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「さて、試作品もできたし。市場での意見も聞きたいところだ。マルコ!頼んだぞ!」
出たー!俺への丸投げ。やるけどさぁ。
うーん、朝ここに来る間に会う若者に話を聞いてみるのも面白そうだなぁ。やってみよう。
そういうわけで、簡素なパッケージで俺はスパイス・ハーブクラッカーを若者に試食してもらった。
「うちの商会での新商品なんだけど、君達みたいな若者の意見が聞きたくてさぁ」
「いやぁ、マルコさんだって十分若者でしょう?」
笑われた。
とりあえず、食べてもらった。
「なにこれ?マジで美味くない?いくらでも食べれる感じ。次々手が伸びるよ」
食べ過ぎは太るよ?やめときなよ。本当に太るから。
「こっちのハーブの香りがする方は?」
「なんか上品だな。なんかこう、喫茶店で本でも読みながらカプチーノを片手に食べるみたいな?」
なるほど、クラッカーだから粉が本に挟まるよ…。読書はないかなぁ?
「甘じょっぱい感じのは?」
「おっ、これは……。前にこっそり飲んだ親父の酒の肴に合いそうだ」
「お前、飲んだのかよ~。ちょっとだよ!一口だ‼」
酒の肴かぁ。やっぱり居酒屋系に置いてもらうかなぁ?
「最後にこのプレーン味は?」
「プレーンだな。何に使うんだ?」
「これはね?実は料理に使えたりもするんだ」
「それだと、うちのオフクロが使える感じかな?」
「総合するとさぁ、成長に合わせて味が変化する感じ?ホラ、赤ちゃんはプレーン味だろ?そんで成長したら男の子はスパイス系で女の子はハーブ。最終的に男は勤め始めて親父臭くなったら酒の肴で甘じょっぱいのを食べるだろうし、女は主婦になればプレーン味か?そんな感じする」
「あ、俺もそれは思った‼」
俺は思わなかった。単なる購買層だと…。そうか、長期的な購入が見込めるんだな?メモメモ。
「このスパイスさぁ。もっと濃くていいと思うんだよね」
「あ、俺も思う」
それは商会長の胃が判断したんです。
「それはその濃さだから『もっと食べたい』とか思うんだよ。仮にもっと濃かったら『これで満足』ってなるだろう?それじゃあ商売的に良くないんだよ」
「なるほどなぁ。マルコさんは商人だなぁ」
いや、商会長の胃なんだけど…。
「街行く若者に試食してもらったところ、以上のような結果でした」
「成長と共に食べる味が変化するのか…考えなかったな。街の若者って視点が面白いな」
うーん、商会長は街の若者だった経験がないんだろうか?まさかの貴族様出身?
「今度は市場のオクサマに試食をしてもらおうと思います。また違った意見が得られるかと思いますので」
一足早くSanctuary Silentには試供品だけど置いてもらっている。お客様の反応をお聞きしたい。
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「あら、マルコ君?市場に来るなんて珍しいわね?どうしたの?」
「皆さんのようなオクサマのご意見を参考にしたいと思いまして」
「あら、嬉しいわね。おっきな商会なのに驕らずに私達みたいなのの意見を取り入れようって姿勢は好きよ」
奥様達はグランデみたいな貴族ばっかり相手にする商会嫌いだもんな。あ、レオナが改革頑張ってるんだっけ?
でもなぁ、奥様達に染みついてる『グランデ=庶民は相手にしない』って構造を払拭するのは難しいと思うぞ?
「これなんですけど、味の感想をいただきてくって」
「いいわよ、何でも答えるわよ?」
「ええ、マルコ君の頼みだもの‼」
心強い。
「ほんのりスパイス味ね、うちの息子が好きそうな味ねぇ。セーブするのが大変だわ。なんだかいくらでも手が伸びる感じ」
「あ、わかるわ。うちはまだ小さいけど、将来的にそうなる感じするもの」
「こっちのハーブ味の方は上品ね。奥様のちょっとしたお茶うけに使えそうよ?」
「そうね。そんな感じがするわ。甘じょっぱいのは…完全にお父さんのお酒のツマミかしら?」
「そうよね、バクバク食べるにはちょっと塩っぽい感じがするわ」
「それに比べて、このプレーン味だけど……平凡で」
そうなんだよね。
「それをベースにして残りの3つの味を作ったので。でも仕掛けがありまして」
「え?なになに?」
「このプレーン味、料理に使えるんですよ!俺だったら、揚げ物の時に砕いたやつを衣に混ぜるとかかなぁ?食感が変わりますよね」
「なるほどねー。砕いて混ぜ込むのかぁ。パスタソースに混ぜ込んで使っても良さそうだわ。食感が変わるだけでなんだか楽しい」
「そして、重要なのは……クラッカーなので長期の保存が利くところなんです。こういうのって重要ですよね?」
「そうなのよ~。マルコ君、わかってるわね~」
「でも、料理にも使うとなるとかなりの量を買いに行くことになるわ。そのためにカルロ商会の本店に行くのはちょっと……」
ですよね~。
「俺としても、若い子に家とかそんな閉鎖された場所ではなくて、外で食べてほしいというか」
「あ!屋台‼ 屋台で販売するっていうのはどうかしら?それなら若い子がちょっとフラッと買いに行けるじゃない?わざわざ商会に買いに行くのは……」
だよねぇ。食べたいからって商会に買いに行くのはおかしいと思うんだよね。
「甘じょっぱいのは、お酒を提供するお店にも置いてもらえないか交渉する予定です。絶対的に家じゃないとっていうのはプレーン味でしょうか?」
「そうね、そう思うわ」
「というように、市場で奥様達と話をしてきました」
「マルコ。お前は随分オクサマに人気だな」
「へ?よくわかりませんが。屋台での販売が好ましいという話でした。この場合、スパイスとハーブの香りはなくなってしまわないでしょうか?パッケージにも工夫が必要ですね?」
「お、おう」
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「街の方の反応って俺らの想定よりも上を行ってるんで驚きましたよ~。長期的にスパイス・ハーブクラッカーをカルロ商会で売っていくことが出来そうです。マスターにも手伝っていただきありがとうございました」
「……年寄りの手習いみたいなもんだ」
「パッケージはどうしよっかな~♪」
俺はグラスの氷をカラカラ鳴らしてしまう。
「……楽しそうだな」
「仕事にやりがいがあるってこういうのをいうんですかね?マスターも楽しいですか?」
「……ああ」
笑ったように見えたのは気のせいかな?マスターって鉄仮面だから。
カランカランと戸が開く音が聞こえて、誰かが入ってきた。
「商会長‼」
「ああ、マルコか。今日はご苦労さん。明日は休むか?」
「止めて下さいよ~。今、丁度仕事が楽しいところなんですから‼」
「そうか……。マスター、いつものを頼む」
商会長は今日もアマーロ・サワーを飲んでる。
やっぱり絵になってカッコいいよなぁ。
「なんだよ、マルコ。こっちをじっと見て」
「いや、カッコいいなぁと思って」
「うわっ、気持ち悪い。酒がマズくなるっ。席離れよう」
商会長とパッケージの話したかったのに、離れられた……。カッコいいと思ったのは事実なんだから仕方ないじゃん!
マスターは無言でグラスを磨き続けている。
席が離れているけど、俺は商会長にパッケージの相談をした。
「スパイスとハーブの香りを失わせないパッケージにしないと、クラッカーの良さを台無しにしちゃうと思うんですよねぇ」
「俺はその会議で今まで拘束されてたんだよ‼」
俺はいなくて良かったのか?
「家でクラッカーを保存するのは、プラスチックの容器にするのはどうだろう?」
この世界に除湿系のあるかな?イメージは米びつなんだけど。
「でも、持ち歩きとか外で食べるのに容器はないよね。だと、ビニール?長期保存に向いてないね」
屋台で売るなら、計り売り的にしてビニールに入れればよくない?と思うんだけど、なんでこの時間まで会議が時間かかったの?
「それなんだが、売るにしても4種類それぞれ包装を変えた方がいい。って意見が多くてなぁ」
なるほど。
「俺の意見いい?屋台で売るなら、計り売り的にしてビニールに入れればよくない。でさぁ、種類ごとにシールでも貼ればいいじゃん。ほんのりスパイス味ならそれっぽいシール。とか。全種類ビニール袋でいいし、シールを貼るだけの計り売り。全種類同じ袋だからコストも防げる。かかるのはシールの料金だけ。屋台で働く人件費かなぁ?屋台はガッツリスパイスとハーブの香りがなくならないようにすればいいじゃん。それこそプラスチックの容器とか?」
「なんでお前が会議にいなかったんだ?」
俺が聞きたい。




