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病弱な幼馴染を優先する夫に耐えましたが、もう限界です ~今更溺愛されても許せません~  作者: ふくふくまる


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第30話 貴方を愛おしく思う




 エメル・シード主催の品評会以降、裁判は動き出した。


 まず先立って行われたのは、フェリクスによる魔導具の盗作疑惑についての裁判だ。

 フェリクスが裁判所に提出した魔導具の設計図が偽造してあると判明し、結果的にバージェス辺境伯家側が勝訴することとなった。


 また少し遅れて魔導具工房の職人達への給与未払いに関する裁判も行われた。

 職人達による証言と、私がオズモンド家に留まっていた頃に見つけた帳簿のコピーを提示すれば、無事に職人達の勝訴で幕を閉じた。


 それによってフェリクスの運営する魔導具事業は一気に傾き、工房の職人達は一斉に退職。

 魔導具協会の庇護によって各地の魔導具工房に再就職し、その内の何人かはノルヴァルデン領の工房に来てくれた。

 

 そしてフェリクスはというと、多額の賠償金を支払うこととなるのだが───彼は忽然と姿を消してしまった。



 

 ・

 ・

 ・



 

 数ヶ月後。

 春先にも関わらずノルヴァルデン領は未だ肌寒く、朝方は暖炉に薪をくべている。

 

 その最中、屋敷の執務室にてグレンは険しい表情でぼやいた。

 

「フェリクス・オズモンドは一体どこにいるんだろうな。逮捕状が出ているんだぞ」

 

 そんな彼に対して私も思案する。


 フェリクス・オズモンドが姿を消したその後、オズモンド伯爵家への不信感と統治能力の無さが問題視され、王家により領地は没収された。

 

 オズモンド家の親戚達も肩身の狭い思いをしているそうだが、瘴気で穢れた領地を放って遊び惚けていたのだ。

 おまけにフェリクス自身は爵位も剥奪されたようで(本人不在のためそれは一方的に決定した)今後オズモンド家が再興するには長い時間を要するだろう。

 

 現在オズモンド家の領地は別の貴族が統治しており、土地を浄化するための魔導具の開発をノルヴァルデン領の工房と連携して行っていた。

 

「早く捕まれば良いのだけど。フェリクスの行方が分からない限り、私達も安心して出歩くことはできないものね」

 

 きっとどこかで野垂れ死んでいるか魔物の餌にでもなっているだろうが、実際のところいつどこで何をしているのか分からない。


 彼が恨んでいるであろう私達に闇討ちを行う可能性もあり、外出する際は護衛兵を伴っていた。おそらくこれが解除するのはしばらく先だろうなと考える。


 するとその時、グレンがじっと私を見つめているのに気付いた。


 夜会等に出る際はきっちりと身なりを整えるようになったが、癖のついた黒髪は相変わらず野暮ったい。

 

「どうかしたの?」

「……………いや」

 

 不思議に思いながら尋ねると、グレンはぐっと眉を寄せる。


 そしてしばらく思案した後、ぼそりと口を開いた。

 

「…………俺にとってフェリクス・オズモンドは到底度し難い存在だが、君からしたら元夫だろう。裁判では徹底的に打ち負かしてしまったし、その結果アイツは領地を没収され、爵位まで失った。……………そのことで、俺を恨んでいないかと」

「??? うん………?」


 グレンは一体何を言っているんだろう。

 彼の言葉の真意が全く分からず戸惑っていれば、グレンはひどく言いづらそうに続けた。

 

「君は学生時代の頃からアイツが好きだったじゃないか。オズモンド家に嫁ぎ、酷い目に遭いながらもこれまで一途にフェリクス・オズモンドを愛していただろう」

「……………」

「もう何とも思っていないと言っているが………最終的にアイツは破滅したんだ。君は優しい人だから、もしかしたら同情し、あそこまで奴を追い詰めてしまったことに後悔していないかと…………」

「……………」

「分かっているとは思うが、今回の裁判は俺が君を巻き込んだに過ぎないんだ。だからもし思い詰めるようなことがあれば全て俺のせいで。あそこまでフェリクス・オズモンドを追い詰めた俺を恨んでもいい」

「……………」

「ただ、離縁することはできない。俺を恨みながら、一生隣にいてほしい」


(何か重いし暗いな………)

 

 私も朗らかなタイプとは決して言えないが、グレンのこういった気質は最早生まれ持ったものなのかもしれない。

 

 小さい頃から悪評蔓延るバージェス家で育ち、自己肯定感ががりがりと削られていったのも原因であるだろうが、ここまで来るとグレン自身の性格なんだろう。


 ちなみにフェリクスを完膚なきまでに陥れるため、商人のイゴールや魔導具協会のエメル・シードに相談しようと持ち掛けたのは他でもない私なのだが………。


(何もグレン一人が抱え込まなくて良いんだけどな)

 

「それに………」

「?」

 

 グレンが自信の無さそうな、心底申し訳なさそうな表情をしてぼそりとこぼす。

 

「…………君はそもそもフェリクス・オズモンドのような、華やかな男がタイプなんだろう? それなのに俺みたいな陰気な男のもとに嫁ぐことになって、悪いとは思っているんだ。しかもこんな面倒な裁判に君を巻き込んで………」

 

 そう言って消え去るような声音で話すグレンに───何だか私は妙にときめいてしまった。

 

(…………え、ええ? ずっとそんなこと思っていたの? フェリクスと自分を比べたりなんかして………)

 

 裁判に巻き込んでしまって申し訳ないという見当違いな謝罪はさておき(そもそも謝罪なんてする必要がないのだが)


 フェリクスの華やかな容姿に勝手に劣等感を抱き、若干卑屈になっているグレンに面倒くささを感じるものの、庇護欲が湧き上がる。


 何だろう。

 グレンがすごく可愛く見える。

 

 豊かな毛並みを持つ真っ黒な狼みたいな男なのに、今は何だかしょげた子犬みたいだ。

 

「ふふ」

「? どうして笑うんだ?」

「いえ、可愛いなあと」

「かわいい!?」


 お前は何を言っているんだとでも言うかのように衝撃を受けるグレンに、笑みがこぼれてしまう。


 そして戸惑った様子のグレンに私は口を開いた。

 

「……………確かに私はフェリクス・オズモンド卿に対して一時期熱を上げていたけれど、今はもうそんな気持ちは微塵もないわ。あれだけ蔑ろにされて、それでも好きでいるだなんて幻想だもの」

 

 それに精神衛生上とても不健康だ。

 酷い目に遭ってそれでも愛しているだなんて。フェリクスに対して何かしらの恩義でもあれば違うのかもしれないが、そんなこともない。

 

 血を分けた家族でもない───自分にとって害のある、他人に過ぎない男をいつまでも愛することはできないだろう。

 

「それからフェリクスがあのように落ちぶれていったのは………冷たいかもしれないけど自業自得だと思う。ただ、それでも何らかの瑕疵があるのなら、貴方だけのせいには決してしないし、私にもその責任を背負わせてほしい」


 きょとんと不思議そうな顔をするグレンに「どうして私がそんなことを言うと思う?」と尋ねる。

 

 しかし彼は「いや」と首を横に振るものだから、私は思わず苦笑してしまった。

 

「貴方のことを愛おしく思っているからよ。私がこのバージェス家に来て、貴方は私のことを一等大切に扱ってくれたわよね。そのどれもが嬉しくて、私の心を癒してくれた」


 ───どんな理由であれ君が酷い目に遭ったのは事実で、君が蔑ろにされて良いわけないと思うが。 


 メイドのクロエから紅茶をかけられてしまった時、彼はこう言ってくれた


 ───星空を眺めて顔を輝かせる君は、あの頃と全く変わっていないと。アルテシアが俺のもとに来てくれて良かったと、今でも心から思っている。


 お披露目の夜会後、前世の記憶を思い出す前の(アルテシア)と前世の記憶を思い出した後の(アルテシア)を肯定するかのような言葉をくれた。


 他にもまだ、たくさんある。

 

 そういったそれらの積み重ねがとても眩くて、愛おしい。

 フェリクスといた頃には感じたことのない───この人となら今後どのような傷でも分かち合い、少しでも彼の抱える重荷を減らしたいと思えるのだ。


(愛する人と夫婦になるってこういうことなのかしら)

 

 まだよく分からないが、いずれ彼と歳を重ねた時に答え合わせが出来れば良い。

 

 するとグレンがしばらく黙り込んだ後、ぽつりとこぼした。

 

「………………俺もだ。何だか、夢みたいだ。アルテシアと結婚して、そんな風に言ってもらえるなんて」

 

 どれだけ自己肯定感が低いのだろう。


 しかしそんな彼を愛おしく思いながらも、こちらはバツイチなのだ。

 どこに落とし穴があるか分からないため、浮かれ過ぎて盛大に傷付くようなことは避けたい。


 けれどやはりどうしても嬉しくて。

 内側から溢れ出る愛情をどうにも抑えることは難しそうだった。



 

 ◇



 

 交易の盛んなとある領地にて。

 多人種の多く賑わう街中から隠れるように存在する地下街の一角。魔物から生成される違法薬物や呪具を販売する店に、一人の客人が現れた。

 

 砂埃で汚れたローブを頭から被り、ローブの隙間から金糸の髪がわずかに覗く。

 体躯からするに男だろう。


 垂れ幕によって仕切られた狭い店内に、所狭しと並べられた薬品や呪具に眉を顰めながらも、その男は真っ直ぐ店主のもとへ向かった。

 

「らっしゃい。今日は何のご用で───」

「ある人物に復讐をしたい。ここにある商品でそれは可能か?」


 店主はそんな客人に怪訝に思いながらも、にっこりと愛想笑いを浮かべて頷く。


「ええ、もちろんございますよ!………ですが、呪われた品を取り扱うには代償が必要です。その覚悟はお待ちで?」

「ああ、構わない」


 店主がそっと客人を窺う。

 ローブの隙間から垣間見えた客人の顔は美しく整っており、品がある。


 おそらく顔の良い労働階級の者か、豪商の子息か。

 または没落した貴族といったところだろう。


(訳ありか)


 しかしそんなものは関係ない。

 呪われた品を扱うことで使用者がどんな代償を払おうともどうだって良い。


 そう、たとえ死んだとしても。


 そして店主は朗らかに言い放つ。


「それでしたら貴方様にぴったりの品がございます!」


 そうして店の奥から出した商品に、客人は歪んだ笑みを浮かべた。




 

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この期に及んでなんでまだそんなお金があるんだろう。
落ちる所まで落ちたなクズモンド
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