前だけど、学校では授業が始まっていた。
「先生、遅刻してゴメンなさい!」
「なにかあったんでしょ?」
「えーと、パン屋のオバサンに悩み相談していました」
「学校でも悩み相談してるんだけどなぁ、先生ちょっと悲しいっ!」
「あ、先生が悪いんじゃないの悪いのはぼくなの!とにかくちゃくせきしますね」
そう言って二コラは自分の席に座った。……心ここにあらず状態だけど。
「二コラ君。どうしちゃったの?授業中もボーっとしちゃって。なんか何もしてない時のレモ兄ちゃんみたいだったよ?」
レモ兄ちゃん評価がすごいことになってる。
「えっとね。朝から妖精さん達の声は聞こえないし、姿も見えなくって凹んでたの」
「なんだよ?自慢か?俺らなんかプリンの赤ちゃんの宝石の近くじゃないと声も聞こえなければ姿も見えないぜ?」
普通はそうなの?
「そうなんだ。ぼくもプリン係になろうかなぁ」
「「「だめぇ!二コラ君は作業場にいて下さい」」」
断られちゃった……。
楽しみにしてた放課後、作業場に行くと確かに妖精さん達の声は聞こえる。姿はぼんやりしてるけど。光の玉ではない。
「二コラ……これどう思う?」
「透明だね。濁りある?」
「ほんのちょっとだけあるんだよ~」
「それがさぁ、この宝石のランクを下げているらしい」
「へぇ」
『透明なのにキラキラ』
『すごいねぇ』
「ああ、凄い硬くてなぁ。俺の工具で大丈夫か?ってくらいだ」
『え?このキラキラはカイのキラキラより強いの?』
『強いキラキラ?』
「硬いキラキラだ」
「透明だからどうしよ~」
「色を付けるとかは無理だもんね。あ!理科の時間に見た透明が七色の光に分かれるやつは?」
「なんだっけ?プリズム~?」
「そもそも硬くてどうしよう?」
「カイ、俺の工具を使え。俺の工具ならボロボロになってもかまわない」
『きっと泣きながらあとで、研ぐんだよ』
『カルロだもん。そうだよね』
「これで加工できるとして、デザインはどうする?」
「この宝石を通して光を壁に当てたら絵が浮き出るとかは?」
「それ、街中で流行るやつだ」
「この硬い宝石は高価らしい、庶民はもっと安価な透明のやつだと思うよ~」
「とにかくさぁ‘透明’を探した方がいいと思うよぉ」
『水!』
『氷!』
「氷がいいなぁ」
「それだと、この濁りを活かしてこうすればいい感じ?」
「おお流石レモさん!」
「レモ兄ちゃんすごーい」
「そもそも妖精さん達のおかげだな」
『『『『『『『『『へへへ』』』』』』』』
さっそくカイ兄ちゃんが取り組もうとしたんだけど……。
「ちょっと待て、お前ら!結構賞味期限が近いプリンがたくさんあるから、まずはそれを消費してくれ、次のプリンが作れん!」
『カルロはやっぱりプリン職人~!』
「……もうなんとでも言ってくれ」




