第2話 告白……歪みの始まり
早くも2話目。ですが、もうこの時点で物語は大きく変わっていきます。前作の彼女達の行動が変わり、少しシリアス方向へ行きます。余計なイチャラブR 18がない分、恐ろしい展開を期待してください!
月と雪が共に輝く夜に『雪女』と会うとは、僕はどうしてこんな事になったのだろう。
嬉しくて堪らなかった。
そして、僕は女に言ってしまった発言のヤバさに気付き、差し伸べてくれた手を取る事が出来ずに左手で顔を隠した。
ヤベェ。なんで初対面の女に恥ずかしげもなく言っちまったんだ‼︎
僕の心は、嬉しさと恥ずかしさが相対していた。
彼女はそんな葛藤している僕の事を気にしないで僕に優しく声を掛けてくる。揶揄っているのか嬉しいのかが分からない。『雪女』は恥ずかしがる様子はなく、その言葉を聞いて優しい微笑みを向けてくる。
「見惚れてるって…ふふっ、君が初めてだよ。本当に怖がっている訳では無さそうだね?」
だからキツイんだよ。僕は恥ずかしい事を突かれたように顔を赤くしてしまう。
「ご、ごごごごめんなさい‼︎あまりの神秘さに思わず言ってしまい…」
ヤバイヤバイヤバイ。テンパってどうすんだよ。こんな事で『雪女』と対話出来るのか?しかも、もう口が勝手に動いて嫌だ。
絶対にヤバイ人認定させるだろ⁉︎
だが、僕のその言葉に彼女は服の袖で口元を隠し目元が泳いでいた。
「神秘って……そんな風に見えるのかしら?…嬉しいな」
可愛い。そんな優しい瞳を泳がせながら言わないで欲しい。僕が逆に落ち着かないと。そう、落ち着かないと。
「あ…いや、そういう訳で言ったわけじゃあ…」
「じゃあ何かしら?この私に対して言ってくれない訳なの?少し悲しいな〜」
「えっ…?」
思わず意外な反応に驚いてしまった。なんか、口調がさっきよりも柔らかく『雪女』と感じた神秘さは薄れた。しかし、銀髪と蒼い眼は健在で、その姿だから、それを指摘した方が良いのだろうか?
まるで、女が演技していたように感じた。演技のようであるが、かなり素でやっていた。
「な〜んて冗談。君が初めて私が求めてた反応をしてくれたから嬉しくてつい…揶揄っちゃった」
「あ…は、はい。揶揄うって…」
「私目当てで都市伝説みたいに噂を聞きつけてくる人が多いの。だから、ワザと怖い雰囲気のこの神社で噂を焚きつけてきた人達と会おうって思っていたの。ここ最近の子って、随分怖がりさんが多くて楽しめてなかったの」
そりゃあ、噂の本人がそんな服装で怖い雰囲気を演出すれば誰もが逃げるだろう。僕もそれに圧倒されそうになって、偶々好きなタイプに当てはまったから逃げずに転んだだけで済んだのだ。もしも、黒髪や眼が違う色だったら逃げ出したのだろう。でも、趣旨違くない?
「だからね…私はこの町にいる人達が怖がらないように、こんな感じの白い服を着て待っているって訳なの」
笑顔で話す『雪女』であるが、普通に服装から怖いよ。白い服は日本の服では結婚式か葬式に着る事があるからね。そんな物を夜に着られたら驚くよ?
「それは…そうかもしれないが、その服装は流石に気味悪がれてしまうかと」
「どうして?白一色なんだよ?赤とか黒よりは健全だと思うんだけどな〜」
そういう問題ではない。夜に白は駄目だろ。普通に遠くから見たら怖いからね。
この女はどうやら少し抜けている気がする。まだ全然分からないけど、多分この人は天然でこの性格だと思う。自分のやりたかった事をそのまましちゃうタイプだな。多分。
僕の尻あたりが冷たく滲む。雪がズボンに染み込んだみたいで、僕はやっと腰が冷たいと感じその冷たさの勢いで立ち上がった。
「あれ?もう腰は上がるのね」
「一応、大丈夫。誰かいると分かっていたから腰には少しだけ力を入れていたから、腰が抜けて立てなくなるまでではないけど」
恐怖で腰に一時的に力が入らなかったとは言えないな。まぁ、ある程度覚悟していたから無事だったけど。
「ところで、あんたはずっと此処に住んでんのか?」
俺は聞きたい事を率直に聞いた。その問いに疑問で返してくる。
「……はい?」
「あっ、すいません。その服装があまりこの時期に着るには寒過ぎるかと思い、もしかしたら本物の“雪女“かと…あはは、すいません」
「ふははは!流石にそれはないよ。家は一応この近くにあるし、此処にいたのは噂に成り代わるのと暇つぶし程度だしね。でも、完全に私の事を認識した人は居なかったからこうして、君と話せるのは嬉しいよ」
「本当だった…んですね。しかし、あんたが脅かした事で川にまで落ちた人いたんだけど?あれはどう思ってるの?」
「あー…あれは1番驚いたね。私もそのつもりは無かったんだけど、物凄い勢いで逃げて行っちゃったから止められなくて…」
反省はしているみたいだ。脅かすとは言え、ちゃんと他人に配慮しようとはしているのはこの会話達で理解した。本物じゃないのは残念だが、この女はいい人だと分かっただけでも良い収穫だった。
「まぁ、怪我で済んでいるからまだいいけど…」
「こんなに噂に尾鰭が付いてくるのは予想外だったよね。君はどう思って此処の噂を見に来たの?」
僕を誘って、神社の座れる所に2人で座った。そして、率直に思った事を聞いてきた。1番聞きたかったのは、その服装であった。
「その服はどこで買ったものなんだ?巫女服みたいだけど、凄く寒そうな感じがして。それに…」
僕はチラッと胸の方に眼を向けてしまった。身長が低い割には少し胸があるな〜って下心丸出しの考えをしていた。だって、わざとと言いたいぐらい胸を強調しているというわけではないが、思春期の僕には刺激が強過ぎるのだ。決して見たくないというわけではない。程よい大きさと和服がただ、その容姿とマッチし過ぎて僕が悶絶しそうだったから。
「ん〜?君、ちょっと顔赤いよ〜?私の胸を見て興奮してるのかな?」
見過ぎたか。流石に否定しないと不味いな。
「えっ⁉︎いやぁー違いますって…あはは」
「嘘言ったらここで泣くよ?」
その言葉に反射的に言った。即答だった。
「凄いエッチだと思いました!」
糞野郎と思うなら思えば良い!それ程、目の前の“雪女“の姿が反則なんだから‼︎
その堂々とした態度が良かったのか、ウケたのか、思いっきり笑っていた。
「あはははは!君、面白いよ。こんなに素直になる人は珍しいよ?ふふ…ふははは!」
腹を抱えて、息が途切れそうになるまで笑い続けて咳込んでしまった。その姿は『雪女』とは違うが、この人が凄く変わった人なんだと微笑ましい気持ちになった。
「…ごめんね。こんなに笑ったの数日ぶりだよ〜意外と笑いって抑えられないわ」
「笑うのが好きなのか?噂に見掛けずに凄い温かい人なんだ」
「噂って、そういえば…私の凶行みたいなのが学校中で噂になってるけど、君はどこまで知っているの?」
「そうだな。顔の知らない不明の女がこの神社とこの辺りを彷徨いて人を脅かすのと、鎌か石を持って人の苦痛を食らってくれる『雪女』。しかも姿はよく分からないが、醜い老婆や絶世の美女やゴルゴーンの様な蛇の髪をした男の顔つきの女という話があって、誰もその顔を知らないんだって事ぐらいかな…」
「へぇ〜?結構間違った噂が広まってる……私、そんな感じで見られてたの?人から…」
最後らへんはドン引きした様な顔で、うわぁという表情で青ざめていた。解るけどね。今目の前にこの人は美少女だ。こんなに容姿が整って、醜い化け物とか怪物とは訳が違う。そんなものと比べられるこの人があまりにも可哀想。噂って、相当酷い扱いになるのだと改めて思ったな。
「私の噂でまず違うのは、何で顔が分からないのかな……正直がっかり…はぁ〜」
「それとあんたが持っている鎌って、もしかしてさつまいも?」
「多分そうだろうね〜。私、さつまいも食べながらこの辺を彷徨くことが多いの」
いやぁ…それはそれで十分に怖いと思うが。と僕は感じた。
「でも、さつまいもをなんで持ち歩く?普通に熱々のさつまいもじゃなくて、もう少し寒さ対策のやつにすれば良かったのに」
「えっ?だって、さつまいもの方が雰囲気出るじゃん!食べながらならそんなに驚かないと思ったけど思ったほか、私の持つ物が凶器に置き換えられているのは嫌だったな〜」
「それに、私は人の何かを食らう事できないわ。ただ怪異としての血があるから恐れられるだけで」
「えっ?でも、さつまいもは食べてるじゃない?」
「それもそうね。君、本当に面白いね」
にっこりと微笑み、僕の顔を見てくるその姿は記憶に刻まれていく。その眼と髪、姿に顔を僕は忘れないだろうと思わせる程、僕の頭に刻まれていった。
「僕は興味本位で来たにすぎませんが、悩みを取り除いて欲しくて。噂が本当ならその悩みを食べて貰おうと…」
「えっ?……何その噂。私、そんな事知らないよ?」
まぁ、そうなるよね。この感じの人だとやっている感じは全くしないんだけどね。
「僕の学校の女達がそのように噂をしていたんで、それも本当かな〜と思ったんだ。あんたにそんな力があるとは半信半疑だったが」
「ふふっ、君ってかなり真面目だね?その噂を焚きつけて来たに君は悩みを消したかったんだね?私にそんな力があったらやってあげたいけど、私にはそんな力は一切無いよ?」
「で、ですよねー!」
心の中ではかなりがっかりしたけど、まぁ、そんな噂をガチで信じていた僕が悪かった。消してくれるなら、この人が良いなと思ったし…
「でも、こんな私に頼りたいって言う人がいるのは嬉しいな〜。君の名前は何かな?」
「そういえば、まだ互いに名前を言い合っていなかったな。僕の名前は、大村 健人。この近くの高校に通っている1年生だ」
「うん。ケント君ね?いい名前でいいな〜」
「そう言うあんたはどうなんだ?高校はこの辺なのか?」
「そうよ。私は里山沙雪っていうの。高校3年生よ」
僕は焦った。ずっと歳下かと思って話していたから、頭を下げて誤った。
「す、すいません沙雪さん!僕、敬語で話さなくちゃいけないのに…」
その様子を見て、沙雪さんはおどおどするが、にっこり笑みをして許してくれた。
「大丈夫よ。早く言えば良かったね。私が紹介し忘れたからこのさつまいも半分食べる?」
半分こしたそれは、もう時間が経っているのかそのさつまいもから湯気は出ていない。しかし、冷めているように見えるが、そのさつまいもは黄金色を保ったまま輝いていた。
詫びとはいえ、なんでこの人は僕の為にこんな寒い中話してくれるんだろう。僕は完全防寒なのに、彼女は一枚布の巫女服に似た和服を着ているし、お世辞にもそれは暖かいとは言えない。しかも、寒そうな雰囲気は見せていないが、僕よりも先に来ている沙雪は2時間近く外にいる事になっている。それだと流石に身体が冷えてしまう。それなのに、こんなに親切な人はいるのか?
僕は分けて貰ったさつまいもと引き換えに、僕が来ている分厚い上着を渡した。
「嬉しいけど君が寒くならない?」
蒼い眼差しに潤いあるように優しく見凝めてくる。少しそれに心が動かされる。
「良いんです。沙雪さんはその格好だと寒そうと思いましたし、僕の上着で風邪を引かないようにして下さい」
ヤバいな……この人を見ていると寒い感じがしない。寧ろ、身体が火照ってくる。恥ずかしいのか?それとも誰かに頼って貰うのが嬉しいのか?
「本当に良いの?……君がそんな事をしなくて良いのに」
「ホントに良いですって!あんた…貴女がこうして風邪を引かなければいいので…あはは」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう言いつつも僕が渡した上着に袖を通して、嬉しそうにお礼を言ってくれた。凄い眼が綺麗で、その笑顔を見ると目を逸らしたくなる。反射的に眼を逸らしてしまった。
「さっきからどうしたの?私の眼をずっと見ては逸らしているみたいだけど?」
「なぁっ⁉︎」
不意を突かれた衝撃を受けた。そんなに僕は見ていたのか⁉︎ヤバい…ヤバいヤバい。
「ねぇ?どうして?」
答えられる訳がない。また同じ答えだったらドン引きされそう……
かと言って、その眼が凄く美しいだなんて言えない。言ったら気持ち悪いって言われそうだから。
「それはぁ……沙雪さんの姿が凄く眩しいんですよ。その銀髪と蒼い瞳にその服装が今日の夜にはぴったりなんです。あっ……いえすいません。気持ち悪いですよねこんな男…」
「ううん、そんな風に褒めるなんて嬉しいよ。この髪と眼のこと気味悪がる人が多くて、まさか…後輩の子にそんな風に見られるなんて私ちょっと…」
そう言う沙雪さんの頬が赤くなっていた。しかも、蒼い眼から涙が出ていた。
「だ、大丈夫ですか⁉︎なんで涙が…?」
「君、デリカシーないね。女の子が泣くのはあまり聞かないで欲しいよ」
「しかし…沙雪さんがどうして泣いているのかが気になって」
ヤバい、やらかした。僕はそんなに聞いちゃいけない事を聞いたのか?
それでも、沙雪さんはムッとした表情で答えた。
「そんなデリカシーない君に私の悩みを教えてあげる」
涙目で沙雪さんは話してくれた。
冷たくなったさつまいもをオカズに互いに食べながら話した。最初は普通に話していたが、途中から涙を流しながら悔しそうに話していた。
沙雪さんは、元々生まれつきで髪の毛と眼が他の人達と違うみたいで、親からの遺伝であるみたいで友達や先生に気味悪がれていた。日本人離れしたその容姿に見惚れるどころか恐ろしいと感じている人が多く、いつもは学校でウィッグを付けているのだとか。眉毛と髪専用の特殊なウィッグを購入し、気付かれないように振る舞っていた。しかも、大学に向けての試験にも大きな影響を受けていた。
それは事実。しかし、僕には理解し難い現実だ。
その理由は普通に理解していた。地毛とはいえ、そんな容姿の人間が大学を受けるのは難しい。色々規制がある故、沙雪さんはこれまで夏から試験対策や面接を積み重ねてきたのが全て無駄になってしまった。髪が原因で面接中に追い出されたり、試験の際も身だしなみができてないということで追い出される。更には、それが嫌でウィッグを付けても地毛じゃないと言われ却下される始末。地毛だと文句を言われるし、逆に隠してもそれを指摘されて文句言われ、大学側は全て却下された。おかげで、苦手な科目も出来るようになったのに試験すら受けられず、ただ泣くに泣くしかできない状況に追い込まれていた。
しかも、それが尾鰭付いてしまったのか、学校でも同じ同級生からそれで揶揄われるみたいだ。どうやら3年生の間ではかなり有名になってしまったみたいだった。
それもあってか、その話が浸透し嫌になった沙雪さんは、自暴自棄になりそうだったみたい。友達に擁護はして貰っているみたいだが、それでも辛いのである。数年前から髪を指摘され、染めても言われるし、地毛で来ても言われ、ウィッグで隠しても言われる。イタチごっこのように繰り返され、それが原因で嫌になった沙雪さんは『雪女』噂を利用して、驚かすつもりはないけど、見て欲しいっていうことを証明したかったみたい。
この話を聞いて、僕は心底うんざりしてしまった。
こんなに親切な人でキチンとやっている人が、髪色だけで差別するのは巫山戯るなと怒りたかった。今の日本は髪で人を判断するのかと怒りたい。地毛で生まれた人間を差別する奴等が嫌いになった。
「…ごめんね。私、親にも相談したけど、『そのままの方が良いよ』としか言わないし、受験についても話しても仕方がないって言われちゃったから、こうやって文句が言えなかったの……嫌になった?」
膝を抱き込んでいる沙雪さんは、とても辛そうだった。本当に苦労して今まで生きてきたのだと考えると、僕の“悩み“がちっぽけに思えてきてしまった。
「全く…親はそんな態度なんですか?もう少し子供のことを考えろって良いてぇーよ!こんなに辛い思いしてるのになんで親は学校に訴えないんだよ⁉︎ありえねぇー‼︎あんたは悪くない!悪いのは髪の色で判別するこの日本だ‼︎」
僕は久しぶりにヒートアップしてしまった。怒ったりする時でも冷静なのに、何故か沙雪さんの話を聞いて怒りが抑えられなかった。
「あークソッタレが‼︎言いたいことが多いのに頭が回らねぇー!あんたがとりあえず可哀想って言いたいんだ。こんなに頑張っている奴を落とす大学も大学だ‼︎基礎知識はある人間をなんで受け入れない⁉︎本当に馬鹿な奴らばっかりだよな。こんなに可愛くて真面目で、凄い美人のあんたが他人に受け入れられないのは酷すぎる‼︎僕なら、受け入れるつもりだ‼︎」
涙を抑え、それをどういう風に感じたのかは沙雪さんにしか分からない。多分、ストレス発散が出来たのだろうか。
「ケン……トくん…ありがとう…うぅ…ありがとうね…」
小声でそう言っていた。しかし、同時に沙雪さんの心の中で何かが変化していたのには僕は気付かなかった。
沙雪さんだけじゃない。僕がこの場で感情任せに言った言葉が彼女達に影響を及ぼした事を理解していなかった。
「大丈夫…ですか?沙雪さん」
「うん、スッキリしたよ。君のおかげでね。けれど、私の事をそんなに褒めてくれる人、両親以外は初めてかも知れない…」
すっかり良くなったみたいだ。あんなに悲しんでいるのは正直嫌としかなかった。だからこそ、沙雪さんがこの場で気持ちを言ってくれたのが何よりの証拠だと思う。
沙雪さんは腰を上げて、僕と視線を合わせた。少し赤く火照っているが、その笑みは照れていた。
「ねえケント君。君のその気持ちは凄く嬉しい。けれど……私はその気持ちに応えられそうもないの」
「えっ?それはどう言う…」
僕は動転してしまった。胸を圧迫するような息苦しさが襲う。
笑顔の筈なのに少し恐ろしい無表情とも思える冷笑。微かにそう匂わせるような雰囲気を醸し出していた。
「私は『雪女』の末裔。以前、この姿を見た人は恐れ悪口を吐いた。君は私の言う事を信じてくれるみたいだけれど、それは果たして如何かしら?私が嘘偽りのない人と思えると?」
先程まで柔らかい雪触りの霜雪が、突然猛吹雪に変わる。
気温と風のせいで体温が一気に奪われる。
「っ…⁉︎沙雪さん…」
「応えてケント君。私と出会って唯一逃げなかった。けれど、私はあなたを信じて良いか分からない。怖いの…ずっとこの私に打ち明けないでいる本音を隠されても嫌なの。噂で人を信じ込む人なんて信じたくない…!妹にも避けられている私を——」
「……はっ⁉︎」
吹雪で声がそれ以上聞こえなかった。けれど、沙雪さんが僕へ何を訴えたいのか、心が痛むくらい理解出来る気がした。
だって彼女は泣いている。孤独に近い3年間を過ごし、漸く出会えた本音を語れる僕に見放される恐怖に怯えているんだ。
吹雪に晒されてでも、僕は精一杯手を伸ばす。
「僕はあんたを見捨てない!僕は怪異的な君みたいな人が好きなんだ‼︎普通の女性の人は苦手だけど、沙雪さんなら僕は受け入れられる。お願いだ!僕を信じてくれ‼︎」
僕は女性が苦手だ。いや、途轍もない拒絶を持つ。その過去は触れれば触れるほど胡散臭いものだと誰もが嘲笑う。
だけど、僕自身はそれでも沙雪さんを受け入れたいと心の底から求めた。
好きなんだ。一目惚れの様な衝動に駆られた過ちの様な恋疼き。
「……良いの?こんな私でも…?本当に……良いの?」
「何を言ってる?僕は沙雪さんが受け入れてくれるまで待つよ。それが例え…振られることになろうが。僕とあんたで築ける関係を一緒に作っていきたいんだ」
吹雪が止み、霜雪へと戻る。感情に反応しているのか、雪は激情を表している様にも感じられた不思議な現象をもたらしてくれた。
すると、沙雪さんの表情がしおらしくなり、涙を拭いてニコリと笑う。
「…あ、あのぉ……もし良かったら、ライン交換しない?折角、君と会えたんだし。良い話し相手として一緒に交換しよう」
流石に温度差で風邪を引くレベルの切り替え。
けどまさか、沙雪さんから直接言ってくれるのだなんて思わなかった。僕は快く承諾し、スマホを取り出そうとした。
「僕良いですよ!じゃあ、僕のQRコードで……あれ?何処だ?」
僕はポケットやカバの中を確認したが、スマホがない⁉︎嘘だろ…
「ちょっと待ってください!あるはず…あれ、あれない⁉︎」
僕は焦った。探してもスマホが見つからない。少し考えてみたらすぐにわかった。
そんなにスマホは使わないから今日、家に置きっぱなしだった。やらかした。
「もしかして、忘れちゃったの?」
「そ、そうなんですが…今から数分で取ってきます‼︎お願いです。待っていて貰って良いですか!」
僕はそう言い残して、スマホを取りに急いで向かった。その後ろ姿を見て、沙雪は少しほくそ笑んでいた。
(慌てん坊さんかな?ふふふっ、そんな君にはプレゼント渡しとかないと…)
「ちょっと書き置きを…してあげようと」
懐にしまっていたメモ用紙とペンを取り出して、彼女は何かを書いて襖の扉に挟んだ。彼女なりの悪戯をして、彼女はこの神社を後にした。
実は、彼女も高校生であり、門限は21時までであり、残り10分しか無かった事に気付き、仕方がなくメモを残すしか無かったのである。決して悪気のある行動では無かった。
僕は急いでスマホを取って神社に戻ってきた。その時間は僅か5分。再び神社に着いた頃には、沙雪さんはいなかった。
「嘘だろ……行っちまったのか⁉︎」
流石に5分でいなくなったのは辛い。まだ、話したりなかったのに。もしかして、僕は嫌われたのかな。そんなのあんまりだ。
襖の方に何か白い紙が挟まれているのを発見し、その髪を取り出した。僕はその髪の内容を見て安堵した。沙雪さんがかなり真面目なのだとその字を見てそう思った。綺麗な字でこう書かれていた。
『明日お昼過ぎに一年四組であなたをお待ちしています』
これを見て、少し嬉しくなった。こんな形でまた会ってくれると思うと嬉しい気持ちになる。連絡手段が無くなってしまっては会えないかと思ったからだ。
僕と友達……になってくれるのかな。それだったら良いけど。恋人は…あの台詞を言ってしまった手前、勘違いされるかもしれない。
僕には女友達と呼べる人がいない。残念なことに僕の友達は全員が男友達で、先輩や後輩との関係は全くないと言っても良いほどだ。だけど、沙雪さんはそんな僕を友達と見てくれるなら嬉しいしかない。
僕は返して貰っていない上着を思い出したが、別にあげても良いと思い気にする事をやめた。あの人が寒い思いをしなければそれで良かった。僕はそう思い、走って行った道をゆっくり戻るように歩いて行った。
しかし、その様子を影から見ている者が、不敵に笑みをする女がいた事に気付くことはなかった。
健人が戻ってくる1分前。僅かにその女が襖の近くに手を伸ばす。置き手紙を見て、その女は躊躇いもなくぐしゃりと握り潰した。
その瞳は蒼く、だが冷酷な程に冷めた瞳を宿していた。この世の全てに絶望した様な濁った瞳は心の底から笑っていない様にも捉えられる。
「優しい人ね。もしかしたら私の事も見てくれるのかな?この髪を……えへへ。面白い人…」
心にもない事を吐き捨て、代わりに自分が書いた置き手紙を元の場所に丁寧に置く。
その女の顔は、沙雪と殆ど一緒で同じ顔と容姿だった。彼女もまた、暗い夜道を走ってその場を去った。心の内に秘めている感情を留めながら、彼を見たその女は嬉しそうに走って行った。
「絶対に騙してやるから。所詮は男だって知らしめなくちゃだよね。大村健人」
彼をよく知る彼女は、この時から健人を貶める計画を練るのだった。
私は、こんなに親切な後輩君は初めてだった。
こんな日本人離れした髪を褒めてくれる人は、家族を除いた人だったら初めてだった。私の姿を見て大抵は逃げる人や気を失う人が多くて、正直楽しんでいた部分はあったけど悲しかった。
逃げて欲しくなかった。
この容姿を見て驚かないで欲しかった。
私の姿を気味悪がないでほしかった。
私の嫌いな銀色の髪を怖がらないで欲しい。
見て欲しいの。
そんな気持ちでずっとこの神社付近で冬の夜を過ごしていた。親にもこの事は言っていない。2つ下の妹にもこの事は黙っていた。
私は誰かに好きになって欲しかったのかもしれない。この姿を誰かに……
それが今日叶ったの。
私の姿を見て、純粋な眼差しで私の姿を褒めてくれた。この認められた際の気持ちがすごく嬉しかった。思わず、抱きついてあげたいほどの衝動になりかけた。変だよね?そんな気持ち、家族以外に向けたことがなかったのにあの後輩君にはその気持ちに駆り立てられたんだよね。
妹も私と同じように悩んでいるし、もしよかったら会わせてあげたいな。あの子、私と違ってかなり引っ込み思案の所があるし、今度あの子も後輩君と会えば悩みは消えるんじゃないかしら?
私は家に帰った時に、着ている上着の存在に気付いた。玄関でその上着を袖から脱ぎ、上着を見た。
「あっ……返し忘れてたわね。もう少し待ってれば良かったかな〜?」
若干の後悔があった。ラインを交換したかったけど、無断の外出は21時までしかダメだったから仕方が無いよね。何か言い訳を言っとけば良かった。
そう思い惚けていたら後ろの玄関の扉が開いた。
「ただいま……って、ユキ姉ちゃん。その服と上着どうしたの?」
お淑やかでおとなしそうな妹の雪美が帰ってきた。この子の名前は里山雪美。私と同じ髪色と蒼い眼を持っていた。髪は私より短くて、ショートヘア。ウィッグを付ける時の為に雪美は長髪に出来なかった。私と同等、隠さなければならなかった。
そんな妹が私の姿を見て嫌な表情をしていた。
「もしかして……男でも出来た?」
あっ、これはダメみたいね。この子は勘が鋭い。かなり焦るわね、この姿は雪美にも見せてなかった。私は少し冷静になって、いつもの態度で妹に言い訳を言った。
「ちょっとね、新しい寝衣を試してみたかったの。そしたら思ったよりも寒くて、震えてたところに親切な後輩君が上着を貸してくれたのよ。それでその上着を借りたから、来週返そうかと思ってるの」
「……そうなんだね。ユキ姉ちゃんはだからその上着を持っていたんだ……ちょっとどいて」
雪美は少し不満そうな顔をするが、荷物を持って靴を脱いでキッチンの方へ向かった。
買い物に行っていたみたいで、ウィッグはしっかり付けていたがこの家に帰り荷物を置いた後、自分の部屋に入り、ウィッグを乱暴に投げた。
雪美はこの髪嫌っていたの。偽る事を良しとしない雪美は、いつも学校や遊びから帰ってくると嫌々な表情でウィッグを投げ捨てる。自分の髪に自信を持てない訳ではなく、誰にも認められないから嫌になったんだよね雪美は。
私はこの子が悩んでいるのは知っている。部屋の中で泣くところを何度も聞いていた。とても可哀想なものよ。
私はこの髪が嫌いだったけど、あの子はそんな髪が好きなの。好きだからこそ、あの子は嘘を吐きたくなくて泣いてるの。私は高校の時にそれを学校側に言っているけど、雪美は姉である私が虐められていたのは知っているから、雪美は学校側に言いたくなくて最初から髪を隠していた。好きな人が出来たとしても気味悪がる人がいるから、雪美は全てを断っていた。付き合えばその人に自分の容姿が知られてしまうから。知られたら嫌われると思った。その度にも見たくない程泣いていた。
嘘ではなく、本当の自分を晒したいあの子にとってはとても皮肉な現実よね。
だから、この子は引っ込み思案になっちゃったの。
多分、今日も泣いているわね。私は、この子の姉としてどうやって接すれば良いのかしら…
私は部屋にいる雪美の様子をドア越しで耳を立てて聞いていた。入ると怒るから。
ほらね……今日も泣いて……
盗み聞き間違いかな?部屋の中で、凄い嬉しそうで幸せそうな声が響くわね。こんなにドア越しで喜んでいるところを聞くのは初めて。どうしたんだろう。もしかして、狂っちゃった?でも、それはそれで嫌だわ。
私の妹が髪だけであんなに泣いていたのに狂うほど笑う最悪なことでもあったのかな…
私は部屋に入りたかった。だけど、雪美はそれを嫌がる。苦しんでるかもしれないのに接してあげられないのは辛いよ。お願い…入らせてよ雪美。
私は開けようとしたが、感傷的になっていた気持ちが鎮まってくるのを感じた。そして、私は虚な眼差しで独り言を言った。
「…そっかぁ……私には、この子のケアは出来ないんだ…」
ドアに触れていた手を離し、私は1人部屋に戻った。
部屋に篭る雪美の様子を見ておけば良かったのかな?あの子の心の傷を開くかもしれない。私が周りを気にしないでありのままの髪を晒したのがダメだったんだ。それが原因で、学校や買い物、遊び以外では殆ど部屋を出なくなってしまった。私のせいでこうなっちゃったのなら、責任は取らなくちゃ……
ごめんね。
けど、明日はケント君と一緒にまたこの場所で会おうて書いたから大丈夫よね?
私との約束……守ってくれないと赦さないよ?
僕は、あの沙雪さんのことが気になっていた。家に帰って自室で横になりながら僕は考えていた。やはり、あの人は凄い美人さん…いや、美少女だった感じだったなあれは。あんなに大人の雰囲気があるが、声が優しく、銀色の髪と蒼い眼にあの白い和服が似合う女はいない。
正直に言ってしまおう。僕は、あの人に惚れてしまった。人離れしたその姿に、僕は魅了され、心が奪われた。そして、僕はあの人に会いたい。もっと関わりたいと思った。
しかし、沙雪さんは同じ学校だったのは驚きだった。今日すれ違った人は間違いなく沙雪さんに間違いない。
「明日会えるよな?けど、あの置き手紙は何だったんだ?」
ふと手紙の内容を振り返る。何故1年生の教室に招くんだろうか。同じ学年だとは思えない。けど、何か理由があるのか?
いや、あの人には特にあるわけないか。
僕は今日のこの体験を思い出しながら眠りについた。




