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第3話 嫌われ者

もうお気付きだと思いますが、pixivで投稿していた内容と離れています。明確に敵意を持っている両親と向けられる理由が分からない沙雪の温度差は恐ろしくも悲しいです。


本当に彼女は何もしてないんですよ。ただpixiv見て貰うとその理由が………



明日は彼らが帰ってきます。彼らが一年以上待たされた恨みはさぞ恐ろしいことでしょう……

ヤベェ……寝不足だ。

何故、寝不足だと思う?

楽しみ過ぎて早く起き過ぎたんだよ!

あの姿が早く見たいということで、僕はいつもよりも3時間以上早く起きた。その結果、3時間程度しか寝ておらず、僕は眠気がヤバかった。折角、23時に寝てたのに夜中の2時過ぎに起きてから寝れなかった。全く、これじゃあ僕が遠足のように楽しみにしているみたいじゃないか。


否定出来ないのが悔しい。


眠気はないが、眼と体に倦怠感を感じる。最悪だ、こんな風に寝付けれなかったのはいつぶりだろうな?恥ずかしくて、『考え過ぎて寝てませんでした』だなんて言えない。


疲れた身体を起こし、僕はいつも通りパジャマのまま、朝食を食べる。今日は魚ではなく、ジャガイモとコーンのコロッケか。ソースをかけて、黙々とニュースを見ながら食べる。冷蔵庫の冷凍コロッケは意外と美味い。親がいない今の空間は静かで寂しいが、今の僕は大丈夫。

今日は、昨日の沙雪さんと会えるのが楽しみで仕方がない。こんなに心躍る気持ちは知らない。ヤバイな…本当に気になっちまう。早く学校に行きたい。

僕はいつもより寒い道を早歩きで向かって行く。寒いのに心は温かく、今の時期の寒さなど大した事がない。寧ろあっついな。

「おはようさん!早速だが教えてくれ!」

「おい、いきなりかよ…まぁいいよ。まだ30分あるし」

授業は9時からだから、あと30分教えないとかぁ…約束しなきゃ良かった。

と思いつつ、僕は真剣に郷太に出来なかった範囲と覚えるべき所を教えた。郷太は一度聞けばなんとか出来るようにはなるが、要領が少々悪い。頭が悪いとかではなく、必要のない知識は綺麗に消えるタイプなのだ。だから、こいつにはきちんと大事と認識させて覚えさせないとまた同じミスをする。それを知っている僕だから、郷太の指導が上手くできる。

じゃあ、なんで最初から教えたりしないの?と思うだろ?

勉強は自力でするもんだと思ってるからさ。最初から他人頼りだと嫌われるのが嫌だし、教えたらズルしているようなモヤモヤ感を感じる。誰かに教えたり教わったりするときは、まずは自力で解けるまで粘る。それでも解ける要素がなければ頼る。

一度も僕は頼った事はないけどね。逆に頼られる事は多いが、それはそれで慣れちゃったかな。

「これ解けないのか?ここの方式はこうするんだよ」

「うーん……すまん、全然理解できない気がして無理…」

「えぇ…」

どうやら、今回はダメな方だったみたいだ。

授業も始まり、僕は意識をそっちに向けて話を聞いていた。とりあえず、2限までは真剣に聞いていたから良かったが、3限の授業で話し合われた文化祭の話題で、僕の意識は再び沙雪さんを意識するようになってしまった。




先生が教壇に出てからその話題は沸騰した。

「皆さん、12月の下旬に文化祭がありますが、このクラスでの活動を決めたいと思います」

その瞬間、クラス全員がその文化祭という話題についてヒソヒソ話したり、嫌という表情をする者が当然のようにいる。えーと声をあげる者や頭を抱えて嫌な顔をする者、嬉しそうに友達と話す奴までいる。

この学校では、クリスマス直前の日に文化祭を行うことになっており、テスト期間が終わったのと同時に楽しいイベントが舞い降りてくる。楽しい企画以外の何物でもない。

かと思われるが実際は面倒臭いのである。

この行事には絶対参加という謎の掟があり、テスト期間で赤点を取った不合格者にとっては苦痛以外の何者でもなかった。

その理由は、テストがその翌日に行われるからだ。

この学校では、赤点を獲得した者には救済処置として3回の追試があり、10日ごとに再試験が行われる。しかも、この追試は厄介なことに普通に解くよりも難易度高めなのである。普通の期末テストの方がよっぽどマシに思えるほどであるのだ。だから、追試を受ける事が多いこの学校ではこの期間を“地獄の1ヶ月“とも呼ばれている。昨日が11月24日だから、12月25日には最後の追試があるという計算。しかも、その間に追試2回と文化祭があって追試を抱く者にとっては最悪な話に過ぎない。そこで落ちれば、そいつらは最悪退学になる。

僕には正直どうでもいい話だけど、郷太が落ちるのは僕は止めたい。だから、関係ないと言っても嫌なのだ。仕方がなく、僕は郷太には協力を惜しまないように教えてやっている。

しかし、今の僕はこの事では苦痛には思わない。

後2限終われば会えるから。

「………」

なんだか怠くなってきた。眠気が思ったより強く襲ってくる。欠伸が止まらず、自然な仕草で先生達に見られらない様に誤魔化す。

文化祭の取り決めになったが、正直にクラスの出し物には興味があまりなかった。

「学級長の人はやる事を決めてまとめて下さい。では、浩一君と彩花さん、お願いします」

学級長が教壇に上がり、文化祭のイベントについて説明し、自分達のクラスでやる屋台か出し物を説明していた。律儀な2人による話は数十分に渡り続いた。

文化祭があるなら、あの人もいるかな?そうしたら……って、なに考えてんだ僕は‼︎

初めての高校の文化祭であるけど、何であの人と行きたいだなんて思ったんだ?沙雪さんは何するんだろう。今日聞いてみるかな。


話し合いは授業が終わるまで続き、一応学級長や他のクラスの人達が意見を出し合った結果、僕のクラスではお化け屋敷をすることになった。屋台は3年生しか許可されていないみたいで、僕達のような1年生では屋台は出来ないとのこと。どうせ、3年生になれば強制的にやらされるのだろうから別に良いんだけど。

しかし、今は別にどうでもいい。早く会いたいなー。

そんな事を耽っていたら驚くことに、もう4限が終わってしまっていた。

「おい健人。飯食わないのか?」

「ちょっと、会ってこないといけない人がいてね。今日もしかしたら勉強無理だと思う!じゃっ!」

「おい待て!俺の勉強は誰が見てくれるんだよ⁉︎」

「先ずは分からないところから学べよ。僕は用事があるんだ。放課後でも問題ないだろ?」

僕は郷太の事を放り投げて一年四組の教室へ向かった。しかも、少し早歩きではたから見れば少しヤバい感じだ。


それ程まで僕は、沙雪さんに会いたかったのだ。分かってくれよ、あんな人に置き手紙で誘われたのならなんでも良かった。凄い嬉しい。そんな気持ちで一杯だ。

少し早くついてしまったのだろうか?沙雪さんらしき人物が見当たらない。

「アレ?あなたは隣のクラスの優等生君?」

顔が知られているのか、僕が教室の前で待ってる時に声を掛けられる。普段話さない女子であって、何よりも嫌悪感が酷い。

「……いや悪い。ちょっとお手洗いに行ってくる」




胃がキリキリする。何度も感じる吐き気と胃痛。トイレに入るなり、もの凄い吐き気が催す。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

もうこの身体は女性を拒んでしまう。酷く痙攣し、寒気すら感じるこの嫌悪は拒絶反応だ。

女性と関わろうと、喋るだけでもかなりしんどい。先生くらいがまだマシな部類だ。

両親はこの事を知っている。いや、僕がこうなった原因さえ知っている。

やっぱりあの人しかダメだ。

トイレから出て、身震いする身体を落ち着かせる様に、わざと小刻みに足元を鳴らす。

「ご飯…食べりゃあよかったのかな」

そんな事を思って後悔していた。折角なら、早食いでもいいから食べて来ればよかったと思い、頑張って四組の前で来るのを待つ事にした。


10分待ったかな。少し痺れ切れそうになった頃に、その人は来た。やや長めの黒髪のウィッグを付けているが眼の色を見てハッキリ分かった。制服姿で銀色の髪が黒いウィッグによって掻き消されているのが勿体無いが、今は仕方がないのだろう。

「ごめんね。ご飯ゆっくり食べてたから遅くなっちゃった」

その声は昨日とは少し違って聞こえた。けど、声の調子は僕の眠気のせいで悪いと思った。嬉しくて、そんな事が如何でも良いくらいに心が躍ってしまっていた。

「昨日ぶりですね!何処に行ってたんですか⁉︎」

目の前には昨日見た彼女だった。間違いなく……ん?なんか……

いや、僕の体調が悪いんだ。眠気と嫌悪で視界が悪いだけなんだ。

違和感があった。けど、これを僕は無視してしまった。

「ちょっとお友達と外で食べてて。私、あんまり教室では食べないから」

「親しい人と食べてたんですね。沙雪さん、昨日思い詰めて泣いていましたし、友達と食べられていると聞いて…少し安心しました」

昨日の話を振り返る。沙雪さんは少し頬を染め、初々しく黒髪のウィッグを弄り出す。

「……うん。いるよ?」

「良かったぁ…」

「……此処だと話し辛いし、ちょっと人気のない場所で話しましょ?」

場所を変えたいと言い出され、僕は沙雪さんに着いて行く。

昼休みも残り10分と少ないが、

「学校とは全く雰囲気が違いますね!」

「うふふ、そうでしょ?このウィッグ、かなり値段するんだからね」

「最近は本当に見分けが付かないんですね。昨日見かけた時とは違う雰囲気だったので」

問いに対して疑問顔をして首を傾げていた。

「じゃあ私は行くけど、貴方は週末空いてるかな?」

「えっ⁉︎」

「週末、空いてる?」

「あ、あ空いてます!」

「良かった〜。一緒にどこか出かけよう?折角テスト期間が終わってる事だし」

マジかよ⁉︎デート…なのかな?これ絶対デート!だよな?

「分かりました!行く場所は僕が…」

「決めましょうか?」と訊ねようとしたが、沙雪さんはきっぱりと言い切った。

「それなんだけどね、もう私決めてるから。一緒に行く場所」

「そうなんですか⁉︎」

「うん、したい事もあるしね」

嘘だろ。これ確定のやつだ‼︎異性から誘ってくる時は好きって、スマホからの情報が言ってたな。しかも、嫌な顔じゃなくて凄い可愛い笑顔で言ってくるのは確実だな。しかも会って1日だけでこんなのはヤバいな。相当、気が合ったのかも。

「楽しみにしています‼︎」

「ふふふ、そんなに畏まらなくてもいいよ。気楽にしてていいからさ」

嬉し過ぎて僕の方は気持ちの整理ができなかった。そして、初めてといえるご飯抜きで午後の授業を受けることとなった。だけど、お腹は空かなかった。代わりにこの緊張感が代わりに僕のお腹を満たしているようだった。

「ちなみに何処に行くんですか?」

「この辺りは大きいショッピングモールとかはないから……えっとね、商店街なら色々あるんじゃない?」

「商店街かあ〜。行ったことはあるけど、あんまり飲食店は無かった印象ですね」

この町にある商店街は昔から経営している老舗が構えている店舗が数知れず。全部回るのに1時間あっても足りないほどに広く、小物類が多い印象がある。

沙雪さんはそう言うものが好きなのだと思い、僕は興味を抱く。

「そうよね。あそこはショッピングモールの影響で閑散してきてるけど、まだ目星のお店は多いのよ。ケント…貴方なら好きなところあると思うよ?待ち合わせはこの地元なら有名な花芽茶(かがちゃ)に9時で良い?」

「それは楽しみですね。そうだ!連絡先を………」

僕は携帯を差し出したのだが、何故かタイミングよく呼び鈴が鳴ってしまう。沙雪さんは何事もなかったように何処かへ行ってしまう。

「待ってください!直ぐに交換を………あれ?」

僕は重大なことに気付いてしまった。後ろ姿に映る人物が僕の知る沙雪さんと微妙に齟齬があることに。何よりも、僕に対する接し方がまるで昨日と違っていた。

違和感。僕だからこそ気付いた違和感があった。

そして決定的な証拠として、僕はその場で悍ましい寒気に襲われた。




その日の夕食、僕は気掛かりだった。居ても立っても居られず、お母さんが作った料理を全力で頬張る。無心に近い掻き込みに驚かれながらも、あの時間に間に合うように食べ終える。

厚着を着て、僕は用事があるとお母さんに伝える。

「今から会いたい人がいるんだ。ちょっと帰りは遅くなるけど、10時までには帰ってくる」

「健人?もしかして彼女が出来たの?」

「ブーッ⁉︎なんでぇ⁉︎」

僕は盛大に噴いてしまった。お母さんは嬉しそうに僕の肩を叩く。

「良かったわ。ずっと女の人怖いって震えてた健人が遂に……うぅっ、お母さん凄く嬉しいわ。本当に……良かった」

僕は強い悲しみに打たれるお母さんの反応に困ってしまう。

僕の過去を知るお母さんは、僕をずっと心配してくれていた。父さんもそうだったが、こうして普通の生活を送れる自分に戻れたのも母親という存在はあまりにも大きかった。

ずっと避けてきた過去なんだ。もう、ここでその過去の因縁と断ち切れるんじゃないかって考えてしまう。

沙雪さんだけは大丈夫。完全には治ってはいないが、特定の人だけにこの寒気や吐き気が止まる事を昨日の時点で知った。

もし、沙雪さんに会えればまた分かるはずだ。

僕はお母さんを宥め、父さんに秘密と言って外へ出掛けた。


昨日見た雪が更に濃く、白い大粒の水を含まない雪が降っていた。触れると消え、霧のように視界が少し悪い。

僕はあの神社へ行く。すると彼女がそこに立っていた。美味しそうな冷めたさつまいもを小さい口で頬張り、妖しく食べ物を絡め取る様はまさに沙雪さんだった。

「こんばんはケント君。また、来てくれたのね?」

その微笑みは凄く幻想的に見えた。怪異としての鱗片を感じつつも、魅力的な微笑みは僕の心を安心にさせる為にあるのだと勘違いしてしまうほど。

「今日も来ていたんですね。学校では連絡先交換出来ず、そのまま別れてしまったので会えて良かったです」

「……何言ってるのかしらケント君?私、置き手紙して帰った筈よ。今日もここで会おうって…」

学校で出会ったことに触れたが、沙雪さんは知らぬと平然に振る舞う。昨日と今日のこの時間でしか会ってないと言わんばかりに不思議そうに首を傾げる姿が印象的だった。

これではっきりした。僕は今日の出来事を照らし合わせていく。

「沙雪さん実は……今日沙雪さんを偽る誰かと会ったんです。ウィッグしていましたが、沙雪さんに扮して僕の事をデートに誘ってきたんですよ」

「っ⁉︎……ケント君、今…デートって言った?」

「はい。なんで——」

何をされたのかを白状したのだが、沙雪さんが蒼い瞳でこちらを覗き込むなり、僕を神社の壁に押し付ける。凄い力というわけではないが、彼女が持つ怪異の妖気オーラに当てられたように身体が動かない。

「私のことが好きなのでしょ?その子、私の偽物だって分かってたでしょ?……如何して断らなかったの?」

どうやら僕が偽物の沙雪さんとデートをするという事がダメらしい。僕に嫌悪している様子ではなく、ただ純粋に僕が断らなかったことに腹を立てているようだ。

「すみません。けど、取り決める前に会えなくなって……」

約束はした。ただ、連絡先を交換する前に別れてしまったので、実のところまだ約束がされたわけではない。

沙雪さんは下を俯いて何か呟き出す。呪い言葉の様に呪詛が聞こえてきそうで恐怖を感じた。

それでも、彼女への拒絶はなかった。

考えに耽っていた沙雪さんが漸く動き出す。その表情が妖艶でお色気を感じさせる。

「ユフフ。ケント君が私一途なのは嬉しいわ。けれどね?私凄く怒ってるの。私以外の女の子と遊ぼうとした君の浅はかさにはね……?でも許してあげる」

解放され、僕はホッと安堵を漏らす。沙雪さんの冷たい手が頬に触れ、思わずビクッと反応してしまう。

「え?い、良いんですか⁉︎」

「うん。ケント君が私の事を愛してくれるのでしょ?」

一段と冷たく凍りつく様な声色だった。

「え…?愛し——」

重い感情が魔の手の如く忍び寄る。逃げ場はないとばかりに、僕の視界には沙雪さんの恍惚とした表情が広がる。視線すら外せず、まるで魅了された様に僕の鼓動が高鳴る。

「ケント君が良いの。私、君に一目惚れしちゃった。凄く純粋で、凄く物事を素直に口にしてくれるところ。前に付き合えと言った彼とは違う。本当に……私が愛したい人なの」

不穏な単語を聞いたが、それ以上に沙雪さんの顔がもう唇が重なってしまうほどに近かった。声を発しようとも、僕の中で言葉が出てこない。

恐怖?多分その類だ。なのに、沙雪さんの古風な白装束の服装と彼女から醸し出されるフェロモンの様なもので自然と恐怖が薄れていく。

「ふふっ。ケント君の考えていることは分かる気がする。こんな姿を見て怖くない筈がない、けれど怖さが薄まっていく感覚がある。私はね……人の心が視える異能が使えるのよ」

両手で頬を触られる。冷たく心地の良い触り具合が僕に眠気を誘う。

まさか、僕が寝不足なのを知っているんじゃ…?

「ケント君。私と会いたくて楽しみだったのね?ふふっ、凄く純粋で可愛いわ。眠いなら私がおんぶしてあげるけど?」

「いや……流石に…ぃ……あれ?眠い……」

視界が朧げになってくる。雪が降って、彼女に触れられている心地で眠ってしまいそうだ。必死に抗おうにも、僕は眠気に打ち勝てなかった。

「大丈夫よ。ケント君のお家まで送ってあげるわ。家の住所は調べてあるから、もういつでも会えるね?もっと話したいから、連絡先も交換してあげる。今週の土曜日、私とデートをして頂戴。そうしたらさっきの偽物とデートすると約束した事は無かったことにしてあげる」

眠気に襲われ意識が朦朧とする中、沙雪さんの言葉が魅惑的に感じられた。

僕は完全に沙雪さんへ身体を委ねた。




健人が出て行ってから1時間が経った。母親である尚美は息子がトラウマを克服したのかと喜んだ。

だが、そのトラウマという元凶というなった存在と会うとは、この時彼女は知る由もなかった。

ピンポーン!

尚美は不思議に思った。健人が帰ってきたにしてはチャイムが鳴るのは可笑しい。それに宅配便の時間もとっくに過ぎており、来訪者だと身構えてインターホンに映る人物を見る。

「はーい!………貴女は⁉︎」

健人を背負う銀髪の女性を見て、嘗て恐れていた人物と相違ない特徴と合致し、尚美の様子は狂ったように玄関へ走る。

「健人ぉー‼︎貴女、何の目的よ⁉︎このぉっ‼︎」

健人を無理やり引き剥がし、恨みを込めた1発を拳で放とうとした。突然豹変した尚美に沙雪は理解が追い付かない。

「えっ?あのお母さん⁉︎私はケント君を——きゃっ!」

豹変した尚美の拳を紙一重で避け切り、そのまま玄関前に足を滑らせて転んでしまう。痛みを訴えるも、彼女の豹変の起因が明かされる。

「よくもぉ…!私の息子をまた半殺しにしてくれたのねぇ⁉︎死に損なった息子を狙ってまた襲ったか⁉︎もう2度と私の息子に近付くなバケモノ‼︎」

「………えっ?」

沙雪には全く身に覚えのない八つ当たり。だが、健人達にとっては非常に許し難い事実だった。

もう一度振おうとその拳が突き出される直前、尚美はハッと我に返る。

「尚美。何をしているんだ?」

「っ…あなた」

父親である士郎のご帰宅だった。ちょうど、取り返しのつかない亀裂が起きる前に彼が我が家の門を括り、尚美の暴走を止めた。

当然、士郎の視線には沙雪が映り込む。

「………君は?」

「あ、さ…里山沙雪です」

沙雪が名前を答えると、士郎は複雑そうな顔を見せた。

「そうだったか。健人をここまで連れて帰ってきてくれたことには感謝している。ただ……君本人にはあまり良い印象は持てない。初対面だが……もう2度と健人に関わらないでくれ」

沙雪は困惑する。告げられた拒絶に涙を浮かべる。

「そんな…!如何してですか⁉︎私、ケント君と2回しかまだ会って——」

「黙れ!っ…悪いな沙雪さん。これは俺の心の問題なんだ。こんなんで仲良くなって俺が認められるわけ……くっ!兎に角っ‼︎俺の息子には金輪際関わるな‼︎『雪女(ユキオンナ)』の血筋の人間である者にこいつは渡さない‼︎」

「っ⁉︎」

まるで駄々をごねる男児の様な言い訳を混じった突き放し。士郎は沙雪自身に恨みなどない。だが、健人が抱える忌むべき記憶の人物と酷使し、仕事柄でも関わりのある人物と照らし合わせてしまい、士郎の心情は尚美より静かに狂っていた。

ドアを勢いよく閉め、崩れる沙雪には何も手施しもしなかった。


沙雪は遅れて理解する。

「あの人、確かお父さんの知り合いの人だった。そっか………ケント君が可哀想」

だが、彼女は怒りもせず、ただ健人の心配をする純情を有していた。

そして彼女は、連絡先を交換する暇もなく音沙汰がなくなった。

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