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03. 理解されなくても

鳴紫恋なるしれんは今日も絶好調だ。

本人だけは、だ。


困っている人を助けたはずなのに、

なぜか相手のほうが困惑していくという、

彼特有の“かっこよさ暴走現象”は相変わらず健在。


そして今回も、

本人は真剣、周囲は困惑、

そんな温度差全開のまま物語は始まる。

「……ありがとうございました。助かりました」


女の子が深く頭を下げる。

涙の跡は残っているが、表情はもう落ち着いていた。


俺は軽く手を横に振った。


「気にするな。俺が勝手にやっただけだ。それよりも怪我はないか?」


「い、いえ……本当に……助けてもらって……怪我の心配まで、優しいんですね。」


女の子は笑顔になり、少し頬を赤らめている。


「まぁな。かっこいい男ってのは、助けを無視できないからな」


女の子の笑顔が一瞬だけ固まった。


「え、あ……はい……?」


俺は胸に手を当て、わざとらしく空を見上げる。


「世界一のかっこいい男になるためには、日々の行いが大事なんだよ。もちろん君を助けたいと思ったのは本心だ。そこに偽りはない。しかしそれと同時に今日のこれは、俺の“かっこよさポイント”に加算されるわけだ」


「かっこよさ……ポイント……?」


女の子の眉がほんの少し寄る。


「そう。俺の中で毎日集計してる。

 今日の俺は……そうだな、+30点くらいだ」


「……自分でつけてるんですか?」


「当たり前だろ? 世界一になるには自己管理が重要だからな」


女の子の表情が“感謝”から“困惑”に変わる。


「へ、へぇ……そ、そうなんですね……」


「ちなみに君も今、俺を見て+5点くらい上がったぞ」


「えっ……?」


「俺のかっこよさを目撃したからな。

 人は美しいものを見ると、自然と美しくなるんだ」


「……あ、はい……?」


女の子の目が完全に泳ぎ始める。


俺はさらに追い打ちをかけるように、前髪を整えながら言った。


「まぁ、これ以上可愛くなると、あの三人みたいな輩に襲われるリスクはさらに上がるがな。」


「……あ、あの……」


女の子は一歩だけ後ずさる。


「そろそろ……行きますね……」


「ん? もう行くのか?遠慮するな、もっと俺の話を聞いていっても――」


「だ、大丈夫です! 本当にありがとうございました! 失礼します!」


女の子は勢いよく頭を下げると、

逃げるように走り去っていった。


俺はぽつんと取り残され、風だけが通り抜ける。


「……これでいい。これであの子も助けられた罪悪感が残らんだろう」


真のかっこよさは被害者のアフターケアまですることだと俺は勝手に愉悦に浸っていた。


さっきまでいた不良たちでさえ、

「関わっちゃいけないタイプだ」と言わんばかりに距離を取っていた。


俺はため息をつき、前髪を整え直す。


「……まぁいい。たとえ誰にも理解されなくても俺は世界一の道を進むだけだ」


風が止んだあと、俺はふと腕時計に目を落とした。


「……やば。始業まであと5分じゃねぇか」


世界一のかっこいい男は、遅刻なんてしない。

そんなダサいことをするくらいなら、屋上から飛び降りたほうがマシだ。


いや、飛び降りてもどうせ助かっちまうんだがなどと妄想を膨らましながら校門へ向かおうとしたそのとき――


背後から、弱々しい声が聞こえた。


「お、おい、お前!こんなこと俺らにしやがって……ただで済むと思うなよ!お、覚えてやがれ……!」


さっきの不良三人組のリーダーだ。

まだ地面に座り込んだまま、震える指を俺に向けている。


俺は振り返り、軽く首をかしげた。


「ったく……忘れたくても、覚えておくのはそっちだろ。そんな安っぽいセリフ吐きやがって。ナンパする度胸だけは認めてやる。だがな、相手が嫌がってんなら大人しく引き下がれ!それと、次はもっと“かっこよくなって”来いよ」


「なっ……!」


反論しようとしたが、言葉が出ないらしい。

残りの二人も、何も言えずにただ目をそらしていた。


「じゃ、俺は授業があるんでな。

 世界一を目指す男は忙しいんだ」


ギリギリ始業1分前。

俺は滑り込むように教室へ入り、自分の席に腰を下ろした。


前髪を整えながら息をつく。


「ふぅ……間に合った。危うく“遅刻する男”になるところだった」


その瞬間、後ろの席から声がした。


「おい鳴紫。さっきの……校門のとこ、見てたぞ」


振り返ると、やけに落ち着いた目をした男子が座っていた。

申し訳ないが、名前がどうしても思い出せない。

クラスメイトの名前を忘れるなんて、俺としたことが。


見た目は本当に“普通”だ。

派手でもなく、地味でもなく、印象に残らないタイプ。

だが、妙に人懐っこい笑みだけが浮かんでいる。


俺は即座に謝った。


「申し訳ない、君の名前なんだっけ? 次からはちゃんと覚える」


「お、おい……まさか俺の名前忘れたのかよ。

 結構ショックなんだけど。まぁ……お前みたいに目立つやつと比べたら、俺なんて地味だよなぁ」


「まぁ、俺と比べるとみんな地味だから気にするな。

 それに派手だから偉いわけでもないしな」


「やっぱりすげぇ自信家だな、お前。羨ましいよ」


男子は苦笑しながら言った。


「俺の名前は佐藤タカシ。よろしくな」


「わかった。次からはちゃんと覚えておくよ」


タカシは満足そうに頷き、続けた。


「それにしてもあの三人相手にあれだけやるなんて、すげぇな。

 あいつら、完全にビビってたじゃん」


「別に大したことじゃないさ。

 困ってる人がいたら動く。それだけだ」


「へぇ……優しいんだな、鳴紫は」


その言い方が、どこか含みを持っているように聞こえた。


「それにしてもさ……」


タカシは身を乗り出し、声を潜める。


「女の子、可愛かったよな?」


「……まぁ、確かに顔立ちは整っていたな」


「助けてもらって、惚れられたりしてんじゃねぇの?」


「いや、そんな感じじゃなかったけど……」


タカシはにやりと笑う。


「ふーん……そうか。

 でもさ、ああいう子って……狙われやすいよな。

しっかり守ってあげないと。」


その言葉に、俺は眉をひそめた。


「どういう意味だ?」


「いや? 別に? 深い意味はないよ」


タカシは笑顔のまま、視線を窓の外へ向けた。


(……なんだこいつ。妙な空気だな)


胸の奥に小さな違和感が生まれたが、

始業のチャイムが鳴り、その感覚は一旦かき消された。

読んでいただきありがとうございます。

読んでくれたあなたがヒーローです。

気軽にコメントお待ちしてます♪

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