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俺がSanctuary Silentで提案した方法で売ることになったらしく、今はシールのデザインをどうするかとか、大きさはどうするかとか、話している。
「最低でも5枚は買ってくとして、小さい方に合わせたサイズで全部統一した方がいいと思う」
何故か俺の意見が通るようになった。
ビニール袋は大・中・小で用意することに決まった。
「ほんのりスパイス味のところにはチラッと 『ある挑戦』とか印刷するのは?同様にハーブが香る味は 『大人の癒し』。 甘じょっぱい味は 『安らぎをあなたへ』。 プレーン味には 『あなたの工夫次第』 とかそういうサブタイトル的なものをくっつけて売るのはどうだろう?」
何故だろう?俺の意見が通った。
ただし、ほんのりスパイス味~日々の挑戦 ハーブが香る味~大人の癒し空間 甘じょっぱい味~たまには休みを プレーン味~工夫次第の味覚と食感 となった。
シールの大きさにも限りがあるし、そんなに長い文章じゃないからいいんじゃないかな?
俺はこの事をSanctuary Silentのマスターに伝えた。
「なるほど。ただ置いているだけではスパイスとハーブの香りもなくなってしまいますもんね。私も危惧していたんですよね」
ここに置いてもらっている甘じょっぱい味のことだろうか?
「お客様の反応はどうですか?」
「……酒が進むようです。クラッカーと共におかわりが増えました」
うーん、お酒を提供しているお店にはどうやって売ってもらおうか?
「やっぱり、最初はビニール袋で小出しかなぁ?売り上げが伸びたら、プラスチックの容器で売ってもらおう、うん」
「マルコもなかなか仕事が出来るようになったし、今日はこれだ」
マスターに差し出された酒は『ネグローニ』というらしい。今まで飲んでいたカンパリ・ソーダよりも強いのがわかる。‘わかる’だけお酒に強くなったのかな?
カランカランと店のドアが開く音が聞こえて、誰かが入ってきた。
「また、お前がいるのかよ……」
「商会長。お疲れ様です」
俺はグラスを掲げて見せた。
「おっ、今日はカンパリ・ソーダじゃないんだな。マスター、コイツは何飲んでんだ?」
「……ネグローニ」
「飲み過ぎ注意だな。マスター、俺にはアマーロ・サワーを」
「ちょっとは酒に強くなったのか?」
「俺なんかまだまだですよ」
俺は頭が朦朧とするのを感じる。
「マスター、二日酔いにいいマスター特製ハーブティーを用意しといてくれよ。こいつ絶対ダメになるから、飲ませる!全く、仕事はドンドンできるようになるのに酒はサッパリだなぁ。潰れたら連れてくか…」
商会長のため息が聞こえる。
「そんなことないよ!」
俺は、ぐっとネグローニを飲んだ。そして潰れた。叩き起こされて。マスター特製の二日酔いに効くハーブティーを飲まされた。
「俺は口移しで飲ませるとかヤダからな!起きろ!そして飲め!」
俺も口移しは嫌だったので全力で飲んだ。流石はマスター特製ハーブティー。効果が素晴らしい。
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俺にネグローニはまだ早かったんだろうか?うーん、まだしばらくカンパリ・ソーダを飲みまくろう。そして酒に強くなるんだ‼
俺はレオナにスパイス・ハーブクラッカー(試供品)を送った。市井の話を参考に作ったという話と共に。レオナはグランデ商会を改革させて、『王侯貴族からの脱却』を目標にしてるし。レオナからは、『こういうのが流行ると絶対に真似して商売してくる奴が現れるわよ』というメッセージカードがきた。肝に銘じておこう。
本当に真似してくる奴が現れた。
庶民の間で「最近のスパイス・ハーブクラッカー、なんか品質落ちた?」などと噂が広がっている。全くそんなことはないんだけど、真似してるやつが巧妙にしている。
俺と商会長はSanctuary Silentで話し合った。商会よりも腹を割った話し合いが出来るから。商会だと、どこで誰が聞いてるもんだか……・。
「どうやらこの手でカルロ商会を潰そうと思ってるみたいだな」
「……商会を潰す?」
何でマスターが反応したのかわからない。
カランカランと店の戸が開く音がしてレオナが店に入ってきた。
「そうみたいよ。恥ずかしながら、グランデ商会のおじい様派の人間ね。おじい様は気に入らない商会を昔から潰してきたのよ」
偽のクラッカーに使われている香辛料は粗悪。ハーブもなんだかよくわからなかったようで、適当。分量比とかも適当。カルロ商会はきちんと割合とかも検討したんだけどな。
「マルコ、明日にでも偽のクラッカーを実際に入手してくれないか?いくらで売ってるものだかも知りたい」
俺はやっぱり実働なんだ……。
思いながらも翌日、俺は偽のクラッカーを売っていると思われる屋台でクラッカーを買うことにした。
「親のお遣いなんですよ。えーと全種類100・・・いや200グラムずつもらえますか?」
「親のお遣いって見た目の年齢20才越えてるのに、まだそんなことしてるんですか?俺みたいに堅実にでも働くべきじゃないんですかぁ」
え?……だって……転生したんじゃ……俺に唾を吐きかけた奴?VRMMOにいる?俺は自然と猫背になってブルブルと体が震えて行くのを感じた。
「お客さん?大丈夫ですかぁ?今は暖かい季節ですよ?むしろ暑いくらい。代金は200の4種類で1万となります。お客さん?大丈夫ですかぁ?」
俺は一刻も早くその場を離れたかったので、一万渡して商品を受け取り、急ぎ商会の本店に戻った。
「おいおい、マルコ。顔色が悪いけど、大丈夫か?」
俺はトイレに行って、食べたものを吐いてしまった。
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「マルコにお遣いを頼んだら、物凄い顔色で戻ってきて。なんかあったのか?」
「……誰だって言いたくない事の一つや二つあるもんだ」
「ってことはマスターも?」
「……」
「まぁ、俺も胃腸の事は公言したくないからな」
そう言いながら、カルロはアマーロ・サワーを飲み干した。
「マスター、これらがマルコに買ってきてもらったクラッカーなんだけど」
「見た目ですでに偽物ですね?」
「そうなんだよな。このシールのサブタイトル的なのとか違うし、本当の常連さんならすぐにわかる。ただ流行に乗っただけのお客は騙されて、しかもカルロ商会を貶めるようなことを言うんだよ」
「こればっかりは取り締まることができませんし、一体誰がこんな事を?」
カランカランと店の戸が開く音と共にレオナが店にやって来た。
「グランデ商会の前商会長派の仕業よ。懲りずにこれ幸いとカルロ商会を潰そうとしてるみたい」
「そしてのし上がるんですか?」
「そう、砂上の楼閣に。王制なんて古いのにね。いつまでしがみついているのやら」
レオナは肩をすくめてアマレットをオーダーした。
「私がなんとかしたいけど、おじい様は隠居していることになっているから居場所がわからないのよね」
「レオナも偽のクラッカーを食べてみるか?」
レオナが偽のクラッカーを食べた。
「なにこれ?全然違うじゃないの?誰が作ったのか知らないけど、味覚がおかしいんじゃないの?」
「そこまで言うか?」
俺は寮の部屋に閉じこもっていた。
この世界に転生して、新しい自分になったと思っていた。
……違った。ここはVRMMOの世界。どこまで行っても追いかけてくるようなあいつらの影。
怖い。
もう逃げ場はない。今度は確実に……。
生まれ変わって新しい自分になったと思ったのに。これまでの自分とは違う自分に近付いてきたように感じていたのに……。
寮の俺の部屋がノックされた。怖い怖い怖い。
「マルコ?俺だ。いるのか?入るぞ?」
商会長は部屋に入ってきて布団を被って丸くなって震えている俺を見て、笑った。
「何をビビってるんだ?背を伸ばせよ。お前はマルコだろ?カルロ商会っていうおっきい商会の商会長の右腕だろう?何をそんなにビビることがある?」
商会長に商会長の人格を俺が作ったことは伏せて、この世界が俺がやっていたゲームの世界であること。俺が過去に現実世界でイジメに遭って自殺し、この世界に転生してきたこと。またこの世界で俺をイジメていたやつと遭遇したこと。を商会長に告げた。
「ふーん。ゲームの世界ね。だから何なんだ?俺もお前も生きている。俺が商会長でお前がマルコであることに変わりはないだろう?昔イジメてたやつ?知らねーよ。そんなやつ今のお前に比べたら小物だ小物!お前は何て言ってもカルロ商会長の右腕だからな。背筋伸ばして堂々としてればどうってことないただの小物だ。ふぅ、ちょっとは元気でたか?」
「気が楽になりました。そうですよね。俺は今はマルコです。昔の影に怯える必要はないんです。さっ、明日からも元気に仕事しよう」




