52.
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俺は商会に戻って整理した。
・スッキリ爽やか系
・南国チック系
・甘い味
・疲れてる時の一杯
・〆の一杯
うーん、難しい。またSanctuary Silentで相談だな。
と、その前にT国大使と話を通さないとな。
T国大使に手紙を送って使いうちに話をしたいという旨の内容で送った。
数日後にT国大使と会う事になり、俺はアレクを連れてT国大使館へと行った。
「この間お話をしたトロピカルフルーツのお話ですが、カルロ商会とも話がつきました。輸入ルート、保冷庫共に貸してくれるという事です」
「見返りを求められたのでは?」
スルドイ。
「えーっと、トロピカルフルーツにハーブのような効能があるという事で、ジュースに少々ハーブを混ぜるという約束をしました。味と香りに支障をきたさない程度です」
「つきましては、試作をしたいのでトロピカルフルーツを融通していただきたいのですが、できます?」
「いやぁ、私もそのジュースを楽しみにしているからなんとか融通してみるよ。マルコ商会の方に郵送すればいいかい?」
うちの商会、冷蔵庫的なものないから、せっかくのトロピカルフルーツが痛んでしまう……。
「えーっと、カルロ商会の方にお願いします。あそこで恐らく試作をすると思うので」
広い会議室あるし、冷蔵庫もあるし、そっちのほうがいいだろう。カルロには事後報告になっちゃうけど。……怒るだろうなぁ。
「わかったよ。そのように手配するよ」
その日の夜、Sanctuary Silentでカルロと会った。
「なんだ?俺に丸投げかよ?」
「俺の商会にはまだ広い会議室も冷蔵庫もないんだよ!」
予想通り怒った。事後報告だから、当然と言えば当然だけど。
ウッドベースの音が響く店内に俺とカルロの声も響く。
マスターは黙々とグラスを磨き続けてるし。
「あ、相談しようと思ったんだ!ジュースの味は候補が5種類なんだけど」
「多くね?」
「・スッキリ爽やか系 ・南国チック系 ・〆の一杯 だろう?で、甘いものと疲れてる時だが、疲れてる時は甘いものを摂取するといいからコレは ・甘い味 に集約できるな。これで4種類に減った」
「・〆の一杯 というのがよくわからないですね。何を求めてらっしゃるんでしょう?」
「最近の〆の傾向だと、結構ガツンと重めのやつみたいです。俺はてっきり酒を飲んだ後にはスッキリとしたいものだと思ったんだが、違った」
とにかくT国からトロピカルフルーツ(貴重)が届いたという話なので、急ぎカルロ商会へと行った。そこにはアレクも連れて行った。
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カルロ商会からはカルロ、マスター、俺とアレクの4人のみで試作をすることとなった。
「あ、カルロとマスターは初対面だよね。うちの商会のアレク。元貴族。こいつの母親が強烈」
「マルコ商会長。カルロ商会長はわかるのですが、マスターとは?」
「俺とカルロ商会長が行きつけのバーのマスター。ハーブに詳しいんだ。今回はその知識を使って協力してもらおうと」
「信頼できるのですか?」
「もちろん。俺が全く酒飲めない時からの付き合いだからね」
アレクをなんとか納得させた。アレクはSanctuary Silentになんとなく連れて行きたくないんだよね。やっぱ秘密基地だからかな?秘密基地の場所を知ってる人間を増やしたくないし。
「スッキリ系にはやっぱりパインアップル?」
「あ、大使も傷つきやすいって言ってた」
「それに合うハーブとなるとスッキリ爽やか系ですよね?やはり、ミントかと思います」
「南国系にはパッションフルーツか?」
「ハーブはレモンバームが良いかと思います。防腐効果もありますし」
「甘い味にはマンゴーか?昔食べたなぁ」
「カモミールがいいかもしれませんねぇ。なんだか落ち着く味になります」
「〆の一杯には…やっぱりバナナか?」
ですよね。
「ハーブにはナツメグを…」
「防腐効果があるものとしてスッキリ系にレモングラスを少々。甘い味と〆の一杯にはローズマリーを一滴。更なる防腐効果を高めるために、私特製のハーブを少々すべてに入れましょうか」
「マスター特製ハーブって量が足りなくなったりしない?」
「はははっ、ただのサイレント・ハーブのことですよ!私がちょっと手を加えただけです」
酒を飲ませたとかか?
トロピカルフルーツは貴重なので試作品を飲んでいただいたのは、少年・奥様・酒屋の店主。それにマルコ商会の職員。
少年は美味しそうに、ジュースを飲んでいた。
「マルコ兄ちゃん、ありがとう。これ美味しいね。うーん、全部美味しいけど、ぼくはやっぱり甘い味が好きだなぁ」
「マルコ君、すごいわねぇ。ジュース、全部美味しいわ。そうねぇ、しいて言うなら……。南国っぽい味のやつかなぁ?甘い味もいいわよ?疲れてる時なんかは最高ね。今はそんなに疲れてないからかな?南国っぽいの飲んでると、気分だけ南国旅行よ。そんなお金ないんだけどね……。いやだわ、自虐的で」
「マルコさん、〆の一杯はこういうのをお客さんは求めてたんだ!っていう感じでよくわかった。なるほどな」
商会の職員からも、
「商会長、最高っす」
「言葉遣い直せ」
「商会長、最高です。ええと、スッキリ系から順に飲んでいったんですけど、どれも美味。最後に〆の一杯でまさに〆です。夕飯要らないかもってくらい腹に溜まりました」
「酒屋の常連さんってめちゃ飲んだ後に〆て、朝食食べれるのか?」
「うーん、その人によりけりだと思いますけど、寝て起きたらお腹空いてるパターンもありますから」
アハハと笑ってるけど、酒屋の主人としては相当の情報量だと思う。
「防腐剤を使ってないから、そうですね。保存期間は常温だと1週間くらいでしょうか。短いのがネックなんですけど、飲みきることを前提にしていれば問題ないですよね!それからうりかたなんですけど屋台売りを検討していましたけど、〆の一杯とか酒屋さんに配達した方がいいんでしょうか?」
「ああ、頼みたい!」
「甘い味も家に欲しいわ!」
この場合どうすればいいかな?持っていくのはナナレンジャーが頑張るとして、商会に来るのはなんだか憚られるんだよね。だと、屋台から翌日の朝に伝達みたいな方法でいいかな?
「屋台に注文していただくと、翌日に自宅やお店に配送っていうのでどうですか?」
「それがいいわ。商会本店てなんだか敷居が高いのよ。屋台だとお気軽ね」
「翌日に配送なら荷物にならないし、助かる」
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もの・流通経路なんかが決まったところで、マルコ商会もとりあえずの一品はできた。ただ、供給は安定していない。年によって傷ついたトロピカルフルーツの量と種類がまちまちになってしまうのが難点だ。
このような難点のないものがあるといいんだけど……。
「欲張り過ぎだ。まずはトロピカルジュースの売れ行き、売れ筋なんかを見た方がいいと俺は思うね。まぁ俺だったらそうするけど?」
余裕の大人の上から目線?くそぅ、胃腸虚弱以外は完璧な男だもんな。手に持つ、アマーロ・サワーだって、胃腸虚弱だからあんまり強い酒じゃないけど、カルロが持つと、ウォッカのストレートに見える。絶対に飲めないだろう。
とりあえず、トロピカルジュースの売れ行きとか見よう。
俺は〆の一杯を甘く見ていた。
いろんな酒場で〆の一杯が大人気らしい。
「屋台をやってても「明日の15時近くに酒場に〆の一杯を樽で頼む」って依頼が多い。
幸い〆の一杯はバナナという比較的手に入れやすいフルーツで作られてるから、問題なく作れている。
俺はトロピカルジュースだし、南国風とかスッキリ系が人気になると思っていた。
でも、スパイス・ハーブクラッカーが人気なこともあって(特に激辛味)、甘い味が人気だったりする。
うーん、市場の全体を見ないとダメだなぁ。あと、スパイス・ハーブクラッカーと違って、リピーターが少ないのが残念。
プレーン味とかオールマイティーな味がないから長続きしないんだよなぁ。
そういう意味でも〆の一杯は凄いと思う。
その日の夜、俺はSanctuary Silentで愚痴っていた。
「やっぱ、流行に乗るだけじゃダメなんだよなぁ。どちらかというと、商会側が流行を作り出す方だよなぁ」
ネグローニの氷をカラカラ鳴らしながら、俺は愚痴っていた。
マスターはいつものようにグラスを黙々と磨いてるだけだったけど。
カランカランと店の戸が開く音が聞こえて、カルロが来た。
「おっ、なかなか様になってきたじゃねーの?マスター、俺はいつものね!」
元気だ。なんかあったのかな?
「カルロ、なんかあったんですか?彼女ができたとか?」
「女は要らん」
「え?男?」
「違うわー‼」
ゲンコツまでされた。そこまで怒らなくても。冗談なのに……。
「……仕事で何かいいことが?」
「まぁな。ちょっとした大口取引が決まったんだよ」
「……T国ですか?」
「なんでわかったんだよ⁈」
「……年の功というやつでしょうか?」
「T国はモノが豊富ですね。香辛料にトロピカルフルーツ」
「はぁ、お前はなぁ。食べ物にばかり目を向けてるからなぁ」
庶民的にはそうなんだよ……。
「T国のモノは食べ物だけじゃない。宝石。原石の輸入になるんだけどなぁ。磨いて、加工しなきゃだけど、なんかロマンだよなぁ」
別世界過ぎて全然何も感じない。
「世の中には原石コレクターってやつもいるから、こういう仕事は楽しいなぁ!」
カルロ……飲み過ぎじゃないか?いくら胃に優しいとはいえ、そんなにたくさん飲んだら……。
その時、マスターがマスター特製胃に優しいハーブティーを出してくれた。マスターは優しいなぁ。
ハーブティーを飲みながらご機嫌のカルロの横で俺はネグローニをチビチビ飲んでいた。いつか大物になれるよな?と思いながら。




