04. 恋とタカシと、嫌な予感
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋。
今日も彼は、学園の平和を守りつつ、
勝手に人生を輝かせている。
その様子を佐藤タカシに目撃されていた。
果たして恋は世界一かっこいい男になれるのか?
ホームルームが終わり、教室がざわつき始める。
タカシは椅子を揺らしながら、
ふと決心したように俺に声をかけてきた。
「なぁ鳴紫、ちょっといいか?」
「ん?」
振り向くと、タカシは真面目な顔をしていた。
さっきまでの軽いノリとは違う、少しだけ慎重な空気を肌で感じる。
「いやさ……正直、
お前に相談するつもりなんてなかったんだけどさ」
「相談?俺に?」
タカシは苦笑しながら続ける。
「お前ってさ、なんかこう……
近寄りがたいっていうか。
目立つし、俺みたいな普通のやつが
頼っていいのか迷ってたんだよ」
(確かに、
俺は“世界一のかっこいい男”を目指している。
そのせいで周りから見れば近寄りづらいのかもしれない)
「でもさ、
今朝のお前見て、考え変わったわ。
あの三人相手にあれだけやれるやつ、そうそういねぇよ!
あれを見たら……頼りたくもなるだろ?」
「ありがとう!
そんなに褒められると素直に嬉しい。
で、頼りたいって、一体なんだよ?」
「じ、実はさ……俺、好きな子がいるんだよ」
「へぇー、めちゃくちゃ急だな。
もしかして、今朝俺が助けた女子生徒か?
可愛いって言ってたもんな」
「違う。別の子」
「え?」
「好きと可愛いは違うんだよ!」
タカシは慌てた素振りを見せた。
「まぁ、そういうものなのか……」
「とにかく、実は、その俺の好きな子もさ、
今朝みたいな変な連中に声かけられたって
言ってて。怖かったって……」
「なるほどな」
「俺、あんま強くねぇし……
鳴紫みたいに
サラッと助けられるタイプじゃないからさ。
もし見かけたらでいいんだけど……
ちょっと気にしてやってくれねぇかな?」
「もちろんだ。困ってる人がいたら動くのは、
かっこいい男の務めだからな!」
「ありがとな、鳴紫。ほんと頼りになるわ!
じゃあ、頼ん……」
タカシはほっとしたように安心しきった笑顔を見せた。
その瞬間――
俺は軽く息を吸い、はっきりと告げる。
「――だが、断る!!」
「……え?」
教室のざわめきの中で、その一言だけが鮮明に響いた。
タカシの笑顔が一瞬で固まる。
俺は前髪を整えながら、落ち着いた声で続ける。
「好きな子なんだろ?なら――
守るのは、お前自身であるべきだ!」
「お、俺が……?」
タカシは目を瞬かせる。
驚きと戸惑いが混ざった表情に見えた。
俺はゆっくりと頷く。
「俺が全部やっちまったら、お前のかっこよさが育たないだろ?
好きな子を守るってのは、男にとって大事な経験だ!」
タカシは何かを言おうと口を開きかけたが、すぐに閉じる。
「で、でもよ……俺、強くねぇし……」
「強さは関係ない」
俺はタカシを真っ直ぐ見つめて言い切る。
「大事なのは守りたいって気持ちだ。
その気持ちがあるなら、誰だってかっこよくなれる!」
タカシは拳を強く握り、頷いた。
「……俺に、できるかな」
「できるさ。
お前はもう守りたいって言えた時点で、
半分はできてる」
そして、タカシはゆっくり顔を上げた。
その目には、さっきまではなかった決意の色が宿っている。
「……鳴紫。お前、なんか……すげぇな」
「だろ?知ってる」
俺は胸を張る。
「ただし――」
「お前が本気で守る気にがあるなら、
協力くらいはしてやれる。
世界一のかっこいい男は、
助けを求める人を見捨てたりしないからな!」
タカシは目を丸くし、照れくさそうに笑った。
「……ありがとな。なんか、勇気出たわ」
「よし、その調子だ。まずは姿勢を正せ!
背筋が曲がってると、かっこよさが逃げる」
「え、逃げるの!?」
「当たり前だろ。かっこよさは日々の積み重ねだ」
タカシは苦笑しながらも、背筋を伸ばした。
***
放課後の廊下は夕陽に染まり、
帰り支度をする生徒たちの声が響いていた。
俺とタカシは、その廊下の端に立っている。
視線の先にはタカシの意中の相手
"白石ほのか"が友達と談笑している。
タカシは緊張でガチガチになりながら、
俺の袖をつまんで小声で言ってきた。
「な、鳴紫……今日も見守るぞ……!
護衛は……お、俺がやるからな……!」
「おう、中々かっこよくなったじゃないか。
その震えてる足さえなければ完璧だな」
「う、うるせぇ!
好きな子は……自分で守るって決めたんだよ!」
タカシは胸を張っているが、足は確かに震えている。
(……まぁ、気持ちは立派だ)
そう思いながら、俺は白石の後ろ姿を見つめた。
しばらくすると、白石が友達と談笑しながら、廊下を歩き出す。
タカシの息を呑む音が聞こえた。
「ほ、ほのかさん……帰る……!」
「よし、鳴紫、じゃあ行くぞ」
「あぁ」
「ほのかさんに気づかれない距離を保ちながらな」
(ついに決心したか)
そう思い、俺はタカシの方を向く。
すると、タカシは明らかにおかしな挙動をしていた。
壁に張り付いて、こそこそと白石の後ろをついていっている。
(……いや、バレるだろそれ!
隠れてついて行ってるつもりだろうが、
むしろ“ついて来てます”って
自己紹介してるような動きだぞ)
俺が心の中でツッコんだその瞬間――
白石がふいに振り返った。
「……あれ?」
タカシの動きが止まる。
彼女の視線は、タカシの方向を向いている。
タカシは突然の状況に青ざめ、後ろを向いた。
「や、やべぇ……!バレる!?
ほのかさん、こっち見た……!」
「いや、まだお前の顔見られてないし、
何やってるかもバレて――」
「無理無理無理無理!!
俺、まだ心の準備できてねぇ!!」
パニックになり、タカシはそのまま反対方向へ全力ダッシュする。
「おいタカシ!?
お前が護衛するんじゃなかったのか!
心の準備って、告白する前か!」
「む、無理だぁぁぁ!!
今日は……今日は心臓が死ぬ!!」
そう言って、夕陽の中へ消えていった。
残されたのは――俺だけ。
白石はタカシの顔を見ていない。
ただ「誰かがいた気がする」という程度だ。
そして、彼女の視線が俺に向いた。
「あっ……鳴紫くん?」
(ったく……あいつは……
完全に俺がつけてたみたいになってるじゃねぇか。
世界一のかっこいい男がストーカー扱いは
さすがに困るぞ)
髪を整えながら、できるだけ自然な笑顔を作った。
「偶然だな、白石。
こんなところで何してんだ?」
「何って?鳴紫くんこそ。」
彼女は不思議そうに問いかけた。
「俺は日課の廊下の見回りだよ。
治安維持は俺の趣味みたいなものだからな。
裏で人助けってかっこいいだろ?
それに、良い運動にもなるし」
「ふふっ、何ですかそれ?」
彼女は自然に微笑む。
(それにしても……タカシ、
お前の逃走スピードだけは 世界レベルだな)
俺は内心そう思いながら彼女を見つめる。
(……仕方ない。今日の護衛は、俺が引き継ぐか。
あいつの心臓が死ぬ前にな)
「白石、今日の帰り、俺と一緒に帰らないか。
少し話したいことがある」
「えっ、わたしと……?」
彼女は一瞬だけ目を丸くし、頬がほんのり赤くなった。
(……告白でもされると思ったか?
まぁ、この状況だと、そう見られても仕方ないか)
そんな空気が漂った瞬間――
先ほどまで彼女と談笑していたクラスメイトが、
ニタニタしながら背中を押した。
「ほのか、行ってきなよ〜!
鳴紫くん、イケメンなんだからさ!」
「ちょ、ちょっと……!」
押された勢いで、彼女は俺の隣に並んだ。
「……じゃ、じゃあ……一緒に帰ります?」
「そうだな!
話したいことは大した内容じゃないけど……
準備ができたら言ってくれ」
「……っ、は…はいっ!準備ならもう、大丈夫です!」
そう言うと彼女は照れたように笑い、髪に手を当てた。
俺はその様子を見ながら少しづつ歩き出す。
一緒に帰る提案を自分からしたものの、彼女のことはほとんど知らない。
クラスが同じ。ただそれだけ。
今日だって、護衛が出来ればそれだけで十分だし、不良が都合良く襲ってくるとも限らない。
そもそも、何で彼女たちは狙われているのだろうか。
そんなことを考えていると、彼女がふと口を開く。
「鳴紫くんって……モテそうですよね」
「いや、全然。告られたことなんて一度もない」
「えっ、ほんとに?」
「本当。俺を好きになるには、まず俺のかっこよさに耐えられる強靭な精神が必要だからな!」
「そんな条件あるんですか……?」
彼女は吹き出しそうになる。
その笑顔の奥に、ほんの少しだけ何かを探るような色が見てとれた。
「でも、好きになった人なら過去に一人だけいる」
その言葉に、彼女の足が一瞬だけ止まりかける。
声も、さっきよりわずかに慎重に話してるように感じる。
「へぇ……どんな方だったんですか?」
「そうだな……
俺には手が届かないような、
言葉では言い表せない……
なんかこう……儚い……そんな人だった」
彼女の表情が、ふっと緩む。
けれどその目の奥に、「あ、違うんだ」と
理解したような、ほんの少しの落ち着きが宿ったように見えた。
そして、彼女は自分に言い聞かせるように笑った。
「……ふふっ、なんか鳴紫くんらしいね」
その言葉に、俺はほんのわずかに胸がざわつく。
(……悪いな。
気づかないふりをするのも、簡単じゃない
思わせぶりの態度をするわけにもいかない)
タカシの顔が脳裏をよぎる。
(あいつの気持ちを踏みにじるわけにも)
俺はその後、前髪を整え、少しだけ距離を取るように歩幅を調整した。
気を取り直すように、彼女は少し笑って問いかけてきた。
「そういえば……どうして今日、
一緒に帰ろうって誘ってくれたんですか?」
俺は一瞬だけ言葉を選び、柔らかく答える。
「ある人に頼まれたんだ。
白石のこと、気にしてやってくれってな」
「……わたしのことを?」
彼女は驚いたように目を瞬かせる。
その横顔を見ながら、さりげなく問いかけた。
「それで確認したいんだけど、
最近、変なこと……なかったか?」
途端、彼女は歩みを止め、
スマホの画面をじっと見つめたまま動かない。
さっきまでとは一変し、その表情は険しい形相に変わる。
俺は小さく息を吐いた。
「……どうやら、ただごとじゃないらしいな。
白石、何があった?」
彼女は唇を噛み、スマホを胸元で強く握りしめる。
何かと葛藤するようにじっと動かない。
その態度からは、俺に言うべきか迷っているような素振りが見て取れた。
それから、彼女は決心したようにゆっくりと俺の方へ顔を向ける。
「……鳴紫くん。
これ……見てもらってもいいですか?」
その声は、さっきまでの柔らかさとはまるで違っていた。
不安と、どこか“恐れ”の混じった響き。
差し出されたスマホの画面には――
俺の想像より、ずっと嫌な予感が漂っていた。
【後書き】
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