第24話 盗作疑惑の事実確認
バージェス辺境伯家に嫁いで幾月。
夜会が終わった後、グレンから小型プラネタリウムの魔導具を製品化しないかという提案を受けた。
ノルヴァルデン領の魔導具工房のスポンサー兼オーナーのグレンは、基本的に工房の経営陣や職人達を混乱させないよう資金繰りのやりくりしかしない。
けれどごくたまに王家や高位貴族とのコネを作るために、貴族向けの魔導具を献上することがあるらしく、その際には仕様から設計まで自ら行って職人達に依頼するらしい。
今回の小型プラネタリウムもその一貫らしく、私としても断る理由は何もなかった。
私が夜会用で作ったピンホール式のものを原案とし、そこからグレンは星詠み(天文学者)や魔術師達の監修のもと、精度の高い星図の再現や、安定的な光の生成・変換。
また更なる魔術式の調整によって、私的目的で作った魔導具を献上できるであろうレベルまで引き上げた。
そして出来上がったのが───通称『星辰投影機』だ。
デモ製品として投影機を一部の貴族に貸したところ、それは好評だったようで。その噂を聞きつけた魔導具協会から直々に「今後の展開や流通について相談したい」といった声がかかった程である。
「───この星辰投影機は余興だけでなく、教材としても扱えるだろう。他にも空の再現度によって軍事や航海目的にも使える」
グレンが設計図を片手にそう言うのに対し、私も「なるほど」と納得する。
まだデモ段階の魔導具に協会から声が掛かるなんてどういうことだろうと、不思議に思っていたからだ。
「そういった今後の展望も含め、早い内から協会は何かしらの繋がりが欲しいんだろうな。魔導具の流通はいつも懇意にしている商人に任せるつもりだが………」
「商人?」
「ああ。代々世話になっている商会で、今代の代表は珍しく俺の親父を慕っていたんだ」
そんな彼の言葉にふと思う。
夜会以降、グレンの亡父について詳しく調べたのだ。
先代バージェス辺境伯は、王都の役人達によって決まった地方の現状を無視した政策に強く抗議してきたらしい。
その中には今問題視されている行き過ぎた通行税もあり、反発した結果、国王の承認を直々に得て、ノルヴァルデン領を始めとする一部の地方領地は免除されたそうだ。
そういった諸々の理由で王都やその付近にいる貴族には嫌われているが、グレンの亡父を慕っている者がいるのも確かなんだろう。
「私も是非お会いしたいわ」
「ああ、近々紹介するつもりだ」
それに頷くとともに、私は今後について思案し始めた。
◇
原作小説『トゥルーエンドは貴方と共に』ではこの頃、フェリクスとアルテシアの想いが通じ合って、オズモンド伯爵家で甘い一時を過ごす。
使用人達からも見直され、屋敷で自分を苛める者は誰もいない。
そしてフェリクスは過去の過ちを悔い、アルテシアに見守られながら自身の傲慢さを見つめ直す。
それはすぐに改善するわけもなく、時にその片鱗を見せて暴走するが、その度にアルテシアが導き彼を立派な紳士へと成長させた。
フェリクス・オズモンドというキャラクターは、過去の非道な行いを悔い改めて改心していく───どんな人間でもやり直せるというメッセージ性を持ったヒーローとして小説内で書かれているのだが………
(───いくら改心しても、やられた方は到底許せないし、たまったもんじゃないんだけど………)
フェリクスが立派な紳士となっていくための踏み台に、他人の人生を消費しないでもらいたい。
そんなことを考えながら、私はグレンに時間を作ってもらい執務室に呼び出していた。
原作小説の時間軸だと、そろそろグレンによる裁判編が始まっていくのだ。
グレンが裁判を始める前に確認しなくてはいけないことがいくつかある。
「急にどうしたんだ? 投影機のことか?」
「いえ、そのことではなくて、グレンに聞きたいことがあるの」
そして対面のソファに座るグレンに改めて問う。
「貴方、魔導具の設計や開発もできるわよね?」
「ああ、知っていたのか」
「……………正直に答えてほしいのだけど、過去に設計した魔導具をフェリクスに盗作されたことはあるかしら?」
おそるおそるそう尋ねれば、グレンはしばらく考え込んだ後ぽつりとこぼした。
「…………もしかして、その話は出回っているのか?」
「そういったわけではないわ。ただオズモンド家にいた頃、基本的に魔導具は売れていなかったのだけれど、ごく一部の商品は評価されていたのよね。道具の設計の完成度にムラがあるから、もしかしたらそうなんじゃないかって………」
そう言えばグレンはしばらく黙り込んでしまった。
そんな彼を前にしながら、私は学生時代の頃をぼんやりと思い出す。
王立学園において魔導具の授業はなかったものの、教師の中に魔導具工房の職人がいたのだ。
フェリクスはその物怖じの無さで積極的に話しかけ、気に入られていたのを覚えている。
対照的にグレンは常に遠慮している様子で、それでも研究室で設計書をしたためていた少年の姿をよく見かけた。
すると、グレンがぽつりとこぼす。
「………アルテシアの言う通りだ。おそらくフェリクスに盗作されたのは『育成恒域機』と『地熱喚起機』。俺が学生時代に書いた設計図とほぼ同じだった」
動植物を育てる温室の気温を一定に保つことのできる『育成恒域機』。
豪雪地方において屋敷周りの雪を溶かす『地熱喚起機』。
あまりにも高額なことから販売台数の少ない2点で、主に富裕層から買われていた。
「ちなみに、その盗作された魔導具の設計の著作権はグレンにあると証明できるの?」
「一度領地の工房で試作品を作ったことがある。その時の記録によって証明できるだろう」
「…………そうですか」
通常ならばそれは十分証拠となりうるが、原作小説において彼は裁判に負けている。
自領の工房での記録はいくらでも偽装できるとフェリクス側の弁護士に言い切られてしまったからだ。
「…………その設計図を私が見ても?」
「? 構わないが………」
そしてグレンは鍵付きの書壇の引き出しから封筒を取り出した。
そこから出された設計図を受け取り、一瞥する。
頭の中で『育成恒域機』と『地熱喚起機』の設計図の概要を思い浮かべた。
フェリクスの工房に勤めていた職人が書いてくれた設計図で、それと大きく剥離している様子はないか確認してみるのだが………
(素人目にみても図案も一緒だし、書かれている魔術式も同じね)
細かいところまでは流石に分からないものの、フェリクスが盗作したと言うのはおそらく事実なのだろうと察する。
それと同時に原作小説の裁判において、改竄した設計図を裁判所に提出した可能性も浮き上がり「やっぱり」と呆れ返った。
(やっぱり小説はアルテシア視点だったから、フェリクスの良いところしか見えなかったのね)
「貴方に渡したいものがあるの」
「渡したいもの?」
「ええ、役に立つかは分からないけれど、貴方が使ってちょうだい」
そして私はあらかじめ用意していた封筒から、フェリクスの開発したとされる魔導具の設計図のコピーを取り出す。
グレンに渡せば、彼は一瞬でそれが何なのか理解した様子で目を見開いた。
「これは………」
「フェリクスの会社から現時点で販売されている魔導具の設計図の写しよ。工房の退職者に書いてもらったの」
そして「貴方が盗作されたのはこれとこれじゃないかしら」と複数の書類の中から『育成恒域機』と『地熱喚起機』のコピーを取り出す。
「これで裁判に提出できる証拠は増えたんじゃないかしら。あとはこれを貴方がうまく使ってくれるかに掛かっているけど………」
「……………すごいな。まさかこんな簡単に手に入れられるとは………。裁判を起こしてフェリクスに証拠として提出させようと思っていたが、最初からあるのなら心強い」
ありがとう、そう呆然とした様子でつぶやくグレンに苦笑する。
そしてグレンはぽつりとこぼした。
「……………元々裁判を起こすことはなかったんだ。フェリクスから設計書を盗作されても、アイツと関わるくらいならばこの領地の中で引っ込んでいようと思っていた。だが───」
「?」
「恥ずかしい話、あれらは未完成品なんだ」
その言葉に「え」と思わず声が漏れる。
「魔導具協会に試作を提出したら、耐久テストにクリアできなかったんだ。だからあれらが、いつどんな不具合や事故が起こるかも分からない。そういった懸念から裁判を起こすことに決めたんだ」
そういうことだったのか。
彼の言葉に頷きかけたその時、私はハッとあることに気付く。
「魔導具協会………?」
「? ああ、そうだが」
魔導具協会にはありとあらゆる魔導具が毎年、いや毎日山のように運び込まれる。
そのため一学生の試作品の記録なんて探すのも一苦労であり、紛失してしまっている可能性もあるだろう。
けれど現状のバージェス辺境伯の頼み事を彼らは断るだろうか。
それこそ星辰投影機を開発したバージェス辺境伯が裁判に負けないよう、這ってでも記録を探してくれるんじゃないか。
一縷の望みがふと差し込む。
そして私は、それとは別にあることをグレンに提案した。
「…………それから、グレンに頼みたいことが一つあるの。その設計図の複製を書いてくれた職人への義理を果たさなければならないわ」
◇
原作小説『トゥルーエンドは貴方と共に』の第2部は、プリシラ編の第1部が好評だったこともあり追加された続編だ。
悪役貴族グレン・バージェス辺境伯が現れて、フェリクスに対して謂われの無い盗作被害をでっち上げ裁判を起こす。
そこでアルテシアはフェリクスと共に、周囲を味方に付けながら裁判に勝ち、グレンを倒していくというストーリーなのだが………
(その味方の付け方に問題があるのよね)
新聞の一枠を買い取り裁判の記事を載せるだけでなく、アルテシアを連れ立って積極的にパーティーに参加し支援者を増やす。
原作のグレンからしたら地獄のような方法で世論を味方に付け、裁判で勝利をもぎ取ってくるのだ。
「……………」
そしてそれを思い出した瞬間、これからやることの道筋がはっきりと見えた気がした。
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