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『この街で、俺はもう一度生きる』ーー異議あるか?  作者: satomi


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34.

34.


 翌日、会議に昨日若者との会話で思いついた『激辛味フューチャリングほんのりスパイス味』の話をした。

「あっ、それ面白そうですね。若者の間でも流行りそうですけど、酒を飲む場所でも流行りそうですよ」

 俺は思う。『驕れるものは久しからず』。流行りものは一時の流行で絶対に廃れる。

「そうか。流行るのか…。ということは、絶対に廃れるぞ。流行って短ければ半年長くて2年ってとこだな」

 会議室が静かになった。


「まぁ、若者が今欲しているものだし、市場に出してみるのもいいのではと俺は思う。最終決定は商会長に頼むが。他に何かないのか?」

「はい。えーと、香辛料の海運なのですが、海賊にやられたそうです。奴らの目的が金品じゃなくて、我が商会の保冷庫でした」

「そういうことは早く言え!予備の保冷庫はあるのか?損害はいくらだ?保冷庫にどれだけ、種類と量の香辛料が入ってたんだ?今すぐ、詳しく詳細に俺に伝えるように!」

 ああ、こういうのがカルロがよく言う使える部下がいないってやつか。なるほどなぁ。俺はこんな時間になってしまったがT国大使に今すぐに連絡を取りたい。ああ、電話がないこの時代が口惜しい!仕方ないから超特急郵便で手紙だな。

 俺は海運が海賊にやられたこと。海賊の目的がカルロ商会の保冷庫だったこと。保冷庫と共に香辛料がゴッソリと持っていかれてしまったことのお詫びの手紙をしたためた。

 盗られてしまったものは仕方あるまい。なんとか挽回を。香辛料の輸入が滞ったのは大変だ。売り上げが好調のスパイス・ハーブクラッカーの販売にも影響が出るじゃないか―‼

 全く会議の時まで言わないなんてサイアクだ。



 今日も俺はSanctuary Silentに来ている。

「俺は新商品とかの考えを発表する場だと思ってたんだよ?それなのにそこで香辛料を乗せた船が海賊船にやられた発表だぜ?信じられない。そういう重要事項は分かった時点で商会長に言うべきだよな。俺は『代理』だけどよぉ。会議まで黙ってるか?あり得ないだろう!」

「……」

 マスターは黙々とグラスを磨き、店内にはウッドベースの音が響き渡る。

 

 カランカランと店の戸が開く音と共に商会長が入ってきた。

「商会長!大丈夫ですか?」

「まだ本調子じゃないがな?マスター、ハーブティーを頼む」

 俺は自分のグラスの氷をストレスに任せてカラカラ鳴らす。

「さっきの話は本当なのか?」

「さっきの話って、海賊船の話ですか?マジですよ~。もうどうしてそういう重要なことを会議まで黙ってたかなぁ?って感じです」

「まあ、落ち着けよ。ストレスでぶったおれるぞ?」

 それは困る。


「俺は会議の場って新しい商品の話とか詰める場所だと思ってました。まさかの爆弾発言です。今日?昨日?のうちにT国大使には詫びの話とか手紙を送りました。遅い時間だったので、お伺いするのもはばかられて……。爆弾発言をしたやつには今後何をすべきかを会議の場で言いました。それも理解してるんだか?はぁ」

「少しは商会長の苦労ってやつがわかったか?」



35.


「わかりましたとも。俺、もう隠居したい……」

「だろう?健康な胃腸を持つお前すらそんなんなんだよ。俺にとってはもう毎日が胃との戦いみたいな?」

 商会の人と戦ってください。


「……保冷庫が海賊に?妙ですね。海賊は金品を狙うものなのでは?」

「俺もそう思う。痛ててっ、マスター!ハーブティーを‼」

 そうなんだよなぁ。予め、保冷庫を狙っていた?何故?

「まぁ、そう悩まずとも。マルコさん、私とチェスを一戦交えませんか?」

「えっ?俺ルールとか知らない……」

「まぁ、習うより慣れろってやつですよ。ねっ?商会長?」

「俺もよくわからんが、まぁやってみろよ」

「ざっくりとルールを言いますと、コレがキングで守るべきものですね。こっちがクイーン。最強の駒ですよ?これがルークでこいつは直線に強いんです。これがビショップで斜めに動きます。これがナイトで変則的な動きをするんです。ポーンは弱いけど、着実に前に進みます」

「うわー、この時点で頭の中がごっちゃごちゃだ」

「……そのようなものですよ。では始めましょうか?」


 えーと、守りつつも勝たなきゃいけないのか?難しいなぁ。ともすれば攻めてくるしやりにくいなぁ。

「……海賊さんにとっては敵、つまりあなた方のキングは保冷庫だったんでしょうね。それをあっさりと盗られてしまった。ほら、チェック!」

「え?俺、何もしてない……」

「何もしてないから、隙があったんだろう?マスター、次は俺と」

「……胃腸を痛めている商会長さんですか。お手柔らかに」

「俺もチェスなんかしたことねーから、初心者相手に頼むぜ?」

 なんとも挑戦的な顔も様になるなぁ、カルロは。造形が良いのだろうか?羨ましい限り。

「何故だ?俺は動いたぞ?」

「動いたからこその隙がうまれたんですよ。例えばほら、ポーンを動かしたでしょ?キングへの道ができたじゃないですか。ポーンがキングへの邪魔ものになってくれたらよかったんですよ?」

「なるほど、奥が深い。そうですよ?だからこそ、紳士の嗜みなのです」


 つまり、キング(保冷庫)への道ががら空きだったから、海賊さんが易々と持っていったと?海賊さんは保冷庫でなんか利益はあるだろうか?

 海賊さんは実行犯だと考えるのがよい?金品をもらう代わりに保冷庫を盗る。では、保冷庫を盗る目的は?

 海賊さんは保冷庫の中が香辛料だと知っていただろうか?知っていたなら、すでに香辛料と引き換えの何らかのお金の要求があっただろう。それがない。ということは、海賊さんは全くの実行犯で保冷庫の中身を知らない。黒幕は別にいる。という話になる。


「ありがとう、マスター!なんだか事件の真相が見えてきた感じがする」

「おい、商会長たる俺に話せ」

 俺は海賊さん達が完全なる実行犯で、黒幕は別にいる可能性がかなり高いという話をした。

「実は、会議に参加したカルロ商会の職員。彼もその仲間じゃないかと思う。あんなに報告が遅いのはおかしい。香辛料がカルロ商会にとって重要なものとなっていることは商会の職員全員が知っている事。それをあんなに遅くになって報告するなんて自分の首を絞めるようなもの」

「なるほどな。お前も結構成長したもんだな」

 カルロに褒められるとなんだか嬉しい。俺が作ったアバターとハズだけどそれでもなんか嬉しい。



36.


 翌日俺は海賊船の報告をした職員を尋問しようと心に決めて、出社した。……が、有給消化という形で休暇をとっていた。敵の方が一足早いという感じがした。

 おかげで会議の終わりに出した指示は全部俺がこなすことになった。本当ならば今頃、報告書を見ている頃だというのに。はぁ。


 T国大使からの手紙の返事はおおらかなもので、『最初から海賊が出るとわかっている海域での貿易でしたし、仕方ありませんよ』というものだった。T国大使からの手紙でさらに妙な事がわかった。

 『純金のインゴットも積荷のはずだったのに、そちらは無事でしたよ?保冷庫が盗まれるとは妙ですね。運が悪いんでしょうか?』 というものだった。


 俺の考えの通りに海賊さんがただの実行犯だったなら、インゴットの方を盗みたかっただろうな。自分たちは依頼をこなすのが役目だと諦めたんだろうけど、辛かっただろうな。

 

 黒幕かぁ……カルロ商会が困って喜ぶ連中。……どう考えても旧グランデ商会の残党だろうか?幹部は刑務所だろうけど、旧グランデ商会の下っ端というか、幹部よりちょっと下くらいから下はこぞって、まだあの思想なんだろうか?もはやカルト集団。


 しばらくはクラッカーの在庫がもつだろうけど、それだって限界がある。保冷庫だって返してほしいところだ。

 


 自宅で療養中のカルロにも相談に行った。

 畜生、独身貴族め!いい家に住んでいやがる‼

「商会長、本日先日報告を会議中にした職員を尋問しようとしましたところ、有給消化という形で休暇をとっていました!」

「永久休暇しやがれ!」

 商会長がご立腹だ。

「それで、俺なりに考えた黒幕なんですが。カルロ商会が困って喜ぶ団体」

「はぁ、旧グランデ商会の残党か?」

「流石です。その通りです。刑務所に入っているのは幹部以上のみなので、その他がグランデ商会長の思想のままいます」

「ああ、思い通りにならない商会は潰すやつか?」

「はい。そのようになっているのではないでしょうか?そう考えるのが自然です。黒幕である、旧グランデ商会の残党が海賊に運搬中の保冷庫の強奪を依頼。保冷庫は行方知れず」

「新鮮な香辛料入りの保冷庫だし、旧グランデ商会の残党のアジトとかに置いていそうだな」

「そうですね」

 俺達は黒幕を断定し、アジトを探し出そうと思った。

 旧グランデ商会の残党のアジト。レオナが知っているだろうか?


「あの爺さんの別荘とかが有力だよなぁ。勝手に入るわけにはいかないし……」

 住居不法侵入……。




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