第1話 雪女はいた
投稿が遅れてしまい申し訳ございません。
昨日イベント参加していて携帯触る時間があまりありませんでした。ちゃんと編集して投稿させていただきました。追記は少し入れつつも、新たなストーリーとして動き出します。
恋を体験した。
そこから恋を自覚し、心が全てに奪われる感覚に陥り、盲目の恋となって人を狂わす。
誰だって愛を持たずにはいられない。心のない人間など存在せず、何色にも染まる染まりやすい生物こそが人間だ。
悪に染まる者もいれば、善に従う者。偽善者として振る舞えば、純粋無垢なる者もいる。
恋は人を狂わす。静かな狂いから、在らぬ狂乱に陥る可能性のある波紋の予兆。誰もが変貌してしまうほどに力を秘めている。
その感情に準ずる一族だっている。彼女達は感情の揺らぎで恐ろしい力を得る。古来のある女性が結んだ悪魔との契約により、彼女は厄災として恐れられ、やがては討伐対象として多くの人間に狙われた。
人間に狙われる彼女はたった1人の異性に告白され、やがては子を身籠る。
不幸にも、それが彼女達の穢れた歴史の始まりであったことを知覚することなく………
ずっと胸に秘めていた想いを誰かに示す瞬間だった。何物にも代えられない己の醜くも純粋な感情。誰かに受け止められるからこそ成熟する。
しかし、互いに意思が通わなければ成熟はしない。
この世には決して覆すことの出来ない理がある。
好かれる人間と、拒まれる人間がいる。
2人から始まる因縁が芽吹く。
「俺と付き合え。沙雪、お前は俺の女だ」
黒髪の少し大人びたような容姿と蒼瞳を持つ彼女への告白。数ヶ月前より友達感覚から付き合い、遂に告白のチャンスだと彼は想いを告げる。
絶対に受け入れられると確証があった。同じ日に共に下校し、親しく会話も重ね、僅かばかりの手持ちのお小遣いをやりくりして彼女を自分の女として染められたと自惚れがあった。
自分の物にしたと驕ったその精神が根本から崩れた時、愛情は憎しみへと変わる。
「………」
「どうした?喜んでくれてるのか⁉︎」
「中村さんにまだ言えてなかったことがあるの。これを見ても……私を好きと受け入れてくれるかしら?」
彼女は打ち明けなければならなかった。黒髪だったウィッグに手を伸ばし、涙ながらに打ち明けることを覚悟した。
「私……『雪女』の末裔なのよ」
ウィッグを外し、自らの秘密を暴露する。
想い人であるならば、こんな自分を受け入れてくれると信じた結果、男を想いもよらぬ狂気で蝕むとは想像すら出来なかった。
「うっ⁉︎うわぁ…!うわぁああああああああ!!!!!バケモノ!テメェッ⁉︎バッ、バケモンじゃねえかーーー‼︎チクショオオオッッ‼︎」
けたましい恐怖の叫びを上げ、必死にその場から恐怖に駆られた状態で転げ走る。好きだと告白した彼女を到底許容出来ない怪異的な魅惑の前に恐怖に駆り出されるしかなかったのだ。
虚無の表情を浮かべ、涙した瞳は揺らぐも失恋という感情は湧いてこなかった。
彼女は『雪女』の末裔であり、その心は閉ざされている。中村という男には若干の恐怖を抱きながらも、その心は決して彼に開くことはなかった。
「残念。私……あの人の事どうでも良かったみたい。好きじゃないのね。辛くもない…」
冷たい心を溶かす者を受け入れる。中村程度では満たされることはなかった。
彼女は望む。
「好きな人…出来たら良いわね。私と…雪美にも」
高校に入学した彼女は、そこでも中村から執拗なイジメを受けた。あの日以来、彼女は陰ながら噂話を広められ、友達ですら数人ほどしか出来ない。噂に尾びれが付き、密かに彼女は否が応でも冷ややかな目で見られた。
1年なら良かった。しかし、嫌がらせが3年となると話は変わってくる。
最初こそは勉強に集中していたのだが、次第に周りとの壁を感じ始めて勉強への意欲を失ってしまった。赤点ギリギリが殆どとなり、部活動も入らなかった彼女は学年の中でも下位の順位にまで落ちてしまっていた。
完全に中村の執念深さの犠牲者だった。嫌がらせによって、彼女自身は他人へ興味を示すことを辞めた。
ただ、唯一接してくれた友達の美代とは良好な関係を築けていた。美代は彼女にとって大事な友達であって、自分が落ちこぼれになっていっても変わらず接してくれる心優しい主だったのだ。気前よくジュースを奢り、共にお弁当にありつく日々を3年生の秋の終わり頃まで飽きずに続けていた。
テスト返しの日が訪れる。担任からは落胆するような溜息が教室に響く。
「はぁ……えっと、里山さん?貴女、大学入試偶々受かったからってだらけ過ぎよ?また赤点候補になりかけているところですよ。まったく…まぁ、ギリギリですが」
「ありがとうございます」
テスト用紙を受け取った彼女は貰った瞬間興味なさげに机の中へしまい込んだ。
「沙雪〜?また点数言われちゃったね」
「良いのよ私は。どうせこの学校からあと数ヶ月でお別れ。もう飽きてきたわ」
「まだまた〜!と言っても私との別れは悲しんでくれるでしょ?」
彼女は少し照れ臭そうに頬を染める。
「…うん。美代は凄く優しいから。1人だけでも味方でいてくれてありがとう」
「うんうん!じゃあさ、そう思ってるなら1人くらい良い人見つけなよ。異性の男性くらいは沙雪には必要だろうし」
「ふふふっ。いつも言うね。でも私には無理だった。中村さんに見られて以降、私は変な噂の対象でしかなかったから。仕舞いには、妹にまで恨まれる始末よ」
あの日以降、妹である雪美からの冷たい態度が多くなったことを打ち明ける。ずっと仲の良い姉妹で居続けていたにも関わらず、雪美は笑ってくれることはなくなってしまった。
辛いものを見せてしまった。あの日、振られて逃げられた日に雪美にひどい顔を見せてしまった。態度が出てしまうのが、雪美は姉である彼女を到底認めたくなかった。
「仲悪くなったって良いじゃないか!私が今度仲直りの印にお菓子持って行ってやるよ。妹さん、茶道部なんだってな?」
「一応はそうね。副部長なんて務めてるから、私と会うなんて夜の食事くらいだわ。もう何週間も口も聞いていないから、如何喋れば良いのか……」
「よしよし。泣いて良いんだよ沙雪。誰だって辛いんだよ。好きな人が出来たら皆んな変われるさ」
頭を抱え涙目になる。美代は背中を優しく摩り、耳元で宥め言葉を聞かせる。
お昼時間になり、昼食を終えた彼女は図書館で本を探していた。
雪美との仲を取り持つ為の書籍を探し、何かヒントを得られないかと模索する。
ひとつの本に触れる。そっと取り出し、本の内容に目を通す。
「……妹の気を引く方法?何それ…ちょっと興味あるかも」
ページをめくっていく。驚くほどに、その内容は理解することが出来なかった。トンチキな出鱈目な内容で、如何にも胡散臭い内容だったからだ。
妹に意識して貰うには、その妹が好きな異性を奪う。彼女にとってはとても信じられないものだった。
「誰なの?こんなくだらない嘘を吹き込んだのは……。はぁ、図書館には碌な本がないわ」
興味が失せた彼女は図書館を出る。
その時、出た時に誰かとすれ違う。ぶつかりそうになり、自分の方から歩きながら謝る。
「すいません。ちょっと急いでまして…では」
そう丁寧に返したのだが、ふと気になった人物がいた。
黒髪で短髪男子。背丈はそれほど大きいわけでもなく、ひ弱にすら思える身体付き。中村と違って特に目立った外観ではなく、普段ならすれ違う以外に何も感じない程の人間だった。
しかし、何かを感じ取り、彼女に強い衝撃を心に与える。
ドクンッと電流が走る。何も振り返らないその男は気付いていないようだったが、彼女は彼が去るまで熱い視線を送っていた。
「あっ…!あの人は——」
知っていた。
彼の名は大村健人。高校1年生にして成績優秀者である。
だが、それ以上に何かを感じた。
運命的な感覚を初めて感じた彼女は、その頬が笑みで緩む。
これまで興味を持たなかった筈の沙雪は、中村以上に途轍もない衝撃に目覚めた。喉から手が出るほどに欲しいと身体が疼く。
「あの人と話がしたい…」
そう願わずにはいられなかった。
そして、沙雪の望みは今日の夜に叶うことになるとは知る由もなかった。
僕の名前は大村 健人。高校1年生の男子学生だ。突然聞くけど、君は噂に興味はあるかな?
例えば、『吸血鬼』や『貞子』、『雪女』とかが家の近くにいたり彷徨っていると聞いたら、君はどうする?逃げる?それとも通報するかい?
答えは簡単さ。自分から怪異に会いに行く。
何故、わざわざ行くかって?興味あるからさ。噂って、誰かが故意に広めたものもあれば、ガチの妖話っていう事もあるんだ。日本だけでもその数は数知れない程のスポットが存在する。それが心霊スポットと呼ばれる場所だ。皆んなが行きたがらない場所にそれは発生する。興味無さそうにする者でも、その存在を耳にすれば自ずとスマホやテレビなどの番組で調べるだろ?人間ってかなり単純で、噂なら何かしら興味を示してしまう。
それは感情として現れることが多く、表情では取り繕っていても心底では、興味・恐怖・快楽・幸福・不幸・怒り・悲しみ・憐れみ・不安・失望・呆れ・狂信・同情といった様々な感情を抱くだろう。人は、何かを聞けばそれに対して何かしらの感情を持つ。話を聞いた時点で、それは聞いたことになりそれに関して何かしら抱く。噂なら尚更何かしらの反応をする。大体は恐怖や興味が主なんだろうけど。
僕は、そんな噂に興味を持った。
朝、目を覚まし、室内が暗い中、眠い瞼を擦りながらカーテンを開く。眩い光ではなく、冬空の乾燥した空気と枯葉がある景色の中で太陽は対して眩くない。僕的にはちょうど良い日差しで、寒い寒いと言いながら洗面所がある1階に降りる。
僕は洗面所から出て、朝の時間によく流れるニュースをチラッと見た。
あぁ、今日は晴れなんだな。
昨日の天気予報では、今日は埼玉で雪が降るって言っていたのに、全くの嘘じゃないか。折角、雪が降るって意気込んでいたのにがっかりだ。
朝のニュースを見ながら、僕は朝ごはんの焼き鮭を口に頬張る。骨がつっかえるので舌を器用に使い身と骨を分けて箸で骨を取り出す。これが嫌いだ。こんな食べ辛い魚料理を提案した奴を訴えてやりたい。まぁ、そんな事は無理だと思い渋々食べる。
「健人。また嫌な顔をして……そんなに魚は嫌いなのかしら?」
とお母さんは言う。そんなに顔に出てたのかな?黙々食べてるんだから、気付かれないと思ったんだけどな。嫌いではないんだけど、骨を取り除くのが嫌いなだけ。
「そんな事ないよ母さん。それよりも、今日は初雪が降るみたいだよ?」
「あら?ホントだわ⁉︎洗濯物を乾かす為にさっき干したばっかりなんだけど。やらかしたわね…余計な手間だったわ」
まぁ、今日の天気は晴れると思うけどね。3日前から雨が降るとか雪が降ると予報士は言っているけど、全部外れてんだわ。全く、予報士の人は予測すら出来ねぇーのかよ。と思いつつ僕は再びご飯に手を伸ばしご飯を口に運ぶ。
僕の朝は父さんがいない。朝5時前に車で会社に行き、会議や事務的業務をこなし、毎週土日と水曜日を除いた日はいつもいない。水曜日は早めに帰ってくると父さんが決めたのである。父さん曰く、「平日、家族と居たい」と言っていた。父さんは大企業の社長で、なかなか休み取れないのではと思っていたが、かなり仕事の方は楽になったみたいだ。そのおかげで、僕は水曜日は父さんと一緒に居られる。
今日がその水曜日なのだ。帰ってきたら、父さんに勉強を教えて貰ったり、一緒にご飯が食べられる。僕は父さんと母さんが好きだ。相談に乗ってくれるし、辛い時は優しくしてくれる。あの時も僕の味方でいてくれたから、自分を嫌いにならずに済んだ。
おっと、今はそんな事を考えている暇はないな。あと15分で学校に行かなくちゃヤバイ。
僕は身支度をして急いで学校に向かう。日差しは晴れなのに今日は風はそこまで強くない。冬にぴったりな朝だ。これで雪が降ればもう少しロマンがあって良かったのに。
学校は徒歩で20分。道はそこまで入り組んでいないから、ほぼ直線で歩いて行ける。
やはり雪は降ってないな。
降っていたら大いに喜んで飛び跳ねただろう。もう高校生なんだ。そんな事で、はしゃいでいては周りになんて見られるか分かったもんじゃない。この町に住んでいる人はそれ程多くないし、見られたら最後、おばさんやコンビニ店員で噂させちまう。
がっかりする気持ちを押し殺し、学校に早歩きで向かう。
学校に着き、昇降口で靴を脱ぎ上履きに履き替えている最中にある事を耳にする。噂好きの女は相変わらず人に聴こえるように話すんだなと受け流す。この時期になると噂を話したい奴は多いのか?
「ねぇねぇ!最近、この辺りで『雪女』が徘徊しているって噂があるの。なんでも、何か持ちながら見た者を恐怖に晒す妖怪なんだって‼︎私こわ〜い」
「うわぁ。それヤバイくね⁉︎確か、銀髪でその靡く髪が襲ってくるって他の奴から聞いたぞ?なんでもあの神社の近くや裏道にひっそりといるみたいね〜?」
「やだ〜怖いわよ。実際に姿を見た人はあまりの恐怖に失禁したり、酔いが覚めたり、酷い人だと発狂して川に落ちる人がいる程怖い顔みたいよ。絶対会いたくない!」
「それだけじゃないわ。隣のクラスの子から聞いた限りでは、毎年この時期に出没して人に寄ってくるらしいわ!興味あった人の苦痛を食べちゃうみたい」
「えっ⁉︎それだったら良いじゃん!なんで駄目なのよ?」
「苦痛を食べられた人は不幸になるって話よ。現に警察沙汰になったり、火事になったりと会った人達がそう証言してんのよ?」
「会ったって……その人達は姿はちゃんと確認したの?」
「いいえ、顔ははっきりと覚えてないみたいよ?その代わり、皆んなの予想では超絶美人か鬼ババア、仮面をつけてた、顔が無いとかなのよ!」
「うわぁ〜そんなヤバイ妖怪がいるんだったら私のところに来いって言ってやりたいわ!アッハハハ」
この話はこの時期になると毎年恒例の噂になっていた。
この地域では、昔、『雪女』が住み着いていた地域と言われ、多くの人々が邪鬼として嫌う一方、豊穣の象徴として崇められていた存在なのだ。どんな話だよって思うだろ?僕だって最初は迷信だと考えていた。歴史書物や図書館にある史料を読み込んでみたら、どうやらその伝承は正しかったのである。
それが、今は心霊話として持ち上げられ、それを知らない者はこの地域には居ないぐらい有名話であった。しかし、僅かの人数を除いて、その姿と特徴を知る者はいない。分かっているのは、せいぜい女ってことぐらいだ。そして、特定の場所にその『雪女』は現れ、手に何かを持っている。見た人の噂によると石かナイフ、鎌を持っていたそうで、形がそう見えたとの事。なら何故、彼等は『雪女』の姿を見ていないのか?
どうやら、全員がその『雪女』の顔を見た瞬間、あまりの恐怖に震え上がってしまい、記憶から吹っ飛んでしまうとの事。去年探し出した他のクラスの者がそう証言していた。意外と噂って実物なのかもな。記憶が吹っ飛ぶぐらいとは馬鹿げた話だよって言いたい。
くだらねぇーな。何が『雪女』だ。そんなもん妄想の中の御伽噺や日本昔ばなしでしか出てこねぇーよ。女子はこういうのが好きなんだな。
と思いながらその場を後にした。しかし、僕はこの話に興味を持ってしまった。『雪女』とあの神社にはどうしても震える心が止まらない。
あの神社は、僕が住んでいる家から数分で行ける神社なのだ。この辺りで神社は1つしかなく、そこで『雪女』が出たというのだから会ってみたいと思ってしまった。しかし、普通の女なら兎も角、妖怪だったらどうしようという葛藤がある。噂だから多分問題ないと思っているが、噂が本当だったら僕は心臓発作でも起こして倒れるだろう。妖怪やお化けは苦手だからな。
授業は正直つまんない。僕の学力はそこそこ高い方で、一度習った事を理解すれば簡単に応用でも解けてしまう。学年試験でも上位には食い込むし、学力が高いこの学校でそれなら十分だろ。僕が勉強すると大抵のテストで90点は貰える。
「大村さーん。テスト返却です」
少しボォーとしちまったな。申し訳なく頭を下げてテストを受け取る。先生からは称賛の声が出てくる。
「また学年で1位ですね。あと1問で満点でしたよ?惜しいです」
「あ…はい。ありがとうございます…」
「努力の贈物というものでしょうね。これからも頑張って下さい」
5科目全てを同時で返されるのがこの学校のテスト返しで、この時期の期末テストは他の学校より早い11月末に終わる。理由は、この学校の勉学の精度は高く、年にテストが3回しかない代わりに、留年になる可能性が高いのである。留年の可能性があるのは普通の高校だったら5パーセントもないのだろう。しかし、この学校の留年確率は30パーセントなのである。授業内容が難しいは難しいので、ノートだけ取る者はまず落ちる。テスト内容は、復習する物と応用を想定した問題が多く、習った事をそのままテストには出してこない。求められるのは、そこから応用力と柔軟な思考が求められる学校なので、そんな当たり前は通用しない。
僕にはそんな事を言ったって無駄。だって、ノート取らなくとも、しっかり先生の話か教科書を見れば余裕だからである。そんな事を自慢するほど、僕は落ちぶれてないがな。
周りを見ると褒めている者もいれば、僕を強く睨む輩もいる。嫉妬や嫌悪の視線はよく受ける。男に睨まれるならまだマシだ。ただ、女子となると話は違ってくる。
身体が少し震え、こっちが怒り出したくなるのだ。
「お前やるな〜‼︎さっすが俺が見込んだ男だぜ!」
「何言うんだよ郷太。僕はちゃんと勉強した、それだけだ」
「嫌味かよ⁉︎まぁ、お前は最初から天才だったな健人」
郷太とは僕の友達だ。フルネームは、竹山 郷太 って言って、スポーツ万能な奴だ。この高校に入学した時に1番最初に友達になった奴で、会った瞬間、意気投合しちまったんだ。そのおかげで、偶に僕の体育を助けて貰っているのがあるけどね。運動は苦手ではないけど、体力や筋肉を付けたい時はコイツに頼ってる。1年生なのに、上級生のチームに混じってレギュラーを取っているんだよ。しかも、野球部で僅か1ヶ月で練習試合に参加しその実力を見込まれ、夏の大会ではライトとして出場したのだ。
偶にテストに出そうな問題用紙を作ってあげて、落ちないように僕はサポートしてやってる。
そんな奴と比較すると、僕はスポーツや部活は特にしていない。やりたいものがあれば話は別だが、生憎自分にはそんなものはない。趣味は歩き回る事だし、恋愛をしようとしたが……いいや、こんな話はする必要がなかった。
「おっと、俺の番だな⁉︎そんじゃあ行ってくるぜ!」
と郷太は堂々と先生の元に行き、答案用紙を受け取る。その時の表情はかなりヤバかった。
とぼとぼ歩くそいつを見て、少し申し訳なく思ってしまった。僕は分かっているのに訊いた。
「…どうだったか…?」
「悪りぃ。俺駄目だったよ…うぅ」
「見せてみろよ。………悪い、流石に僕も譲歩出来ねえよ」
「そんなぁ…⁉︎」
「そんなに泣きそうになるなよ。来週の追試まで付き合ってやるからな!」
「おう…サンキューな」
郷太のテストは散々な結果であった。これは、僕も真剣に付き合わないとダメだな。
あまり勉強が出来ない郷太に、僕はいつも勉強を教えていた。最初は嫌がって拒否していたが、必死に頑張ろうとする郷太に押され、つい受け持ってしまったのである。勉強自体嫌いではないから良いんだが、もう少し、自分の趣味に当てたいというのはあった。だけど、頑張ろうとする奴を僕は放って置きたくなかった。
授業も四限終わり、昼食時間になる。僕は食堂は1度も利用した事がなかった。母さんの手作り弁当で、色彩と栄養がバッチリな完璧弁当なのだ。
「うおっっ⁉︎美味そうだな!俺に分けてくれよ!」
物欲しそうに僕のお弁当を見てくる。箸をウキウキさせながら食べたさそうに弁当を見るものだから呆れて言ってやる。
「駄目だ。これは僕の為に作ってくれた弁当なんだ。あげられないね」
「なんでだよ⁉︎俺の唐揚げとお前の厚焼き卵と交換してくれよ〜なぁ〜?」
「駄目だ!」
これはどうしても譲れない。僕のお弁当は誰にも譲りたくもあげたくもない。僕自身が満足出来るものを友達にもあげられない。今までもずっとこういう風にしてやっていた。
「チェ〜ケチだな?」
「勝手に言ってろ。僕はこの弁当を堪能したいんだ。幾ら君でもあげないよ」
そう言って僕は弁当を味わう。このTHEお袋っていう感じの味が好きなのだ。ゆっくり堪能したいが、この後、コイツの勉強を教えに図書館に行かなくちゃいかないのを理解し、心の中でゆっくり味わおうと思った。10分で昼食を平らげて、一緒に図書館に向かった。
やっぱり、図書館に行くのはやだなー…
静かでいい空間であるが、僕は強制的に黙らされる空間が嫌い。だから、図書館はあまり行きたくないのだ。頼むから、今日は満室で頼む!
そう願いながら図書館に足を運んでいた。
「あちゃー。満室かよ……行こうぜ健人」
賑やかな図書館の満席に郷太は落胆する。
「そうだね……ふぅ」
聞こえないように情けない息を吐く。それは、嬉しため息である。
仕方がなく教室に戻ろうとした時に、ある人とすれ違って違和感を覚えた。
黒髪のストレートで、眼が青いその女に一瞬であるが視線がいった。身長は僕よりは低く、大人しそうな感じだった。
郷太がぶつかりそうになり、その女の人が一言申し訳なく謝ってきた。
「すいません。ちょっと急いでまして…では」
と言って去って行った。顔を郷太とは合わせていないが、横顔だけは拝見できた。
その横顔が意外にも僕好みだった。蒼く透き通ったその瞳は日本人にはない綺麗な色をしており、まるで御伽噺にでも出てくる創られたような眼だった。
神秘さを秘めたような優しい瞳でありながら何処か恐怖を奮い立たせるような目つきでもある。髪と眼があまり合っていない感じがする。何処かウィッグをしているようで自然体な髪だった。
この学校では、ウィッグは許可があれば大丈夫という事で、女子はそれが多いと知っていた。もし、銀髪だったら可愛いのだろうと心の中で思った。異質に見えるその姿が脳裏に焼き付いた。
一言で言えば、可愛い。
また会いたいな……
「……でさ、最近噂になってんだよって聞いてるか?」
「……ん?あ、悪い。少しボォーとしてた」
午後の全ての授業が終わるまで、僕はずっとその女の人を考えていた。だから、郷太の話を全く聞いていなかった。
「もしかして、さっきすれ違った先輩に興味あるのか?」
「っ⁉︎何だよそれ。てか…郷太なんで知ってるんだよ!」
郷太が僕より彼女を知っていることに大きく揺さぶられた。
「ガハハハ!あの先輩悪い噂が経っていてな?お前、あんまり関わんねえ方がいいぜ?」
「悪い噂?」
「あん?知らねえのかよ。健人、あの先輩は他人の心を弄ぶ酷え女らしいぞ」
その噂は知っている。
とある先輩が彼女に告白し、思いっきり振られたらしい。そして、去り際にこれまでの鬱憤を晴らすかのように人間性を咎める発言までして泣かせたという恐ろしい人だ。
ただ、僕は真実としては受け止めてなどいない。
「……嘘だな」
「あ?何がだよ」
「少し気になる事があった」
適当にあしらうつもりで言ったが、何を思ったのか郷太は変な事を聞いてきやがった。
「お前……食い足りなかったのか?」
「何言ってんだよ。見当違いにも程があるだろ⁉︎」
「いや、お前結構食うからな。遂にあの弁当じゃ、満足しなくなったんじゃないかと思っちまったぜ」
気にしてなかったが、僕の弁当は普通の人より少し多い。郷太は寮生活だから寮で作られる弁当を持参されているけどそれよりも多い。本当に気にしてなかった。
「そんなに僕は食い意地はないぞ?もうそろそろ練習の時間だろ。早く行ってこいよ」
「っ⁉︎そうだったぜ。じゃあ、また明日な!勉強教えてくれよ」
郷太に対して催促した。コイツの野球部のルールはヤバいからな、遅れたら溜まったもんじゃない。
「分かってるよ。明日みっちり教えてやろうか」
「あ…いや、優しく頼むわ」
そう言って郷太はダッシュで教室を後にした。僕も何もないので荷物を持って教室を出て行った。
冬の夕方は日が沈むのが早いのか、今日は薄暗い空が目立つ。空気も乾燥して寒いし、マフラーなんか持ってない僕にとっては凍えものだ。早く帰らないと寒くて手が冷えてしまう。幸い手袋は欠かさず持っている為、手が震えてる程度で済んでいた。
急ぎ足で足を動かす道中で、僕はすれ違った女の人の事を考えていた。
「あの女、なんか怖かったな〜。髪と目の色が似合わないほど恐ろしかった……あれがハーフなのか?でも、あの瞳は…」
明らかに、眼が日本人とは違う色だったのもあるし、外国人と言われても全く違和感がなかった。身長はそれ程高くないが、その眼の色がどうしても鮮明に頭の中で記憶されていた。
まるで怪異に出てくる『雪女』そのものだった。
実は、僕は眼が好き。所謂、眼に反応するタイプで、女子の眼だけでなく、男の眼も見る。何故、僕がそんな物に興味があるのかは、やはり人を見るならまず目だな。人の目をしっかり見て話すのを意識する事を理念としている僕にとって、目は大事だ。例え、その人がクズ野郎でも不良でも、心底嫌っている奴でも。しっかりそいつの目を見て判断するのが1番なのだ。
それが延長線上で変な方向に行っちまった。まぁ、フェチっていう物だろうな。人を信じてみようとして眼を見ていたらそれに興奮するのは正直、人には言えないな。言ったら引かれるし。
そんな事を考えながら帰り道を歩いていると、ポケットにしまっていたスマホが振動する。
「もしもし?母さん、どうしたの?」
母さんから電話が来るのは珍しい。普段は僕の方から掛けることが多い。
「あっ健人。悪いんだけど、今日雪が降るから洗濯物取り込んどいて。今実家の方に行ってて帰れなさそうなんだよ」
「え?母さん、朝取り込んだんじゃなかったの?それに実家って…」
僕の母さんの実家は遠く、県を跨がなければ行けなかった。しかも、今いるって事は今日は帰れないという意味なのだ。
「お父さんも今日は私と一緒にいるのよ。今日は1人でご飯食べといてね。悪いわね、今日は折角のお父さんもいる日なのに」
申し訳ない声が電話の先から分かる。ここは心配かけないように伝える。
「大丈夫だよ。水曜日は駄目なら週末があるんだし、それに実家から帰ってくる時は気を付けてね」
「ありがとね健人。明日のお昼にはそっちに帰るつもりだから、しっかり朝ごはんも食べて行きなさいよ?」
「心配しなくてもいいよ。僕だって、普通にご飯作れるし」
「そうね。ならいいわ」
そう言って電話が切れた。今日は1人で家で過ごすのか。1年ぶりなのかもしれない。あまり、家に居ない事が少ないので、こういう事は意外と珍しい。同時に、夜間の外出も自由に出来るって訳だ。普段は僕は外に出歩く事がないし、夜に至っては出る事は出来なかった。父さんに「夜は1人で出歩かないように、友達がいるなら別にいいが…」と少し過保護なところがあって、僕的には枷にしかならない。
「…さて、久しぶりに噂を探ってみるとするか!」
朝の登校で聞いた話を鵜呑みにし、急いで帰宅してから静かになりそうな19時まで、洗濯物を取り込み、自分の課題をさっさと終わらせる。
その噂がよく見られるという時間帯が大体19時から22時の間とかなり長い。しかも近所の神社でその“雪女“が現れるなら少し楽しみだな。異世界系と思って思うのが1番楽なのだろうが、僕はその噂が本物なのではと信じていた。
理由は、この辺りで悲鳴をよく聞いた事があって、一度だけ、怯えながら逃げる声をはっきり聞こえたからだ。一応、噂の内容は合っている。現に、怯えた声が聞こえたし、川に落ちた者もいる事も知っていた。本当にいるのなら、僕は会ってみたい。そして、僕のこの“悩み“を封じて欲しい。
過去にあったトラブルが原因で、僕は、女性と付き合うのはしたくないと抱いてしまった。だから、その『雪女』が僕の心の内にある“悩み“を解決してくれるなら、異形な存在にでもこの気持ちをなんとかして貰いたかった。親に“悩み“の真実は知られているが、そんな事は自分で解決したかった。忘れられるなら簡単だろう。しかし、僕はそんな事を忘れる事は出来ない。出来なかったのだ。あんな事で、僕の気持ちが一度潰されてしまったのを僕自身が許せない。だから、心の底でこの噂を信じたかった。
そんな気持ちを抱いて、19時を過ぎた頃に、僕は家を出た。不良少年と言うなら好きに言え。僕は偶に悪気をするぐらい子供ぽく振る舞って良いだろう。
と勝手な気持ちを抱きながらある神社へ足を運ぶ。『雪女』がいると信じて……
歩き慣れた道に、少し狭い道がある。その道を通っていけば近道となるのだが、僕はあまり通りたくない。人があまり通らないし、以前も同じ道で怖い思いをしたからというわけではない。ホントだぞ?決して僕が1人で寂しかったとか、変な事を信じて行ったとかではないぞ。ただ、不気味な場所だっただけだ。
そんな道を避けて、人通りが少ないが街灯が灯る道を歩く。学校とは反対側の道を辿って行くが、その道はそんなに通っていない。学校や電車は学校方面にある為、神社がある所に行く事は本当になく、この通りを通ることが数ヶ月ぶりになる。神社に行くとなると数年ぐらいかな。
神社の噂が広まったのは一昨年からだった。自分がまだ当時に流行った時は中学生だった為、『雪女』が出現するとされる19時から22時の時間帯の外出は禁止にされていた。だから、今日行けるのは嬉しいのだった。
「うわぁ……こんな古い建物だったか?暫く見ないだけでこんなに変わるもんか…?」
2、3年振りに見るその神社は屋根の瓦にヒビが入り、襖は穴が空いていたりしていた。神社の石段は崩れ、点灯も倒れそうで光が灯っているものと灯っていないものがある。落ち葉や木の幹が折れて荒れ放題。
全く管理が行き届いていないレベルであり、正直、ここが心霊スポットとして扱われても文句の言いようがない。あの女達が騒いでいたのも無理ないな。まるで、おんぼろの屋敷と言って良いぐらい立派な幽霊神社だ。
やはり、こんな所を見てしまっては帰る事が出来ない。ますます、この神社に何かいるのだと勝手に想像してしまう。こんな場所を放置しては『雪女』には会えないんだ。僕は会いたい。幻でも良いから会わせてくれ。
強く願い、神社の周りを探索する。枝が積まれるように散乱し、歩きながらそれを眺めたり、神社の建物状況を分析する。
この建物、そんなに歴史は古くないんだよな〜。
そう、この神社はまだ建てられてから200年経たない神社であり、規模はとても小さい。その昔、この神社はこの町の飢饉や災害の為に建てられた神社で、江戸時代末期頃の冬に建てられた神社だという。丁度、この時期なのだそうだ。
10分近く探してみてもなかなか見つからない。そりゃあ、こんなボロ臭そうな場所に何かが本当にあるとは思わないのだろう。しかし、まだ神社の建物内を見ていない。探ってみる価値はあるな。
普通だったら、危ない神社の扉を開けようとは誰も思わないのだろう。しかし、僕は開ける。今周りには誰もいない。見つからなければ何も言われない。親にも文句を言われる事もない。
と思ったが、建物の近くに寄った瞬間、手の甲に冷たい綿が溶けた。
「……降ってる」
初雪だった。
「そういえば、今日が雪降る日だったよな。天気予報……嘘ではなかったみたいだ」
今日の予報士を褒めつつ、暗い空から降り降りてくる白い綿を眺める。僕はこの雪が好きだ。暴風の如く降る雪よりもこうして静かに降ってくる優しい綿のような雪が僕の好きな時期なんだ。
「ははは!今日はいい事が起きそうだな」
そう思い、神社の扉に手で触る。しかし、中から何か音がするのに気付き手を離した。
ポタ…ポタ…ポタ……ボト………ポタ…ポタ…
「…ん?」
神社の中から水滴のような音がする。雪が降ってきたからなのか、それとも建物自体が古過ぎるから雨宿りでもしてるのか。
しかし、音が不定期すぎる。なんかヤバい音もしたのは気のせいだろうか。少し寒気がした。ただの雪による寒さなのか、この先にある空間の正体に震えているのか。いや、こんな場所にいる方が可笑しい。妖怪や幽霊なら別だが。
その扉を凝視して覚悟した。
「失礼しま〜す…」
別に要らない声を掛けて扉に触れる。
好奇心でその扉を開ける。ボロそうな音を立てながらその音が響かせて、開けづらそうな扉を左右に押し開く。錆び付いている物ではないが木で出来ているのか、襖の下部分の木の部分が腐っているのか、木の屑が目立つ。
「っ…開かない…」
ちょっとやそっとでは開かない。少し強めで力を押さないと開かないみたいで、僕はその扉を両手で片方を強く押す。すると、思ったよりも硬いがなんとか扉は動いた。押し込むように襖の扉を開ける。
スッ…ス、ス……スゥー…
「やっと開いた………え?」
扉が人が出入り出来るほど開いた隙間、思わず間抜けな声を出してしまった。
暗闇から光る黄金色の長い何かと、一瞬であるが眼のような光がこちらを睨んだ。
その中には、死装束のような真っ白な和服を身に纏い、手には食べていると思われるさつまいもを持っている僕より若そうな女がいた。中にいたその女は、とても似たような気配を感じた。
女は座っており、特に驚く様子はなく、優しい笑みを向けてきた。口についているであろうさつまいもの欠片を指で拭き取り、指でその拭き取った欠片を舌で舐めるように食べる。その姿は人によっては艶っぽい仕草に見えるが、僕にとっては少し怖かった。暗くてよく見えないが、瞳は恐ろしい程暗闇で光るように見える。それもあって、僕には色っぽく見えなかった。
僕は見て察知した。
この女が、噂になっている『雪女』だ。
「んふふふ。そんなに怖がらなくても良いわ。私を見て怖いんでしょ?」
その声は少し大人びた声で、人を止めるには優しすぎる声帯だった。ゆっくり立ち上がるその女は身長は低かった。僕はその声が意外にも心地が良かった。大人の女性のようで身長は低いが、かなりふわふわするような声でその女は暗闇から問う。
「どうせ、噂で来たんでしょ?」
頭ではじっくり見たいと思ったが、身体は身を引いていた。雰囲気に耐えられないみたいで、身体が後ろ退く。女の上半身が暗闇でよく見えず、その姿が怖いと認識出来ず身体が後ろに退いてしまう。これが動物本能の逃走本能と生存本能なのだろうか?
声を出そうにも震えて声が出ない。怖いからではないと信じたいが、実際は恐怖心を抱いてしまっていた。
「チ…ちが…う。違う…違い……」
そう言うが、近づく彼女に合わせて勝手に身体が退いてしまう。今なら分かる。皆んながこの『雪女』から逃げた理由が分かってしまった。
身体が逃げようとする。心が勝手に逃げようとする。しかし、僕の自制心でなんとか留まろうとする。
だが、暗闇から歩み寄るその女から避けようと退くが、階段があった事を忘れており、ド派手に転んでしまった。
「うわぁっー⁉︎」
尻からついてしまい、「いてて…」と尻を抑えた。
「あっ…ごめんね少年くん。大丈夫?」
ゆっくり僕に手を差し伸べたその女の髪と瞳を見て、心奪われてしまった。
この世の人間ではないと思うほど、『雪女』は怖く、冷たく……
美しかった。
月の光と雪で反射したその銀髪の髪と、暗闇ながら綺麗で美しいと感じるその蒼く透き通った瞳が優しく僕を見つめていた。よく見たら死装束ではなく、ただの白一色の巫女服に近い和服であり、今日のような寒い日なのに薄着過ぎるのではと思う程の寒そうな格好に見えた。口から空気が冷たいと分かるように白い息がはっきり見えた。その息と蒼い眼に髪が神秘さを引き立てている。
だが、そんな事は関係ない。
今の僕に映る景色は、その女ただ1人の顔にあるその瞳と美しく靡く銀髪しか映らなかった。月と雪が絶妙に相まって『雪女』の姿を拝むことが出来る。倒れたからこそ、見える景色がそこにはあった。『本当に存在したんだ』と心の中でそう思った。
一気に不安や恐怖、悩んでいた事すらもこの時は忘れた。
そして僕は、その姿を一言で言い表してしまった。
「……ごめんなさい。見惚れてしまいました…」




