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クラッカーの偽物かぁ、取り締まる術がない以上放っておく以外に方法はなくて、せいぜい消費者に『偽物注意』って注意喚起をするくらいしか方法がないんだよなぁ。
俺は街中に注意喚起のビラを配った。どこがカルロ商会で作っているものと違うのか詳細に。
「マルコ君が言うんだもの。偽のクラッカーを購入しないように気を付けるわよ。偽のクラッカーにお金払うなんて嫌よ」
という意見が多数聞こえる。有難い限り。
消費者としては、無駄にお金を使いたくないってのが本音だろうなぁ。わかる。
俺は俺で偽のクラッカーの流通経路を探ろう。
大体、レオナがあそこまで嫌悪するほどのレシピ。どんなのだ?あと、売り方とかの指示書もあるだろうなぁ。それに商売してるんだから、金の流れもあるだろう。そもそも、屋台を出す許可はきちんともらってるのか?偽造だったら証拠がいっぱいだなぁ。
「マルコ。偽のクラッカーの流通経路を探ってたら必然的に元同級生とやらに会うことになるんだろう?実働は俺の仕事じゃないが、今回は付き合うことにするよ」
心強い。カルロは本当にいいやつだなぁ。元同級生に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだよ。
この間の商会の仕事はどうなるんだろう?……。うん。あんまり考えないでおこう。さっさと終わらせよう!
レシピは貴族様のところで働いていたというシェフが作ったものだという。それにしてはオソマツな仕上がり。そんなだから貴族様のところで働けなくなったんじゃ?と思ってしまう。
「金を渡すから何も考えずにただ作ってくれと60代か70代の男性に依頼された」
グランデ商会長が直接?
「そのレシピの写しとかはあるのか?」
「私は作ったもの全てのレシピをこのノートにまとめてます」
俺が見ると「なるほどなぁ。これじゃあ、貴族様はだめだよ」と思う。正直に言おう。俺の方が味付け上手いんじゃないか?
「依頼された時の指示書なんかはないのか?」
「口頭での指示だったので、それはありません」
「いったいいくらでの仕事だったんだ?」
「100万……」
「うちの商会も安くなったもんだな」
カルロも実働でかなりできる男だと思う。
金の流れ…最終的に行きつく先は旧グランデ商会のあの爺さんのところなんだろうな。
「金の流れを調べてたら必然的にお前の元同級生のところに行きつくだろう。背筋を伸ばせ!深呼吸しろ!お前は俺の右腕のマルコだ。いいな?」
「はい!」
俺は背筋を伸ばし深呼吸をして商会長についていくことにした。
「ここにあった屋台でこの間買い物をしたのですが……」
「あー!この間のニート君」
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「こいつは俺の右腕だが?ここの屋台は畳むのか?」
「街のやつらが偽のクラッカーだって言うから、商売あがったりですよ」
カルロには敬語?なんか敬語を使わなきゃいけない威圧感というか覇気みたいなものがカルロにはあるもんな。
「ところで、屋台の許可書はあるのか?」
「もちろん。なかったら商売できないじゃないですか?」
「見せてもらっていいか?」
半分「見せろや、コラァ」だろうな。
カルロが見たところ、許可書に必要なサインがなかった。そもそもだが、ここでの屋台の使用は禁止されている。
「なるほど。許可書の偽造っと」
「お前に何がわかるんだよ?」
「いろいろわかる。俺はカルロ商会長だからな。こいつは俺の右腕のマルコだ。ニートなんかじゃない。しっかりと職についている。お前よりも上の役職だ」
「俺は…俺は……」
「旧グランデ商会の下っ端だろう?用なしになったら、あの爺さん容赦なく関係を切るぜ?」
「マジかよ。俺はサンライの中でも有数の商会に入ったと思ってたのに……」
「残念だったな、自分の見る目の無さを恨むんだな」
「俺の見る目ならあるぜ?カルロさんの右腕のマルコは、この間投身自殺した井上だろう?」
「こいつは俺の右腕のマルコだ」
「俺はマルコだ。別人と間違ってないか?見る目なさすぎだろう?」
俺はされていたように嘲笑してやった。やつの顔が歪んだ。
「ここは理想の自分になれるんじゃないのかよっ」
努力次第だろう。普段から努力をしてない分全く報われなかったんだろうね。
アバターもなんかダサいし。センスないなぁ。俺みたいにもっと洗練されたアバター作ればよかったものを。そんなに自分が好きなのか?アバターなのに、かなり本人に似てるもん作ってどうするんだ?
「さて、こんなにいっぱい証拠が集まって、旧グランデの爺さんのところに行きますか!」
「旧グランデ商会潰しならレオナが喜ぶんじゃ?」
「あいつはあいつでグランデの内側から潰しにかかってるからいいんだよ。放っておけば。さて、行きますか!」
俺はカルロとグランデの爺さんのところに行った。なんで居場所がわかったかというと、ここが爺さんの一人娘の墓の近くだとSanctuary Silentのマスターに聞いたらしい。
なんでマスター??
「よぉ、久しいな。旧グランデ商会商会長。今回はよくもやってくれたな。でもそれって逆に証拠を残し過ぎ。まぁ熟考する時間が短かったから仕方ないと言えばそれまでなんだけどな」
「何の話だ?私は一人静かになくなった娘と対話をしていた所だが?」
「娘さんはあんたの話に応えてくれたか?むしろ反対だったんじゃないか?娘さんがただ一人愛する男性が関わる事業を邪魔したんだもんな。反対したならまだ可愛いってもんか、何も応えてくれなかったんじゃないか?」
「うるさい!お前に何がわかる!」
「何もわかんねーよ。アンタみたいに時代錯誤で権力に固執するようなジジイの考えることなんかわかんないね。わかりたくもない」
さっきから誰の話をしてるんだろう?
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「俺らは証拠を結構集めてるんだぜ?コレを市警団に渡せば、この商会は潰れる」
「レオナも巻き添えか?」
「いんや、レオナは違う派閥だろう?グランデ商会の内部で派閥が分かれてるのは常識だからな。旧グランデ商会、あんたとその周りだけが捕まるし、潰れる」
「王侯貴族に守られてる私がそんな風になるわけないだろう?」
「そういう風に考えている時点でもう時代錯誤なんだよ。王族はただの象徴になった。政治を動かすのは市民だ。各地域で代表者を選出してその代表者が議会を運営するという形をとるそうだ。貴族もただの平民になった。レオナが考えてた通りになったな」
やはりレオナが恐ろしい。
「私はまだ捕まりたくない」
「何故だ?レオナにも娘にも見捨てられて、まだ固執するものがあるのか?」
「金だよ」
俗物だなぁ。
「さっ、もういいでしょう。市警団のみなさん。グランデさんを捕縛してください。証拠はきちんと持っていきますので」
カルロ……、俺にも内緒で市警団の人達を潜ませてたのか?
俺とカルロは市警団に旧グランデ商会の偽のクラッカーに関する証拠の数々を提出した。
旧グランデ商会の幹部と商会長は確実に刑務所入りだろう。それより、商会としてやっていけなくなった。
その日の夜、俺と商会長はSanctury Silentへと行った。
「マスター。仇は討ったぜ」
商会長はそう言うけど俺はさっぱりわからない。
「……」
マスターは無言でグラスを磨き続ける。
「マスター、俺はネグローニ!」
「マジで?ちょっとしか経ってないのに酒強くなったのか?」
「今日はちょっとイライラしたからいいんだ!」
「なんだ?何がイライラさせた?」
「旧グランデ商会の商会長の娘さんの話とか、旧グランデ商会の商会長の場所とか、カルロ商会長とマスターだけは知ってるみたいな感じだったから!」
「あー、それはだなぁ」
商会長が言い淀んでいるとマスターが手で制止の合図をした。
「マルコには内緒にしていてすまないと思っている。端的に言うと、私は昔小さな商会の商会長だったが、旧グランデ商会の商会長に潰されて以後商人の仕事ができなくなった。理由はグランデの一人娘と恋仲になったことが原因だ。無理矢理引き離されたよ。でも、その時には彼女は既に妊娠していてねぇ」
「それって……」
「レオナは私の実の娘だ。レオナの母の墓の場所を知っていたのはそういうわけもあったからだ」
「俺は昨夜ここでマスターにその話を聞いたんだ。それで、グランデの居場所が分かったというわけだ」
なんだか肩の力が抜ける感じがする。
「レオナの性格は確かにレオナの法的な父には似ても似つかないんだよな。あんな権力大好きって感じではないだろう」
「はい、わかりました。俺が拗ねてました!でもネグローニ飲む~!」
「……今度は駄々っ子かよ。マスター、俺はいつもの!」
珍しくマスターも何かを開けたようで3人での乾杯となった。
氷とウッドベースの音が響き渡った夜の後、一人残されたマスターは、昨夜開けたボトルの中身を全部シンクへと流してしまった。
「これはもう流してしまおう」
ボトルは棚の人目につかない場所に置くことにした。




