31.
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なんの柵もなくなり、スパイス・ハーブクラッカーの本格的な販売となった。
ほんのりスパイス味は学校帰りかな?の若年層の男性の支持を得た。意外だったのは、今までプレーン味でばかりだった男の子が自身の成長を確かめるかのようにほんのりスパイス味を食べようとしているところだった。
なんていうか……強い酒に挑む自分を見ているようで、くすぐったくもありながら心の中で「頑張れ!」って思ってたりした(商会長よりも胃腸は強いだろう)。
ハーブの香り味は若年層の女性もそうだけども、オクサマたちが井戸端会議……じゃなくて、ご家庭にオクサマをお呼びする時のちょっとしたお茶うけ。気張り過ぎず、手抜き過ぎずに丁度いいようでオクサマたちに好評だった。
甘じょっぱい味は一定はご家庭に売れるけれど、あとはお酒が提供されるお店に売り込んだ。
最初は懐疑的で「酒の肴と言えばナッツ!」と少量しか置いてくれなかったところも、徐々に量を増やし、プラスチックの容器でのお買い求めをするようになった。
プレーン味についてがこれまた俺達の予想を好いように裏切ってくれて、オクサマたちが集まると、プレーン味でのアレンジ方法が議論されるようになったり、プレーン味のクラッカーを使った料理本がベストセラーになったり(著作権はカルロ商会がある)した。
とにかく街の皆さんが喜んでくれるのが俺達が一番嬉しいです。
「はぁ、俺達頑張りましたね」
「そうだな」
「マスターを含めてですよ!もう!寡黙なんだから」
俺はネグローニ、商会長はアマーロ・サワーを飲んでいる。
「なんていうか、街の皆さんが楽しそうで何よりですよね。老若男女問わずスパイス・ハーブクラッカー食べてますよ?」
「赤ちゃんは控えた方がいいかもなぁ?」
「なんで?」
「どんなアレルギーが出てくるかわからないからだよ」
「なるほど」
マスターが酒の肴のように一口サイズのピザを出してくれた。
「……スパイス・ハーブクラッカーを使ったピザだ」
「「へぇー」」
二人で感心してじーっと見てしまった。
「……食べろ」
マスターに言われてハッと鑑賞している場合じゃない事に気づいた。
食べた。美味い。
「なんていうか、簡単手抜き料理ですね」
なんで~?商会長に叩かれた。真実を言っただけなのに。
「忙しい主婦の味方じゃないですか。これ、料理本に載ってたんですか?」
「……いや、私のオリジナルだ」
マスター、色々レベル高い。
「ん?そう言えば、もうすぐ収穫祭か?今年はスパイス・ハーブクラッカーで屋台が出せるな」
ああ、去年は小間使いで走り回ってたなぁ。
「全種類をプラスチック容器で屋台に持っていこう。あと、同時にアルコール飲料も売らないとな」
どうやって成人かどうかを判断するんだろう?
32.
収穫祭当日、カルロ商会はスパイス・ハーブクラッカーの屋台を出した。屋台は大賑わい。普段よりもお安く販売しているとあって、オクサマたちが殺到。プレーン味はもちろんのことハーブの香り味も売れた。
そんな中で、マスターが生み出したピザも売り出した。
これが端を発したのかなぁ?若者が「激辛味も欲しい」って言い始めた。
すると、他の若者も「俺も俺も」とノリノリ。ちょっと酔ってるオジサマまで「俺も激辛味がいい」と言い始めた。
「うーむ。商会長。これはどうします?」
「開発に俺は携わることは出来ない」
ですよね~(胃が……)。
「あ、でも試作品を食べていただくことになりますよ?GOサイン出すことができるのは商会長だけですから」
「やむを得ん……」
話を出している段階で死にそうなんですけど、大丈夫ですか?
会議にはマスターにも参加してもらった。
「辛味の方向性は?」
「方向性とは?」
「ピリピリ系。ツーンとくる系。いろいろあるだろう?」
「スパイス・ハーブクラッカーの名前の通り、スパイシーって辛さがいいのでは?且、ハーブで胃に優しいとか消化を助けるとか?」
「なるほどな。うーん、ペペロンチーノにブラックペッパーでフェンネルってとこか?」
うわー。スパイスの名前聞いただけで辛い。
「あとはその量の割合の調整だね」
試作に試作を重ねて(この段階で会議の参加者ほぼ全員の胃がアウト)、試供品を作ることが出来た。商会長はもう寝込んでしまった。マスターがハーブティーを毎日のように差し入れてたけど焼け石に水だったのかなぁ?
そういう俺も胃が痛いし、後でマスターにハーブティーをもらおう。酒なんか飲めないよ!
激辛味について、言い出しっぺの若者は「そうそうこういうの!俺はこういうのを食べたかったんだよね」一度に大量には食べれないよね。唇腫れてるよ?
酒を提供する店では好評で「お客さんからも美味いんだけど、もう一つパンチが欲しい」みたいな事言われてたんだよね~と、唇を腫らした店主に言われた。
その日の夜、Sanctuary Silentに行った。
俺も商会長も、恐らくマスターもマスター特製胃に優しいハーブティーを飲んだ。
俺とマスターは動けるけど、商会長は結構重症。
「マルコ……カルロ商会のあとを頼んだ」
と、遺言のように言い残し、商会長は眠りについた。
まだ眠れるだけマシかな~とかのん気に俺は思うけど、商会長としては胃が痛くて仕方ないんだろうな。
‘商会長の後’ってなんだろう?
33.
翌日から俺は商会長代理という役職についてしまった。(不本意)
めちゃくちゃ忙しい。
「代理!これはどうしたらいいでしょう?」
などの話が来るわ来るわ。はぁ。
「えーっと、俺はあくまでも『代理』なんだからな。それから「どうしましょう?」とか「どうしたらいいでしょう?」じゃないだろう?ちょっとは自分で考えることも覚えたらどうなんだ?と俺は思うけど?「これはどうですか?」とか「どう思いますか?」って意見なら受け付ける。以上だ」
と、ビシッと締めた。このくらいでちょうどいいんじゃないか?カルロはこれ全部を捌いてたのか?超人か?いや、俺が設定したんだけど完璧人間って。
まさかその完璧人間が胃腸虚弱体質だとは思わなかったけど。俺は胃腸虚弱じゃないしさぁ。アバターのハズなのに、なーんか違うんだよな。
朝に引き締めた影響か、その後は順調に自分の仕事をすることが出来た。マルコとしての仕事もあるっていうのに、加えて商会長の仕事まで……。カルロ商会長は俺をどうする気なんですか?このままじゃ過労死……。
スパイス・ハーブクラッカーを売ってる様子を見てきたりしたいんだよなぁ。市場調査ってやつ?激辛味以外の味を求められる可能性もあるし。でもなぁ、味のバリエーション増やして、品質が低下しちゃったら意味ないんだよなぁ。このまま飽きられないといいんだけど。
「あ、マルコ君!収穫祭の時安く提供してくれて助かったわ。プレーン味はいまや食卓に欠かせないのよ~」
「マルコさん!激辛味最高っす。毎日仲間内でほんのりスパイス味の中に激辛味を入れて、誰に当たるかってやってるんすよ」
「ロシアンルーレットみたいなか?」
「? ロシアンルーレットが何かは知りませんけど、触れたやつは必ず食べるってルールでビニール袋じゃなくて、中が見えにくい袋でやってます」
怖いもの知らずだなぁ。
「それってさぁ、激辛味がいくつ入ってるかわからなかったらさらにスリリング?」
「めっちゃ怖いっすね」
怖いのになんで楽しそうなんだ?
うーん、ほんのりスパイス味に激辛味を足したやつを売ってみるか。これは計り売りとかじゃなくて。完全グラム数とか個数決定してることにして。
「いっつもそれ、何人くらいでやるの?」
「えーっと3・4人っす」
だいたい15枚入りの袋を売りだせばOK。中に何個激辛味が入っているかは誰にもわからない。入ってない場合もあり。全部激辛の場合もあり。
「中に何個激辛味が入っているかは誰にもわからない。入ってない場合もあり。全部激辛の場合もありっていうのはどうだろう?」
「めっちゃ怖くないですか?えー、最後の一個すらも激辛じゃない可能性があるってことじゃないですか。怖すぎです。よく思いつきますね。マルコさん、優しそうな顔して実はサディスト?」
「違う。商売人だよ。商人ならいろいろ考えるもんだ」
「そういうもんすか」




