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アレクが連れてきたのは、なんか街のチンピラ連中って感じだった。
「みんな兄貴を慕っていて、この商会で働きたいって希望です!」
「お、おう」
なんかこう、男くさい商会だなぁ。もっと女性はいないのか?男性でもいいがもっと知的な感じの人はいないのか?
「アレク。えーとだなぁ。言葉遣いをもっと丁寧に出来るようにしろ!」
「わかりました!」
アレクとその仲間たち(俺が命名)はとりあえず言葉遣いを直すように、指導をしておいた。同時に街中に『マルコ商会』で働きませんか?的なビラを配った。
その日の夜、Sanctuary Silent にて。
「ビラを見て吹き出しそうになったぞ?」
「しょうがないじゃないですか!社員がいないんじゃ話になんないんですから。経理が出来る人もいないし。も~俺はどうしたらいいんだ―‼」
「マスター?こいつ酔ってんのか?」
「……素面でこの状態かと思います」
マスターに笑われた。泣きそう……。
「カルロはどうやって人を集めたんですか?」
「まぁ、似たり寄ったりってとこだな」
ビラ?
「昨日の今日でいきなりマルコ商会がカルロ商会と肩を並べるわけないんだから、焦る必要なんてないだろ?」
そうなんだけどさぁ。アレクとその仲間たちにも給料を払う必要があるわけで。
「全く、仕方ないなぁ。今日の酒代は俺が払ってやるよ」
「マスター!おかわり!」
「おいおい。大丈夫か?二日酔い……。ネグローニ飲めるようになったのだって最近だろう?」
「二日酔いにならない程度でおかわり止めますよ」
「頼むよ、マスター」
翌日商会に行くと、怒られた。
「コラ、マルコ!お前が行くべきところはココじゃないだろ?きちんと自分の商会に行け!」
無意識というのは恐ろしい。長年通ったからか?何も考えずに進んでいたら『カルロ商会』へと出勤していたよう。そしてカルロに怒られた。
無事(?)マルコ商会に出勤した。
そこにはゴージャスな服を纏う元・貴族様ご夫婦がいた。
「うちのアレキサンドリアがこちらで働いていると聞いたんですけれど、本当ですの?」
扇子で顔を半分隠すように話す。扇子かぁ。場所とらないし、ウチワよりも避暑にいいかもなぁ。
「あ、おふくろ」
そう言うと、アレクは一目散に逃げた。
夫婦じゃなくて、ご婦人と付き人かな?どっちにしろ、ご婦人はアレクの母親のようだ。
「事情がありそうですけれども……」
「こちらでは、婦女子を立たせたままなの?」
「興したばかりの商会なので物資が不足しているのです。興したばかりなので、どことも取引をしておりません」
「まぁ、それは残念。どこか取引先があればそちらのルートからここを潰すという事も考えられたのに。オホホッ」
オホホじゃねーよ。カルロが出資者なんだ。損をさせるわけにいかないんだよ!
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「端的に言うと、どうにかしてアレクに家に戻ってほしい。というわけですね?本人が嫌がってるんですけど?俺が拘束しているわけじゃないし」
「こんな商会で稼ぐよりも元でも貴族として暮らした方が楽に暮らせるのに、どうしてあの子は……?」
「先見の明があるんじゃないですか?王制もなくなり、貴族制度もなくなってどうするんですか?自分で洗濯・掃除・料理をしなくてはいけませんよ?」
「そんなのはいつ来るのかしら?明日?明後日?」
「近い将来でしょうね。そう考えているのが、グランデ商会の新しい商会長のレオナですよ。彼女はだからこそ商会を守るために、古い思考に凝り固まった祖父と決別しました」
「ああ、あの小娘。夢物語をいつまでも語っている小娘ね」
この人も潰れるのか。アレクだけが生き残るんだ。
「そう言うなら、いつまでも元の貴族でいられると思っている貴女は、いつまでも夢の中で泳いでいるような方ですよ。その内その夢で溺れてしまうんですけどね」
持っていた扇子がバキっと音を立てて折れた。勿体ない……。
「下賤な平民の分際で!」
「その平民が働かなかったら、貴族様は納税もできないんですよ?憐れですね」
顔を真っ赤にしてアレク母は帰っていった。もう来ないといいんだけど。
「いやぁ、流石兄貴っす。うちの母があんなに激昂したのは久しぶりに見ましたよ!」
「っていうかさぁ。お前、貴族だったんだな?」
「……はい」
「いや、責めてないんだけど、やろうと思えば言葉遣いも丁寧にできるし、計算とかも出来るのか?」
「一応は習っています」
多重人格者のようだ。あの名前からして仰々しかったもんな。
「頼みがある。この商会の経理を頼んでいいか?お前は横領とかしないだろ?」
「それはもちろん!兄貴LOVEですから」
男に慕われてもなぁ……。
またその日の夜、Sanctuary Silent で飲んでいた。
「いやぁ、良かった。あいつがまさかの元・貴族だったけど、おかげで経理をやる人間ゲットって感じだし」
「まさかのゲットだな」
「アイツの母親が乗り込んでくるのは勘弁だけど」
「マジか?乗り込んでくんのかよ?」
「取引先があったなら、そっちから潰しにかかったのにとか言われた。まぁ、現在取引先ないんだけど~」
扇子、いいなぁ。夏によさげ。あ、でもこの国はそんなに暑~って感じじゃないんだよなぁ。
「T国大使に相談すればいいんじゃないか?一貴族が潰そうにもT国との取引だったら一貴族が口出せないだろう?元だけど。」
「そうだな。そうしよう。明日。気分いい~!マスターおかわり!」
「飲み過ぎですよ。これ以上はストップです。これを飲んでください」
マスター特製二日酔いに効くハーブティーを出された。飲もう。二日酔いは辛い。
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うーん、うちの商会は小さい。小回りが利く?小さいからこそできる‘何か’を探そう!
マルコ商会初の会議。小さい商会だから、全員参加。
「そういうわけで、小さい商会だからこその強みを活かしてまずはやっていこうと思う」
俺にアレクとその仲間たちしかいないし。
「マルコ商会はカルロ商会の商会長が出資者ですよね?では、そのカルロ商会の小さな仕事を請け負ってはどうでしょうか?」
「非常にいいと思う。価格競争で勝てるかが微妙だけどな。スパイス・ハーブクラッカーの包装のビニール袋に貼るシールのデザインとかか?」
「そうでーす」
ああ、すぐに言葉遣いが崩れる。それはそうとアイディアをホワイトボードに書いていった。
「俺達頭脳労働は出来ないけど、力仕事ならできる。スパイス・ハーブクラッカーの街中での配布?」
「輸送だな。街中で馬車とかは使えないからな。うーん、カルロ商会に大口のお客様がいた時は重い荷物を運びます的なお仕事とか?」
「そうそう、そういうのできます。やります!」
力こぶを見せてくれなくてもいいよ。服の上からもわかるから。
「お、マルコのとこのシールのデザインもでてきてるのか!ん?なんだよ、キテレツだなあ。でもなぁ。消費者の記憶に残るタイプだな。価格競争、あいつはいくらが相場だと思ってるんだ?……圧勝でマルコのとこだろう?相場は知ってるだろうに。ん?外回りばっかりで実は本気で知らない?あり得る……」
「カルロ!久しぶりのような気がする」
「気のせいだろ?お前、結構毎朝ここに出勤するから」
うーん、無意識ってコワイよなぁ。
「あ、商談なんだけど、こんな店先でするものなの?」
「まぁ、お前だからよくない?」
扱いが雑過ぎないですか?
「えーっと、『カルロのとこで「買いすぎちゃった~」とかのお客様がいた時にうちの商会の職員が荷物を運びます!』という契約を結びたいのです。あ、ちゃんと契約書作った。だからちゃんと応接室に通して欲しかったのに……」
流石に俺も頬を膨らまして抗議したけれども、俺の方は両サイドから潰され、口からは変な音と空気が漏れた。
「ちょっとは商会長の威厳を持て!」
また怒られてしまった。注意を受ける?指導?
「ところで、マルコ。お前、色々価格競争あるけど、相場とか知ってるよな?」
「いやぁ。知ってると良かったんだけど、そういう時に限って外回りで仕事してたみたいで今までそういうの見たことなくって全く相場知らないんだよね」
カルロ商会長が膝から崩れ落ちた。
「カルロ!店先で膝をついてはそのスーツ(高そう)が汚れちゃいますよ!」
「ああ、そうかそうなのか。おめでとう。スパイス・ハーブクラッカーの包装に貼るシールのデザインはマルコ商会が落札だ」
マジで?デザインはキテレツだったし、あのデザインは明らかにシールからはみ出そう。
「シールの大きさも変更しなきゃいけないかもしれないのですが……」
「デザインが落札されたんだから仕方ないだろう!」
店先でそんな大声を出さなくてもいいじゃない。




