第一七話 即席結成
はい、あれよあれよの内にいつの間にか二ヶ月経過してしまいました。本当にお待たせしました。現実という名の魔王を一時撤退させたかと思いきや自分も共倒れしてしまい、ここまでの時間を費やしてしまいました。今後は健康に注意しつつ隔日更新を目指して精進していきたいと思います。
ですが、やらかしはやらかしですのでこのまま三時間連続投稿行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
魔法は自然摂理を超越し、概念を覆す超常を示す技術大系であると同時に、血や臓物などの生命の残滓とも深い関係性が築かれている。
誰かの犠牲による魔力の確保、生け贄を前提とする儀式、霊魂を強制徴収することによる砲撃。特に黒魔術系譜は旧世界の邪神が使用していたとされる魔法群であり、その一部は闇系統にも継承されている。しかし、黒魔術を生業とする存在は千差万別ながらも全員が生命に頓着を感じない点でのみ共通している。
オーククイーンに部下と上司の繋がりはない。彼女にとって己を除いた世界は贄の蔓延る実験場と同義でしかなく、彼女に見初められたオークは誇り高き兵士としての死は許されず、ただ苦悶を糧とする絶望の終焉だけが求められている。
怨恨が渦巻く。無惨にも骸と成り果てたオークたちの怒れる渇望だけが竜巻となってオーククイーンの周囲を包み込んでいる。
下手をうった。黒魔術師は詠唱と周囲の生命簒奪によるタメを重要視するために、その隙を突こうとしたのが間違いだった。もう既に周囲のオークは力尽きていたのだ。お陰で完全に後手に回ったキリカはオーククイーンの黒魔術の成果に真正面から対抗せざるを得なくなっていた。
「・・・面倒くさくなってきたな」
対応は容易だ。だがそれはMPを多量に消費する超級魔法が必須である。しかしそれを拒めばピンポイントでの女王射殺は竜巻の壁が阻むだろう。故にキリカの手札は必然として同威力の魔法及びスキルによる相殺か、空間自体を根こそぎ抉るかしかなく、後者を選択したキリカの右掌には既にオーククイーンを優に超える莫大な魔力が蓄積されつつあった。
初級、中級、上級の果てにある魔法の究極にして極致。それは世界の戒律や法則さえも捕食する魔の極点を指し示し、ただ絶対のみを体現する。
その集約は黒魔術の渦中にあるオーククイーンを戦慄させ、キリカは序盤から割に合わないMP消費を後悔しつつも、放出せんとした刹那―――突然と炎が灯った。
「桜犀流――」
緋色の剣気。紅を纏わせ、されど桜吹雪のような清廉と儚さを備えた刀剣の構えは少女の練度の高さを証明し、業火を全身に宿して己が流派を振るわんとする姿はオーククイーンのみならずキリカにでさえ自身が戦場において命を賭けている事実を忘却させた。
「炎朽輪ッ!!」
身体を捻り、宿した炎熱を黒風にぶつけ、その乱気流ごと利用する範囲型の剣技はオーククイーンの黒魔術へ見事なまでに適応し、彼女の部下の命ごと容赦なく炎の金木犀が絡めとり、上空へと霧散させた。
「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」
黒魔術は研鑽と共鳴する。威力と精度は魔法以上に錬磨の成果を象徴する代物であり、それをただ消滅させられるのみならず、儀式の中心とした少女の魔力で掻き消された彼女の悲痛は文字通り想像を絶する筈だ。それはオーククイーンが表情を歪ませることなく、ただ双眸を黒に染めて、唖然としている様が物語っている。
「お前は・・・!?」
だがそれ以上に両者にとって衝撃だったのは先まで磔にされ身動きを封じられていた少女がその元凶を討伐寸前まで追い込んでいる事実であり、それらの驚愕はオーククイーンが地面から抽出し、具現化された魔力が何よりも物語っていた。
怨霊が沸き立つ。恐らくは散夜の洞窟で息絶えた死霊の呻き声が凝縮され、オーククイーンの周囲に漂っていく。それは黒魔術師の基本とする魔力弾の改造版に他ならず、圧縮率によってはフロア全域が範囲になりかねないほどに怨霊の怨嗟を掻き集めんとしていた。
「なるほどなるほど、死者の魂自体を弾にしようってワケだ。タマだけに」
正面。オーククイーンの恐怖心が内在された魔力弾に対して退く素振りさえ見せずに少女が受けて立つ。構えた魔法剣は洗練された技術と圧倒的な魔力充填率を誇る上位種だというのを刀身から感じさせ、刻まれた旧界文字がそれを促進させた。
「ガ、ガァァァァァァァァァァァァァッ!!」
雄叫び。声帯を張り裂けんばかりの叫声と共に怨恨が少女目掛けて発弾される。対して、魔法剣の切っ先に魔力を帯びさせ、瞳を閉じたまま無心へと至った少女の姿は居合いの領域と似ており、彼女の練度がアルバード以上だとキリカに確信させた。
炎の龍が宿る。それは黒魔術に浸り、数多の生命を蔑ろにして陵辱の限りを尽くした悪鬼を滅殺すべく、牙を開かせた。
「―――桜犀流・炎龍孔華穿」
静謐に、まるで神に祈願でもするかの如く呟いて、少女の一閃がオーククイーンの心臓を穿つ。それは一見すればただの突き攻撃、されど魔力弾の圧縮率を優に超える刺突が一瞬の猶予や懺悔の余地さえ与えず、オーククイーンを蒸発させた。
「桜犀流は花吹雪のように滑らかに、けれど、青葉を意地でも芽吹かせようとする植物の豪快さを体現した流派。そういう意味では命を枯らして毟り取る貴方にとっては天敵だったかもね」
技量のみを判断すれば文句なしの一流。むしろこれだけの実力を兼ね備えながら生贄にされかけていたのが信じられないほどの大立ち回りはキリカに疑問符を抱かせ、彼女に対して興味をもたらす要因となっていた。
「さてと・・・君らは洞窟周辺を探索してる冒険者ってことでいいんだよね」
「それはこっちの台詞だ。まず他人の素性を問うならお前から開示しろ」
「あ、それもそうだね。アタシの名前はアイナ。称号は三級で武器は片手剣だよ。基本は炎だけどたまに風とかも使うって感じかな。それで防具は――」
まさか自己紹介を求めて武装情報まで開示されるとは思っていなかった。お陰でキリカは彼女の素性どころか武器防具の構成に加えて彼女のスキル表まで閲覧する羽目になってしまった。
「・・・まさかここまで見せられるとは」
「あ、ごめんごめん!自分語りしすぎた!本ッ当にごめんね!つい初対面の人と話すと勢いに任せがちになるっていうかさ・・・」
「いや、こっちこそ変に疑って悪かった。俺はキリカって言うんだが・・・その前に、お前とすれ違っただろう馬k・・・プレイヤーが何処に行ったか知らねぇか」
「あぁ、あの人なら『俺は武器を漁ってから向かうぜヘヘヘ』って感じで周辺を回ってるけど――」
「オイ、人を夜盗みたいな声真似で紹介するんじゃないよ」
背後から突然と現れた夜盗もといカイトは両腕に目一杯の石槍を抱えて両者と合流する。それはドロップ品の名目がなければ盗人さながらであり、次の瞬間にはカイトのインベントリへと全てが収納されていった。
「・・・お前、まさか金銭目的で回収したわけじゃないよな・・・?」
「勿論そのつもりですが何か?金は人生の資本だぜ、金さえあれば大抵の願望は成就される。そして風神の短剣を強化するには莫大な資金が必要だ。つまり、これは立派な投資なんだよ」
「流石魔物を一匹も殺さずに漁夫った男の言葉は重みが違うぜ」
ゲームに過度なプライドを持ち込むほど滑稽なことはないが、だからといって素材重視の守銭奴が上等かと問われれば素直に頷けないのも事実である。プレイスタイルが千差万別である以上、それにとやかく批評するのはお門違いではあるのだが。
「そういえば、どうして君らはこんな洞窟にきたの?前回の遠征の時ってここ狩場としても非効率だったよね?」
「あー・・・それはだな・・・」
「別に言ってもいいんじゃね?一人に聞かれて魂魄が失せるんだったらイベントの欠陥なんだしよ」
そう言って、自身の行動目的やスリーズでの行動録、魂魄の情報などを一切の虚偽なしにペラペラと喋り尽くすカイトとそれを素直に受容するアイナの姿はどちらも打算のない対話であることをキリカに確信させ、疑念が杞憂で済むことに少しホッとした。
「なるほどねー、ってことは彩瞑山周辺が現状では最短ルートってワケだ」
「そういことになる。だが言伝な挙句に生態系が不明な以上、どこまでが本当かは分からん。過度な期待はしない方がいい」
「まぁでも行き先が確定してるなら問題ないデショ。かくなる上は―――」
アイナが不意にメニュー画面を開き、手慣れた操作でメッセージを送信する。そして受信先の両名はそれが《パーティ加入申請》だと気づくと特に迷うことなく了承の返事をした。
「アリ?アタシが言うのもアレだけど、結構簡単に承諾するんだね」
「そりゃな、戦力は多いに越したことはないし、情報を共有したのなら監視下においた方がやりやすい。それだけのことだ」
「ま、コイツはこんなこと言ってるけどさ。折角出会ったんだ、だったら三人で女王をぶっ飛ばそうぜ」
「そうだね。それじゃこの縁に感謝しつつ彩瞑山へと進軍するとしますかーーー!!」
「ヨッシャーー!!」
完全に指揮系統を略奪され、しかも仲間の一人は既に扇動を受けた結果、数年の歳月を重ねた友人の如く和気藹々と歩み始め、キリカはその思い切りのよさに感服しながらそれに追従する。
ここに、即席ではあるものの、一週間の苦楽を共にする最初のパーティが人知れず完成を迎えた。
ちなみに流派の名前や一部魔法名が読みづらいのには本編に関係ないちょっとした理由があったりします。




