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第一六話 炎に踊る

現実が・・・・・・現実が忙しすぎて・・・投稿頻度が・・・ゴミクズ・・・ウゴゴ・・・・・・。

 中世の処刑は現代以上に千差万別にして、凄惨と無惨が同居する極めて血生臭い手段が多様に採用されている地獄と形容するに相応しい世界だった。

 拷問器具は加虐を最重要とし、血潮と責め苦こそが至上とされ、刑罰における死罪も死という終焉に意味を付け加えるのかの如く、その土地の宗教観も含めた幕引きが用意されていた。


 中でも磔は罪人の悪業を何よりも知らしめると同時に、魔女狩りなどの哀れな犠牲者を象徴する極刑の権化であり、最も耐え難い末路として君臨している。それらはゲームなどでも再現されるが、大抵はNPCへのイベント的要素かオブジェ程度の役割しかなく、プレイヤーが磔にされた挙句、火炙りにされかけているなど前代未聞もいいところだろう。


 恐らくは女性と推察できるオークを中心とした群れが磔にされた少女の周りで踊っている。それも所謂、勝利の喝采ではなく妙に儀式的な踊りであり、明らかに尋常ではない雰囲気を醸し出していた。


 「・・・何アレ?∀ROってこんなカルト宗教まで容認してんのかよ、マジかよ」


 「んなワケねぇだろ。アレも立派な習性だ、引っかかってる奴をみるのはご無沙汰だけどな」


 祭壇付近に潜伏するカイトとキリカはその異様な風景に戦きつつもキリカの知識を基盤に状況を分析していく。


 「嘘だろ・・・あんなモンスターが実装されてるってのかよ」


 「《オーククイーン・ステーク》。オークの界隈でも儀式殺人に特化した所謂、黒魔術的な分野に長けた怪物だ。その矛先はNPCのみならずプレイヤーにも牙を剥く。彼女はまんまとそれに引っかかったって感じだろうな」


 オークの女王の哀れな犠牲となった磔の少女。暁の空を彷彿とさせる橙色の長髪は今にも業火に包まれそうで、それに恐怖したのか少女はただ目を瞑るのみであり、さらに身体を一切震わせることなく、ただ周囲の狂笑に身を任せていた。それどころか首をカクカクと上げ下げして、明らかに自身の生気を取り払っていた。というより、


 「・・・・・・寝てないか、あの人?」


 「・・・・・・あぁ、完全に寝てるな。しかも確実にノンレム睡眠だなアレは」


 完全に就寝している。それも器用に鼻提灯までたてて力尽きている。通常、∀ROは何らかの要因によって意識の喪失が検知された場合、強制ログアウトが行使される仕様になっているのだが、彼女のレッドエリークにはそれが働いていないのか、健在のままオークらの手によって火刑に処されかけていたのだ。


 「で、どうする?助けるか?一応、迂回方法もないことはないが」


 救助の利点はない。情報収集という建前はあるが、リスクに対するリターンが少なすぎる。それに彼女が味方としてカイトたちの利益になる保証もない。故に今後の状況も加味するのならば一切関与しない選択が最善ではある。


 「・・・なぁ、一つ相談なんだけど」


 「あ?何だよ」


 「あのオーク共と戦いてぇって言ったら・・・賛成してくれるか」


 突然の大胆発言。しかも論理性の伴った思考で発されていないだろう一文はキリカの頭上に疑問符を浮かばせ、さらに問答には充分すぎる議題なのも相まって遠慮なくその疑問をぶつけられた。


 「・・・何故に?」


 「いや、単純にさ。ゲームとかで新種のモンスターと戦うのってワクワクしねぇ?」


 「お前は戦闘狂か何かか」


 「それに死んでも生きれるのがゲームの利点だろ。だったら生死を度外視して楽しみきらねぇと勿体ねぇじゃねぇか」


 確かにと、納得してしまった。


 ゲームとは遊戯であり、それに挑む理由もまた千差万別である。それらは内容によって異なるが、単純な趣味から暇つぶし、未知への探求に他言無用の欲求まで様々なのだ。

 しかし、それらの大半は現実には存在しない未知への憧憬からゲームを開封してその世界の扉を開門する。


 新たな怪物。その戦闘には何の利点もない。むしろ効率面から見れば逆効果だ。それでも新しさとはいつだって万人を魅了して離さない。同じプレイヤーとしてキリカはその考えに不覚にも共感していた。


 「・・・そうだな、それはその通りだ。だが、俺たちの目的に時間制限が設けられている以上、最短で完結させる。いいな」


 「オーライ。こっちだって魂魄抜きにしても短剣の強化も進めなきゃなんねぇんだ。速攻で墓場に叩き込んでやるよ」


 即席の救助作戦に具体的な内容はない。ただ挑戦して捻り潰す。たったそれだけを主題とする戦いが独断で以てそのゴングを鳴らした。


 暗媒鴉の一斉掃射。中級魔法の仮想質量は備えがあれば対処も容易なものであったが、全くの不意を突いた攻撃とあってはその防備や研鑽も功を成さない。故に局所的な絨毯爆撃がオークの一帯を包んだばかりか爆煙によって視界を鈍らせ、それが彼らにとっての疾駆の合図だった。


 オークやゴブリンなどの半人半獣はある程度の知性と狡猾さ、そして社会性を基盤とした統率力を最大の武器にしている。それを煙幕によって切り崩し、司令塔と断たせれば瓦解は極めて簡潔に進んだ。

 風濤流と闇属性魔法による即席の連携は瞬く間にオークの雑兵を一蹴し、しかし女王の所在のみが瞬時に把握できず、一撃の下に両断できなかったのが思わぬ反撃を生んだ。


 「―――業火・裂白(ファウコ・ビアンカ)


 白く輝く炎弾の雨がオーククイーンの周囲を漂っている。それは彼女が儀式特化の魔物故に行使可能な炎系統魔法にして、彼女の熟練度を推し量るにはあまりにも充分な火力を秘めていることはカイトでさえ一瞬で理解できた。


 「ッ!避けろッ!」


 キリカの咄嗟の指示を掻き消す魔力の砲弾が意趣返しと言わんばかりに周囲一帯を焼き尽くす。それはオーククイーンの仇討ちにして、両名の実力を問う弾丸でもあった。


 空気が焼けている。辛うじて回避はできたものの、あれ以上の攻撃を連続で詠唱されればひとたまりもないとカイトの本能が告げている。キリカは問題ないだろうが、それほどの差が女王とカイトの間には存在していた。

 そしてそれはオーククイーンも把握しており、すでに彼女の魔力炉は次なる形態へとその身を変えて発露しつつあった。


 「炎蛇舞踊ファウコサーペント・ダンザ


 大蛇の顕現。オーククイーンを中心として四方を囲った蛇の群れは寸分違わずにカイトへとその殺意を集中させた。


 「いっ!?やっぱ俺がタゲられてんのかよッ!?」


 至極真っ当なオーククイーンの選択は炎蛇の苛烈な動きも相まって見事に分断させられ、カイトは術式との相対を余儀なくされ、大凡、全長は一〇メートル程度だろう大蛇の噛みつきや蜷局による絞殺をすんでのタイミングで避けていくという曲芸を強制させられていた。

 一度直感による試算をしくじれば確実にお陀仏となる攻撃は徐々にカイトの防具を焦がしつつ、その余裕を失わせていく。


 「クソッタレがッ!四体しかいねぇくせに連携上手すぎだろうが蛇の分際でッ!」


 身体の可動域を最大限活かしつつ、捕食されれば即死亡の連撃を躱していく。挟撃は重なった瞬間に飛び越えて、尻尾は受け流しつつ反転、炎蛇が火を吹こうものなら口目掛けて伸剣・風牙をぶつけて相殺する。


 それらが体感で数分間に渡って繰り広げているように思えてくる。実際には精々三〇秒の攻防が尋常ではなく引き延ばされて感じられる。


 「風濤流・抗烟槌ッ!」


 上段からの振り下ろしによる風属性を孕んだ強烈な斬撃は炎を肉体とする大蛇には全くと言っていいほどに影響がなく、それどころかより一層の敵意と怨恨を炎蛇たちに提供することに成功してしまっていた。


 集約。大蛇たちが一切の躊躇なく己の身を捧げて混ざり合っている。それは紛れもない融合にして、カイトを確実に屠るために大蛇が選択できる最適解の具現でもあった。


 「マジでか・・・・・・!」


 たかが魔法、されど魔法が内包させた擬似的な意志が可能とした奇跡は先とは比較さえおこがましい蛇の怪物を誕生させる。

 炎蛇舞踊の発展形である舞踊転身の法がいつの間に唱えられたのかは不明だが、カイトの命が危機的状況へと陥っているのは確かだ。


 (風濤流で捌けるか・・・!?っていうか風神とはいえ短剣で、それも弱点属性を担いで相殺しきれるか・・・!?)


 迷っている暇はない。大蛇は攻撃態勢へと移行し、その体躯による質量攻撃をカイト目掛けて放とうとしている。下手に回避をすれば磔にされている少女まで巻き込みかねない。ならば、


 「風濤流・弦喰――」


 構えて、最大限の反抗を示す。その刹那の読み合いが両者の空気を撫でたその次には大蛇の首から上が断面図と化して吹き飛んでいた。


 「―――は?」


 緊張状態を強制的に解かれて何が何やらのカイトを余所に一人の少女が欠伸をする。それは今が起床時間とでも言わんばかりの腑抜けた声であり、それでも炎蛇を一刀両断した張本人の態度としてはあまりにも不釣り合いだったためにカイトは余計に混乱した。


 「ふぁぁぁ・・・寝起きに金切り声はやめてって・・・あり?ここ何処でゴンスかね?」


 緋色が言葉を紡ぐ。炎を体現し、全身に宿したかのような装備とは対照的な雲一つない晴天を彷彿とさせる碧色の瞳は先まで磔にされていた人間とは思えないもので、その天然さを証明するように少女は己の疑念を振り払ってただ笑顔を浮かべた。


 「ま、いっか!よく食べてよく寝て元気爽快なのは間違いないしね!で、君は大丈夫?怪我とかしてない?アタシはアイナって言うんだ。よろしくね、冒険者さん!」


 カイトへと振り返った少女はただ一言、カイトへと手を差し伸べて太陽の如く微笑んだ。


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