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第一四話 踏破開始前

 とんでもない爆弾発言が聞こえた気がした。氷の女王が自分の妹だという端から聞けば虚言未満の戯言をされど、ただ疑問符を宿してカイトは呟く。それをキリカは冗談には思えず、しかし唐突すぎたこともあってか聞き返すしかなかった。


 「・・・ちょ、と待て。妹だって?あの女王様が?」


 「いや、だからさ。他人の空似かもしんねぇけどな。なーんか、雰囲気が似てるというか何というか・・・」


 「女王を含めたレイドイベントの連中は全員がNPCだ関係各所や運営のゲーム内部への過度な介入は発生しない」


 「・・・時給制のバイトとか?」


 「だったらオーディションの方が分かりやすいだろ。女王の選定なんだしよ」


 情報があまりにも不足している現状では平行線にしかならない。それよりも優先すべきは基本則の理解と遠征前に可能な限りの情報を得ることであり、両名はその入手源に誰よりも近い位置に立っていた。


 「とにかくだ、下手に謎をここで追求するわけにはいかねぇ。それよりも遠征の攻略法についてだ。手段がないわけじゃないんだろジョーさん」


 「応とも。俺らにだって準備はある。つっても、俺じゃなくギンロルの親父頼みのモンだけどな」


 「ギンロル・・・?」


 「スリーズ一の鍛冶師の名さ。親父は錬金術を鍛冶に導入した先駆者でな。魔物の素材を兵器転用することもワケねぇレベルの人が居るのさ」


 「ていうと、つまり?」


 「虹脈城は九人の女王の支配域。侵入どころか城門を開けるのでさえ生半じゃできねぇ。それを肩代わりしてやるって言ってんだ」


 今回のレイドイベントは前哨戦と後半戦の二部構成となっており、前哨戦では島のほぼ全域を探索しつつニヴルヘイム特有の素材である《氷魂魄》を収集する必要性がある。

 これはエンリヴァーガルの魔力結晶体であり、魔物の体内で稀に生成される貴重品にして、加工すれば武具やアクセサリー、そして虹脈城へと突入する際に必須となる《氷媒錠》が作成可能となる。


 「氷魂魄の詳細は不明だが、恐らくは質が存在する筈だ。その辺については俺よりもお前らの方が詳しいだろ」


 「あぁ、グレート分けされてんのは調査済みだ。そこについては心配いらない」


 調査という名のレイドイベント特設ページでの概略を確認済みの両名にとっては重要性のない会話内容だったものの、それでも島の状況とそれに対する島民との関係性の確保は今後においても役に立つ。それを無下にする二人ではなかった。


 「それよか、この近辺で効率の良い場所があれば教えて欲しい。そっちの方は情報不足だからな」


 「あ?そうだな・・・だったら彩瞑山を目指してみたらどうだ?エンリヴァーガルご用達の白騎士が彷徨ってるって噂だからよ、その分周辺には獲物もゴロゴロいるだろうぜ」


 彩瞑山。極彩色の島南西に連綿と並ぶ山脈にして島内部の気候変動を如実に反映することから観光スポットとしても人気があるが、狩場としても冒険者からは重宝されている。確かに効率面で考えれば適切だろう。


 だが、気がかりなのはその前の単語。白騎士とジョーは言った。それは事前発表では全く開示されていなかった情報に他ならず、今度はキリカが疑問符を浮かべる羽目になった。


 「悪い。聞いておいて何だが・・・白騎士ってのは何だ?それの話はこっちには届いてない」


 「そりゃそうだろうな。奴らは氷の女王の側近を名乗って顕現しやがった。俺たちもそれぐらいしか知らねぇよ。とにかくヤバいってのは事実だろうがな」


 詳細不明の敵。恐らくは前哨戦を管轄するレイドボスなのだろうが、能力どころか数さえ不明とあれば、これ以上詮索しても無駄に終わるだけだろう。

 それを悟ったのか聞き耳を立てていたプレイヤーの何人かが移動し始めている。それはここが引き際であることを意味していた。


 「分かった。情報提供感謝するよ。それにこっから先は俺たちの領分だからな」


 「応。そうしとけそうしとけ。俺の仕事はお前ら馬鹿共の背中叩いて前を向かせることだけだ」


 景気よく背中を叩かれて、その勢いのまま冒険者ギルドの扉を開ける。キリカの言うとおり、以降の戦いは冒険者の特権が横行する戦場だ。そして、ジョーがギルド運営者である以上、利己主義の絡む潰し合いに巻き込むわけにはいかない。


 「さて、当面の目標についてだが、先ずは氷魂魄の確保を最優先にして行動を開始する」


 「オーライ。確かレートは銅、銀、金の順で間違いなかったよな」


 「そうだ。基本的にはどこぞのチョコレート菓子のオマケと理屈は変わらん。問題は、氷魂魄の入手よりもその労力の使いようだ」


 氷魂魄の入手方法は主に二つ。一つは極彩色の島に潜むエンリヴァーガルの魔力を由来とした魔物の討伐。これには魔物の位によって氷魂魄の純度が区分けされており、それらは氷媒錠の作成時に必要とする個数や武具生産に影響する。

 しかし、それらが面倒だという野蛮人に設けられたもう一つの手段が本イベントでは実装されていた。


 「今回のレイドイベントではPvPが容認されている。つまり、略奪や虐殺を推奨してるってわけだ」


 「・・・恐ろしい話でゴザンス」


 ∀ROはプレイヤーキルを認可していない。万が一の救済措置は設定されているが、慢性的、あるいは常習犯にはアカウントの永久凍結などの厳しい罰則が制定されている。

 だが、暴憐などの一部地域では黙認されており、それはこのレイドイベントにおいても同様だった。


 「∀ROはPKを禁止してるくせにドロップ品は発生する仕様だからな。遠征ではそれが限定解除されてるんだ。まぁ、ドロップつってもプレイヤーが死んで落とすのは氷魂魄だけだがな」


 一応の言い訳として、女王の常時滞留する魔力波に脳幹を操られた冒険者達の殺し合いとしてNPCには認知されている。

 されど、その内実はプレイヤー同士の理性と暴力を織り交ぜた狂気でしかなく、カイトの背筋を存分に震わせた。


 「それでも、パクられちゃ元も子もねぇ。それに氷媒錠に加工されちゃ窃盗スキルがあろうが盗めねぇからな。自衛ぐらいはしとけよ」


 「・・・言われずとも、それ位の準備はしてるさ。通用するかは知らねぇけどな」


 カイトの修行成果が数多の猛者を八つ裂きにできるとは驕っていない。それでも、生き抜かなければ未知への挑戦や短剣の強化、女王の謎さえ切り開くことは不可能だろう。


 「それに、氷の女王には個人的な用がアホほど増えたからな。前哨戦は意地でも超えねぇとよ」


 「ハッ、だったら前と同じだ。最短で駆けるぞ。未知に長居するのは馬鹿の行いだからな」


 遠征が始まる。迷宮とは原理原則の一切、原生生物の生態に至るまで現行の環境を覆す新たな世界は、ただ冷風で以て挑戦者を歓迎する。


 その女王の権能をキリカの火属性魔法によって無効化しつつ、少年たちは未踏を解明せんとする冒険者の戦列に加わった。

 


∀ROの素朴な疑問を強制開示するQ&A 第一一回


Q:∀ROでプレイヤーキルが禁止ってマジ?


A:マジ。ただし正確には不手際の殺人もあり得るため、三度までは猶予が与えられる。ただし、一度でも犯せば《犯罪者》の称号が通常の称号とは別に用意され、殆どのNPCとの交流不可や迷宮の門を開放する迷宮解錠符がが購入できないなど、様々な制約が発生する。

 これの解除にはそれ専用の救済クエストをクリアする必要性があるが、殺人を犯したのは事実なので、ご丁寧に冒険者カードやステータスプレートには前科を証明するアイコンが永続表示される。

 そして、三度を超過した場合にはアカウントがBANされ、二度とプレイ不可となる。ちなみに運営のハイパーパワーによって、電波やレッドエリークを介した生体電流なども辿られるため、誤魔化しの類は一切通用しない。

 ただし本編にもある通り、暴憐等の一部地域は例外的に黙認されている。なので無法地帯全開。そんな世紀末に至った経緯や暴憐のフィーバーっぷりについては、またいずれ解説します。何でかって?ネタバレ全開になっちゃうからだよ。

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