02. 触れられぬ者
【前書き】
鳴紫恋という一年生。
その“美学”は今日も元気に暴走中。
不良三人組はまだ知らない――
彼と関わると、世界がちょっとだけ面倒になることを。
「おい、ヒーロー様よぉ」
リーダー格の金髪が拳を鳴らしながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
その後ろ、残りの二人も、にやつきながら広がる。
そして、俺を囲むような位置を取った。
「さっきのジャンプ、確かにすげぇけどよぉ……
あまり調子乗んなよ?」
「そうそう。飛べるからって強いわけじゃねぇし」
「てか、マジで何者なんだよお前。
目立ちたがりの変人か?」
三人はヘラヘラと笑っている。
その嘲笑を受けて、俺の口元はフッと緩んだ。
「いい機会だから教えといてやるか……」
不良たちの笑いが一瞬だけ止まる。
「何を言い出すんだこいつ」という視線が俺に集まる。
「俺は一年の鳴紫恋。
あの人みたいな
――世界一のかっこいい男を目指してる!」
「……は?」
「世界一?」
「お前、何言ってんの?てか、年下かよ。
他校だが、ニ年の俺らを敬えよ!」
三人が再び笑い出す。
その笑い声が広がる中、ゆっくりと一歩踏み出した。
「そんなに笑うなよ。まだ話は終わってない」
「いいや、終わってるね!テメェの頭が!」
「上手いこと言うもんだなぁ」
俺が素直に感心してると、金髪が肩を揺らしながら近づいてきた。
「世界一とか言ってる時点で痛すぎんだよ!」
俺は軽く首を回しながら、挑発するように笑みを浮かべた。
「そうか、まぁ痛いかどうかは、試してみればわかるだろ?」
「……あ?」
金髪の眉が跳ね上がる。
俺はさらに一歩踏み込み、三人の間合いへ入る。
その瞬間、不良たちの表情にわずかな焦りが見え始めた。
「俺が世界一を目指す理由、知りたいんだろ?」
「別に知りたくねぇよ!」
「いや、聞けよ。どうせすぐ終わるから」
俺は依然としてポケットに手を入れたまま語り始める。
「二年前、俺はこの学園の生徒に助けられた。
今は三年生になってる人だ」
「……は?」
「急に何の話だよ?」
「その人が俺の中の世界で一かっこいい人だ!
だから俺は決めた。あの人みたいになるって」
金髪が鼻で笑う。
「へぇ〜、憧れの先輩ってわけ?青春してんなぁ」
「そうだよ。だから――」
俺は一歩前へ出た。
その瞬間、三人の肩がわずかに揺れる。
「助けてって声を無視するようなダサい真似は、俺にはできない」
「……おい」
「やんのか?」
「調子乗ってんじゃねぇぞ!」
三人が一斉に構えを取る。
空気が張りつめ、彼女の息を呑む音がはっきりと聞こえた。
俺は静かに笑う。
「さぁ、続きは――拳で語ろうか」
三人が一斉に踏み込んできた。
靴音がアスファルトを叩き、空気が一瞬で荒れる。
だが――
その中心にいる俺だけは、まるで別の時間を生きているように静かだった。
金髪が腕を振り上げた瞬間、軽く体を傾ける。
それだけで、金髪の攻撃は外側へと流れていった。
「……は?」
金髪の目が驚きで見開かれる。
自分の動きが空を切ったことに、まだ理解が追いついていないようだ。笑える。
続けざまに、左右から二人が迫る。
だが、まるで風の流れを読むかのように、俺は一歩踏み出す。
そのごく軽微な動きだけで、一気に三人の中心からすり抜けた。
「おい、どこ見てんだよ」
背後から声をかけると、三人が同時に振り返る。
まるで飼い慣らしたペットのようだ。
不良たちの表情から焦りに満ちているのが見てとれた。
「なんで……避けられた……?」
「違う、避けたんじゃない」
俺は遮るように軽く息を吐き、言い放つ。
「お前たちが外してるんだろ?
俺のかっこよさに触れまいとして」
三人の顔から余裕が一瞬で消え、絶望へと変わる。
どうやら、理解できないものへの恐怖が滲み始めているようだった。
やっと、理解できないということを理解したらしい。
しかし、それでも再び飛びかかってくる小柄とリーゼント。
「これだから、煩悩どもは。
理解も動きも遅すぎる」
俺は意図も簡単にそれらを回避。
勢い余った二人はそのまま横転。
まさしく滑稽。
結果、俺は彼らに触れもせず、地面に膝を付けさせた。
「なんで当たらねぇんだよ!」
「ふざけんなよ!」
「ふざけるな?別にそんなつもりはないけど?」
俺は静かに言う。
「ただ――
俺は世界一のかっこいい男を目指してるんだ。
こんな雑魚の血で、俺の拳を汚すのは、
勿体無いだろ?」
リーダー格である金髪が歯を食いしばり、最後の一歩を踏み込む。
俺はその視線の揺らぎを見逃さない。
「終わりだ」
その途端、金髪はピタッと動きを止めた。
いや、正確には――俺が止めさせた。
俺が一歩踏み込むだけで、金髪がこれから踏み込むであろう全ての軌道を完全に塞いだ。
人は前に踏み込むとき、必ず重心が傾く。
その傾き始める瞬間を読み、相手の踏み込む位置に先回りすれば、本能的に足が止まる。
まるで見えない壁にぶつかったように、金髪はそれ以上前へは進めない。
三人はまるで理解できないと言わんばかりのアホ面で目を見開いている。
「……なんだ、今の……?」
俺は口角を上げる。
「言ったろ。俺は世界一を目指してるんだ。
お前たちの雑な動きくらい、全部見えてるよ」
「……バケモン……」
三人の中の誰かが呟いた。
俺は静かに笑う。
「その言葉はあまり嬉しくないな」
「俺はただ――かっこよくなりたいだけだ」
三人はもう、戦う気力を完全に失っているようだった。
【後書き】
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