70.
70.
レモの受難はまだまだあった。
「レモ。カッティングの方法を私にもわかるように言ってみてください」
そんなアレクの手元にはメモが。アレクはレモのカッティング技術についての教本をマルコ商会の名前で売り出す計画らしい。
「えー、濁ってるところを見つけたら、「あー、あったぁ。さてどうしよっかなぁ」って感じで。完成形を頭に思い描きながら楽しく削ってくだけだよ?」
「却下」
アレクは厳しいなぁ。
「ちゃんと言語化してください」
「うんと、濁ってるトコの2ミリ外側。あーでも濁り具合とかあるからなぁ」
ニコも考えてるみたい。そうだよな、ナナイロレンジャーの仲だもんな。
「まずは、練習用の石で中央に濁りを持ってくるように訓練するのはどうでしょうか?」
「ああ、そういうのはわかりやすいな。それがステップ1だな」
「ステップ2は?」
「自在に宝石を輝かせるカッティング技術を身につける。光の入射角と反射角の勉強でしょうか?」
「そんなのはレモは全く考えてないけど、教本としてOKだな」
「それができるようになって、ランクを上げる。Dランクの石で練習でしょう?DランクからBないしAランクに石のランクを上げるのが目標。それで初めてレモに直接の指導を受けることが可能とすれば?」
「教本は飛ぶように売れるだろうし、受付業務も落ち着くだろう。一石二鳥だな」
「レモも自分の仕事に専念できるでしょうし、いいでしょう」
そういうことで、教本の発売が決まった。重版を重ねベストセラーとなるほどの大人気。マルコ商会としても財政が潤った。
「うーん、迂闊だった……。経理担当としては売り上げの管理が結構忙しい」
アレクはぼやいてるけど、嬉しい悲鳴だろう。
俺は職員に満足な給与を支払うことができて嬉しい。
ある夜、Sanctuary Silentに行くと、また泣いているカルロがいた。
これはマスターの完全なる玩具だなぁとも思った。とりあえず、両肩を持って前後に揺さぶるのだけは止めてほしい。
「あー、マスター。俺今日はカンパリ・ソーダにしておく」
「なんだなんだ?忙しい嬉しい悲鳴ってやつかぁ?そうだよなぁ?俺はレモを信じていたぞぉぉぉ!」
店内で叫ぶのは止めてほしい。静かな感じの雰囲気が台無し。
「お前もやればできる子だと思ってたんだ。大きくなったなぁ!」
親戚のオジサンかよ……。
「すっかり大商会の商会長になって、俺は嬉しいやら、遠くに行ってしまった感じがするやら……」
「『マルコ商会』はまだまだ小さい商会ですよ。証拠に商会内に冷蔵庫がない!」
「なんだとぉぉ!早く買うんだぁあ!」
忙しくてなかなか手が回らないんですよ。
マスターも笑ってグラス磨いてないで、何とか言ってくださいよ。
「……冷蔵庫は重要ですね」
ちょっと違う……。
「だよなぁ。急げ!マルコぉぉ!冷蔵庫を買うんだぁ‼」
次に来るときまでに買っておこう。
71.
翌日、俺は自宅(まだ簡素)から、商会に出勤するところだった。
頭の中は「商会がぐちゃぐちゃだよなぁ。なんとかしないと」と「冷蔵庫買わないとなぁ」でいっぱいだった。
「あら、マルコ君。マルコ商会、絶好調じゃない!」
「大忙しで嬉しい悲鳴ですよ。マルコ商会は皆さんに支えられていますから」
これ事実。事実マルコ商会の購買層は庶民の皆さんだからなぁ。皆さんにそっぽ向かれちゃったらマルコ商会が立ち行かなくなってしまう。
カルロ商会は高級路線かなぁ?なんて思っていた所で……。
「母さん、この落ちてる人、何?」
「ダメよ?そういう人に関わったら!」
少年よ。木の棒で落ちてる人にツンツンと触るのはどうかと思うが……ん?
「カルロ‼」
「え?カルロ商会長なの?なんでこんなとこに?」
「なんか酔い潰れて、ここで寝てたみたいです」
危機管理はいいのか?
俺はナナイロレンジャーにも連絡を取って、カルロをマルコ商会の一室で介抱することとした。
「マルコ兄ちゃん、ナナイロレンジャーって何?」
「うんとね?マルコ商会に所属してる、皆の味方!力持ちだし、強いし、頼りになるんだよ」
「へぇ、カッコいいね」
「そうなんだ」
レモがかつてナナイロイエローだったことは伏せた方がいいかな?一応。
商会に行くと、俺の机からレモを指名する注文書が山のように。ああ、もう崩れかけている。
ニコはレモの受付(?)で「一列に並んでください!」ってもう叫んでいるし。
アレクはこういう時に頼りになると思いきや、教本の売り上げによる帳簿と、レモの就業規約でグッタリしてる。
俺も胃が痛くなりそう……。まさかこんなカオスが朝から待っているとは……。
別室にいたはずのカルロは「流石だレモぉぉぉぉぉ!」とか涙目で俺の方へ来るし。
ニコの受付の方がざわざわとしている。
「なんかレモの弟子入り志願者に交じって、レモの義理の弟?が来たみたいで……」
ああ、カルロに『性格が悪い』って理由でカルロ商会の宝石加工職人になれなかったやつか。
「レモなんて名前は大ウソ!本名は『ルカ=ジェリオリーニ』。ジェリオリーニ家の長男だけど、妾腹だから家を継げなかった男だ。哀れだよな。妾腹なんて。ハハハ」
何をしに来たんだ?レモを貶めたかった?最近レモが大活躍だからなぁ。家でも「レモを嫡男として育てるべきだった」とか話してるかもなぁ。今更なんだけど!
っていうか、『T国では妾腹が加工した石を避ける』とか調べたんだろうけど、王太子夫妻がレモが加工した石を使ってる時点でノーカンなんだよね。
しかもレモ弟の言葉でレモから離れていくなら、その程度だしこっちとしては弟子入り候補が減ってどちらかというと、万々歳。
うーん、商会内に部署?
宝石加工部は部長にレモだろう?
接客部があった方がいいよな。通常女性だけど、この男所帯ではティーノとシルヴィオが適任かな?ティーノはムードメーカーでいいんだけど、同時にシルヴィオの神秘性とかも側にあると部として落ち着くだろう。ティーノだけだと、暴走しそう…。
受付はニコだな。
帳簿管理とか経理はアレクだろ?
今はレモの護衛係でカルロだな。っていうか、カルロは自分の商会いいのかよ?
72.
また、レモがT国大使に呼ばれた。T国に重用されてるなぁ。
「あ、マルコ商会長!王太子夫婦がペアリングが欲しいって原石を渡されました。ペアリングってどうすればいいんでしょう?」
「お揃いにしてもいいし、2つ揃ってやっと1つの絵になるみたいなものにしてもいいと思う。俺はレモのインスピレーションに任せる」
渡された原石がまた、通常ならDランク落ちってやつか?魔力量はあれども、濁りが……。俺でもどこが濁ってるのかわかるぞ!魔力量についてはわからないけど。
普通なら職人の練習用なんだろうなぁ。T国も結構な無茶ぶりをするよなぁって俺は思うけど、当のレモはどうしようかな~♪と楽しそう。他の人なら凹むんだろうな。
数週間後、ペアリングが出来上がったらしい。すごい輝き。
「レモ。あの濁ってるところはどこに行ったんだ?」
「うーん、不要なのは削って、必要なのだけ残しました。必要なのは、ほら!二つの指輪を合わせると濁りの部分でハートが……」
おおっ、でもそれって一つだと半分のハートって何か嫌な感じ。
「だからこそのペアリングです。通常身につけてるだけだと、ただのお揃いの指輪に見えるんですよ。ハートに見えるのは二人でいる時だけって特別感ありっていう代物です!」
それは……。世継ぎが期待できそうな感じだな。
「なんていうか、また国王陛下が羨ましがって追加で注文来たりしてな~」
「いやいや、まさか~」
レモと俺はT国大使館に指輪を献上した。仕組みも説明。
「それはなんともロマンチックな仕上がり。レモも考えましたな。いやぁ、王太子夫妻の間に世継ぎができそうですよ!」
やっぱり思うよね……。
そしてやっぱりというか、国王陛下からも注文があった。
「ペアリングなんだけど……亡き王妃様とのペアリングをご所望のようです」
本当に無理難題をレモに言うなぁ。レモは楽しそうだけどさぁ。
元はSランクの石だけれども、ちょっとの濁りのためにDランク落ちらしい。
「うん、決―めた!」
そう言って、レモは加工を始めた。
数日後(早い!)、レモは見せてくれた。
「今回はあんまり指輪を加工してないから、時間かからなかったかな?」
それでも数日かかってる…。
「うんとね?普通のペアリングに見えるでしょ?濁ってるところはうまいこと削っちゃった!」
弟子入り志願者はそういう技術を学びたいんだろうけど、とりあえず教本に書いてあることをマスターしてもらおう。
「で、恐縮ですが宝石に傷をつけました。ワザと。で、こっちから光を当てると天井に『Forever Love』の文字が出るように仕掛けを。この仕掛けは国王の方だけです。王妃様のお墓は外にあると思ってこのような仕掛けは無駄になっちゃうかなぁ?って」
なるほど。
73.
俺とレモはT国大使館に行って、今回の仕掛けについて大使に説明。
「なるほど。いい話ですね。王妃のお墓にはチェーンに通してこの指輪を」
盗難されないかな?Sランクの宝石なんて明らかに盗難ってわかりきってるけど。それも指輪だったら猶の事。Sランクの宝石で指輪になったものですぐに特定されるだろうなぁ。
レモはかなりT国に愛されていると思った。
俺の机に山のようにある注文書もT国のカップルが多い。
ここ最近レモの話ばっかりだけど、きちんとトロピカルジュースの販売も並行して行っている。だからこそ、忙しくて忙しくて忙しくて…endress。
マルコ商会の方でレモの護衛係してるカルロだけど、カルロ商会の保冷庫をお借りして輸入した痛んでるトロピカルフルーツを保管させてもらっている。
今はレノ・エンツォ・ダリオの三人が頑張って売ってるなぁ。
その帳簿もあるから、アレクは大混乱なんだろう。
今は商会にお客様が直接来ることもないから、ティーノとシルヴィオもトロピカルジュースの方頑張ってるのかな?
宝石関係はレモとニコだけがパニックか?
確か朝も、「ジュースの仕込みが間に合わねー!」とか聞こえたなぁ。
これは新たな雇用をするべきだろうか?なんかこういう時に新しく雇用すると隙を狙って横領していきそうなんだよなぁ。
Sanctuary Silentに久しぶりに来た気がする。
「マスター、ネグローニをお願い!あと、相談に乗ってほしいんだけど、いいかな?」
「私でよろしければ?」
マスターは謙虚だよなぁ。
「今さぁ。マルコ商会がすっっごく忙しいんだよね」
「街の声を聞いてもマルコ商会大人気ですもんね。なんでもレモさん?という方が腕利きの宝石加工職人だとか?」
「本人無自覚なんだけどね」
氷が融ける音がカランと聞こえる。
「レモの技術って感覚的で文章にもできないんだよ」
「天才型ですね」
「そうなんだよ。でも弟子入り志願者が殺到してるし、主にT国から。トロピカルジュースの販売も並行して続けてるしで。もうてんてこ舞い!雇用を増やそうかなぁ?と思ったんだけどどう思う?」
「多分今の商会内は隙だらけでしょうね。忠誠心の薄い人を雇ってしまったら、金庫の金をゴッソリ持っていくとかされますよ?」
「うわ~」
「ならば、短期で街中のオバチャンをパートタイムで雇う方が安心ですね」
「なるほど」
街の中の経済もまわるし建設的だな。
「『街中のオクサマ』ってことにしましょうか?」
俺はちょっと笑ってしまった。確かにマスターがオバチャンというのは似合わない。
「そうだね。『街中のオクサマ』を雇用。朝のジュースの仕込みとかいいですね」
「世の中には適材適所って言葉があるんですよ」
74.
翌日、俺は街に出てオクサマ方にパートタイムでマルコ商会で働かないか?という話をした。
「え?こんなオバサンを雇ってくれるの?パートタイムって何?」
「やだなぁ、まだまだ若いじゃないですか!あ、パートタイムですね?うーん手が空いてる時に働くっていうか、正式には朝の数時間、昼の数時間、夕方数時間とか決まっているんですけど…。マルコ商会が助けて~ってなってるのは、朝のトロピカルジュースの仕込みかなぁ?」
「あっ、それなら教えてくれれば出来そうね。雇ってくれるんだもん。オバサン頑張っちゃう!」
リンゴを握りつぶすみたいな勢いだなあ。
「他のオバサマにもお伝え願えますか?俺は本当に忙しくって」
「任せて!マルコ君のためなら頑張っちゃう!」
仕込みが楽になると喜ぶのはナナイロレンジャーなんだけどな……。
商会に行くと、見慣れぬ女性がいた。
「あなたがマルコ商会の商会長?」
「はい。このマルコ商会の商会長をしてます、マルコと言います」
「最近ここにカルロ商会の商会長がいると思うんだけど?」
「はい、いますよ?それが?」
「ああ、名乗るのが遅れたわね。私はカルロ商会のNo.2をやってるルチアーナっていうの。よろしくね。マルコ君」
なんだか強い人だなぁ。
「えーと、カルロ商会長はここ最近この商会のレモの護衛係をしてもらっています。本人の希望もあるんですけど、こちらの応接室の方にいると思うので、どうぞ」
俺はルチア―ナさんを案内した。カルロ、なんか逃げてる?
「カルロ商会長!逃げずに話を聞いてください。ここ数日アナタのハンコが必要な書類がたまってるんですよ。ひとまず、カルロ商会に戻ってください」
それは……ルチア―ナさん怒るよ。
「それから、本日は息子の参観日なんです。午後からの休暇を要請します。拒否権はありません。以上です」
ルチア―ナさんはくるっと振り返り去って行った。
「ダメですよ。カルロは自分の仕事しないと!」
「あいつは休暇要請来たついでだ。ハンコなんか普段ならあいつが押してる」
マジかよ?大丈夫か?カルロ商会!
「ここと違って、日々に追われるような仕事はないからな。ほとんどアイツがやってるよ。影の商会長みたいなもんだ。俺がココにいられるのもあいつのおかげ」
数日後に街のオクサマがジュースの朝の仕込みを覚えてくれた。
おかげで、朝から大混乱にならずに落ち着いて仕事にあたれるようになった。
「あら、あなたがレモ君?「か~わいい!うちの子もこういう風に育つといいんだけど……」
「レモに触るなぁぁぁぁぁぁ!」
「あら?酔ってるのかしら?カルロ商会長?」
「オクサマは酔ってませんよ。酔ってるのはカルロ商会長です」
「でも、泣いてるわよ?」
「泣き上戸なんですよ……」
「そうなの……」
75.
「あなたがレモ君?カルロはウザいだろうけどよろしくね。天才肌って聞いてるわよ?無自覚で謙虚すぎるのは逆に嫌味に取られたりするから注意しないとダメよ!」
「はい、アドバイスありがとうございます」
「あらかわいい」
「レモは俺のだぁぁぁ!」
「はいはい。絶対違うわよ?酔っぱらいはいやぁねぇ?」
「マルコ君。私達は朝の仕込みだけでいいのかしら?」
横目で酔っぱらいを見たな。わかるけどさぁ。
「うーん、受付増やした方がニコの負担が減るかな?」
「オバサンが受付嬢なんて無理よ~」
「この商会の受付は男ですよ?」
流石に閉口しちゃうよなあ。
「えーと、レモの弟子入り志願者をどうにかしてるんですけど、詳しいことはニコが知ってると思いますけど」
「まず、マルコ商会の方で出版している教本に書かれているような事を習得した方のみがレモの弟子入り候補として名乗りをあげることができます。今のところ0人ですけど」
鬼畜な教本なんだな……。
「なんで、この受付業務では教本の売り付けが主な業務となります。あ、しっかりと領収書をいただきます。いただいた領収書はアレクさんへ」
うーん、受付からアレクに領収書を渡すという業務でもいいな。ニコが席を外すことなく仕事を完遂できるし。
「流石に経理とかの金銭に関わることにパートさんはNGかな?でもさっきのニコから領収書をあずかってアレクまで持っていくってのはアリ」
「それは、朝・昼・夕のどのパートタイムの仕事になるの?」
「うーん、朝はジュースの仕込みに専念してほしいから、昼か夕方かな?夕方はほら、夕食のお買い物とかあるでしょ?オクサマは昼の方が空いてるんじゃないかと思うんだけど、浅知恵かな?」
「昼間だって主婦は忙しいのよ!掃除に洗濯。他にもいろいろ!」
となると、特定の時間とか難しい?
「アルバイトみたいに空いてる時間に仕事に来てもらって構いませんよ?」
「アルバイトが何だかわからないけど、それなら全然大丈夫よ!家事の合間に頑張っちゃう!」
その日の夜、Sanctuary Silentでマスターに報告をした。
「マスターのアドバイスの通りに『街のオクサマ』に仕事を手伝ってもらった。朝のジュースの仕込みが楽になってナナイロレンジャーにも余裕ができてるみたい」
「……それは良かったです」
「『街のオクサマ』達が朝だけでいいのか?って不安そうだったから、受付のところにいるニコから領収書を受け取って、アレクのところまで持っていくという仕事を増やした!」
「……ほう」
「直接経理にあたるわけじゃないし、領収書を運ぶときに受付が空になるのを防ぐことができるから、結構いいと思うんだ」
「領収書の紛失に気を付けて下さいね」
「ニコとアレクに領収書の枚数は把握しておいてもらうよ」
「……それが良いでしょう」
76.
レモの実家ジェリオリーニ家では結構なことになっていたらしい(街のオバサン調べ)。
レモの弟はカルロ商会の宝石加工職人になる事ができずにおめおめと家に戻ってくるし、妾腹のレモがT国の王族や大使に重用されているという話だ。
全く、どういう事だ?
嫡男よりも妾腹のレモの方が活躍している。
「何かイカサマを……」
「うるさい‼」
翌日もルチア―ナさんがマルコ商会へやって来た。
「「「「おはようございまっす。姉御!」」」」
ナナイロレンジャー……失礼だろ?
「おはよう。みんな若いのねぇ。すごく勢いがあって。……でも危なっかしいわ。カルロ商会長!あなたはしばらくレモ君の護衛しつつ、マルコ商会も守りなさいな。カルロ商会の方は私が何とかしておくから!」
「だろう?俺よりもルチア―ナの方が優秀なんじゃね?と思うよ」
俺は完璧人間に設定したんだけどな。最近完璧じゃないけど、胃腸虚弱だし、絡み泣き上戸だし。
いろんな人が来る日か?
レモ弟までやって来た。
「どんなイカサマ使ってんだよ。T国の王族やら大使やらに重用されやがって」
「なんだ?レモに喧嘩売ってんのか?あのなぁ。レモはイカサマという言葉すらもよくわかってないと思うぞ?素直にズルしてんだよ?とか言わないと伝わらない。っていうか、お前、カルロ商会の専属の宝石加工職人になれなかったからって才能あるレモに当たってるのか?」
俺はカルロにレモの実家の様子を耳に入れてみた。
「ふーん、なるほどね。嫡男として面目丸潰れってことか。仕方ないじゃん。才能だもん。レモの方が才能がある。っていうかなぁ。確かに技術はお前もそこそこあるんだが、どうしてもお前の性格の悪さが宝石に出てくるんだよなぁ。それが良くない。自分の性格の悪さを呪うんだな!」
こういう人間って大体他責志向にあるんだよなぁ。自分は悪くない系。
「妾腹のクセに、鬱陶しいんだよ!」
それが本音か……。
「あなたは何様のつもりなの?、ここに来るならその口、二度と開かない事ね!」
ルチア―ナさんはまだ帰ってなかったんだなぁ。
その日の夜は久しぶり(?)に俺とカルロでSanctuary Silentに行った。
やっぱりこのウッドベースの音が心地いい。
「マスター、俺はネグローニを」
「俺はアマーロ・サワー」
しばらくすると、二つのグラスが並んだ。
「しっかしなぁ、レモも難儀だよなぁ。実家があんなんじゃ」
なんかわかる~。
「ずーっと無視されて育ってきたのに、才能を見せたら手のひら返し?それは酷くない?」
「俺に権力があれば潰す!」
「いやぁ、跡継ぎがレモ弟ならこのままいけば放っておいても潰れるんじゃ?わざわざカルロが手を出すことでもないですよ」
「権力??T国大使とかに潰してもらうか?」
「いやだから、カルロが手を下さなくても勝手に自滅するでしょう?」
ダメだ。レモを守ろうとかなり必死だ護衛に任命したのは俺だけど、やりすぎ……。
77.
翌日、商会に顔を出すと人だかりが……。
覗いてみると、男の子がいました。
「母さんがココに来るって言ってた」
「えーと、名前はなんて言うの?」
「二コラ!5才だよ!母さんの名前はルチア―ナ!」
レモが優しく聞いてあげてるなぁ。
「よおし!母さんが来るまで、兄ちゃん達が遊んでやる」
レノは子供好きなのか?
ナナイロレンジャー(レモを除く)が遊んであげてた。子供の体力についていけるのはあいつらだけだ。
「母さんは仕事忙しくてあんまり無茶言えないもん。今、すごく楽しいよ!」
「「「「「「健気~」」」」」」
ナナイロレンジャーがすっかり遊び相手になっていた。
「もっと走るの~!」
流石のナナイロレンジャーも疲れつつあった。
「二コラ君、この石見て!」
「えーと、レモ兄ちゃん?」
「そうだよ?石を見るとさぁ、濁ってるの見える?」
「うん、せっかく周りがすっごくキレイなのに残念な感じ。でもその濁りね?お魚に見える!」
「そっかぁ。お魚かぁ。じゃあ、この宝石を水族館みたいにしようかな?」
「レモ兄ちゃん出来るの?」
「うーん、できるかどうかじゃなくて‘する’んだよ!」
「うわぁ楽しみ!いつできるの?」
「二コラ君が今度ここに来たらかな?」
「じゃあ、明日来る‼」
どうしよう……。流石に無理がある。徹夜しても明日にはちょっと無理だろうなぁ。子供の夢とか壊したくないんだよなぁ。
「コラ!ニコラ。レモ君を困らせたらダメでしょ!早くても1週間くらいかしら?」
「頑張れば……(死ぬほど)」
「ナナイロレンジャーのお兄ちゃん達と遊ぶの楽しかったし、レモ兄ちゃんの宝石はキレイだし、明日も来ていい?」
そんなキラキラの無邪気な瞳で言われたら断れない。
「いいよ。ここが気に入ったんだね?」
「うん!」
「まあ、カルロもいることだし、いいかぁ。二コラ、あんまり困らせたらダメよ?それならきていいわ」
「やったぁ」
こうして、二コラ君は学校が終わるとこの商会に来るようになりました。
「いや~ん、かわいいわ。うちの子もこんな時代があったのよ」
二コラ君はちょっと怒った。
「男だもん。可愛いとか嬉しくない!」
「そうそう、こんな感じだったわ。懐かしい。おばちゃんがお菓子あげるわ~」
「夕飯入るくらいにしなさいよって母さんに言われてる」
「そうなの?しっかりしたお母さんなのねぇ」
「母さんはカルロ商会のNo.2だよ!商会長の次に偉いんだ!」
その商会長はレモの護衛でこの商会にいるよ……。
78.
毎回の事だけど、ナナイロレンジャーとたっぷり遊んだ後はレモのところに来るのがお約束。この時にはナナイロレンジャーはもうグッタリしている。
「レモ兄ちゃん!今日はどんな石あるの?」
「石はいっぱいあるよ?どの石が好き?」
「なんかワクワクするような石がいい」
「あ、この間の石。できたよ。見る?」
「見たい!見せてよ~」
サファイアの深い青の中で本来ならば濁りと分類されてしまうものが、魚として泳いでいる。
「スゴイスゴイ!レモ兄ちゃん、天才!」
「そうだ。ここのレモは天才なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、レモが子供にも好かれて俺は嬉しいぃぃぃぃぃぃ」
「レモ兄ちゃん、このお酒臭い人誰?」
「え?えーとね……」
「二コラ、迎えに来たわよ。この酒臭い男はね。カルロ商会の商会長よ。一応ね」
「えー?母さんより偉いんでしょ?全く見えなーい」
「そうでしょ?でも事実なのよ。事実ってコワイわねぇ。さっ帰りましょ?」
「あ、あのね。レモ兄ちゃんが作った宝石すごかった。僕は濁ってるのがお魚にしか見えなかったんだけど、レモ兄ちゃんは宝石ぜーんぶ水族館みたいにしちゃった」
「レモ君は凄い子なのよ?いっぱいいろんなこと教わったら二コラも将来レモ君みたいになれるかもしれないわねぇ?」
「ぼく、頑張ってレモ兄ちゃんに教わる!宝石すごいもん‼」
本当にすごいんだけどね。…T国の王族に愛されるくらい。
二コラ君は毎日マルコ商会に来て、ナナイロレンジャーと遊び、レモからいろんなことを教わった。レモも子供ならではの感性で濁りを見てくれるので新しい世界が広がったような感じがした。
ナナイロレンジャーはルチア―ナさんができない事(肩車など)をしてあげて二コラ君を喜ばせた。
レモは宝石の話もそうだけど、日常の学校の課題なんかも見てあげているようで、二コラ君が特に懐いていた。
夜にSanctuary Silentでは毎日のようにカルロが泣いている。
「レモが子供にも好かれてぇぇぇぇ。俺は嬉しいぞぉぉぉぉぉぉぉ」
マスターのカルロで遊ぶ癖がなくなればいいのに。人間味があって面白いけど。
「レモは二コラ君に宝石の事を教えているみたいですね。あの子が弟子1号でしょうかねぇ?カッティングとか全然できないけど。レモ曰く『子供ならではの感性で濁りを捉える』ところがスゴイらしい」
「良かったなぁぁぁぁ。レモぉぉぉぉぉ!」
「マスター、どれだけ飲ませたんですか?」
「……企業秘密です」
最近は社内でも飲んでる?それはいかんぞ!
そう思いながら俺は俺でネグローニを傾け氷の音を満喫。……しようとしてたのに、カルロが絡んできて鬱陶しいし、煩い。店の雰囲気ぶち壊しじゃんかぁ。
79.
また始まった。
T国の王族の無茶ぶり。
本来ならば捨ててしまう……まではいかないものの、宝石加工職人見習いの練習用になるような石を寄越して、『王家を象徴するような素晴らしい石に仕上げてほしい』というものだった。
大使曰く、T国の王族の象徴はまず『龍』。そして、住居となっている『お城』らしい。
毎度のことだけど、物凄い無茶ぶり。レモに期待しているのか?レモ的にも唸ってる。いつもなら楽しそうにしてるのに、これは大変!
それでも日常というものは続くわけで……。
「二コラ君、オバチャンはりきってお菓子作っちゃった!食べて‼」
「ナナイロレンジャーの皆で食べるー。ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げる仕草がまた可愛い。オバサマ達のハートを鷲掴みにしたことだろう。
「レモ君は凄いのに、カルロ商会長ってあんな残念キャラだったかしら?」
「カルロ商会長って雲の上的な感じだった気がするけど?」
「でもまぁ、近しくなったと言えばそうよね。あまり近付きたくないけど」
学校の宿題はエンツォが見てあげている。諸事情によりレモには教えることができなくなりました。
お菓子はティーノもあげてる。あと、残ったら廃棄なトロピカルジュース。
「美味しいのに残ったらすてちゃうの?」
「だって、腐っちゃうから仕方ないだろ?」
「そっかぁ。美味しいのに……。学校で皆に宣伝する!マルコ商会のトロピカルジュースはめちゃ美味しいって!」
「それは助かる。いっつも捨てるのは忍びなかったんだよな。これを使って料理とかできたらいいんじゃね?」
「オクサマ~‼廃棄しそうなトロピカルジュースってなんか料理に使えないかな?」
「うーん、無理矢理ピザに乗せてみるのもチャレンジよね!」
挑戦してみっかぁ。
二コラ君はレモのところに行った。
「レモ兄ちゃん、今日はどんな石があるの?」
「うーん、これ。この濁ってるの何に見える?」
「えーとねぇ、ドラゴンみたい!強そうだね。あと。その後ろにお城あるの。ドラゴンさんがお城を守ってるのかなぁ?」
「どれどれ?あ、本当だ!うん、これも作ってみるよ。また数週間かかっちゃうけど、楽しみにしててね!」
「うん、楽しみ~」
「こらこら、レモ君の邪魔してないでしょうね!」
「とっても参考になりましたよ?おかげで仕事ができそうです」
「そうなの?それはよかったわ。今日は遅くなってゴメンね~。会議が長引いちゃって。あんの石頭!」
「ぼくは退屈しなかったよ!」
「俺もおかげで仕事できそうだし。助かりました」
「それはよかったわ。帰る前に一応、カルロの顔見るか……」
「カルロ商会長なら隣の部屋に……」
「レモが子供に好かれて俺は嬉しいぃぃぃぃぃ」
「仕事場で飲むな!泣くな!仕事しろ!」




