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第一五話 洞穴にて

はい、またしても見事に遅れました。公約違反を犯してしまい本当に申し訳ありませんでした。一応の言い訳と致しますと先週、某漫画家が逝去なさったというニュースを耳にしてガチで三日間やる気が出ず、本当に精神が危ない状況まで追い込まれていました。

 ですが、公約違反は事実ですので、以降はこのようなことがないように気を付けます。

 北国での冬季は文字通り死と隣り合わせである。雪が積もれば足が埋もれ、道が凍れば重心がぶれ、吹雪が風に乗れば交通機関は軒並みストップする。挙句の果てに寒さは人間の体温を容赦なく簒奪し、それに対抗できなければ凍死も免れない。

 当然ながら人類側にも寒冷対策は存在するものの、大半や焼け石に水を浴びせるに等しい手段ばかりであり、それさえも自然の猛威は打ち破ってくる。


 その極寒地獄はVRの発展以降、ゲーム分野でも実装されるようになったが、断じてここまでではなかったとカイトは凍える息を吐きつつ、自身の内で主張した。


 前方が霞んでいる。正確には霧氷の影響による視覚遮断によって遠方の景色が白色を除いて写らなくなっている。


 極彩色の島は女王の魔力によって統治されており、それは環境にまで至るとは聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

 というか、暴風などの異常気象は発生し地内が故に、余計に冷気が身近に感じられるほど、極彩色の島は冷却されているのだと遅れて実感した。


 「彩瞑山まではそう遠い距離じゃねぇ。今歩いてる転変の平原を抜けてから入る散夜の洞窟、そこを越えれば麓に着く」


 「・・・いや、その前に寒さでぶっ倒れそうになるんだが」


 「我慢しやがれ。それでも全身にカイロを貼り付けてるようなもんなんだぞ。それがなけりゃ今頃俺たちは凍死体だ」


 カイト一行の現在地は《転変の平原》と名付けられた程よく道路が設けられた森林にして、比較的魔物の遭遇率が少ないビギナー向けのエリアであった。

 しかし、範囲自体は広いために掘り出し物も多く、今回の遠征任務の目的からしても無視できないステージとなっている。


 「なぁ、本当にいいのかよ。雑魚狩りしつつリスポーン狙いで延々と周回でもよくねぇか?」


 「それも考えたが、この手の常として安価な狩場は占有されやすい。特に今回のイベントはギルドも参加できる関係上、穴場は抑えられていることを前提に進めた方がいい。俺たちはパーティだからな。下手に侵入して縄張り争いになっても面倒だ」


 「それはそうだけどよ・・・今んところ俺ら氷魂魄の一つも取ってねぇんだぞ」


 「一日目の一時間半過ぎで入手してる方が稀だろうが。心配せずとも今日で打てる布石は打つさ」


 遠征任務の開催時間は一〇時から十八時の八時間となっている。これ以降はエンリヴァーガルが島全域の魔力を吸収し、完全顕現の準備へと移行するため、現地活動が困難となってしまう。

 故に、この八時間と六日で女王の鍵を一つでも生産しなければ、極彩色の島は壊滅へと舵を切ることとなる。


 「飯の時間は最悪二時過ぎでも問題ないだろ。それよか、先ずは洞窟内へと行き着くことが先決だ。幸い洞窟に採用されてるのはショッピングモールだしな」


 遠征任務での途中ログアウトは最終日を除いて容認されており、その場合は解除した地点へとそのまま移動することになる。

 そして、散夜の洞窟は大型ショッピングモールの第一階及び地下を全面に利用した空間であり、休憩時間も考慮すれば狩場として最適な場所であった。この辺りの予定構成力は連続参加者ならではの能力と言えるだろう。


 「・・・そこに山があるからって名言を残した登山家が昔いたんですよ・・・」


 「あ?急にどうした」


 「・・・その登山家はエベレストにも登ってたんだけど・・・吹雪の所為で結局、遭難した挙句に行方知れずになったんだってよ」


 「で、だからなんだってんだ」


 「そろそろ僕の火属性バフが限界です」


 そんなことだろうと察していたきりかは溜息を吐きつつ、再度同一の魔法をカイトの全身に貼り付けさせる。

 キリカの場合は自動で詠唱なしに魔法が補填されるように調整しているものの、カイトにはそのスキルがないため、地味に面倒な作業となっていた。


 「あ゛ーーー・・・暖けぇ・・・マジでこれがなかったら詰んでたぜ」


 「そりゃよかった。到着だってのにぶっ倒られても面倒だからな」


 眼前、平原の進行を阻むように闇が君臨している。それは紛れもない大穴であり、冒険家が想定する洞窟の入り口に他ならなかった。


 「あれが・・・散夜の洞窟で、いいんだよな」


 「あぁ、まだ現段階であそこを狩場に指定してる奴はいないだろ。いたとしても、仕様を把握しないとなんねぇからな」


 エンリヴァーガルの戦略が前回の女王と同一である保証は何処にもない。むしろ根本から異なると踏んだ方が対処もしやすい筈だ。そしてそれは一週間の内で行える方針を決定付ける。

 だからこそ、慎重派はまずこの洞窟を無視するだろうと読んだキリカの作戦は見事に的中し、足跡や魔力残滓は碌に確認されなかった。


 「よし、ラッキーだな。まだ荒らされてなくて助かった」


 そこは星空の領域だった。天井には大小問わない光の粒子が遊泳し、壁は自生した花々が暗夜を晴らすかの如く、その光溢れる花粉を周囲に蒔かせ、それに影響されたのか洞窟内の鉱石群は水晶さえ怯むほどに輝きに満ちていた。

 それは正に幻想そのものであり、ここが魔物の跋扈する異形の屋敷であることを否応にも忘却させられた。


 「相変わらず、ここは松明いらずで助かるな」


 「おぉ・・・おぉ・・・・・・」


 隣で感動したまま硬直している馬鹿を無視して先に進む。現段階では魔物との遭遇はないが、平原などの外界より洞窟などの空間が危険度の増大を招くことはRPGの定番として認知されている。

 さらにVRの発展以降は視認にさえ暗闇という天然のデバフがかかる状態となっており、魔物の発見にも時間を有する厄介な局所としても機能していた。つまり、


 「さて・・・丁度よく来てくれて助かる・・・ってオイ!カイト!さっさと起きねぇか!」


 「ヤベェ・・・星の鼓動を感じる・・・俺は今、星々と一つになってるんだ・・・」


 完全に微睡んでいる男の背を蹴り飛ばして強制的に現実へと帰還させる。頭を殴打して星を飛ばしてもよかったのだが、今後の探索に支障が現れても問題なので、あえてキリカは背中を叩いた。


 「痛ってぇ!?何しやがんだよコノヤロー!!」


 「そりゃ目の前の連中を拝んでから言いやがれ」


 言われて、洞窟の先住民が不躾にも拠点を荒らしに来た自らを威嚇の視線で以て取り囲んでいることに気づく。恐らくは草食動物の皮を鞣した衣服に鉱石を加工して制作しただろう乱雑な槍。

 だが、その姿は人間よりも遙かに豊満な体型と三本指の剛腕、そして豚を彷彿とさせる鼻は彼らが人外であることを何よりも証明している。


 《フローズン・オーク》。単純な上下社会を築くオークの中でも寒冷地方において発生する彼らは今回に限って、エンリヴァーガルの兵隊の役割を与えられここに生誕している。それは、彼らが生命ではないことを証明しており、その薄膜は薄暗く、中心のみが紺碧色に染まっていた。


 「ざっと数は七体。奥に潜んでいるのがリーダー格だろう。まずは俺が暗媒鴉で――」


 「いや、問題ねぇ。コイツらは俺一人で潰せる」


 キリカの提案をカイトの言が押し潰す。自信と己の勝利のみを見据えたその眼はキリカにそれ以上の会話を停止させ、代わりに純粋な軽口だけが自然と声帯から飛び出た。


 「――そうかよ。じゃあ、たかだか五日の修行の成果。見せてもらおうじゃねぇか」


 オークの知能指数はゴブリンに比べてやや高い。単純な肉体性能の差もそうだが、縦社会だからこその統率力の高さと修練による技能の確保は冒険者にとって擬似的な対人戦を要求される厄介な戦闘として認知されている。


 「我は風を司るオンス・レガー・ウインド


 駆ける。最も近い位置にいたオークの脇腹を切り裂くべく振るわれた剣先は吸い寄せられるように防御態勢へと移行したオークの槍技によって阻まれ、されど弾かれた反動自体を利用した足捌きはオークの腹部を的確に捉えていた。


 「――伸剣・風牙」


 瞬間、オークの腹が弾けた。正確にはオークの内臓を竜巻が根こそぎ抉り取り、そのまま自身の異変を理解できずに消滅した。


 極めて単純な魔力操作。自身の武具に魔力を纏わせ本来の刀身以上の刃先を実現させる《伸剣》は近接使いにとっては必須の魔法にして、その会得はカイトが魔力を利用した流派を会得しているという事実を意味していた。


 オークの雄叫びが轟く。仲間を無残にも殺されて怒りに駆られるオークらとは対照的にカイトの思考は静謐に包まれていて、人間はここまで冷静になれるのかと驚きつつ、カイトは再度武器を構えた。


 「・・・風濤流・風見鶏」


 周囲に浮遊する白鳥群。それはカイトの魔力によって編まれた使い魔にして、オークの頸動脈を貫くべく用意された即席の家来であった。


 オークの群れを縫うようにしてすり抜けていくと同時に、白鳥を自立起動させオークを攪乱。その隙は見事にオークの長として奥に座している《オークキング・フローズド》までの道を形成し、我は風を司るの効果も相まって一気に肉薄してみせた。


 王が吠える。未熟な挑戦者を威圧するかの如き叫声は瞬く間に洞窟内を反響し、それでも怯まないカイトに業を煮やしたのかおうはただ自身の武器である石槍を振るった。


 「風濤流・弦喰羽」


 王の槍が、穂先から崩れた。


 何が起こったのか、オーク全員が困惑する中で自身の自慢とする一振りがあまりにもあっけなく折られたオークキングはただ呆然とすることしかできず、その現象さえも予測する余裕を喪失していた。


 咆哮が地面を軋ませる。オークの王に位置する怪物の剛拳は直撃すれば人体どころか鉄さえも容易く破砕する威力を誇っており、激突すれば死は免れない。

 石槍を失い、唯一の武器は研鑽した腕力のみとなったオークキングはただ眼下に潜む腑抜けた男へと視線を落として、その拳圧で以て不遜を精算させるべく、拳を豪快に振るい、次には肘ごと切り飛ばされていた。


 「ガッ!?」


 風濤流は風属性の流派に於いても静止を尊ぶ剣技である。流麗さえ生温い静謐と極度に削ぎ落とした剣捌きによる涼風の再現は対象から【自己に対する攻撃】への防御反応を剥奪させる。


 キリカのオススメとして挙げられた秘伝書《風濤流・風切ノ書》を熟読した末に編み出した魔の技能。それはオークキングを圧倒し、唖然さえも許さず、その生命を技術値へと還元した。


 「コイツで詰みだ、オークはオークらしく、日陰にでも籠もってやがれ。お前らに星空は似合わなすぎる」


 止めの刺突。伸剣によって拡張された刀身により、オークキングの心臓が穿たれる。次いで徐々に電子の摩擦が発生していき、最終的に赤ポリゴンとなってオークキングは消滅した。


 自身たちが慕う王の呆気ない戦死は動揺以前に状況の正確な判断を不可能にし、それはカイトにとって絶好の隙となったばかりか、全体を乱舞する暴風(ウィルド・ストーム)の射程圏に誘うことに意図せず成功していた。


 局所的な竜巻にオークが一掃されてゆく。その手際のよさは感嘆ほどではないものの、修練の成果を如実に示すものであり、中級者の関門として名高いオークは門番としての役目を終えたかのように哀愁さえ残さず狩り尽くされた。


 「はいよ、一丁上がりッ!!」


 叩きのめした末に獲得した技術値を確認しつつ、背伸びをしながらカイトが勝利を宣言する。それは洞窟内を木霊すると同時に、急速な成長と将来性をキリカに感じさせた。


 「お疲れさん。俺が渡したノルマはしっかりとこなしてくれたみたいだな」


 「そりゃな、あの馬鹿二人に嘲笑われるのだけは御免被るからな」


 確かに、と苦笑しつつ洞窟の内部を探索していく。散夜の洞窟は極彩色の島の性質上、内部を徘徊する魔物も属性を含めて毎回変更されており、先のオークならまだしも本州には確認さえされていない未知の怪物との衝突も珍しくないのである。


 「とにかく一日目の方針は彩瞑山での氷魂魄周回だ。多分、情報網自体は二日で暫定的に構築されるだろうから、初日ぐらいでしか役に立たねぇだろうしな」


 「・・・なぁ、やっぱさ、プラネタリウムっていい文化だと思わねぇか?」


 「おい、また星屑に魂吸われてんぞ」


 「星ってさ、それ単体が一個の生命体なんだよな・・・。綺麗だよなぁ、本当に清々しいぐらいにさ」


 「確かにな。背後からモンスターが迫ってるってのに星しか考えられなくなってるんだから清々しいよなそりゃ」


 先のオークの残党だろうか。石槍を無造作に構えて殺意のみを頼りに前進する雑兵をキリカの黒雷槍が脳天ごと身体を縦に貫く。


 一切振り向かずに一撃を与えてみせたキリカの神業は肉の物体と化した怪物が地面に勢いよく倒れ伏し、ポリゴンにて消え失せてから遅れて伝わった。


 「ハッ、何じゃあッ!?」


 刹那の轟音によって現実への帰還を果たしたカイトは星屑への拘束から解放される。それはキリカにカイトの内面が全くもって変質も成長もしていない現状を認識させ、ある種の安心を抱かせるに至った。


 「――ちょっと待て、何だその諦観に満ちた目は。今年で四度目だぞその目」


 「いや、馬鹿ってのは本質さえも馬鹿なのかなっていう真理を垣間見た気がしただけだ」


 「何その悪意全開の悟り。ただの悪口じゃねぇかよコンチクショー」


 軽口を飛ばしつつ前進していく。周囲はただ銀河の海が漂うのみであり、魔物の存在さえなければ映えスポットとして人気の観光地となっただろう。そんな感想に浸りつつ歩き続けていた両名の足が不意に停止する。


 散夜の洞窟における大空洞。現実ではイベントホールとして一階から四階までを一望できる空間が構成されており、国家の垣根を越えたコンサートやショーが多面的に展開される場所に火柱が立っている。

 より正確には魔女狩りよろしく魔物共が何かを囲って景気のよい異種族の歌を合唱形式で響かせていた。


 「・・・なぁ、オイ、アレって・・・そう解釈していいんだよな」


 「まぁ、そう仮定するのが妥当だろう。でなけりゃ説明がつかん」


 しかし、両者にとって何よりも異常だったのはその中心にて磔にされている人物。橙色の長髪に可能な限り鉄製の防具を削ぎ落とした軽装の衣服。遠目故に詳細は不明だが、明らかにプレイヤーが今にも魔物の手によってくべられかけていたのだ。


∀ROの素朴な疑問を強制開示するQ&A 第一二回


Q:流派って結局なんなんだよ。


A:基本的には剣術とか槍術とかに魔法や属性のバフが加わったスキルとして捉えてくれればOK。習得方法としては秘伝書形式と師弟形式があり、前者はショップやクエスト攻略で獲得でき、後者は実際にそれを会得したプレイヤーか相伝者を名乗るNPCとの修行の末に己が物とする方法。カイトは前者、アルバートは後者に該当する。両者とも、その流派における動きを完全に再現できるようになれば習得完了となり、完了すれば己のスキル欄へと刻まれる。


 前者の利点としては何よりも安価で済むことと、秘伝書にやり方が記載されているので覚えやすいこと。ただし、秘伝書は万人へと流布される書物であるので、基本的には凡庸の評価を拭いきれない。それでも極めれば一騎当千も夢ではない。


 後者の利点は単純に相伝故の特別性と桁違いの火力。その分、習得条件等は厳しいが、極みに至れば自身も師匠を名乗れ、また、オリジナルの技を独自に開発できるようになる。というか一樹が沖縄へと旅行に行ったのも紅燐流の師匠に課せられた試練の打破目的が半分を占めている。もう半分は観光と旅行自慢。


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