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第六話 劇的ならざる遭遇

 迷宮と宝物は磁石が対の極に惹かれるかのように密接な関係にある。古代の神話や歴史においても暗がりが支配する空間では怪物が蔓延り、その最奥では財宝が鎮座しているのが定番である。


 それらは美辞麗句で以て大衆を扇動し、伝説として昇華されつつも人々に際限のない夢想を提供する。そして、宝物は次第に幻想で彩られた魔力を帯びるようになり、それを悪用して生殺与奪を勝ち取る者が現れるのも世の必然だった。


 司教の首が断ち切られる。縦横無尽の宝箱が織りなす多属性の嵐はキリカとアルバードを翻弄しつつも宝物現出のラグが弱点として露呈されれば後は脆く、宝箱を足場としたトリッキーな移動も慣れてしまえば出現予測も容易であり、結果として数分の攻防もままならず、司教は迷宮の大地を不遜にも自らの血で染めつつ消滅した。


 「あ゛ーーー・・・しんどかったぁ・・・」


 溜息を吐きながらアルバードが脱力して地面に倒れ込む。キリカならまだしも迷宮攻略に本腰を上げていないアルバードやユーリにとっては千差万別の法則が蠢く迷宮は外界とは異なった未知も同然だろう。

 事実、キリカ自身、上野や横浜、博多などの迷宮は苦手意識を持っており、上級者でさえ豪華な報酬を代償に疲弊感を覚えるのは珍しいことじゃない。


 「まぁ、コイツは突発的なモンスターだったろうからな。暫くはリスポーンの可能性を考える必要はないだろ」


 装備を整えつつ、キリカは淡々と応対する。二人の所在が不明な以上は下手に駆け回るよりも現場待機が優先されるのだが、ユーリが転移直後に力尽きたのが非常に気がかりだった。

 カイトよりも遙かにやり込み、仮にも四級に位置する人間がやられるとは相当な難敵だったのだろうが、それを相手にしてカイトが生存するビジョンがキリカには浮かばなかったのである。


 「どうしたよキリカ、らしくねぇじゃねぇか」


 「・・・いや、少し早計過ぎたなと反省してるだけだ。外にもマシな敵の一体や二体はいただろうにな」


 「つったって、迷宮に頼んねぇと短期強化が見込みづらいのも事実だろうが、それにさっきのあれは馬鹿の自業自得だ」


 辛辣だが適切な評価を下すアルバードとそれを聞いて余計に不安が募るキリカのレッドエリークが同時に鳴り響く。見ればパーティ専用回線として用意された電話マークが鳴り響いており、それだけで相手が誰だかは明白だった。


 「――よう、何とか無事だったみたいだな。成金泥棒くずれ」


 『うぐっ!?事実だけども・・・・・・命からがら生き残った奴にそんな言い方はねぇだろ!』


 キリカの応対に精神的ダメージを負いながらも回線上では目立った負傷を感じさせない声の主にして滑稽にも突貫していった阿呆の片割れであるカイトとの電話が繋がれる。

 それは朗報でありながらも、初心者が迷宮を未だに駆けているという何よりの証左でもあった。


 「とにかくだ。積もる話はあるがさっさとお前とも合流したい。今お前は何処で油を売ってる」


 『あ?えーと・・・京王新線方面の大江戸線の連絡通路って所か』


 「正反対じぇねぇか・・・ふざけやがって。どんだけ遠くに飛ばされてんだ」


 露骨に悪態をつくアルバードの気持ちが理解できないでもない。予想では精々、丸ノ内線の改札付近と想定していたが、地味に性質の悪いエリアに転送するとは変なところで抜け目のない敵だと逆に感心した。


 迷宮はシステム上、安全面及び無銭通過阻止のため、改札およびそれに類する通路への進入は禁止されている。

 勿論、大江戸線や地上への階段が備わっている山手線方面など一部は問題ないが、それでも改札進入は本来であれば禁忌であり、それはどの駅も例外ではない。

 新宿駅の場合、その構造と現在の位置から京王新線へと赴き合流するには京王モールという隠れ場所のない一本道を経由しなければならない。ここで挟み撃ちにされれば逃げ場所がないのに加え、ゴブリンやオークなどの溜まり場でもある。そこの突破は難儀ではないものの、面倒極まりないのだ。


 「・・・分かった。いいか、下手に動くなよ。それと京王モールには向かうな、そうだな・・・そこから先の南口方面から階段を伝って青い柱のある京王線改札で待ってろ。俺たちの方から合流する。いいな」


 『オーライ、任せろ』


 「あぁ、それとユーリはどうなった?アイツもお前と同じ穴の狢だったろ」 


 『・・・・・・北海道の天然記念物みたいになりました』


 アルバードとの問答で大体の末路を察する。恐らくは過食獣辺りとぶつかったのだろう。でなければキリカ達の想起する死を迎えることは難しい。


 「――そうか、分かった。それじゃあ俺たちも合流ポイントへ急ぐ、お前も出遅れるなよ」


 『そっちこそ、調子乗って無様に死んだりでもすりゃ向こう一週間はネタにしてやるから覚悟しとけよ』


 悪辣な言動とそれに反論するでもなく、ただ口元を歪ませたキリカとアルバードは通話を断ち切る。全員での生存は不可能でもカイトの生存は半ば約束された状況の中で、二人の少年が考えるのは他でもない。


 「だそうだ、他人に喧嘩を売るってことはテメェにも降りかかる覚悟があるってことなんだろうぜ」


 「――あいつには期末試験の前のモ〇ポリーでの罰ゲームでセンブリ茶を飲まされたからなぁ・・・アイツが死んだら、サドンデスに包まれた真っ赤な飲み物でも奢ってやんねぇとよぉ・・・」


 即ち、死を対価とした絶対の誅罰。碌な末路や間抜けを晒そうものなら待ち構えているのは悪鬼でさえ青ざめる地獄絵図であり、その攻防が水面下で少年らの嘲りと共に広がろうとしていた。


※※※※※


 過酷と嘲笑が飛び交う戦場を駆け巡る。南口への階段は視野を広く確保できたためにゴブリンの探知が非常に行いやすく、先攻して相手の行動を制限し、そのまま葬り去ることも可能となっていた。

 それでもゴブリンは狡猾であるが故に余裕を崩さず、初期装備のまま迷宮へと誘われた哀れな生き餌を屠るべく喉を鳴らして攻撃し、それら全てが灰燼となって消失した。


 当然ながら、カイトにここまでの技量はない。技術値の割り振りは済んでおらず、装備の更新も魔法の習得も一切成されていない。

 ならば何がカイトの急激な強化をもたらしているのか。それは右掌に掲げた短剣にあった。赤黒の傷んだ血管の如き刃ではない純白に煌めいた白夜を連想させる短剣。

 本来ならば入手に相当な苦労と心労を要する上級武具の一本をカイトは即席の戦友から譲り受けていたのだ。


 「これは詫びの品だ。こちらの油断で君の武装を喪失させてしまったからな」


 「え、いや、大丈夫ですよ。そもそも俺の不注意だってさっきも・・・」


 「それでもだ。私は仲間を無残に死なせ、その上、見ず知らずの人間である君まで危機に晒した。この不始末に対して謝罪を成さねば私は私の内に燻る虫を押さえられん」


 そう言って半ば強制的に渡された短剣は、一瞥のみでも高級品さえ遙かに凌駕する性能を誇っており、とても初心者が安易に装備してよい武装のそれではなかった。


===========

名称:陽光脈【明牢一天】

攻撃力:4896

耐久値:5227

効果:この短剣を装備時、光属性攻撃力を1.6倍。クリティカル発生率を7%向上。

術式:光属性初級魔法【輝ける光撃(スキャンリーグ)

説明:万象を照らす太陽を彷彿とさせる鉱石である《デルテ・マリオント脈石》を素材として作成された短剣。

 明星に庇護され、日輪の寵愛を一身に受けしその刀身は、教会の清めがなくとも聖罰を可能とし、闇の魍魎にただ断罪の夜明けをもたらす恩光として機能する。それは正に罪人へ容赦なき鉄槌を下す聖人が如し。

===========


 滅茶苦茶だった。もう何もかもが破格すぎて一切の言葉が出てこない。というかそもそも装備のレベルが月とすっぽんレベルで釣り合っていない。

 すっぽんどころかカイトの短剣は芋虫にさえ至っていないミジンコ未満の短剣である。それがここまで進化したとあってはわらしべ長者どころか等価交換の原則を踏み絵にした挙句、マッチで燃やしてそのままキャンプファイヤーをしてしまう勢いであり、あまりの衝撃からカイトは完全に語彙が力尽きていた。


 「これは所謂、魔法剣の類だ。プレイヤーの魔力を注ぎ込むことで、術式を起動し、それを放つ。君の場合は風属性が特能らしいが、心配することはない。属性の差異があったとしても問題なく術式は発動する」


 「・・・・・・いえ、俺が聞きたいのは術式どうこうじゃなくてですね。こんな大層なモンを俺みたいな下賤なゴミクズ野郎に渡す気が知れないって言うかですね」


 「・・・急にどうした?礼はいらないぞ。それはあくまでも私なりのけじめだ。それに私は魔法銃専門なのでな、短剣は不要なんだ」


 そういう問題じゃない、とカイトは心の底から叫びたかったが、彼女の更なる一言がそれに蓋をした。


 「特にその短剣は鋼楼迷宮攻略の際に複数本入手して処理に困った奴でもあるのでな。むしろ引き取ってくれるとありがたい」


 天使を幻視した。思わず五体投地の体勢となり、彼女へと平伏する。その姿は端から見れば異常者同然であり、事実、その天使さえも困惑の表情を見せていた。


 「な、土下座はよしてくれ!私は別に感謝も何も望んではいない!」


 「しかし、それでは私の立つ瀬がありません・・・どうかお慈悲を」


 哀れみにも似た顔でカイトを見下ろす女性は短く溜息を吐くと自らのステータスプレートを展開し、あるものをカイトへと送りつけた。


 「へ・・・?《ジトローネ》からのフレンド申請・・・?」


 「私のプレイヤーネームだ。友人になればそのような他人行儀の態度は必要ないだろう」


 カイトはまたもや天使を幻視した。それと同時に、成人女性との初フレンド登録は高校一年生にはあまりにも刺激が強く、ステータスに頼らない高揚状態を意図せず与えることに成功した。


 「ふんがあああああああああああああっ!!」


 薙ぎ倒し、切り裂き、赤ポリゴンへと果てていく怪物の群れを、縦横無尽の勢いで突破していく。先ほどまで難敵だった《ゴブリン・ルーク》は陽光の名の元に塵芥と化し、オークもスライムも皆平等に焼け爛れて死に絶えていった。


 孤立の短剣とは段違いの性能差と操作性はカイトの制圧力を飛躍的に上昇させ、一気に南口から百貨店への連絡通路を通過。完全にジトローネからの温情のみで青い残光が立ち並ぶ京王線改札口への到着に成功していた。


 「ハァ・・・ハァ・・・陽光脈強すぎワロタだなマジで・・・」


 改めてMMORPGの妙を痛感する。あの出会いがなければ自身の生存は担保されなかっただろうし、ここまでの短期強化は望めなかった。

 虚駆魔神討伐が最終目標である以上、自己の劇的な成長は求道されるべきことだが、それでもここまでとは思っておらず、驚愕と優越感に浸っていたところを不意に弾き飛ばされた。


 「がっ―――?」


 急激な物理法則の反逆。まるで空間自体に裏切られて反発されたかのように百貨店の入り口奥の壁へと叩きつけられたカイトは何が起こったのかも、自身の状況を確認する余裕さえ愕然と唖然に塗り潰されてしまい、ただ眼前の敵を見据えるのみだった。


 巨大な浮遊体。全身を濃緑で満たし、眼光は藍色に血走って、筋骨隆々の肉体が威圧と荘厳を侍らせている。

 背後には純白の錦が揺蕩っており、腰のふんどしを除けば衣服の一切が存在していない。それは古代文明の衣服さながらであり、何よりも否応にも逆立ち、鳥肌に塗れたカイトの肉体が畏怖の正体を物語っていた。


 虚駆魔神が一柱《風神》。シンプルながらも神格を証明する二文字はカイトの全身全霊さえ瞬きも要さずに粉砕せしめる文字通りの化物にして、新宿駅を模倣し、乗っ取った《白理迷宮》の長の姿だった。


 「―――終わった・・・」


 一言、発せられただけでも奇跡な単語のみで死を錯覚する。そしてそれが風神にとっての開戦の火蓋として切られることとなった。

 








∀ROの素朴な疑問を強制開示するQ&A 第五回


Q:武器とかに使用制限ってないのかよ


A:特にはなし。ごく稀に特殊な条件が課せられる武具は存在するが、基本的にはどれだけ高性能な装備だろうと、担い手に対する制限はない。なので、初心者から上級者まで装備できる。カイトが初日デビューしたばかりでも馬鹿強い短剣を振えているのはこれが理由。

 武器種については詳しい数は決めていないが、どれだけ奇天烈な物でも装備は可能。なんだったらちゃぶ台とか松明などの一部にしか需要のなさそうな物体でも、武器には成り得る。ただし、個々に定められた熟練度とそれに比例する形での剣技等は当然ながら実装されているので、極めるにはスキルの強化が必要である。


 ちなみに余談ですが、カイトの台詞にあった北海道の天然記念物がよく分からないという方は『まりも 兵士』で検索してみてください。責任は負いません。


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