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『この街で、俺はもう一度生きる』ーー異議あるか?  作者: satomi


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110.

110.


「リアム……この帳簿なんだが……」

「やっぱカラフル過ぎてダメですか?どうしてもそうなっちゃって……」

「いや、従来のものよりもみやすくなった。すごくわかりやすい。で、壁にある、あれは?」

「あの…俺ダメなんですよね。いちいち調べて計算するのって。だから早見表を作ったんです。アレを見れば、すぐに計算に移れるでしょう?あと、収入はこの列、支出はこの列って固定しちゃいましょうよ?収入は列を一気に足せばいいし、支出も同じ。総計はこの二つを足すだけ。ね?楽でしょ?」

「リアム…お前は天才か?」

「やだなぁ。領地経営の時にしてたことですよ!あれはあれでいろいろ面倒でしたからね。で、手計算じゃなくて、この計算板使いましょう?うーん2・3倍の速さで書類の処理ができると思いますよ?」

「お前は天才だなぁ!この経理課に来てくれてありがとう‼」

「経理部?」

「そこら辺はけっこうどうでもいい扱いだなぁ」




 その日は重要な会議があった……。レモにとって。議題は『レモのプリンは材料費に入れるかどうか』


「そもそもだなぁ。プリンとか食べ物は持参した弁当とかだろう?材料費とかにもならないだろう?」

「アレクさんの言い分ですと、プリンを経費に入れることは出来ませんね。経費で落とすことすら不可能。自費で払ってもらうしか……しかし、“福利厚生費”としてならばチャンスがありそうですね」

「こら、リアム!福利厚生ってなんだよ?」

「従業員の士気を高めるための費用です」

「確かにね~俺はプリン食べた後は士気上がって、頑張ろう!ってなるよ~」

「と、実際にレモさんもおっしゃっています」

「……」

「プリン切るのは俺だから、プリンの消費量とか俺のせいだったりする?」

「それはないから、カイは安心してください」

「プリンは重要アイテムだよ!だってレモ兄ちゃんはプリン食べた後は宝石がキラキラするもん!」

「そんな曖昧な理由で経費にできるか!」

「子供に怒鳴るのは大人気ないですよ、アレクさん。……確かに作業効率は上がってるみたいですね」

「そうだよぉ」

「うーん、ではプリンについては“福利厚生費”という事でいいですね?」

「「「さんせーい!」」」

「そんな商会あるかよ!」

「あるよ~。今ここに~」


 俺、アレクは思う。福利厚生とは何だろう……。


 自分の部屋(経理の部屋)に行く途中にルチア―ナさんに会ったので、聞いてみた。

「そうねぇ、まぁ従業員が元気に働けるようにする費用よ。プリンは……ギリギリ認めるわよ。



111.


「レモ兄ちゃん!パンの妖精さんが石に入りたがってるよ。えっとねぇ?やっぱり焼き立てのパンの匂いがするような場所がいいんだって‼」

「それじゃあ、やっぱりパン屋さんだねぇ」


 パン屋さんから依頼されたいた宝石も完成し、持っていくことにした。何故かレモ・カイ・ニコラ・アレクの4人で。

 アレクはパン屋の奥さんに“福利厚生”について聞いていた。

「難しい言葉はわかんないけどさぁ。従業員にパンをあげたら確かに喜んで元気に仕事するようになるねぇ」

 あげた場合とあげてない場合での差がわからないから、客観的に計れない…。


「あ、パンの妖精さんが喜んでる~。今宝石の中に入ったよ!」

「俺のイメージした環境気に入ってくれるかな?」

「レモ兄ちゃんの考えたのバッチリだって!」

「羽根の濁りがキレイですねぇ~」

 俺には見えない。

「パタパタして喜んでるみたい。ここはパンの匂いがいっぱいだもんね」



 後日、

 このパン屋さんのパンはとっても美味しいと大評判に。

「あ、二コラ君。あの宝石を磨きたいんだけど……台所用洗剤とか……。」

「すごい勢いで嫌がってるよ。ん?パン粉で拭いて欲しい?」

「なんだい?パンの妖精っていうのは謙虚だねぇ。パン粉ならたくさんあるから毎日でもキレイにするよ」

「名前つけてあげると喜ぶかもしれないよ!えーっと男の子?女の子?どっち?可愛いんだもん。わからないよ」

「うーん、コペルでいいかい?」

「喜んでるからいいんだと思う。これからは名前で呼んであげてね。あ、ぼくは次のお仕事の見学なんだ。次はケーキ屋さんの石って言ってた!」

「あらあら、これは美味しそうな場所ばかりだね」

「依頼があったんだって。それじゃあね。コペルもまた今度ね!」

 パン屋さんの方からふわりと焼き立てパンの香りが漂った。



「レモ兄ちゃん!今度はケーキ屋さんに相応しい石?」

「うん。どんなのがいいかなぁ?意外な感じで紫色?ベリー系の果物を全部混ぜ合わせたら紫になりそう!」

「濁りがよく見えないから難しいね?」

「あ、でもここってイチゴっぽいよ?」

「ほんとだ、二コラは探し当てるの上手だな~」

「えへへ~」



「商会長!T国大使よりの手紙を受け取りました」

「今度は何?職員は渡さないよ?えーっと?「T国国王がパンの妖精に非常に興味を持っている代わりとなったしまうのが心苦しくもあるが、自分がパンの妖精を見たいと思う」って言ってもさあ。二コラすら会話できないんだよ?察するだけ。レモですら見ること不可能ってのをもう純粋でもなんでもない人間は見ることできないよ!それで良かったらって代筆してくれる?リアムの方がこういうの得意でしょ?俺、ストレートに『来てもいいけど、見えない』とかストレートに言って、大使の胃痛を悪化させちゃいそう」

「ふぅ、わかりました。大使の胃痛が悪化しないようにやんわりと真綿に包むように報告をしたいと思います」

 真綿で首を締めるって言葉もあるから怖いなぁ。



112.


 小学生はパン屋さんの前を通りすがる度に『コペルは~?』とかコペルの事を気にするようになった。

 コペル大喜び!パン屋さんのパンが一段と美味しくなり、評判が評判を呼んだ。


「うちの料理屋もそれなりの石を置けば……」と他のお店が思うのも自明の理!しかし、すでに依頼を受け付ける場所はマルコ商会ではなく、カルロ商会。カルロ商会に殺到している多くのお店の依頼でてんてこ舞い。

 依頼とその順番、などあまり引継ぎができていない中での作業だったので、リアムがかなりの労力を使った。


 一方でリアム代筆による手紙を受け取ったT国大使。……結局胃痛は続いた。

「見ることは出来ないのか……。この事を陛下へ奏上しなくては!」

 もはや義務感のようにT国国王陛下へと伝えた。

「見ることが叶わないのか……。ふむ。私は考えたんだが、パンに妖精がいるのだから、この王家にも妖精がいて然るべきでは?と。よって、依頼の変更を!半年後に完成予定のもので、王家の妖精を‼」

 いなかったらどうするんだろう?通常の場合。石は向こうが選び出すもの。最初から使う石まで指定していいもんなんだろうか?王家だからと傲慢が過ぎないだろうか?

大使は戻る前に予め依頼の変更は可能なんだろうかという旨の手紙をマルコ商会へと送っておいた。


 それを見たマルコは

「いやぁ、受付はリアムがやってるからね。リアムに聞かないとなんとも言えないよ」

 とほぼリアムに丸投げ。



 街中では朝に登校中の小学生がコペルに「おはよう!」と言うようになった。パン屋の奥さんは、パン屋が上手くいっているのはコペルのおかげ~とばかりに毎日熱心にコペルの家(宝石)をパン粉で磨いている。街の人はパン粉で磨いているのが「変だな」と思いつつも、パンの妖精さんだし、と片付けてしまった。



 レモが作った“妖精が宿る宝石”はすっかりブランド化し、依頼も殺到。カルロ商会も大繁盛。ルチア―ナさんも大満足。……ただ、依頼順なんかを整理するリアムが忙死寸前。そんな感じだと、またアレクが「福利厚生とは……」と悩み始めた。



 マルコはリアムを呼び出した。

「あー、なんか忙しくしてるなぁ。疲れてるんだろ?レモのところに行ってプリンでも分けてもらえよ。疲れてる時は甘いものを食べるのが一番!」

「……」

「T国から返事が来てだなぁ。それが……“妖精が宿る宝石”の噂はT国にも行ってるらしくて、依頼の変更を申し入れてきたんだよ。パンに妖精がいるんだから、T国の王家に妖精がいて然るべき!とな。それで今入ってるT国の依頼を“王家の妖精が宿る宝石に仕上げてほしい”だそうだ」

「なんていうか、自分勝手ですね。それはハッキリ言いますと無理ですね。今入っている依頼をキャンセルした上で新たに依頼を申し入れていただくという形になります。ただ……今ものすごく依頼順を待たなくてはならないので1年半後くらいになってしまうかと思いますが?」

「リアム~そういうのを手紙でT国大使にやんわりと伝えてくれるか?」

「やはり、そうですか」

「わかりました。やってみます」



113.


 俺は久しぶりにSanctuary Silentに来た。

 商会や街中の騒がしさとはうらはらのこの静けさがなんとも心地いいのだ。

「マスター、疲労回復って感じのハーブティーある?」

「おや、マルコさんお疲れですか?」

「俺よりも部下が大変そうなんだよ」

「いろいろ噂は聞きますよ?大変そうな方といいますと……マルコ商会からカルロ商会にレモさんの宝石の受付を移動した時に派遣された方ですか?」

「そう。今、大忙しだよ。事実できるやつだから余計に始末が悪いというか……」

「皆さんが頼りにしてしまうんでしょうか?」

「そんな感じかなぁ?俺も頼りにしちゃってるし。だからお礼みたいな感じで渡したいと思って」

「私のブレンドでよろしければ」

「マスター特製ブレンドなんて有難い‼」




 何で今その話題なの?と思うリアムなのです。

「コペルは可愛いでしょ~?王家の妖精ってどんなんだろうね?」

「えーっとね、王族の威厳があって、キラキラしてて……でも可愛い感じ?」

「カイはどう思う?」

「うーん、やっぱり可愛さは重要ですよね!」

 皆でプリン食べてるのは、福利厚生……。

「あ!リアム。マルコ商会長がリアムにってプレゼント!」

 マスター特製ハーブティー。疲労回復してほしいから。

「メッセージカードまで入ってるぞ!……。読めない」

「ぼく読めるよ!うんと、『リアム、これ飲んでさっさと元気になれ!』だってマルコ兄ちゃんも心配してるんだね」

 俺がよそ見をしているといい香りが漂ってきている。何故?

「俺が味見~。めっちゃ美味しい!」

「え~いいなぁ。レモ兄ちゃん」

 いや、俺宛のプレゼント盗んでるし。ダメだろう?

「リアムも淹れてきたら~?美味しいよ~?プリンと相性良さそう」

 俺は自分あてのプレゼントを自ら淹れた。「美味しい」

「リアム、おかわり~!」

「俺宛のプレゼントなので、商会長になんとか言ってください!それでは失礼します」

 俺はこれ以上あの場にいては搾取されそうな気がしたので逃げることとした。


「ダメじゃないですか、レモさん。いくら何でも他の人のプレゼントを勝手に飲んだら」

「え~ダメだった?」

「ダメですよ!」

「そっかぁ、あとでリアムに謝らないとダメだなぁ」



「リアム、それどうしたんだ?」

「商会長からのプレゼントです。俺の疲労回復のためにと。最近疲れて見えますか?」

「どっからどう見ても疲れてるだろう?」

 ここでも一杯飲んでみた。

「あら、いい香りね。ハーブティーかしら?」

「商会長からの差し入れです。俺が疲れているように見えたようで……」

「リアム君は誰がどう見ても疲れてるように見えたわ」

「これが福利厚生……?」

「そうねぇ、会社の費用じゃないけど効果は福利厚生よ?」



114.


「あの…カルロさんは?」

「ああ、リアム君は知ってるわよね?今、カルロ商会はてんてこ舞いよ?もう嬉しい悲鳴が大絶叫って感じ」

 どんな感じだろう?

「そういうわけで、トップが処理しないといけない仕事も山積み!私だけじゃ処理しきれないのよ。だから、カルロは今カルロ商会で働いてるわ」

 二人は思う。「ルチア―ナさんの監視下にあるんだ……。マルコ商会にいた時のような自由度はないな」



「リアム~!」

「レモさん!どうしたんですか?こんなところ(経理の部屋)まで?」

「レモのお茶を勝手に飲んでゴメンなさい‼」

「こら、レモ‼そんな事したの?うちの子に悪影響を与えるような事はやめてよもう!心臓に悪いわねぇ。レモは天然だから始末が悪いわ。誰に謝るように言われたの?」

「カイ。勝手に他人のプレゼントを開けてお茶だったから淹れて飲んだけど、ダメだ!って言われた」

「そうよ?プレゼントっていうのは特別なものなの。本人が開けなきゃダメなのよ。レモが二コラの事を思って大事に作った石を袋に入れて渡した時に二コラの近くにいた子がその袋開けちゃったら?」

「なんか残念な気分」

「そうでしょ?二コラだって大好きなレモ兄ちゃんからのプレゼントなのに~ってなるわよ?」

「そっかぁ、わかった。プレゼントは特別なんだ!」

「うん。プレゼントは特に特別なのよ。普通にあげる~ってやったのを他の人が横取りするのも嫌な気分にならない?うーん、二コラにあげるーってやったのに、私が横取りするとか?」

「何で~?って思う」

「うん、そうでしょ?だから他の人に何か上げるとかするのをとっちゃダメよ?」

「わかったぁ」

 ルチア―ナさんが俺に目配せしてくれたんで、なんとなくわかった。レモさんは純粋すぎる。ある意味危うい。だからこそのカルロ商会長の護衛だったんだなぁ……機能してなかったけど。




「それでね!王家の妖精さんのイメージなんだけど、やっぱ威厳があって、キラキラしてて、可愛い感じのドラゴン!」

 えーと、王家の妖精のとこに着手するのは来年のはずだけど?

「え~?来年なの~?楽しそうなのに……」

「依頼順にこなしていけば絶対に王家の依頼に辿り着きますよ!」

 来年だけど……


 俺はそのつもりで言った。T国王家にもそのように伝えてある。

 俺はレモさんの力を見誤っていたみたい。

 王家の妖精の仕事がしたい!その一心でこの1年かかるはずの仕事を物凄い速さでこなしていった。二コラ君とカイも同様。

 あの3人はそんなに王家の妖精の仕事がしたいの?


 二コラ君がまだ1年生のうちに王家の妖精の仕事に取り掛かるようになった。



115.


 俺はあの3人を甘く見ていたのかもしれない。

 今のペースで進めば、1年半は王家の妖精の仕事までかかるだろうと見ていた。

 しかしどうだろう?

 現実は数カ月で1年かかる仕事を3人はやり遂げ、今は3人揃って楽しそうに王家の妖精の仕事に取り掛かっている。

 彼らが片付けた仕事によって、経理課(経理部?)が片付けなければいけない仕事も山積みとなり、大変なこととなっている。今、部屋の中は領収書で一杯だ。

 

「リアムが色々と自動化してくれたおかげで、かなりの量の仕事を捌くのが速くなった。……しかし、この量の領収書……」


 3人は仕事を片付けたのだから当然収入もあり領収書も発生するわけで……。

「仕事が早く終わったから、街の評価は高くなったが俺達の仕事量も鰻登りだな…」

 全くアレクさんの言う通りで。

 俺はカルロ商会でのレモさんへの依頼の受付とココでの経理と二足の草鞋を履いている状態なので、疲れ放題疲れてる。

「カルロ商会の経理も同じような状態だろう」

 なんの慰めにもなりません。

「俺はカルロ商会の方へと行ってきますね」




「ねぇ、カイ?この濁りがいい感じじゃない?」

「妖精さんの家を作るんですよね。王家の妖精さんはどんなおうちがお好みでしょうね?」

「王家の妖精さんはねぇ。ドラゴンの妖精だよ!火を吐くんじゃなくて、吐くのは光。サイズも小さくて可愛いよ~!」

「ドラゴンの妖精さんかぁ。どんな家に住みたいかなぁ?光を吐くくらいだから明るいおうちでもいいのかな?」

「家っていうか、住処みたいなほうがいいかもしれないねぇ~。この濁り、使えないかなぁ?」

「住処って感じだったら良さそう。で、この辺をカットして光の入り具合を幻想的にすればOKかなぁ?二コラ君、妖精さんはどんな感じ?」

「喜んでる感じ~。可愛いよ~」

「いいなぁ。二コラはようせいを見ることができて~」

 ドラゴンの妖精さんの能力だろうか?その場の3人に姿が見えるようになった。

「うわぁ、可愛い~!ナデナデしていいかな~?」

 レモは妖精さんをナデナデした。

「可愛い~‼俺、超頑張っていいおうち作るから!」

 3人のモチベーション向上につながった。


 数週間後、ドラゴンの妖精さんのおうちが完成。

「妖精さんも大満足!って」

「頑張ったかいがあるよ。報われた、可愛い!」

「カイは頑張ったもんね‼」

「レモさんの指示通りに動いただけです!」

「カイは出来るからすごいよ~。ドラゴンの妖精さんはプリン食べる~?」

「俺、4等分に切ります‼」

 皆でワイワイとプリンを食べていた。

「ドラゴンの妖精さん、プリンに突撃したらダメだよ?あーんする?」

「あ、俺もやりたい!」

 3人で『ドラゴンにプリンを食べさせる会』が発足された。実に微笑ましい。


 微笑ましいが、このドラゴンの妖精さんともお別れをしなくてはならない。

「うわ~ん!元気でいてね!ぼくのこと忘れないでね!」

「こんなに可愛いのに~!」

「依頼だから仕方ないのかなぁ?」



116.


 俺とレモはT国大使館にドラゴンの妖精さんがいるという石を持っていった。

「妖精さん、可愛いのに……」

「レモ、見えるのか?」

「はい、えーと二コラとカイも見れます。妖精さんの能力なのかな?姿を見せてくれました」

 気に入った人限定かな?俺、見えないし。



 大使館に到着し、T国大使に確かに渡した。

「二コラが妖精さんとの別れを特に悲しんでいました。これからもこの子をよろしくお願いします!」

 と、レモが真面目にあいさつをしていたのには驚いたけど、レモが悲しんでいるのを見るのがこいつなりに辛いんだな……。

「あいわかった。この宝石は確かにT国国王にお渡ししよう。悪いようにはしない。約束しよう」


 大使はそう言って、T国へ運んでいった。

 

 どうしてだ?

 宝石が完成するのは1年半くらい先ではなかったのではないか?

 どういう事なんだ?

 1年半もあれば私の胃痛も治まると思っていたが、このまま継続ではないか!

 とはいえ、完成したことは喜ばしいことで、陛下もさぞかしお喜びになってくださるだろう!




「陛下!こちらにマルコ商会に依頼を致しました妖精の宿る宝石がございます!」

「はよ、こちらへ。 おお、見たか?愛らしい中に備わる威厳!我が王家に相応しいと思わないか?」

 あれ?陛下には妖精が見えている?

「え、ええ」

「しかしなぁ。住処がちょっと質素なように思う。王家的にはもっと豪華絢爛でも構わニかと思うのだが? おお、ブレスは炎ではなく光なのか、炎だったら私は火傷だな。はっはっはっ。この住処が気に入っているようだな。そんなに威嚇をしないでおくれ。どうだ?大使よ。この気高さ。なんとも王家らしいじゃないか!早速絵師を呼んで描いてもらおう。王城の廊下に飾るのだ!いや、国民に知らしめる方がよいか?」

 どうやって、絵を描かせるんだよ!見えないじゃんか~!


「国王陛下に申し上げます。あのですねぇ。私にはどうしてもそのドラゴン様を見ることができないのです。もしかすると、王家の血筋の者は無条件で見ることが可能なのでは?」

「そうなのか?うむ、そんなところも愛らしい。そうだ!名前を付けよう。ドラゴンだからドラジェ。安易か?おお気に入ってくれたか!ところで、大使。そちらの国でドラジェはプリンを食べたそうだが。ドラジェの食べ物はプリンで良いのか?」

「基本的に食べなくてもいいのではと思いますが、製作者がプリン好きでしてプリンを食したという話を聞いております」

「ふむ。とりあえず、プリンは食べるのだな?その他はわからないということか?」

「はい。そうです」

 


117.


 その頃、二コラはパン屋の裏で膝を抱えて泣いていた。

「ドラゴンさんの妖精さんとお別れしなきゃいけなかったけど、やっぱり辛いよぉ!」

「おやおや、ルチア―ナさんのところの二コラ君かい?二コラ君が元気がないとうちのコペルまで元気がないよ?」

「コペル?コペルは離れていかないよね?ずっと傍にいてくれるよね!」

 店の中で宝石が頷くように淡く輝く。

「コペルはね?二コラ君のこと大好きだから、二コラ君が元気がないと心配しちゃうよ?元気出してね?」

「でも、ドラゴンさんの妖精さんに会いたいって母さんに相談してみる!」

「ちょっと元気が出たかい?二コラ君にが元気でいてくれないと。コペルも心配して、弱々しちゃうよ」

「え~?コペルが弱々しちゃうの?それはぼくもヤダよ。元気でいる!母さんに相談する!」



 かくして、二コラは自分がどんなにドラゴンの妖精さんに会いたいのかをルチア―ナさんに説明。つたない説明ながらも、息子の願いを叶えようとルチア―ナさんはT国行きを決意!

「えーと、仕事をちょーっと片付けたらT国に一緒に行きましょうね?」

「うん!母さん頑張ってね‼」

「任せてちょうだい!」

 この場合、頑張ることになるのは商会長であるカルロとレモの依頼受付をしているリアムなのだけど……。

「数日後にT国に行くことにしたから、バリバリ働きなさ~い」

「今まで以上?」

「私が不在の間に羽根を伸ばすなんてことがないように、今から働いておくのよ!それとも、私が帰国後に馬車馬のように働きたい?」

 二人は首が取れんばかりに左右に振った。

「よろしい。ではカルロは今ここにある決済を全部終わらせておきなさい?全部よ。私が出国する前に。それとも、宿題のように帰国までとかにしたいかしら?」

 いつ帰ってくるかわからないルチア―ナさんとリアムについて考えると、先に住ませておく方が吉。

「出国前に終わらせてしまいたいと思います……」

「よろしい。リアム君は受付作業を続けて、できるなら依頼内容、順番をリストにまとめておいてほしいわ。できるわよね?」

「イエスマム!」

「軍隊じゃないのよ?まあいいわ。出国前にまとめたものを見せてちょうだい」

「了承いたしました」


 リアムがT国に行くというだけでこのような騒ぎに。マルコ商会内はというと……。

「あのね、ぼくはドラゴンの妖精さんに会いたくて会いたくてT国に行くことにしたんだ。母さんが仕事頑張るって言ってた!」

「う~ん、二コラがいない間は宝石加工がストップかなぁ~?」

「え?なんでぇ?レモ兄ちゃんだってカイ兄ちゃんだってスゴイじゃん!」

「でも二コラのヒラメキみたいのも重要なんだよ~」

「あと、妖精が見えるのも二コラ君だけだし」

「そっかぁ。なるべく早く帰って来れるように頑張るね!」

「待ってるね~」

「いっぱいいろんなお話できるといいね」

「うん!」

 3人はプリンを食べながら話をしていた。


118.


 国内でもしっかりと(?)準備をして、ルチア―ナさんと二コラはT国へと旅立った。

「ドラゴンの妖精さんに会いたいなぁ」

「T国の国王のところにいるらしいから、まずは大使に会いに行きましょう?大使館にいるらしいわ。なんか胃痛の養生らしいけど、大丈夫なのかしら?」

「胃が痛いのは痛いねぇ」


 大使の計らい(ルチアーナさんの圧力?)で、二コラは到着してすぐにT国国王に会う事ができた。

「うわぁ、お城だぁ。初めて見たよぉ」

「そうね?それで、国王はどこなの?」

「こちらにいらっしゃいます」



「あー、ドラゴンの妖精さんだぁ!久しぶりなの~‼」

「少年。まずは国王の私に挨拶をすべきであろう?」

「この子の母親のルチアーナと申します。初めまして。お言葉ですが、この子には妖精の姿が見えております。全く王家とは無縁です。妖精さんは国王様と同等の方だと思いますが?」

「まぁ、そうだな……」

「それから、この子がこの宝石の制作に携わっています」

「え~?名前を気に入ってないの?そっかぁ。ぼくならねぇ、『ルーチェ』かなぁ?可愛いでしょ?あ、気に入ってくれた?嬉しい」

「少年よ、その妖精には『ドラジェ』と名付けていたのだが?」

「その名前嫌いだって!だから、ぼくが名前つけちゃった。『ルーチェ』。可愛いでしょ?」

「あら、可愛いわね。私には見えないけど、可愛い子なんでしょ?なんだかゴツイ名前よりもそっちの名前の方が似合うわよ」

「母さんの言葉にも喜んでるよ~」


「少年」

「『二コラ』よ?この子の名前は」

「失礼。二コラよ。ルーチェは何を食べるんだ?」

「うーん、妖精さんは基本的にないも食べないけど、プリンは食べてくれた!プリンに突撃するからどうしようかと思ったけど。皆であーんで食べさせたんだよ!」


「うっ…ぐふっ……」

 大使は口にハンカチを当てたがそこには血と思しき赤いものが⁉


「アラ大変、今朝食べたベリーソース?お医者さんにでも診てもらった方がいいんじゃない?」

「そうだな?まさか、こんな場所で嘔吐とは……」


「それで、二コラよ。その時はどうしたんだ?」

「えーっとねぇ、カイお兄ちゃんがキレイに4等分したプリンを食べさせたよ。あーんで」

「そうか。プリンは確実に食べるんだな?」

「さあねぇ?そこには妖精さんが大好きな人間が揃っていたから気まぐれで食べたのかもしれないわよ?」

「ルチア―ナ夫人の言う事も一考せねばならんな。妖精さんに好かれるにはどうしたら?」

「自分の気持ちを押し付けない方がいいんじゃないかしら?無邪気な人の方が好かれるみたいねぇ」

「二コラ!ルーチェに好かれるにはどうしたらいい?」

「うーん、ルーチェの好きにしたいようにするのがいいと思う」

「やっぱりそうでしょう?結局はそうなのよ」



119.


 その頃の大使は王城の医務室にいた。

「これはまぁ、胃痛も相まってというか極まっての吐血ですね。ストレス性の胃潰瘍かと思います」

 知っていた。その事実から逃げていた。

「薬を飲んで、ゆっくり休むことですね。職業上無理がありますが、薬を飲むくらいは……」

「それは、胃腸薬と併用してもいいものだろうか?胃が痛い時によく飲んでいたのだが?」

「お避けいただくのが無難かと……」

「ハーブティーは飲んでも構わないか?」

「ああ、そちらは問題ありませんよ!」

 ハーブティーを飲もう!



 T国国王は思う。

 国王の自分が好かれて然るべきではないのか?

 何故、全く王家の血筋でない子に姿が見え、尚且つ懐いているんだ?

 

 国王はルーチェに近寄ると威嚇をされる。

 それはそれで光のブレスなので美しいけれども……。

 ルーチェがピットリと異国の少年にくっついているという事実!解せない!

「ルチア―ナ夫人!何故二コラ君にあんなに懐いているんだ?」

「無邪気だからでしょ?素直だし、裏表ないし?王族なんて表の顔と裏の顔とありまくりでしょ?そんなんでルーチェは懐かないわよ」

「えーっとねぇ、ルーチェはぼくが泣いてる時にそばにいてくれたよ?だから仲良し!」

「泣けばいいのか?」

「違うと思うわ。素直じゃないとダメよ。国王でいる限り無理じゃない?」

「私には無理なのか……」

「そうねぇ。こんな場所じゃなくて、その王冠をおいて一人の人間として接するのが一番じゃないかしら?」



 その頃のカルロ商会。

 ルチア―ナが指示した書類の決裁は終わったが、次から次へと湧いてくる決裁書類はなんだ~?終わりが見えない……。

 リアムも同様に、

 ルチア―ナさんが出国前にリストは作製した。そして提出。なんで出国と同時にリテイクするかなぁ……。しかも受付は止まらないし。


 マルコ商会はというと、

「二コラ君がいないと作業できないんだよね~!カイ、プリンを3等分にしてくれる~?」

「はい、どうぞ」

「レモ君、カイ君。妖精が関係してない仕事なら出来るんじゃないの?」

「濁りから模様を見つけ出すとか、二コラが上手なんだよ~。プリン美味しいねぇ」



 俺は久しぶりSanctuary Silentに行った。

「二コラがT国に行ってるから、商会での宝石加工業務は停止してるんだけど、受付業務はうごいてるからさぁ、リアムが大変みたい。リアムにはまた、疲労回復のハーブティーぷれぜんとしたいなぁ。あと、T国大使がついに胃潰瘍で吐血してらしい」

「それは大変ですね。職業病ですか?」

「そうだよね?って言っても仕方ないけどさぁ、そっちにも胃に優しいハーブティーをプレゼントしようと思うんだ」

「マルコさんは優しいですね」

「俺は無力だから。せめてもの力かなぁ?ハーブティーだってマスター特製だし」

「そういえばカルロさんは?」

「仕事が忙しいらしい。普段はルチア―ナさんが処理してる事までやってるから大変みたい」

「そっちには疲労回復のハーブティーを送らなくてもいいんですか?」

「うーん、送らなくていい気がする。何故だろう?」

 静かな店の中にウッドベースの音が響き渡る。



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